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第7部『Back-to-Back Battlefield(背中合わせの戦場)』
第71話『The Ever-Changing Universe(移ろいゆく万有)』 A Part
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結婚式と16歳の娘を出産するのをほぼ同時期に迎えた大層稀有なローダ・ロットレンの家族。あれから1週間が過ぎた。
三人の家族はドゥーウェンがFortezaのHOTELに用意して貰ったスイートルームを文字通りな愛の巣にしていた。無論、語る迄もなく無償。
正直気が引けるものの夫妻が出逢った最初の地、漁村エドナへ帰る訳にもゆかず。
何しろ何時敵がアドノス島の国境に等しきFortezaへ攻め入るかも知れぬのだ。
それに結婚式とルシアの出産に兎も角手一杯だったローダ。家族の住処まで準備する余裕など在る訳がなかったのだ。
その後ローダは酷く移ろいでいた──。
自分へ相談抜きで結婚式へ兄ルイスを身勝手に招待し、まるで仲直りしたが如き絵面を世界に発信したドゥーウェンの世話になり続けるのは、正直遺憾である。
然しそれでもつい2年前、たった独りで実家を離れ、根無し草で旅していた頃と比べれば、寒気がする程の温度差──幸福の絶頂期と云えなくもない。
途方もなき人生の流れ──濁流にのまれ、幸せに揉まれた何とも縮図が過ぎる時間を枕に取り合えずだらけていた。彼も人間──時には息抜きも必要。
妻ルシアは学生服しか手持ちの服がないヒビキを連れ添い、先ずは衣替えに精を出す。斯く云うルシアも御洒落には未だ疎い。
悠久の森人ベランドナはジェリド・アルベェラータと戦線へ出向いた。一番頼りたいリイナ・アルベェラータも漁村エドナへ戻り、保育士に帰ってしまった。
止む無く娘ヒビキと二人きりでFortezaの街中を彷徨い、如何にか普段着を見繕った次第。
ルシアも転がりゆく石の様に訪れた多幸の扱いぶり正直辟易していた。
夕食の時刻──。
家族がひとつ切りの食卓に集うひと時。
ママに成ったルシアはサーモンピンクのニットとクリーム色したパンツルック。
やはりふくよかな胸元に緩んだニットは良く似合う。実に和らいだ女性が滲んだ姿。戦場では風運ぶ天女だがやはり女性。柔らかな桜色が良く似合う。
ローダとルシアが真横に並び、向かいへ静かに座る独り娘のヒビキ。何やら浮かない顔──独り項垂れていた。
ママと共に買物した制服でないヒビキの私服。
ママの暖色なニットに合わせた御日様を匂わすカーディガン。白いYシャツと制服譲りなチェックのミニ。
この方が着慣れているやも知れない。ただ首元のネクタイは外し、Yシャツのボタンを首元から2つも外した緩んだ様子。
「──ヒビキ、どうした? 具合でも悪いのか?」
普段から口数の少ない慣れない家長のローダ。
ヒビキはいつも食事を勢いよく食べる方ではないとはいえ、今宵は特に影を背負った仕草を見届け、声を掛けずに要られない気分に圧された。
「た、食べられる物だけでいいのよ」
母ルシアは人一倍ヒビキの醸し出す雰囲気に過敏なのだ。HOTELのスイート──食事なんてフロントに注文すればどうとでもなる。
だが彼女は出来得る限り妻と母を演じたかった。この夕食もルシアから心ばかりな手作りを食卓に並べた。
何とも執拗なる語り──。
三人共々新米過ぎる家族だ。一声、一動作掛けるだけでも無駄な気疲れ感じるのは仕方がない。
「ママ……。大丈夫、それは心配要らないよ」
俯いたまま全く以て元気響かぬヒビキの返事。覚えたてな珈琲の苦味をゆるりと口に運ぶ。
これまで意識だけの存在だったヒビキ。口にする物全てが信頼置けぬ新人なのだ。
食事だけに在らず、ヒビキに取って第六感以外で触れる物・者。総じて心赦し切れない形へ化けた。
これも執拗いが本来ならば新生児から幼児、小学生と順を経て往く経験の枠組みを飛び越えいきなり女子高生。どんな優しき世界であっても異端に化け襲い来る。
意識だけの存在であった頃のヒビキは、もっと達観していた。
父ローダを手玉に取る程、全ての扱いに手慣れているかに思えた。
肌に触れる物、声を掛け合う者──現実とはこうも違うものかと、この1週間震えて彼女は過ごした。
「そ、それより二人はこの街に居て何も感じないの? 此処を睨み付ける様な感覚を……」
よく暖められた部屋の中、ヒビキが如何にも寒気を感じる様に身体を擦る。何かに触れられているかの如く。
既に語った通りヒビキ・ロットレンには、意識の壁と云う誰にでも在るべき、気を赦せる小部屋が存在しない。
然しそれでもローダとルシアの生命に至れて以来、これまで割と自然に振舞って来られた。
ヒビキは外の世界へ出られた──実は今まで母の器に僅かながらも守られていた事実を実感したのだ。
全世界の注目から常日頃晒される街Forteza──。
外敵のみならず世界中の人々がこの場所の挙動に不審がないか監視を続けているのだ。
此処は余りに繊細で過敏なヒビキに取って、受け入れ難い場所なのだ。
「そ、それに僕……あの金縁眼鏡の人──。とても怖いよ」
窓辺に映るFortezaで最も高いビルへ、震える視線を送れぬヒビキの苦悩がカップを握る指先に滲む。
同じ窓際に飾られた1枚の写真──。
買い立ての黄色いカーディガンに着替えたヒビキと、乾鮭色のニットでソファに二人寄り添う母娘の写真。暖色のグラデーションを新米の父、ローダが切り取った細やかな幸福。
ガタッ!
「ヒビキっ!」
ルシア、堪らず席を立ち、身震いする娘の頭を胸に抱いてその名を叫ぶ。
「無理しないでいいのよ。部屋で休みましょう。後で食事を持っていくね」如何にも辛そうなヒビキを部屋で休むよう優しく促した。
「ぐっ!」
ローダは独り、ヒビキを連れ出す妻ルシアの苦悩を見送りながら『金縁眼鏡の人』が牛耳るビルの最上階を鋭く睨み付けた。
同時に自分が如何に未熟な父に甘んじていたかを思い知る。
ヒビキがルシアから生まれる以前──彼はこの現状を肌で大方知れていた。それにも関わらず何が正解なのか悩むだけで、行動に至れなかった。
現実は恋物語の様に儚くも可憐で、戦記が如く起伏に富んだ華やか世界だけではなき必然。血が滲み出た味を飲み込むほど歯軋り。
──なら、どうすれば良いんだ?
何が扉の力か、夢見の能力?
ならばこの家族がひとつを紡ぐ夢──俺に見せてくれ。
この家族は確かに異端だ。されど家族の幸せとはこうした悩みと常に背中合わせの戦場。
実の処、彼が想いを背負うほど重きものでは決してない。歳も時間も早熟過ぎた。
ローダ・ロットレン──。
世界平和より己の家族の安堵を天に願い出た。
三人の家族はドゥーウェンがFortezaのHOTELに用意して貰ったスイートルームを文字通りな愛の巣にしていた。無論、語る迄もなく無償。
正直気が引けるものの夫妻が出逢った最初の地、漁村エドナへ帰る訳にもゆかず。
何しろ何時敵がアドノス島の国境に等しきFortezaへ攻め入るかも知れぬのだ。
それに結婚式とルシアの出産に兎も角手一杯だったローダ。家族の住処まで準備する余裕など在る訳がなかったのだ。
その後ローダは酷く移ろいでいた──。
自分へ相談抜きで結婚式へ兄ルイスを身勝手に招待し、まるで仲直りしたが如き絵面を世界に発信したドゥーウェンの世話になり続けるのは、正直遺憾である。
然しそれでもつい2年前、たった独りで実家を離れ、根無し草で旅していた頃と比べれば、寒気がする程の温度差──幸福の絶頂期と云えなくもない。
途方もなき人生の流れ──濁流にのまれ、幸せに揉まれた何とも縮図が過ぎる時間を枕に取り合えずだらけていた。彼も人間──時には息抜きも必要。
妻ルシアは学生服しか手持ちの服がないヒビキを連れ添い、先ずは衣替えに精を出す。斯く云うルシアも御洒落には未だ疎い。
悠久の森人ベランドナはジェリド・アルベェラータと戦線へ出向いた。一番頼りたいリイナ・アルベェラータも漁村エドナへ戻り、保育士に帰ってしまった。
止む無く娘ヒビキと二人きりでFortezaの街中を彷徨い、如何にか普段着を見繕った次第。
ルシアも転がりゆく石の様に訪れた多幸の扱いぶり正直辟易していた。
夕食の時刻──。
家族がひとつ切りの食卓に集うひと時。
ママに成ったルシアはサーモンピンクのニットとクリーム色したパンツルック。
やはりふくよかな胸元に緩んだニットは良く似合う。実に和らいだ女性が滲んだ姿。戦場では風運ぶ天女だがやはり女性。柔らかな桜色が良く似合う。
ローダとルシアが真横に並び、向かいへ静かに座る独り娘のヒビキ。何やら浮かない顔──独り項垂れていた。
ママと共に買物した制服でないヒビキの私服。
ママの暖色なニットに合わせた御日様を匂わすカーディガン。白いYシャツと制服譲りなチェックのミニ。
この方が着慣れているやも知れない。ただ首元のネクタイは外し、Yシャツのボタンを首元から2つも外した緩んだ様子。
「──ヒビキ、どうした? 具合でも悪いのか?」
普段から口数の少ない慣れない家長のローダ。
ヒビキはいつも食事を勢いよく食べる方ではないとはいえ、今宵は特に影を背負った仕草を見届け、声を掛けずに要られない気分に圧された。
「た、食べられる物だけでいいのよ」
母ルシアは人一倍ヒビキの醸し出す雰囲気に過敏なのだ。HOTELのスイート──食事なんてフロントに注文すればどうとでもなる。
だが彼女は出来得る限り妻と母を演じたかった。この夕食もルシアから心ばかりな手作りを食卓に並べた。
何とも執拗なる語り──。
三人共々新米過ぎる家族だ。一声、一動作掛けるだけでも無駄な気疲れ感じるのは仕方がない。
「ママ……。大丈夫、それは心配要らないよ」
俯いたまま全く以て元気響かぬヒビキの返事。覚えたてな珈琲の苦味をゆるりと口に運ぶ。
これまで意識だけの存在だったヒビキ。口にする物全てが信頼置けぬ新人なのだ。
食事だけに在らず、ヒビキに取って第六感以外で触れる物・者。総じて心赦し切れない形へ化けた。
これも執拗いが本来ならば新生児から幼児、小学生と順を経て往く経験の枠組みを飛び越えいきなり女子高生。どんな優しき世界であっても異端に化け襲い来る。
意識だけの存在であった頃のヒビキは、もっと達観していた。
父ローダを手玉に取る程、全ての扱いに手慣れているかに思えた。
肌に触れる物、声を掛け合う者──現実とはこうも違うものかと、この1週間震えて彼女は過ごした。
「そ、それより二人はこの街に居て何も感じないの? 此処を睨み付ける様な感覚を……」
よく暖められた部屋の中、ヒビキが如何にも寒気を感じる様に身体を擦る。何かに触れられているかの如く。
既に語った通りヒビキ・ロットレンには、意識の壁と云う誰にでも在るべき、気を赦せる小部屋が存在しない。
然しそれでもローダとルシアの生命に至れて以来、これまで割と自然に振舞って来られた。
ヒビキは外の世界へ出られた──実は今まで母の器に僅かながらも守られていた事実を実感したのだ。
全世界の注目から常日頃晒される街Forteza──。
外敵のみならず世界中の人々がこの場所の挙動に不審がないか監視を続けているのだ。
此処は余りに繊細で過敏なヒビキに取って、受け入れ難い場所なのだ。
「そ、それに僕……あの金縁眼鏡の人──。とても怖いよ」
窓辺に映るFortezaで最も高いビルへ、震える視線を送れぬヒビキの苦悩がカップを握る指先に滲む。
同じ窓際に飾られた1枚の写真──。
買い立ての黄色いカーディガンに着替えたヒビキと、乾鮭色のニットでソファに二人寄り添う母娘の写真。暖色のグラデーションを新米の父、ローダが切り取った細やかな幸福。
ガタッ!
「ヒビキっ!」
ルシア、堪らず席を立ち、身震いする娘の頭を胸に抱いてその名を叫ぶ。
「無理しないでいいのよ。部屋で休みましょう。後で食事を持っていくね」如何にも辛そうなヒビキを部屋で休むよう優しく促した。
「ぐっ!」
ローダは独り、ヒビキを連れ出す妻ルシアの苦悩を見送りながら『金縁眼鏡の人』が牛耳るビルの最上階を鋭く睨み付けた。
同時に自分が如何に未熟な父に甘んじていたかを思い知る。
ヒビキがルシアから生まれる以前──彼はこの現状を肌で大方知れていた。それにも関わらず何が正解なのか悩むだけで、行動に至れなかった。
現実は恋物語の様に儚くも可憐で、戦記が如く起伏に富んだ華やか世界だけではなき必然。血が滲み出た味を飲み込むほど歯軋り。
──なら、どうすれば良いんだ?
何が扉の力か、夢見の能力?
ならばこの家族がひとつを紡ぐ夢──俺に見せてくれ。
この家族は確かに異端だ。されど家族の幸せとはこうした悩みと常に背中合わせの戦場。
実の処、彼が想いを背負うほど重きものでは決してない。歳も時間も早熟過ぎた。
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