【完結】🧚‍♀️カクヨムコン10中間選考突破作品・マーダ『森の護り人・ファウナ』-ローダ第零章-

🗡🐺狼駄(ろうだ)

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第1部 運命の再会

第2話 楽な仕事だ

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 真にまねかねざる客が襲来するのをさとったファウナ。

ぞくは恐らく2人──って、えっ?」

 敵の数すら察知したファウナだが、その内独りの気配が瞬時に消えた……かに思えたのだが、それはもう間近足元に迫っているのだと知り背筋が凍る。

「御館様ッ!」

「おのれっ! 一体何処から!」

 ラディアンヌが真っ先に部屋の床を拳で貫き、下の階へと飛び降りる。オルティスタの方は、取り回しの良い三日月刀シミターを抜いてそれに続く。

 建物内での戦闘を想定しているオルティスタ。こういった事態に備え、刃渡りの短い武器も携帯していた。

 ただ敵の動きが迅速じんそく……と云うより最早で在り過ぎた。ファウナが『鳥達が騒いでいる』と告げてから、1分と経っていない。

「あ、あ……そ、そんなことって……」
「クソッ! 意味が判らんっ! 刺した気配すら感じぬとは!」

 一番先に地獄を見つけたラディアンヌが絶句する。無念の想いを秘めたオルティスタが周囲を見渡すが、ぞくらしき影ひとつ見えやしない。

 下の階に居たのはファウナの両親。二人共、喉元のどもとを刃物でき斬られ、驚愕きょうがくの目をき出しにしたままの姿勢で絶命していた。

「え、父さんダディ? 母さんマム?」

 二人の護衛とは対照的にゆっくりと1階に降りて来たファウナである。これがただの喧騒けんそうでないこと位、かんづいていた。

「み、見てはいけませんファウナ様ァッ!」

 この喧騒の終末をファウナにだけは見せたくない。蒼き瞳に自らの手を重ねようと試みるラディアンヌ。──がっ最早もう手遅れ。

「え、嘘……噓でしょ?」

「クッ!」

 それはファウナに取ってこれ以上ない地獄絵図。尊敬の念を抱いていた両親との突然の別れ。

 オルティスタが目を逸らしながら悔やみ舌打つ。自分の力不足と、この家の警戒心の低さを合わせた憤りいきどおり。御館様の思考は正直古過ぎると感じていた。

 今どき護衛に武術家1人と剣士1人。もっと現代の設備もそろえ、警備を厚くすべきと幾度いくども説いた。その数覚え切れない程。

 然し決まって御館様は『オルティスタとラディアンヌ、君らさえ居れば充分』と緩んだ笑顔で流したのだ。

 勿論その期待値に応えられなかった悔しさの比率が、ずば抜けて大を占める。ラディアンヌとて同じ気分に荒むすさむ

「ウアァァァァァッ!!」

 荒れ果てた床の上に崩れ落ち、周りの目を気にせず大いに泣き叫ぶファウナ。痛々しき号泣が虚しく残響した。

 何気ない日常が天国であったことをようやく理解するも最早手遅れ。17歳の少女に取って、遺言すら聞けぬ死別は余りにも酷であり過ぎた。

「ラディアンヌ! お前は外を警戒しろ! ファウナが2人と言った! だから必ずもう1人遅れて来る! そしてコレをは未だ中に居る筈だっ!」

 ──これ以上は絶対やらせん!

 強い意思で手遅れの哀しみを吹き飛ばすオルティスタ。

 コクンとうなずき、物音1つ立てず外へ飛び出して往くラディアンヌ。ファウナの方は、任せたと立ち去る背中が告げていた。

 その刹那せつな、キラリッと輝く物がファウナの影から出現する。危うい危うい、悲しんでるいとますら持ってゆかれる処であった。

 オルティスタがその長身を活かし、瞬時にファウナを持ち上げると、自分の左肩に乗せたのだ。

 御館様ご夫婦の血で塗れたダガーに対し、器用にも後ろ手に伸ばした三日月刀シミターで斬り結ぶ。

「──やるな、これを止めるか。貴様、血の匂いがする。さては同業者?」

「その声、どうやらクソじゃないようだなっ! お前みたいな外道と一緒にすんな! 例え見えぬとも次の狙いが見え透いてんだよっ!」

 腕っぷしの力のみで相手のダガーを弾き飛ばすオルティスタ。こんな相手に全身のひねりを加えた派手な返しは骨頂こっちょう

 最小の動きで受けるのが最善だと知っている。髪も服装も瞳すら黒づくめの女、その出で立ちからして暗殺者アサシンに違いなかろう。

 この相手こそ見知らぬがオルティスタ、争いの経験から相手の仕方を熟知していた。此方とて血に塗れた刀なのだ。見た目通りの美しさなどとうに捨てた。

 だがそんな強者の彼女ですら、影から影を渡る暗殺者アサシン。そんな薄気味悪い者を相手取る事は初めての経験であった。

 ◇◇

 今からほんの数分前。この暗殺者アサシン『アノニモ』は、ファウナの言った通り、2人でフォレスタ邸に近付いていた。

 アノニモ──名無しという意味。自分の名前すらどうでも良い。ただわずらわしくも周囲から呼び出すための記号として仕方なく付けたに過ぎぬ。

「──その館に居るどいつがターゲットなのか、お前聞いているのか?」

 飛ぶ様に森を駆けるアノニモに、どうにかついて往く仲間らしき女がたずねる。

「問題ない、全部殺れば良いだけ。じゃあ先に行く」

 その独特なイントネーション、アジア系の出身かも知れない。それだけ言い残し森の影に沈んで消えた。

「あっ、行っちまった……。まあただの民間人を殺せば良いだけ。然も有能過ぎる同僚パートナー。なんて楽な仕事なんだ」

 青い髪の女は思ったことを吐き出した。余りうかうかしてると自分の取り分が無くなりそうだと先を急いだ。

 ◇◇

 バタンッ!

 玄関の重い扉を開けて表に飛び出したラディアンヌである。館の中は地獄でも、表から見る分には綺麗なものだ。

「……それにしても扉も窓も、何処も開かれた様子がない? あの殺し屋一体どうやって中に?」

 あの敵が影を伝って襲ってきたのを知らぬラディアンヌ。よってその疑問は無理からぬことだ。

 ダッ、ダダダダッ!

「え、何これ銃痕じゅうこん?」

 ラディアンヌの足元、地面に不自然な穴が連続して開くのを見つけた。暗闇で判別しづらいが、どうやら銃器の類で自分の周囲を撃たれたらしい。

 だが地面に穴を穿うがつ音しか聞こえなかった。銃声が全くとどろかない? そんな事があるものなのか。一気に戦慄せんりつが背中を走るラディアンヌ。

 音もなく遠方から蜂の巣にされるかも知れない恐怖。増してや自分は無手で無装備……自然、嫌な汗を掌にかく。

「なんてこった。相手は1人でその上武器無し。対する此方は撃ち放題とは。本当に本当にだねぇ……」

 何とあろうことか、見えぬ敵が声で自身をさらしてきたではないか。

 すかさず声の方へジグザグに駆けるラディアンヌ。流石に神速とはゆかないが、素手で闘う彼女を馬鹿にし過ぎている。

 これで敵がどんな飛び道具を使った処で直撃は避けられる。後は懐にさえ入ってしまえば此方の勝ち確の筈だ。

「グッ!」

 それでも謎の銃器で手足を少々撃ち抜かれるのは防げない。美しく鍛え抜かれた肢体を血が染めてゆく。

 けれどラディアンヌとて百戦錬磨ひゃくせんれんまの立派な戦士だ。眉間や心臓など致命に至らない様、慎重かつ大胆に迫ってゆく。

 もう間もなく此方の手が届く。自分相手に『楽な仕事』などとうそぶいた失礼なやからを赦す気なぞ在りはしないのだ。
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