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第5部 世界の片隅で起きる戦争に見向きもしない人々
第49話 余りに華麗が過ぎる剣
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鶺鴒の構えでオルティスタと白髪の老人が相対する。どんな状況にも臨機応変に対処出来る基本の型だ。
師匠の白地の着物から覗く一見枯れた木の枝の様な手足。しかし余計なものを削ぎ落した躰と言えなくもない。
樹齢と共に年輪を重ねた樹木が数多の風雨にも耐え抜いた結実に似ていた。
そして何より身長が低い。160cm位といった処か。指摘する程低い訳でもないのだが、176cmある弟子と比べれば見劣りするのも止むを得ない。
しかし彼の醸し出す雰囲気が、それを些細な違いにするのだ。
「炎舞とは己が天に遣わす刃だと教えた筈」
「何が天か、神は何もしてくれんではないかっ!」
剣を交える前に始める舌戦。落ち着いた老人の声に比べ、オルティスタの発言が上擦りをみせる。
「だからお前は未熟なのじゃ。正義も悪も、敵味方とて存在しないが世の理。良いか? 天とは己が内に見つけるものじゃ」
「クッソ! 話にならんッ! だから俺は傭兵の道を選んだ!」
言い捨ててから唾吐くオルティスタ。正規軍に入隊すれば自分の信じる正義を貫けないと告げている。少し独り善がりが過ぎる発言。
「たわけ──それこそ弱さよ。独りで正義を判断出来ぬ戯言にしか聞こえぬわ」
「アンタこそ喋りが過ぎるッ!」
刃の色を黄色に変えて炎舞・牙炎による上段打ちを狙うオルティスタ。師も難なく同じ黄色の刃で斬り結んだ。
「──彼奴何やってるね。あんなの相手に狼狽えた剣じゃ駄目に決まってる」
No9が口を挟む。彼女が認めたオルティスタの剣技、それは一見派手だが裏付けのある緻密な刃だと彼女は認識している。
──それにあの滾る刃。あれは武器の性能じゃなかたね。
オルティスタのメイン武器、最早語るまでもなかろう。切っ先以外刃の無きものだ。
対する老人が朱塗りの鞘から取り出したるは紛れもない日本刀。まるで赤い鞘が熱していたのでは? そう勘繰りたくなる抜き身の色だ。
全く異なる2人の得物。
それにも関わらず炎舞という同じ剣技。
此処まで同じ条件が揃っているのだ。刃を燃やしていたのは、持ち主達とアノニモは結論づけた。最も原理までは判別出来ない。
──あの翁は間違いなく日本人ね。だけどあのデカい女、とてもそうは思えない。
アノニモはこれまでずっと不思議であった。
日本のくノ一を彷彿させるオルティスタの風貌。加えて剣技を呼称するのに漢字を用いる。
しかし言葉の訛りも、その日本人離れした体格さえも日本出身とは想像し難いと感じていたのだ。
そこへ俄かに現れた日本人の師匠。これは実に始末が悪い。──オルティスタとは!? そんな思いに拍車を掛けられた。
「──炎舞・『火焔』」
白髪の老人が剣先で赤い鳥を描いてみせる。鳥を描くなら普通は飛燕であろう。小さな火の鳥が羽ばたきオルティスタの目前に迫る。
「炎舞・『陽炎』」
「ウッ!?」
「ま、眩しい」
全くの日和見であったラディアンヌとファウナが、その小鳥が突如見せた輝きに酷く目をやられてしまう。
──陽炎とは日本人らしい洒落が効いてるね。
独り余裕があるアノニモ。確かにこれ程まで眩しければ、やられた方は相手を一瞬見失うであろう。
だが──こうも思っている。牙炎は兎も角、他の炎舞に連なる剣技の数々。輪燃、昇緋、火焔、そして今の陽炎。
とても殺人剣とは思えぬ華麗に尽きるその技達。けれど活人剣とも言い難い。
──まるで人を魅了する剣。大体炎舞という言葉自体が神に奉納する舞楽の様でないか?
以前オルティスタを指して『さては同業者ね』と煽ったアノニモである。人を幾重にも殺害した者から感じる同じ匂い。さらに隙を見せないその剣技。
しかし自分は完全にオルティスタという存在を誤解していたと感じずにはいられなかった。
「──ムッ、のんびり観戦してる場合じゃないね。死を知らない兵士に包囲されてる」
両手に握るダガーを正規の形で握り直したアノニモ。人の気配を感じさせないタチの悪さ。
しかしラディアンヌとファウナも流石に気付いた。特攻よりもタチが悪いAI兵達に取り囲まれていたのであった。
◇◇
再びエドル神殿前に於けるNo2とグレイアードを駆るアル・ガ・デラロサの戦い。
超巨大なダガーを振り回すグレイアード。それを嘲笑いつつ容易に避けるディスラド。
「──ククッ……まるで脳みそ入ってない形がデカいだけの化物だな。まともな剣の打ち合いが出来ると本気で思っているのか?」
「嗚呼……お前さんやっぱ馬鹿だろ? そんなのハナから狙ってねえんだよッ!」
此方を侮辱してきた金髪野郎に対し、『お前も馬鹿だ』と返すデラロサ。グレイアードの全身各所に至る姿勢制御用の小型ブースターを噴出させる。
元々は空から落下中の戦闘時に於いて使用するものだ。これを両肩、両脚辺りを器用にも互いに逆噴射させ、全身を真横に瞬時で一回転させた攻撃を繰り出す。グレイアード自身がまるで手練れの兵士の様。
「おおぅっ!?」
この鋭さに僅かだが驚き、細い青目を開いたNo2。しかも御丁寧にも踏ん張れる地面がいつの間にかぬかるんでいる。
グレイアードが馬鹿デカいダガーで耕した結果なのだ。これにはさしものディスラドとて仕方なく剣を抜かされた。
「おおっ! そんな細腕でこいつを止めるか!」
跳ねて避けるの諦めたディスラドが黒い片刃の剣を真横に両手で持ち上げ、グレイアードのダガーを受け止めた。その剣の見た目だけなら重みに耐えかね折れそうな頼りなさげな得物である。
「フンッ、これしきの力で粋がるなよ軍属の犬め。サイクロプスの方が余程強烈だ」
「さいくろぷす? ンなもん知らねえな、そうかよッ!」
──全く以て此奴らって一体何なん!? どいつもこいつも生身で俺様のグレイアードと渡り合うなんて腹立たしくてどうしようもないぜっ!
強化服すら装備してない連中から、こうも無様にやられてばかりじゃ今さらながら理不尽を覚えるのも仕方なきこと。けれど此方側とて意地がある。
ホバリングで僅かに後退。大袈裟に排気を相手に浴びせ怯ませようと試みる。さっきの姿勢制御も加えつつ、人間相手に回り込もうと小技を利かせる。
「フハハハハッ! デカい割にちょこまか動くなァッ! まるでドブネズミだッ!」
「やかましいッ!!!」
ディスラドに煽られてもお構いなしで愛機を自分の手足の如く動かすことにデラロサが専念する。わざと大声を張り注意を引くのも忘れやしない。
この機体があくまで強化服の上位互換と豪語するなら、人より動けなくては嘘になる。
金髪野郎の背中を取ると、再び上から逆手に握ったダガーを叩きつける。しかし無常にも踵を返され正面で迎えうたれる羽目に陥る。
ガァンッ!!
「な、何事!?」
不意に何も無いように見える地面を踏み抜くグレイアード。ディスラドの足元で起きる超直下型地震。足を取られたかと思いきや、筒状の金属に跳ね上げられた。
「これは!? さっき捨てた超電磁砲!?」
「そういうこったァッ! この芸術馬鹿がッ!!」
遂にディスラドを自分の意志とは無関係で浮かせる事に成功した。ダガーで無意味に地面を掘り返していた訳でなかった。固い地面を緩ませ、ホバリングで埃が舞う中、超電磁砲を忍ばせた。
空を自由に飛べない男がただ落ちてくる。後はグレイアードの大きい手で握り締め、全身の骨を潰してやろうと決めた。
約束通りだ殺しはしない。ただオネンネさせるだけだ。その位、あの踊り子様とて許してくれるに違いない。そんな勝手を仕出かそうするアル・ガ・デラロサであった。
師匠の白地の着物から覗く一見枯れた木の枝の様な手足。しかし余計なものを削ぎ落した躰と言えなくもない。
樹齢と共に年輪を重ねた樹木が数多の風雨にも耐え抜いた結実に似ていた。
そして何より身長が低い。160cm位といった処か。指摘する程低い訳でもないのだが、176cmある弟子と比べれば見劣りするのも止むを得ない。
しかし彼の醸し出す雰囲気が、それを些細な違いにするのだ。
「炎舞とは己が天に遣わす刃だと教えた筈」
「何が天か、神は何もしてくれんではないかっ!」
剣を交える前に始める舌戦。落ち着いた老人の声に比べ、オルティスタの発言が上擦りをみせる。
「だからお前は未熟なのじゃ。正義も悪も、敵味方とて存在しないが世の理。良いか? 天とは己が内に見つけるものじゃ」
「クッソ! 話にならんッ! だから俺は傭兵の道を選んだ!」
言い捨ててから唾吐くオルティスタ。正規軍に入隊すれば自分の信じる正義を貫けないと告げている。少し独り善がりが過ぎる発言。
「たわけ──それこそ弱さよ。独りで正義を判断出来ぬ戯言にしか聞こえぬわ」
「アンタこそ喋りが過ぎるッ!」
刃の色を黄色に変えて炎舞・牙炎による上段打ちを狙うオルティスタ。師も難なく同じ黄色の刃で斬り結んだ。
「──彼奴何やってるね。あんなの相手に狼狽えた剣じゃ駄目に決まってる」
No9が口を挟む。彼女が認めたオルティスタの剣技、それは一見派手だが裏付けのある緻密な刃だと彼女は認識している。
──それにあの滾る刃。あれは武器の性能じゃなかたね。
オルティスタのメイン武器、最早語るまでもなかろう。切っ先以外刃の無きものだ。
対する老人が朱塗りの鞘から取り出したるは紛れもない日本刀。まるで赤い鞘が熱していたのでは? そう勘繰りたくなる抜き身の色だ。
全く異なる2人の得物。
それにも関わらず炎舞という同じ剣技。
此処まで同じ条件が揃っているのだ。刃を燃やしていたのは、持ち主達とアノニモは結論づけた。最も原理までは判別出来ない。
──あの翁は間違いなく日本人ね。だけどあのデカい女、とてもそうは思えない。
アノニモはこれまでずっと不思議であった。
日本のくノ一を彷彿させるオルティスタの風貌。加えて剣技を呼称するのに漢字を用いる。
しかし言葉の訛りも、その日本人離れした体格さえも日本出身とは想像し難いと感じていたのだ。
そこへ俄かに現れた日本人の師匠。これは実に始末が悪い。──オルティスタとは!? そんな思いに拍車を掛けられた。
「──炎舞・『火焔』」
白髪の老人が剣先で赤い鳥を描いてみせる。鳥を描くなら普通は飛燕であろう。小さな火の鳥が羽ばたきオルティスタの目前に迫る。
「炎舞・『陽炎』」
「ウッ!?」
「ま、眩しい」
全くの日和見であったラディアンヌとファウナが、その小鳥が突如見せた輝きに酷く目をやられてしまう。
──陽炎とは日本人らしい洒落が効いてるね。
独り余裕があるアノニモ。確かにこれ程まで眩しければ、やられた方は相手を一瞬見失うであろう。
だが──こうも思っている。牙炎は兎も角、他の炎舞に連なる剣技の数々。輪燃、昇緋、火焔、そして今の陽炎。
とても殺人剣とは思えぬ華麗に尽きるその技達。けれど活人剣とも言い難い。
──まるで人を魅了する剣。大体炎舞という言葉自体が神に奉納する舞楽の様でないか?
以前オルティスタを指して『さては同業者ね』と煽ったアノニモである。人を幾重にも殺害した者から感じる同じ匂い。さらに隙を見せないその剣技。
しかし自分は完全にオルティスタという存在を誤解していたと感じずにはいられなかった。
「──ムッ、のんびり観戦してる場合じゃないね。死を知らない兵士に包囲されてる」
両手に握るダガーを正規の形で握り直したアノニモ。人の気配を感じさせないタチの悪さ。
しかしラディアンヌとファウナも流石に気付いた。特攻よりもタチが悪いAI兵達に取り囲まれていたのであった。
◇◇
再びエドル神殿前に於けるNo2とグレイアードを駆るアル・ガ・デラロサの戦い。
超巨大なダガーを振り回すグレイアード。それを嘲笑いつつ容易に避けるディスラド。
「──ククッ……まるで脳みそ入ってない形がデカいだけの化物だな。まともな剣の打ち合いが出来ると本気で思っているのか?」
「嗚呼……お前さんやっぱ馬鹿だろ? そんなのハナから狙ってねえんだよッ!」
此方を侮辱してきた金髪野郎に対し、『お前も馬鹿だ』と返すデラロサ。グレイアードの全身各所に至る姿勢制御用の小型ブースターを噴出させる。
元々は空から落下中の戦闘時に於いて使用するものだ。これを両肩、両脚辺りを器用にも互いに逆噴射させ、全身を真横に瞬時で一回転させた攻撃を繰り出す。グレイアード自身がまるで手練れの兵士の様。
「おおぅっ!?」
この鋭さに僅かだが驚き、細い青目を開いたNo2。しかも御丁寧にも踏ん張れる地面がいつの間にかぬかるんでいる。
グレイアードが馬鹿デカいダガーで耕した結果なのだ。これにはさしものディスラドとて仕方なく剣を抜かされた。
「おおっ! そんな細腕でこいつを止めるか!」
跳ねて避けるの諦めたディスラドが黒い片刃の剣を真横に両手で持ち上げ、グレイアードのダガーを受け止めた。その剣の見た目だけなら重みに耐えかね折れそうな頼りなさげな得物である。
「フンッ、これしきの力で粋がるなよ軍属の犬め。サイクロプスの方が余程強烈だ」
「さいくろぷす? ンなもん知らねえな、そうかよッ!」
──全く以て此奴らって一体何なん!? どいつもこいつも生身で俺様のグレイアードと渡り合うなんて腹立たしくてどうしようもないぜっ!
強化服すら装備してない連中から、こうも無様にやられてばかりじゃ今さらながら理不尽を覚えるのも仕方なきこと。けれど此方側とて意地がある。
ホバリングで僅かに後退。大袈裟に排気を相手に浴びせ怯ませようと試みる。さっきの姿勢制御も加えつつ、人間相手に回り込もうと小技を利かせる。
「フハハハハッ! デカい割にちょこまか動くなァッ! まるでドブネズミだッ!」
「やかましいッ!!!」
ディスラドに煽られてもお構いなしで愛機を自分の手足の如く動かすことにデラロサが専念する。わざと大声を張り注意を引くのも忘れやしない。
この機体があくまで強化服の上位互換と豪語するなら、人より動けなくては嘘になる。
金髪野郎の背中を取ると、再び上から逆手に握ったダガーを叩きつける。しかし無常にも踵を返され正面で迎えうたれる羽目に陥る。
ガァンッ!!
「な、何事!?」
不意に何も無いように見える地面を踏み抜くグレイアード。ディスラドの足元で起きる超直下型地震。足を取られたかと思いきや、筒状の金属に跳ね上げられた。
「これは!? さっき捨てた超電磁砲!?」
「そういうこったァッ! この芸術馬鹿がッ!!」
遂にディスラドを自分の意志とは無関係で浮かせる事に成功した。ダガーで無意味に地面を掘り返していた訳でなかった。固い地面を緩ませ、ホバリングで埃が舞う中、超電磁砲を忍ばせた。
空を自由に飛べない男がただ落ちてくる。後はグレイアードの大きい手で握り締め、全身の骨を潰してやろうと決めた。
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