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第7部『Back-to-Back Battlefield(背中合わせの戦場)』
第72話『The flow of time that breaks the silence(静寂を割く刻の流れ)』 B Part
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元フォルデノ王国の聖騎士ジェリド・アルベェラータと悠久の森人ベランドナが森の聖域を射抜き戦線を征く最中。
この争いへ支援軍として馳せ参じた普段は海の民であるラオ守備隊。丘へ上がった兵達は船の代わりに騎馬をいなし、海原を流すが如く駆けられる。
率いたのは若き団長──青き鯱ランチア・ラオ・ポルテガ。赤い牙剝くプリドール・ラオ・ロッソの両者である。
総司令ジェリドは彼等に自由を与えた。深い森を共に征く遠征を強制しなかったのだ。
それ処か騎兵さえ赦した。無論、同じ軌跡は辿れぬ。『君等には騎兵の利を任せた。違う道筋を征くが良かろう』ジェリドは真顔で快諾した。
以前──自分達の住処が人型兵器の鎧を纏う不死の巨人に依る襲来を受けた折、救って貰った恩を返すつもりでやって来たランチアとプリドール。
息巻いていた二人──置いて往かれた戦力外通告かと早とちりし掛けた。然し礼を重んじる偉丈夫ジェリドがそんな適当を成す訳がないと直ぐに知れた。
『君等は裏を突いてくれ』
深い山中を征く隠密ではなく、如何にも騎兵らしく機動を活かせ。その為にジェリドはランチア達を指揮系統から外し、好きに振舞う覚悟を授けたのだ。
──一体どう云うつもりさ団長。
普段の争いでは団長の任を半ば投げ打ち、責任感が人一倍強い副団長プリドールへ指揮権を預けるランチア。
その扱い、プリドールとて満更でもない。
ロッソ家は、150年前からラオに槍の手解きを指南した由緒正しい家柄。
然も29歳の大人女性が若くていなせな男を前に立たせ、好きに風を吹かせたいが故、実の処──充実出来る位置取りなのだ。
昔、男女の連れ添い刻が在ったこの二人──仕事の方は未だウマが合うらしい。
なれどランチア、今度ばかりは珍しく団長の威厳を崩さず。──いや、好き勝手な若造の先走りにも映り見えた。
押し黙ったまま亥の一番、馬に鞭くれ先陣をひた走る──海沿いの道を巡りてカノンの北側から南へ下りアドノス島を縦に割る回り道。
峻険なるカノンの谷底を眺め、半ば断腸の思いで足場の悪い道程を進み続けた。
中途で道案内を依頼していた地元の中年男性。『俺は降りるよ』無情な断りを入れて来た。
『この行く先々を馬で進軍するなど正気の沙汰ではない』
案内人の男はランチア達を切り捨てようと口走る。土地勘なき者共が崖の頂点を駿馬で進軍する無謀を説いた。
若輩者の勢い保つランチアは独り動ぜず『ならば代わりを寄越せ。それなら此処まで案内してくれたお前にも駄賃は払う』と大見得を切ってみせる。
金に目が眩んだ男──自分の村へ引き返して連れ出したのは、あどけなさ残る14歳の少年であった。
然しこの少年──中年の男より余程堂々と前を行きラオ守備隊の手綱を曳くのだ。
「お前落ち着いてやがんな──名は?」
頼もしい小さな背中に好感を抱いたランチアが手軽に声を掛ける。だが少年は何も応じず直向きに道の先を睨み付けるのみ。
「名前を聞くなら先ず自分からだろ──あっ、次……足元気をつけなよ。落石が多いからな」
ビビッて声も出せぬ道案内ではないと知れた。寧ろ大人達に囲まれながらも、最も落ち着き払った少年。
少年に促され慎重に手綱を曳く大人達の群れ。海からの尋ね人とは思えぬ無駄のない馬捌きに痛く感動した少年。
「へぇ……巧いもんだ」
「へへっ、何此れしき荒波を行く波乗りに比べりゃ屁みたいなもんだ」
背中越しに出来る大人達の気配を感じた少年──素直に驚く。
頼もしい男の子相手に破顔を寄越す若武者ランチアは、名前を訊ねて返さぬ相手にさらなる好意を抱いた。
「おいらビアットってんだ。ごめんな、知らない連中に足取り捕まえられたら、誰かに危害が及ぶかも知んねぇからよ」
ビアットと名乗った少年、自身の非礼を態度で詫びる。世間はマーダが呼んだ戦乱の巷だ。余程酷い憂き目に逢ったに違いあるまい。
「お前……やるじゃねえか、気に入ったぜっ! 俺様はランチアだ。一応此奴等の団長だけどな、気軽にランチアって呼んでくれ」
ランチアはビアットの小さな肩に背負いし重責を自ずと感じ取る。この少年は家族を背負って危うい大地を踏みしめているのだと決めつけ笑顔を贈った。
人の価値は歳や力だけで決まるものじゃない。
未だ若さ溢れるランチアだが、何しろ戦で仲間を支え合う尊さを知り尽くした戦人だ。背中を預けられる人間なのか空気で知れるのだ。
さらにその背後──。
赤い全身鎧のプリドールがやんちゃな男の子同士のやり取りを見知り兜の下、赤い紅を緩ませる。
間もなく30歳を迎える大人女性が覗かす自然な母性を漂わす。
されど副団長としての責任に於ける不安材料とて折り重なってしまうのだ。
このまま行けば何れ敵の本拠地を背後から攻め立てられる。だが切り立った崖もこのまま続くのだ。
目指す敵の本拠地──標高100mは、ありそうな崖下に在ると話に聞く。
勝ち戦の鉄則、挟撃と高台を取ること。
敵の砦、前方からはジェリド隊が攻め入る。
我等は果たしてどう転ばせば良いのやら。
騎乗はおろか、人の脚で降るのも至難極まる崖下り。
崖上から幾ら投槍を飛ばした処でたかが知れてる。敵とて恐らくこの崖を天然の堀だと見切っていると知れた。
敵の背後を取る意味──この道程で為せるものか甚だ疑問、これがプリドール副団長の悩み処なのだ。空を飛べる術式──風の精霊術『自由の翼』が喉から手が出るほど欲しかった。
少年ビアットと嗤いながら前行く青い鯱の青写真。
空を駆けるよりも奇抜なる獰猛さと悠長が同居したランチアの腹積もり──誰も想像だにしなかった。
この争いへ支援軍として馳せ参じた普段は海の民であるラオ守備隊。丘へ上がった兵達は船の代わりに騎馬をいなし、海原を流すが如く駆けられる。
率いたのは若き団長──青き鯱ランチア・ラオ・ポルテガ。赤い牙剝くプリドール・ラオ・ロッソの両者である。
総司令ジェリドは彼等に自由を与えた。深い森を共に征く遠征を強制しなかったのだ。
それ処か騎兵さえ赦した。無論、同じ軌跡は辿れぬ。『君等には騎兵の利を任せた。違う道筋を征くが良かろう』ジェリドは真顔で快諾した。
以前──自分達の住処が人型兵器の鎧を纏う不死の巨人に依る襲来を受けた折、救って貰った恩を返すつもりでやって来たランチアとプリドール。
息巻いていた二人──置いて往かれた戦力外通告かと早とちりし掛けた。然し礼を重んじる偉丈夫ジェリドがそんな適当を成す訳がないと直ぐに知れた。
『君等は裏を突いてくれ』
深い山中を征く隠密ではなく、如何にも騎兵らしく機動を活かせ。その為にジェリドはランチア達を指揮系統から外し、好きに振舞う覚悟を授けたのだ。
──一体どう云うつもりさ団長。
普段の争いでは団長の任を半ば投げ打ち、責任感が人一倍強い副団長プリドールへ指揮権を預けるランチア。
その扱い、プリドールとて満更でもない。
ロッソ家は、150年前からラオに槍の手解きを指南した由緒正しい家柄。
然も29歳の大人女性が若くていなせな男を前に立たせ、好きに風を吹かせたいが故、実の処──充実出来る位置取りなのだ。
昔、男女の連れ添い刻が在ったこの二人──仕事の方は未だウマが合うらしい。
なれどランチア、今度ばかりは珍しく団長の威厳を崩さず。──いや、好き勝手な若造の先走りにも映り見えた。
押し黙ったまま亥の一番、馬に鞭くれ先陣をひた走る──海沿いの道を巡りてカノンの北側から南へ下りアドノス島を縦に割る回り道。
峻険なるカノンの谷底を眺め、半ば断腸の思いで足場の悪い道程を進み続けた。
中途で道案内を依頼していた地元の中年男性。『俺は降りるよ』無情な断りを入れて来た。
『この行く先々を馬で進軍するなど正気の沙汰ではない』
案内人の男はランチア達を切り捨てようと口走る。土地勘なき者共が崖の頂点を駿馬で進軍する無謀を説いた。
若輩者の勢い保つランチアは独り動ぜず『ならば代わりを寄越せ。それなら此処まで案内してくれたお前にも駄賃は払う』と大見得を切ってみせる。
金に目が眩んだ男──自分の村へ引き返して連れ出したのは、あどけなさ残る14歳の少年であった。
然しこの少年──中年の男より余程堂々と前を行きラオ守備隊の手綱を曳くのだ。
「お前落ち着いてやがんな──名は?」
頼もしい小さな背中に好感を抱いたランチアが手軽に声を掛ける。だが少年は何も応じず直向きに道の先を睨み付けるのみ。
「名前を聞くなら先ず自分からだろ──あっ、次……足元気をつけなよ。落石が多いからな」
ビビッて声も出せぬ道案内ではないと知れた。寧ろ大人達に囲まれながらも、最も落ち着き払った少年。
少年に促され慎重に手綱を曳く大人達の群れ。海からの尋ね人とは思えぬ無駄のない馬捌きに痛く感動した少年。
「へぇ……巧いもんだ」
「へへっ、何此れしき荒波を行く波乗りに比べりゃ屁みたいなもんだ」
背中越しに出来る大人達の気配を感じた少年──素直に驚く。
頼もしい男の子相手に破顔を寄越す若武者ランチアは、名前を訊ねて返さぬ相手にさらなる好意を抱いた。
「おいらビアットってんだ。ごめんな、知らない連中に足取り捕まえられたら、誰かに危害が及ぶかも知んねぇからよ」
ビアットと名乗った少年、自身の非礼を態度で詫びる。世間はマーダが呼んだ戦乱の巷だ。余程酷い憂き目に逢ったに違いあるまい。
「お前……やるじゃねえか、気に入ったぜっ! 俺様はランチアだ。一応此奴等の団長だけどな、気軽にランチアって呼んでくれ」
ランチアはビアットの小さな肩に背負いし重責を自ずと感じ取る。この少年は家族を背負って危うい大地を踏みしめているのだと決めつけ笑顔を贈った。
人の価値は歳や力だけで決まるものじゃない。
未だ若さ溢れるランチアだが、何しろ戦で仲間を支え合う尊さを知り尽くした戦人だ。背中を預けられる人間なのか空気で知れるのだ。
さらにその背後──。
赤い全身鎧のプリドールがやんちゃな男の子同士のやり取りを見知り兜の下、赤い紅を緩ませる。
間もなく30歳を迎える大人女性が覗かす自然な母性を漂わす。
されど副団長としての責任に於ける不安材料とて折り重なってしまうのだ。
このまま行けば何れ敵の本拠地を背後から攻め立てられる。だが切り立った崖もこのまま続くのだ。
目指す敵の本拠地──標高100mは、ありそうな崖下に在ると話に聞く。
勝ち戦の鉄則、挟撃と高台を取ること。
敵の砦、前方からはジェリド隊が攻め入る。
我等は果たしてどう転ばせば良いのやら。
騎乗はおろか、人の脚で降るのも至難極まる崖下り。
崖上から幾ら投槍を飛ばした処でたかが知れてる。敵とて恐らくこの崖を天然の堀だと見切っていると知れた。
敵の背後を取る意味──この道程で為せるものか甚だ疑問、これがプリドール副団長の悩み処なのだ。空を飛べる術式──風の精霊術『自由の翼』が喉から手が出るほど欲しかった。
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