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第7部『Back-to-Back Battlefield(背中合わせの戦場)』
第72話『The flow of time that breaks the silence(静寂を割く刻の流れ)』 A Part
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ローダ・ロットレン家が余りに迅速過ぎた家庭に心悩ませ、ドゥーウェンこと吉野亮一とその師サイガンが巨大な玩具に手を焼いていた裏側。
宝石の如き金色の美しさを湛えた悠久の森人ベランドナと陣を率いた元フォルデノ王国聖騎士団長ジェリド・アルベェラータは、泥臭い戦争へ向かう只中。
着慣れた金属の鎧を脱ぎ捨て得物は木の皮に包み込んだ兵達。深い森中──道なき道を足音の響きさえ惜しみ忍ばせ歩み征く。
最先端をゆく街並みFortezaから出て来た19世紀頃を思わす歴史の螺子を逆巻きにした一陣。
騎馬さえ打ち捨てた徒歩行軍──。
兵の誰かが『貴女達の様に空を飛んでゆけぬものか?』と率直な疑問を投げた。
ベランドナから風の精霊術『自由の翼』が得られぬものかと云った文句。
聞かれたベランドナ嬢──さも涼し気なる顔立ちで淡々と返した。
「先ず飛べる高さが足りません。精々最長で10mです、この森を飛び越えられません。そして何より皆様は鳥の様に空を自由に飛べますか? 敵が待ち受けていれば格好の的でございます」
人間とは引力の上でこそ最高の力を発揮出来る者也。応じるのも面倒臭い。あの術式は跳躍力を高める補助的なものだ。云わずと知れて欲しいとベランドナは正直思う。
──恐らく風姫ルシア様の如く自由に空を駆けれる夢を抱いていらっしゃる……。彼女が異端過ぎるのです。アレは調整された力に違いない。
ルシア・ロットレンが卓越過ぎるのだ。あれだけは300年生きた自分でさえも届く想像が湧かない。
もう独り──夜の漁村エドナを襲った敵の首領格マーダも空中で制止出来るほど常軌を逸する動きであった。あの力の根源は、聡明なベランドナにすら掴めていない。
創造力を力へ転化出来る扉の正候補者ローダも近い内、この両者へ届くかも知れない。
兎に角深き森中を静寂を共連れに進軍するより他ない。余り文句を言うならいっそ森の美魔女ドリュエル達から精を吸い尽くされればいいとさえ思い呆れた。
「ベランドナ嬢──魔導の力を誤解している愚か共が煩くて済まんな」
ベランドナの隣を歩く今回の総司令ジェリドが野太い声で部下の無礼を深謝。
背丈だけなら決して劣らぬベランドナ、特徴的な長耳へ直に届き、少々くすぐったい思い。
「いえ……気にしておりませんMaster。精霊や魔法へ夢を抱くのは寧ろ当たり前ですから」
普段Master扱いしている実年齢未だ20代後半のドゥーウェンとはまるで異なる38歳ジェリド。大人の気遣いが妙に居心地良いのだ。
和らいだ声で返したベランドナ。ふと彼の独り娘リイナの面影を重ねる。
ハイエルフの300年──経験値だけなら誰にも負けない。だが精神年齢的にはリイナに近しい少女が潜む。ジェリドの武骨だが何処なく可愛らしい父性を感じ取った。
「Master──間もなく山越えですが陽も落ちます。今日は慌てずこの場で野営を勧めます。森の臭気も幾らか薄いです」
総司令ジェリドへ野営を勧めるベランドナの柔らかな言葉じり。
耳元がこそばゆいのは寧ろ偉丈夫ジェリドの方。
語る言葉そのものが精霊か妖精の可愛げを匂わすベランドナから逐一Masterと呼ばれる悩ましさ。自分には過ぎ足る存在。
300歳のあどけなさから心揺さぶられ言われるがまま、野営を張るよう伝令を回した。
戦地へ向かう緊張で忘れてた樹々の香りが彼の鼻孔を燻らせた。
やがて森に静かな夜が訪れた。早々に軽い食事を済ませる各々。虫の鳴き声を枕に束の間の休息。
未だForteza領内。山越えすれば敵地ラファンとカノン、そして元々我が領土フォルデノ王国の境に陣を張る敵に気取られる危険が目前。
早い話ベランドナは此方から夜襲を仕掛ける冒険を犯すのを避けるべく、この場で未だ穏やかな休息を進言した次第。戦い慣れぬ地での奇襲を止めた森人の知恵。
「──少し邪魔しても良いかな?」
ベランドナが簡易的な寝袋代わりにもなる断熱材で出来たマントを広げ横になろうとしていた処。
少しほうれい線が出始める顔を緩ませカップを両手に握り現れた中年男性──ジェリドである。火気厳禁なのだが何故かカップから湯気が溢れていた。
「珈琲ですか? どうやって保温された……!」
金属物の持ち込むは出来るだけ厳禁の最中、保温された珈琲をどうやって持ち込んだのか気になったベランドナ。質問の語尾を濁らす。
ニッと微笑み、真空断熱ボトルを見せる悪戯じみたジェリドの顔色。
武器を包み込む木の皮に態々包んで持ち込んだと知れたベランドナ。少々呆れ顔入り混じる笑顔を手向けた。
「ですが……もう残り少ないのでは?」
そのボトルサイズ──大した量ではないだろう。恐らく最後の一杯だと思うベランドナの気遣い。
「だから好いんじゃないか。残り一杯の珈琲を美人と分け合う。より美味しく飲めると云うものだ」
ベランドナの返事を待たず地面に腰を下ろしたジェリドのお巫山戯。カップを覗くと半分だけの珈琲が波紋を揺らした。
ベランドナが渡されたカップを宝物でも受け取る気分──両手で優しく包み込む。暖かみと好い香りに心緩ます。先ずはじっくりと嗅覚を潤した。
「少々モノを訊ねたい」
人独り分ほど開けた絶妙な距離感を保ち、視線は合わせずジェリドが大人の会話を切り出した。
ベランドナ──友人リイナの父がいよいよ愛らしいと感じ笑顔を振るのだ。見事過ぎる御膳立て、断り様がないと思えた。
「済まん、人の好みに付け入る話だ。君ほど聡明な人間が何故、ドゥーウェンに付き添っているのか気になってな」
ジェリドは、クソが付くほどの真顔で口を開く。個人的な興味と下世話な趣味だと知った上で話しを始めた。エルフ族である相手を自然に人間と呼ぶ。
珈琲へ視線を落とし腑に落ちた顔で少しだけ啜るベランドナ。決して嫌な顔色は立てなかった。
「それほど深い理由はないのです。あの方、御自分の生き方に呆れるほど正直じゃないですか。面白い人だと思ったのです」
まるで珈琲に話し掛けているかのようなベランドナの口ぶり。「ふむ……」と頷くジェリドへさらに続けた。
「耳長族の里では人間を見下す者が多いのです。直ぐに争いをしたがり森を燃やす愚か者だと貶めます。私、自分の目と耳で真実を知りたくなりました」
笑顔の中に孤独さを滲ませ珈琲に溶け込ませたベランドナの憂鬱。思わず夜空を見上げれば彼女の心を察したかのような薄曇り。月齢半分の灯りが透けて見えた。
ジェリド、此処で漸くお隣の美人へ細い目を送る。
彼女はただ純粋なのだと知れた。そして薄曇りな夜空でも、金色の長髪がふわりと散り、美麗さに酔う溜息を吐きそうな気分を抑えた。
「成程……有難う。君とこうして話せて良かった。──近頃リイナと親しくして貰っている様で……心底感謝している。アレは中々気難しいのだ」
己の適当な短髪を掻き、最後は娘へ気分を振るジェリドの狡賢さ。
ベランドナ──心擽られた気分。思わず吹いてしまった。友達へ良い土産話が出来たと感じ、この小さな温もりを忘れぬよう、珈琲へ落として一気に飲み干した。
宝石の如き金色の美しさを湛えた悠久の森人ベランドナと陣を率いた元フォルデノ王国聖騎士団長ジェリド・アルベェラータは、泥臭い戦争へ向かう只中。
着慣れた金属の鎧を脱ぎ捨て得物は木の皮に包み込んだ兵達。深い森中──道なき道を足音の響きさえ惜しみ忍ばせ歩み征く。
最先端をゆく街並みFortezaから出て来た19世紀頃を思わす歴史の螺子を逆巻きにした一陣。
騎馬さえ打ち捨てた徒歩行軍──。
兵の誰かが『貴女達の様に空を飛んでゆけぬものか?』と率直な疑問を投げた。
ベランドナから風の精霊術『自由の翼』が得られぬものかと云った文句。
聞かれたベランドナ嬢──さも涼し気なる顔立ちで淡々と返した。
「先ず飛べる高さが足りません。精々最長で10mです、この森を飛び越えられません。そして何より皆様は鳥の様に空を自由に飛べますか? 敵が待ち受けていれば格好の的でございます」
人間とは引力の上でこそ最高の力を発揮出来る者也。応じるのも面倒臭い。あの術式は跳躍力を高める補助的なものだ。云わずと知れて欲しいとベランドナは正直思う。
──恐らく風姫ルシア様の如く自由に空を駆けれる夢を抱いていらっしゃる……。彼女が異端過ぎるのです。アレは調整された力に違いない。
ルシア・ロットレンが卓越過ぎるのだ。あれだけは300年生きた自分でさえも届く想像が湧かない。
もう独り──夜の漁村エドナを襲った敵の首領格マーダも空中で制止出来るほど常軌を逸する動きであった。あの力の根源は、聡明なベランドナにすら掴めていない。
創造力を力へ転化出来る扉の正候補者ローダも近い内、この両者へ届くかも知れない。
兎に角深き森中を静寂を共連れに進軍するより他ない。余り文句を言うならいっそ森の美魔女ドリュエル達から精を吸い尽くされればいいとさえ思い呆れた。
「ベランドナ嬢──魔導の力を誤解している愚か共が煩くて済まんな」
ベランドナの隣を歩く今回の総司令ジェリドが野太い声で部下の無礼を深謝。
背丈だけなら決して劣らぬベランドナ、特徴的な長耳へ直に届き、少々くすぐったい思い。
「いえ……気にしておりませんMaster。精霊や魔法へ夢を抱くのは寧ろ当たり前ですから」
普段Master扱いしている実年齢未だ20代後半のドゥーウェンとはまるで異なる38歳ジェリド。大人の気遣いが妙に居心地良いのだ。
和らいだ声で返したベランドナ。ふと彼の独り娘リイナの面影を重ねる。
ハイエルフの300年──経験値だけなら誰にも負けない。だが精神年齢的にはリイナに近しい少女が潜む。ジェリドの武骨だが何処なく可愛らしい父性を感じ取った。
「Master──間もなく山越えですが陽も落ちます。今日は慌てずこの場で野営を勧めます。森の臭気も幾らか薄いです」
総司令ジェリドへ野営を勧めるベランドナの柔らかな言葉じり。
耳元がこそばゆいのは寧ろ偉丈夫ジェリドの方。
語る言葉そのものが精霊か妖精の可愛げを匂わすベランドナから逐一Masterと呼ばれる悩ましさ。自分には過ぎ足る存在。
300歳のあどけなさから心揺さぶられ言われるがまま、野営を張るよう伝令を回した。
戦地へ向かう緊張で忘れてた樹々の香りが彼の鼻孔を燻らせた。
やがて森に静かな夜が訪れた。早々に軽い食事を済ませる各々。虫の鳴き声を枕に束の間の休息。
未だForteza領内。山越えすれば敵地ラファンとカノン、そして元々我が領土フォルデノ王国の境に陣を張る敵に気取られる危険が目前。
早い話ベランドナは此方から夜襲を仕掛ける冒険を犯すのを避けるべく、この場で未だ穏やかな休息を進言した次第。戦い慣れぬ地での奇襲を止めた森人の知恵。
「──少し邪魔しても良いかな?」
ベランドナが簡易的な寝袋代わりにもなる断熱材で出来たマントを広げ横になろうとしていた処。
少しほうれい線が出始める顔を緩ませカップを両手に握り現れた中年男性──ジェリドである。火気厳禁なのだが何故かカップから湯気が溢れていた。
「珈琲ですか? どうやって保温された……!」
金属物の持ち込むは出来るだけ厳禁の最中、保温された珈琲をどうやって持ち込んだのか気になったベランドナ。質問の語尾を濁らす。
ニッと微笑み、真空断熱ボトルを見せる悪戯じみたジェリドの顔色。
武器を包み込む木の皮に態々包んで持ち込んだと知れたベランドナ。少々呆れ顔入り混じる笑顔を手向けた。
「ですが……もう残り少ないのでは?」
そのボトルサイズ──大した量ではないだろう。恐らく最後の一杯だと思うベランドナの気遣い。
「だから好いんじゃないか。残り一杯の珈琲を美人と分け合う。より美味しく飲めると云うものだ」
ベランドナの返事を待たず地面に腰を下ろしたジェリドのお巫山戯。カップを覗くと半分だけの珈琲が波紋を揺らした。
ベランドナが渡されたカップを宝物でも受け取る気分──両手で優しく包み込む。暖かみと好い香りに心緩ます。先ずはじっくりと嗅覚を潤した。
「少々モノを訊ねたい」
人独り分ほど開けた絶妙な距離感を保ち、視線は合わせずジェリドが大人の会話を切り出した。
ベランドナ──友人リイナの父がいよいよ愛らしいと感じ笑顔を振るのだ。見事過ぎる御膳立て、断り様がないと思えた。
「済まん、人の好みに付け入る話だ。君ほど聡明な人間が何故、ドゥーウェンに付き添っているのか気になってな」
ジェリドは、クソが付くほどの真顔で口を開く。個人的な興味と下世話な趣味だと知った上で話しを始めた。エルフ族である相手を自然に人間と呼ぶ。
珈琲へ視線を落とし腑に落ちた顔で少しだけ啜るベランドナ。決して嫌な顔色は立てなかった。
「それほど深い理由はないのです。あの方、御自分の生き方に呆れるほど正直じゃないですか。面白い人だと思ったのです」
まるで珈琲に話し掛けているかのようなベランドナの口ぶり。「ふむ……」と頷くジェリドへさらに続けた。
「耳長族の里では人間を見下す者が多いのです。直ぐに争いをしたがり森を燃やす愚か者だと貶めます。私、自分の目と耳で真実を知りたくなりました」
笑顔の中に孤独さを滲ませ珈琲に溶け込ませたベランドナの憂鬱。思わず夜空を見上げれば彼女の心を察したかのような薄曇り。月齢半分の灯りが透けて見えた。
ジェリド、此処で漸くお隣の美人へ細い目を送る。
彼女はただ純粋なのだと知れた。そして薄曇りな夜空でも、金色の長髪がふわりと散り、美麗さに酔う溜息を吐きそうな気分を抑えた。
「成程……有難う。君とこうして話せて良かった。──近頃リイナと親しくして貰っている様で……心底感謝している。アレは中々気難しいのだ」
己の適当な短髪を掻き、最後は娘へ気分を振るジェリドの狡賢さ。
ベランドナ──心擽られた気分。思わず吹いてしまった。友達へ良い土産話が出来たと感じ、この小さな温もりを忘れぬよう、珈琲へ落として一気に飲み干した。
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