【完結】🧚‍♀️カクヨムコン10中間選考突破作品・マーダ『森の護り人・ファウナ』-ローダ第零章-

🗡🐺狼駄(ろうだ)

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最終部 ファウナ・デル・フォレスタ

第211話 此方側の住人

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 真実のファウナ・デル・フォレスタは約束通り生きていた。
 黒い女性向けのスーツに身を包み、浮島の地下深い場所で光とぼしき闇を体現たいげんしている様な姿。

 マーダからそのまま継いだ男性物スーツではなく、ミニスカートで大人女性の魅力際立きわだつ。腰回りも胸元さえも女性の色気溢れあふれ出る。少女を卒業した美麗びれいなラインを描いてた。

 背中にレグラズ・アルブレンから拳銃を突き付けられてるアル・ガ・デラロサ。

 お構いなしに振り向き、探し求めた女神の姿を脳裏に焼き付けようと躍起やっきになる。然し涙のレンズが揺らぎ過ぎ上手く往かないもどかしさ。

「チィッ」

 感動の再会に於いて無粋ぶすい過ぎる拳銃。舌打ち一つで腰のホルスターに戻すレグラズ。

 その足元で四つん這いばい。鼻汁混じる涙を床へ止めどなく垂れたれ流す宿敵デラロサ狼狽えうろたえ具合を見下す。冷静過ぎる人間とはいえ、相手の気分が読めぬ程、人でなしではないつもりだ。だがこうも取り乱すかと半ば呆れた。

「──ファウナさんッ!!」

 恥も外聞がいぶんも捨て涙散らし、21歳を過ぎた大人なるファウナの胸へ飛び込むマリアンダ・デラロサ。
 微笑みと共に受け容れるファウナが抱き締める何とも尊きとうとき絵画かいが

 マリー、女神の寵愛ちょうあいを感じ取り、猶更なおさら涙と込み上げる過去の罪を拭いぬぐい切れない。

「わ、私がッ、私がァッ! 貴女を殺したァ"ァ"ァ"ッ!!」

 マリアンダ、二年越しの女神へささげる懺悔ざんげの叫び。

 女神の尊い胸元を自分のけがれた手でよごした罪は決して消えない。例え無罪放免むざいほうめんと判決出た処で、心の牢獄ろうごく無期懲役むきちょうえきを背負うしかないと思い込む。

「そんなの気にしないで良いのよ。まあ確かに驚いたわ……。でもね、優し過ぎるゼファンナ姉さんには殺れなかったかも知れない」

 ファウナは2歳年上の御姉様を優しく労うねぎらう。未だ迷彩柄めいさいがらに染めた実直じっちょく過ぎる頭を撫でる。『ゼファンナ姉さんには殺れなかった』そんな御託ごたくは正直どうでも良い。

 今、この場で人の温かみを幸福。理屈じゃない喜びが在る。
 人の温もりは、片方で事足りるものでは決してない。それが例え神であろうとも。

 人は何処まで行き着いても所詮しょせん人の枠をはみ出す事など叶わずなかれ。太陽はおろか月さえも届かぬ。ながめて挿げすげ替える。知恵を表現に置換ちかん出来るだけの生き物。

 愛し愛される温もりを交換出来る故、人は人たり得るのだ。18歳のおり、旧フォレスタ邸を飛び出して以来、人間であるファウナが悟りさとりを開いた結実けつじつ

「──ファウナ。お前さん、如何どうしてこんな場所に隠れていた?」

 もう散々泣き通したアル・ガ・デラロサ。涙処か全身の水分さえ枯れかれ果てた様子。然し未だ涙の震えは続いてる。

「嗚呼……それね。──正直気になってたのよ。私はゼファンナ姉さんの撃った原子の連鎖ディスディ・ラトーン的に跳ね返せた」

 ファウナ、僅かわずかに言い淀みよどみつつ過去のを思い返す。EL-Galestaエル・ガレスタ超電磁銃レールガンを用い、ゼファンナの放った同じ魔導を打ち消した行為を『奇跡』と語る。

「でも、あくまで偶然。まるで自信なかった。この浮島と周囲の自然を私の魔法がけがしてないか」

 仲間達を護る為、無我夢中むがむちゅうで撃った会心かいしんの一撃。されど所詮急場凌ぎきゅうばしのぎの危うい一打。

 姉ゼファンナの放つ同じ術式は核の燻り廃棄を残さなかった。だが違う人間である自分が全く同様の結果を生むか? それは身勝手な思い込みだと心の片隅かたすみ残留ざんりゅうしてた次第。

「だから審判の間際まぎわ、レグラズに言の葉風の精霊術此処浮島かくまって欲しいって御願いしたの。今の処、核廃棄汚染の様子はないから恐らく問題なさそう……」

 レグラズの背丈せたけが高過ぎて肩に届かないので、代わりに背中を軽く叩くファウナ。「フンッ」と鼻息を返答代わりに寄越すよこすレグラズ。

 この提案、浮島に戻りたい彼に取っても渡りに船であった。

 何せ彼はアルと同じ軍関係出身。然も覚醒者である。アドノス島に幽閉されては二度と此処へは戻れない。だから瓦礫がれきの山から顔を出さず、戦死のふりを続けた。

 ゼファンナに扮したふんしたファウナが射貫いぬかれ、彼女を拘束こうそくしてた森の束縛フォレアビッツの解けた様子を見計らい拾い上げた。後は遺体に転じた罪人ファウナ亡骸なきがらを忍びに忍び抜いて此処まで運んだ顛末てんまつ

「本当に皆の頑張りで上手くいっただけ。私は是が非ぜがひでも愛するレヴァとげたかった我儘わがまま過ぎるただの女よ。女神? そんな大それた存在じゃないわ」

 二年半前の審判を思い返しながら当時を語るファウナの顔。決して消えない優しみの微笑びしょう

『自分はやりたいこと、出来得る方法を頑張り抜いただけの我儘な少女子供だった』

 未だ自分の胸元に縋るすがるマリーを心地良い気分を以って撫で続ける。

 今となっては懐かしい良き思い出──。

 審判を受ける寸前。皆の涙が自分に向けられ大層胸打ち、弁解べんかいのしようがないと感じた。だから微笑みと共に謝罪でなく、これ迄の感謝を込めた微笑みを投じた。

 最早もはや自分の一部と思える大切な仲間達を信じ抜いて心底良かった。この気持ちだけは未来永劫みらいえいごう揺らぎはしない。

御嬢ファウナ、俺とマリーはお前の姉貴ゼファンナに頼まれて捜しに来た」

 涙と鼻汁をそで拭いぬぐい、ようやく自分を取り戻したアル。浮島に辿り着いた経緯けいいを語る。レグラズから借りたハンカチで鼻かみ嫌悪けんおの顔向けられる。

「──そう…なんだ。アビニシャンが」

 最早懐かしき名前。ファウナ自身、嘗てかつて死後の声を聴いた不可思議な出来事を思い出す。

「声無き声を聴いたのだな。ならばマリアンダ・デラロサ、貴様もかも知れん」

 普段無駄口むだぐちを叩かぬレグラズが鋭い口調で珍しく口を挟むはさむ

「──覚醒者ッ!? この私が?」

 復活の女神のくびきをようやく解いたマリーが白目の多い瞳同士をしかめる。確かに思い当たる節が全くないとは言い切れない。見える訳の無い標的を撃ち抜く能力。

「──が、それは貴様が決める事だ」

 それだけ言い切るとレグラズは再び無口に戻る。可能性を説いただけ、押し付ける気は微塵みじんもない。

「そ、そこん処は取り合えず置いといて自分の無事を伝えてやっちゃくんねえか?」

 もう何日洗髪してないか不明な頭をボリボリ掻きかき、ファウナへ提案するアル。「うん、そうね」と告げ、蒼き瞳を閉じ意識を集中する。

 ▷▷──ゼファンナ姉さん、私ファウナ、ファウナ・デル・フォレスタです。

「──ッ!?」

 余りに突然過ぎる言の葉に寄る二年半振りなる妹の声音こわね。当然だが電話の様に通知が無い。驚き過ぎてラディが渡した珈琲コーヒーを落とし掛けた。状況を飲み込む為、数秒の時間を要する。

 ▷▷ファウナ……。良かった、──って生きてたんなら連絡位サッサと寄越よこしなさいよッ、この馬鹿ファウナッ!!

 風の精霊術は心の想いだけ伝達可能。
 然しゼファンナ、周囲の視線憚らずはばからず泣きべそ掻いて大声を出さずにおれない。前触れまえぶれなく掛かって来た迷惑電話へ頭ごなしの文句を言う様子に酷似こくじした。

 カランッ。ラディアンヌが茶托ちゃたくを手から滑り落とす音。

「ファウナ様っ!?」
「ファウナ!? おぃゼファンナっ! お前誰と話してんだっ!」

 次女ラディと長女オルティの激し過ぎるゼファンナに対する絡みからみ。フォレスタ家当主の机に噛りかじり付く二人の姉貴。

 必然過ぎる反応なのだ。デラロサ夫妻へファウナ捜索を依頼した時、御付きである自分達が任務を果たすべきと口をとがらせ大いに反論した。

『貴女達はあくまで此処に居るファウナの護衛が最優先事項じゃないッ!』

 ゼファンナ当主と喧嘩腰で散々議論を交わしたのだ。

「よ、良かった……。ほ、本当に、い、生きていらっしゃった」

 ゼファンナの部屋に在るソファへ飛び込み、泣いて転がる次女ラディアンヌ。

 長女オルティスタの目にも涙、彼女とて妹分と同じく感情を爆発させたい本音が在る。されど大きな身体震わせ咽びむせび泣く我慢がまんに抑える。

 の反応を見やり、微笑みと溜息を吐くゼファンナ当主。
 その想い、少し位自分へ分けて欲しい本音と『でも…まあ、そうよね』緩む気分が織りおりじる。

 ──兎も角ともかく本当に良かったわ。

 結局の処、正直一安心。ファウナだのフォレスタ家当主だの、自分には大層荷が重過ぎると感じていた。
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