🗡️🐺Roda『The One Who Opens the Door to the World』(ローダ・世界の扉を拓く者)

🗡🐺狼駄(ろうだ)

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第7部『Back-to-Back Battlefield(背中合わせの戦場)』

第72話『The flow of time that breaks the silence(静寂を割く刻の流れ)』 B Part

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 元フォルデノ王国の聖騎士ジェリド・アルベェラータと悠久の森人ハイエルフベランドナが森の聖域を射抜き戦線を征く最中さなか

 この争いへ支援軍としてせ参じた普段は海の民うみんちゅであるラオ守備隊。丘へ上がった兵達は船の代わりに騎馬きば海原うなばらを流すがごとく駆けられる。

 率いたのは若き団長──青きシャチランチア・ラオ・ポルテガ。赤い騎馬くプリドール・ラオ・ロッソの両者である。

 総司令ジェリドは彼等にを与えた。深い森を共にく遠征を強制しなかったのだ。
 それ処か騎兵さえ赦した。無論、同じ軌跡道程辿たどれぬ。『君等には騎兵の利を任せた。違う道筋を征くが良かろう』ジェリドは真顔で快諾かいだくした。

 以前──自分達の住処すみかが人型兵器の鎧をまとう不死の巨人に依る襲来を受けたおり、救って貰った恩を返すつもりでやって来たランチアとプリドール。

 息巻いていた二人──置いて往かれた戦力外通告かと早とちりし掛けた。然し礼を重んじる偉丈夫いじょうぶジェリドがそんな適当を成す訳がないと直ぐに知れた。

『君等は

 深い山中を征く隠密おんみつではなく、如何いかにも騎兵らしく機動を活かせ。その為にジェリドはランチア達を指揮系統から外し、好きに振舞うさずけたのだ。

 ──一体どう云うつもりさ団長。

 普段の争いでは団長の任を半ば投げ打ち、責任感が人一倍強い副団長プリドールへ指揮権をあずけるランチア。

 その扱い、プリドールとて満更まんざらでもない。
 ロッソ家は、150年前からラオに槍の手解てほどきを指南しなんした由緒ゆいしょ正しい家柄いえがら

 然も29歳の大人女性が若くていなせな男を前に立たせ、好きに風を吹かせたいが故、実の処──充実出来る位置取りポジションなのだ。

 昔、男女の連れ添いどきが在ったこの二人──仕事争い事の方は未だが合うらしい。

 なれどランチア、今度ばかりは珍しく団長の威厳いげんくずさず。──いや、好き勝手な若造の先走りにも映り見えた。
 押し黙ったままの一番、馬にむちくれ先陣をひた走る──海沿いの道をめぐりてカノンの北側から南へ下りアドノス島を回り道。

 峻険しゅんけんなるカノンの谷底をながめ、半ば断腸だんちょうの思いで足場の悪い道程を進み続けた。
 中途で道案内を依頼していた地元の中年男性。『俺は降りるよ』無情な断りを入れて来た。

『この行く先々ゆくさきざきを馬で進軍するなど正気の沙汰さたではない』

 案内人の男はランチア達を切り捨てようと口走る。土地かんなき者共ががけの頂点を駿馬しゅんめで進軍する無謀むぼういた。

 若輩じゃくはい者の勢いたもつランチアは独り動ぜず『ならば代わりを寄越よこせ。それなら此処まで案内してくれたお前にも駄賃だちんは払う』と大見得おおみえを切ってみせる。

 金に目がくらんだ男──自分の村へ引き返して連れ出したのは、あどけなさ残る14歳の少年であった。

 然しこの少年──中年の男より余程堂々と前を行きラオ守備隊の手綱たづなくのだ。 

「お前落ち着いてやがんな──名は?」

 頼もしい小さな背中に好感を抱いたランチアが手軽に声を掛ける。だが少年は何も応じず直向ひたむきに道の先をにらみ付けるのみ。

「名前を聞くなら先ず自分からだろ──あっ、次……足元気をつけなよ。落石が多いからな」

 ビビッて声も出せぬ道案内ではないと知れた。むしろ大人達に囲まれながらも、最も落ち着き払った少年。
 少年にうながされ慎重に手綱たづなく大人達の群れ。海からのたずね人とは思えぬ無駄のない馬捌うまさばきに痛く感動した少年。

「へぇ……うまいもんだ」
「へへっ、なあに此れしき荒波を行く波乗りに比べりゃみたいなもんだ」

 背中越しに出来る大人達の気配を感じた少年──素直すなおに驚く。
 頼もしい男の子相手に破顔はがん寄越よこす若武者ランチアは、名前をたずねて返さぬ相手にさらなる好意を抱いた。

「おいらビアットってんだ。ごめんな、知らない連中に足取り捕まえられたら、誰かに危害が及ぶかも知んねぇからよ」

 ビアットと名乗った少年、自身の非礼ひれいを態度でびる。世間はマーダルイスが呼んだ戦乱のちまただ。余程酷いき目にったに違いあるまい。

「お前……やるじゃねえか、気に入ったぜっ! 俺様はランチアだ。一応此奴等の団長だけどな、気軽にランチアって呼んでくれ」

 ランチアはビアットの小さな肩に背負せおいし重責じゅうせきを自ずと感じ取る。この少年は家族を背負しょって危うい大地を踏みしめているのだと決めつけ笑顔をった。

 人の価値は歳や力だけで決まるものじゃない。
 未だ若さあふれるランチアだが、何しろいくさで仲間を支え合うとうとさを知り尽くした戦人だ。背中をあずけられる人間なのか空気で知れるのだ。

 さらにその背後──。
 赤い全身鎧フルメイルのプリドールがのやり取りを見知りかぶとの下、赤い紅ルージュを緩ませる。

 間もなく30歳を迎える大人女性がのぞかす自然な母性をただよわす。

 されど副団長としての責任に於ける不安材料とて折り重なってしまうのだ。
 このまま行けば何れ敵の本拠地ほんきょちを背後から攻め立てられる。だが切り立ったがけもこのまま続くのだ。

 目指す敵の本拠地──標高100mは、ありそうな崖下に在ると話に聞く。
 勝ち戦の鉄則、挟撃きょうげきと高台を取ること。

 敵のとりで、前方からはジェリド隊が攻め入る。
 我等は果たしてどう転ばせば良いのやら。

 騎乗はおろか、人の脚で降るのも至難しなん極まる崖下り。
 崖上からいく投槍ジャベリンを飛ばした処でたかが知れてる。敵とて恐らくこの崖を天然のほりだと見切っていると知れた。

 敵の背後を取る意味──この道程で為せるものかはなはだ疑問、これがプリドール副団長の悩み処なのだ。空を飛べる術式──風の精霊術『自由の翼』がのどから手が出るほど欲しかった。

 少年ビアットとわらいながら前行く青いシャチ
 空を駆けるよりも奇抜きばつなる獰猛ゆうもうさと悠長ゆうちょうしたランチアの腹積もり──誰も想像だにしなかった。
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