🗡️🐺Roda『The One Who Opens the Door to the World』(ローダ・世界の扉を拓く者)

🗡🐺狼駄(ろうだ)

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第7部『Back-to-Back Battlefield(背中合わせの戦場)』

第73話『Those who opened the first salvo(戦端を拓いた者共)』 A Part

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 元来己が国、フォルデノ王国を取り戻すべく先ずは邪魔な存在。
 国境付近に陣と砦を敷いた場所を奪還だっかんする為、森の精霊達ドリュエル達が放つ妖しき臭気ただよう中を抜けようと戦陣進めるジェリド・アルベェラータと、悠久の森人ハイエルフのベランドナ。

 無理を押して山越えすれば陽が落ちる危険性を避ける為、敢えて野営で夜をやり過ごす方針を決めたジェリド陣営──だが在らぬ戦慄せんりつの絶叫が山中に木霊こだました。

 弓矢に投槍ジャベリン、ありとあらゆる恐怖が雨霰あめあられごとく降り注ぎ壊乱かいらんちまたと化したジェリド陣営。

「そ、そんな……あ、在り得ません! 山向こうの森は此方側よりも森の精霊達ドリュエル達が盛ん極めた場所。そこを人間の兵士が強硬きょうこうで抜けて来るなど!」

 森の民、ベランドナの長い耳が想定外の状況に思わず震える。
 その隣、目をつぶるだけの休息にてっしたジェリド。『何事だ!』などと状況を部下へ叫ぶ必要すらなく自ずと知れた。

 耳長族エルフのベランドナの想像を超え、森に明るいジェリドの知識を超越ちょうえつし尽くした敵の夜襲。

 敵はエルフ族の力を借りず、独力だけで森の臭気を払いけ、此方が寝静まる夜を待ちがれたに相違そういない。
 結果を知れば一目瞭然いちもくりょうぜん、後は出来得る限りの力を尽くし、被害を最小限に留めるしかない。

 なれど此処に至りベランドナの口から意外なる伝令がジェリドの耳を揺らすのだ。

Masterジェリド! 味方を全速力で山側へにがして下さいッ! 私が光の精霊達ウィルオーウィスプを召喚し道案内をさせますッ! 急いでぇッ!」

 鬼気きき迫る勢いのベランドナがジェリド総司令へ食い下がる異常事態──。

 ──こんな形相ぎょうそうが彼女に出来るのか?

 つい今しがたまで互いに笑いながら1杯の珈琲コーヒーを分け合った間柄あいだがらほがらかな笑顔を見せてくれたベランドナとは思えぬ別人を呼び込む異変。

 そんな下らぬ思いが先立つジェリドであったが味方の兵士達、各班のリーダー格へ「敵は無視だ! 武器を捨てても構わん! 兎に角とにかく今すぐ登頂して下るのだ!」伝令を急がせた。

 野営にうつつを抜かしていたジェリドの兵達。着の身着のまま、戦わずして敗走するかの如く狼狽ろうばいしながら、ベランドナが出した光の精霊達ウィルオーウィスプ頼みに駆け出した。

 森の臭気が濃い最中、騒ぎ立てるのは、法度はっとではなかったのか?
 この作戦を提案したベランドナ──ジェリド隊が一斉に駆け出すのを見送る殿しんがりを命令ではなく御自おんみずから買って出た。

 ──ベランドナ! 一体何を狙っている!?

 本来なら声を張りたかったジェリド。ベランドナの緊張にじんだ顔をみつけ、心だけで叫ぶ。
 明らかに何かを狙ったベランドナ。暗がりで詳細な顔が見えずとも、冷や汗らす様子が知れた。

 山を登り切った後、今度は平地を目指し転がる石の様に下り始めた先陣を見届けたベランドナ。もう自分の後ろに味方は見えぬ。
 いや、例え逃げ遅れたとて此処が潮時しおどき。決意の顔で琥珀色こはくいろの瞳を血流で染め、吊り上げると覚悟を固めた。

森の美女達ドリュエル達よ、思うがまま存分に弾け暴れなさいッ!」

 暗がりの森へ向けたベランドナの命令怒号。森人の最上位が胸張り困窮こんきゅう極めた山中へとどろかせた。
 これまで登って来た細い山道にあふれかえる紫色の霧が途端とたんに渦巻く。

 霧の総てが美麗びれいな女性の顔を帯びてわらいながら飛び交い、夜襲を掛けて来た敵を包み込み食らい尽くす。

 森の樹々が枝を急激に伸ばし敵兵共をつたの様に巻き取り精気を吸う地獄絵図。
 敵兵は次々断末魔だんまつますら赦免しゃめんされずに枯れ果てと等しき木の枝へ哀れ変わり絵面が見えた。

「ば、馬鹿なッ!?」

 驚きの声を漏らす以外、やれる仕事がない無能を感じたジェリドの驚異きょうい
 ジェリドはようやく知り抜いた。
 これ迄の道中、ベランドナが森の美女達ドリュエル達を抑え込んでいたのだと。

 森の民草たみくさ、ラファンにせき置くジェリドとて、こんな地獄初めて見るのだ。森に秘めた恐怖が全身を走り抜ける。

Masterジェリド? ボーッとしないで貴方も早く逃げて下さいッ! 私が解いたが直ぐに追って来ますッ!」

 今度は鋭い声で総司令ジェリドを制するベランドナの絶叫。
 敵兵を自然のわなに仕掛けた後、今度は味方迄やられぬよう再び抑え込まねばならない。それは彼女以外に出来ない仕事なのだ。

「す、済まんッ! 頼んだッ!」

 ベランドナにすごまれたジェリドも駆け出す。
 ジェリドは、ただベランドナの凄みと森の恐怖に足元をすくわれていた訳ではなかった。

 敵兵の中にみつけた白き同じ鎧を絶望視していた。
 それは自分達と同じ元フォルデノ王国聖騎士出身の証。

 然し在り得なかった。何故なら如何どうにか逃げ延びジェリドへいた者共以外、同胞どうほう達は皆、マーダルイスその手の者ヴァロウズ達に依って殺害され尽くした筈なのだ。

 ジェリド──普段冷静と力強さが同居する彼が激しく動揺する。これから先、死んだ筈の味方を相手に死力を尽くす修羅道地獄巡りいられるのか?

「沈まれぇぃッ! そこ迄よ森の美女達ドリュエル達ッ!」

 次は宣言通り、森の美女達ドリュエル達を収めるよう命令下すベランドナの身勝手。
 紫色の霧が成す群衆が悠久の森人ハイエルフさえ喰らわんとばかりにを仕掛ける。

 小皺こじわひとつない300歳美女の顔色をゆがませ命張った殿しんがりの役目を果たさんと決死。森中の虚空こくうへ両掌開きかいなを伸ばした。加えて開いた手に全霊を込め握り絞めてゆく。

 これが最初からこなせるのならば、山中を堂々征けば良かったのではないか?
 そんな簡単な話ではないのだ。ベランドナとて、これはあくまで最終手段。

 絶対やりたくない手筈であるのだ。森そのものをたった独りで抑え込む無謀無策むぼうむさく

 魔力マナ体力面フィジカルも大いに削り取られる。この後、別働隊が襲って来ようものなら彼女は戦力外へ落ち込む。だからこそ避けたかった形を呼び込まれた。

 紫色の霧達が嘲笑ちょうしょうしながらベランドナを一斉に囲い込み、釣られた樹々の枝葉がベランドナの胸をつらぬかんとする直前──森の美女達ドリュエル達が動きを止めた。

 然し死力を尽くしたベランドナの気絶、前のめりに倒れる終焉しゅうえんが訪れるかにみえた。 

 腐葉土ふようど積もる地面へ綺麗な顔を埋める手前、背の高い赤目の男がベランドナを抱え、その場を命辛々からがらだっした。

 ◇◇

 ベランドナの機転で窮地きゅうち如何どうにか切り抜けたジェリド隊。
 その裏腹──ジェリドやラオ守備隊が攻めたきフォルデノ王国国境付近にそびえ建つ石造りの砦。

 赤い竜の影をかたどる旗をカノンから続く峻険しゅんけんな谷間が吹かせる風になびいていた。

 フォルデノ王国は150年程前、白き竜の大群に襲われた際。
 カノンから現れた黒い竜に守られた歴史が存在する。

 以来この国は本格的に軍を持ち始め、軍旗に赤い竜を用いた。白でも黒でもない赤い竜を選ぶ人間の小賢こざかしい顕示けんじ欲の体現たいげん

「──何故此方から仕掛けたのですか? 何の為に用意した石塁せきるいか判らないとはおろかしい」

 Fortezaフォルテザとラファンの境目。夜に乗じてFortezaフォルテザ側へ攻め入った兵達のを射抜く口調で糾弾きゅうだんする司令官らしき人物。

 四角い眼鏡を掛けた背丈せたけの高い男、如何いかにも切れ者と云った口調と風貌ふうぼう

「そ、それがその……敵方が寝静まった……」

 森の美女達ドリュエル達から逃れた僅かな兵から聴いた内容を司令官へ伝えようと心に緊張の汗水らす

とは何です? 貴方は私に虚偽きょぎを報告するのですか? 戦場では命取りです。裏を取ってから報告しなさい」

「は、はっ!」

 司令官に言葉をさえぎられ、その場を後にする兵士の背中へ溜息を吹きつきた司令官。「全く……強化し過ぎたのが、かえってあだとなったらしい」と独りなげいた。

 だがその直後、口角を挙げる。この司令官──敵の素性すじょう最初ハナから知り尽くしていた。

 ──久しいですね。まさか貴方と本気で殺れる日が訪れようとは。
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