【完結】🧚‍♀️カクヨムコン10中間選考突破作品・マーダ『森の護り人・ファウナ』-ローダ第零章-

🗡🐺狼駄(ろうだ)

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第5部 世界の片隅で起きる戦争に見向きもしない人々

第49話 余りに華麗が過ぎる剣

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 鶺鴒の構え中段の構えでオルティスタと白髪の老人が相対あいたいする。どんな状況にも臨機応変りんきおうへんに対処出来る基本の型だ。

 師匠の白地の着物からのぞく一見枯れた木の枝の様な手足。しかし余計なものを削ぎ落したからだと言えなくもない。

 樹齢じゅれいと共に年輪ねんりんを重ねた樹木が数多あまたの風雨にも耐え抜いた結実けつじつに似ていた。

 そして何より身長が低い。160cm位といった処か。指摘する程低い訳でもないのだが、176cmある弟子と比べれば見劣みおとりするのも止むを得ない。

 しかし彼のかもし出す雰囲気が、それを些細ささいな違いにするのだ。

炎舞えんぶとは己がつかわす刃だと教えた筈」

「何が天か、神は何もしてくれんではないかっ!」

 剣をまじえる前に始める舌戦ぜつせん。落ち着いた老人の声に比べ、オルティスタの発言が上擦うわずりをみせる。

「だからお前は未熟なのじゃ。正義も悪も、敵味方とて存在しないが世のことわり。良いか? 天とは己が内に見つけるものじゃ」

「クッソ! 話にならんッ! だから俺は傭兵自由の道を選んだ!」

 言い捨ててから唾吐つばはくオルティスタ。正規軍に入隊すれば自分の信じる正義をつらぬけないと告げている。少し独りがりが過ぎる発言。

「たわけ──それこそ弱さよ。独りで正義を判断出来ぬ戯言たわごとにしか聞こえぬわ」

「アンタこそしゃべりが過ぎるッ!」

 刃の色を黄色高熱に変えて炎舞・牙炎がえんによる上段打ちを狙うオルティスタ。師も難なく同じ黄色の刃で斬り結んだ。

「──彼奴オルティスタ何やってる。あんなの相手に狼狽うろたえた剣じゃ駄目に決まってる」

 No9アノニモが口をはさむ。彼女が認めたオルティスタの剣技、それは一見派手だが裏付けのある緻密ちみつな刃だと彼女は認識している。

 ──それにあのたぎる刃。あれは武器の性能じゃ

 オルティスタのメイン武器、最早語るまでもなかろう。切っ先以外刃の無きものだ。

 対する老人が朱塗しゅぬりのさやから取り出したるはまぎれもない日本刀。まるで赤い鞘が熱していたのでは? そう勘繰かんぐりたくなる抜き身の色だ。

 全く異なる2人の得物えもの
 それにも関わらず炎舞えんぶという同じ剣技。

 此処まで同じ条件ピースそろっているのだ。刃を燃やしていたのは、持ち主達とアノニモは結論づけた。最も原理までは判別出来ない。

 ──あのおきなは間違いなく日本人ね。だけどあのデカい女オルティスタの方、とてもそうは思えない。

 アノニモはこれまでずっと不思議であった。

 日本のくノ一を彷彿ほうふつさせるオルティスタの風貌ふうぼう。加えて剣技を呼称するのに漢字日本語もちいる。
 しかし言葉のなまりも、その日本人離れした体格さえも日本出身とは想像し難いと感じていたのだ。

 そこへにわかに現れた日本人の師匠。これは実に始末が悪い。──オルティスタとは!? そんな思いに拍車はくしゃを掛けられた。

「──炎舞・『火焔ひえん』」

 白髪の老人が剣先で赤い鳥を描いてみせる。鳥を描くなら普通は飛燕ひえんであろう。小さな火の鳥が羽ばたきオルティスタの目前にせまる。

「炎舞・『陽炎かげろう』」

「ウッ!?」
「ま、まぶしい」

 全くの日和見ひよりみであったラディアンヌとファウナが、その小鳥が突如とつじょ見せた輝きに酷く目をやられてしまう。

 ──陽炎とは洒落しゃれが効いてるね。

 独り余裕があるアノニモ。確かにこれ程まで眩しければ、やられた方は相手を一瞬見失うであろう。

 だが──こうも思っている。牙炎がえん兎も角ともかく、他のに連なる剣技の数々。輪燃りんね昇緋しょうひ火焔ひえん、そして今の陽炎かげろう

 とても殺人剣とは思えぬ華麗かれいに尽きるその技達。けれど活人剣かつじんけんとも言い難い。

 ──まるで人を魅了みりょうする剣。大体という言葉自体が神に奉納ほうのうする舞楽ぶらくの様でないか?

 以前オルティスタを指して『さては同業者暗殺者ね』とあおったアノニモである。人を幾重いくえにも殺害した者から感じる同じにおい。さらにすきを見せないその剣技。

 しかし自分は完全にオルティスタという存在を誤解していたと感じずにはいられなかった。

「──ムッ、のんびり観戦してる場合じゃないね。兵士に包囲ほういされてる」

 両手に握るダガーを正規の形刃を表で握り直したアノニモ。人の気配を感じさせないタチの悪さ。
 しかしラディアンヌとファウナも流石に気付いた。特攻よりもAI兵達に取り囲まれていたのであった。


 ◇◇

 再びエドル神殿前に於けるNo2ディスラドとグレイアードを駆るアル・ガ・デラロサの戦い。

 なダガーを振り回すグレイアード。それを嘲笑あざわらいつつ容易よういに避けるディスラド。

「──ククッ……まるで脳みそ入ってないなりがデカいだけの化物だな。まともな剣の打ち合いが出来ると本気で思っているのか?」

「嗚呼……お前さんやっぱ鹿だろ? そんなのハナから狙ってねえんだよッ!」

 此方を侮辱ぶじょくしてきた金髪野郎ディスラドに対し、『お前も馬鹿だ』と返すデラロサ。グレイアードの全身各所に至る姿勢制御用の小型ブースターを噴出させる。

 元々は空から落下中の戦闘時に於いて使用するものだ。これを両肩、両脚辺りを器用にも互いに逆噴射させ、全身を真横に瞬時で一回転させた攻撃を繰り出す。グレイアード自身がまるで手練てだれの兵士の様。

「おおぅっ!?」

 この鋭さに僅かだが驚き、細い青目を開いたNo2ディスラド。しかも御丁寧ごていねいにも踏ん張れる跳ねるのに必要な地面がいつの間にかぬかるんでいる。

 グレイアードが馬鹿デカいダガーで耕した突き刺した結果なのだ。これにはさしものディスラドとて仕方なく剣を抜かされた。

「おおっ! そんな細腕でこいつを止めるか!」

 跳ねて避けるの諦めたディスラドが黒い片刃の剣を真横に両手で持ち上げ、グレイアードのダガーを受け止めた。その剣の見た目だけなら重みに耐えかね折れそうな頼りなさげな得物である。

「フンッ、これしきの力でいきがるなよ軍属の犬め。サイクロプス一つ目巨人の方が余程強烈だ」

? ンなもん知らねえな、そうかよッ!」

 ──全く以て此奴らヴァロウズって一体何なん!? どいつもこいつも生身で俺様のグレイアードと渡り合うなんて腹立たしくてどうしようもないぜっ!

 強化服パワードスーツすら装備してない連中から、こうも無様ぶざまにやられてばかりじゃ今さらながら理不尽を覚えるのも仕方なきこと。けれど此方兵器側とて意地がある。

 ホバリングで僅かに後退。大袈裟おおげさ排気熱風を相手に浴びせひるませようと試みる。さっきの姿勢制御も加えつつ、人間相手に回り込もうとを利かせる。

「フハハハハッ! デカい割にちょこまか動くなァッ! まるでドブネズミだッ!」

「やかましいッ!!!」

 ディスラドに煽られてもお構いなしで愛機グレイアードを自分の手足の如く動かすことにデラロサが専念せんねんする。わざと大声を張り注意を引くのも忘れやしない。
 この機体があくまで強化服パワードスーツ豪語ごうごするなら、人より動けなくてはうそになる。

 金髪野郎ディスラドの背中を取ると、再び上から逆手に握ったダガーを叩きつける。しかし無常にもきびすを返され正面で迎えうたれる羽目におちいる。

 ガァンッ!!

「な、何事!?」

 不意に何も無いように見える地面を踏み抜くグレイアード。ディスラドの足元で起きる。足を取られたかと思いきや、筒状の金属に跳ね上げられた。

「これは!? さっき捨てた超電磁砲レールランチャー!?」

「そういうこったァッ! この芸術馬鹿がッ!!」

 遂にディスラドを自分の意志とは無関係で浮かせる事に成功した。ダガーで無意味に地面を掘り返していた訳でなかった。固い地面を緩ませ、ホバリングでほこりが舞う中、超電磁砲レールランチャーを忍ばせた。

 空を自由に飛べない男がただ落ちてくる。後はグレイアードの大きい手で握り締め、全身の骨をつぶしてやろうと決めた。

 約束通りだ殺しはしない。ただオネンネ気絶させるだけだ。その位、あの踊り子様レヴァーラとて許してくれるに違いない。そんな勝手を仕出かそうするアル・ガ・デラロサであった。
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