【完結】🧚‍♀️カクヨムコン10中間選考突破作品・マーダ『森の護り人・ファウナ』-ローダ第零章-

🗡🐺狼駄(ろうだ)

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第5部 世界の片隅で起きる戦争に見向きもしない人々

第53話 圧倒的狂気の果て

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 天斬てんざ──本名『袴田はかまだ つるぎ

 ごくありふれた家庭で生を受けて、無論戦乱などとうに捨てたこの国で平和な日常と共に成長してゆく。精神をきたえたいが為に剣道を始めたのも、とても在りがちな話であった。

 剣道──早い話がルールにのっとった健全なるただのスポーツ。それはこの少年のかわきを満たすに至らなかった。勝っても負けても死ぬ処か、打ち所が悪い時に怪我負けがおう位が関の山せきのやま

 ──こんなものをだなんて馬鹿げている。俺は真剣──触れただけで相手を傷物きずものにする本物を望む。

 彼に取っては竹刀剣術こそむしに思えた。15歳に元服として親元を抜け出し、ナイフ、なた、ダガー……手に入る刃物を全て手に入れ渡り歩いた。

 こんな男だ。斬り試しの相手にしたのは野犬や野生動物だけでとどまる道理がない。食う物に困れば強盗さえも平然とやった。

 やがて世捨て人の如く少年院に送り込まれた際、身元引受人となったのが彼の剣術の師匠であった。平和を枕に惰眠だみんむさぼるこの国で、自分の狂気を受け入れる器があるとは思えなかった。

 ──が、迎えに来た者の目と肌の色を見て合点がてんがいった。何と青い目した白人であったのだ。殺しを生業なりわいにする傭兵達ようへいたちを育てる施設の関係者だ。

 こうして天斬と名乗る剣士が生まれ、戦地で血を求めるそのさまをレヴァーラに寄って見初みそめられた。

 ◇◇

 ──剣とは狂気。此奴と俺のその差をめる為に一体何が必要なのだ?

 目にも止まらぬ打ち合いの最中、思考を巡らす天斬である。互いの右腕同士は手首の返しが使えぬ直刀。
 腕の振りこそダイレクトに伝わるが、どうあっても動きモーションが大きくならざる得ない。その分手にした剣ならわずかの所作しょさで次に移れる。

 これ程まで伯仲はくちゅうした争いとなれば、レヴァーラが左手に握る振り抜きやすい小刀がものをいう。右腕同士が斬り結ぶ間、レヴァーラの左が好きに振舞い天斬のすきと手傷を増やしてゆくのだ。

「──なッ!?」
「フフッ……これで互角以上だ」

 何と天斬、命散るそのきわでさらなる狂気を平然とさらす。右腕の次は使い道を失った左指先だけをレヴァーラの小刀相手に献上けんじょうしたのだ。

 5本の指から生える長い爪の様な蒼き光の剣。手首処か指の動きだけで自由に出来る剣を増やした。

 武士もののふとは自身を死人と仮定し狂気の先へ征くと言うが、自分の死期が見えているこの男。死すことさえも己が得物武器とする事でこの境地の更なる上へ飛躍ひやくを果たす。

 ──グッ!? こ、これは面白くないッ!

 早速レヴァーラの左手の指へ亀裂きれつが入る。小刀を握る握力がこのままではいっしてしまう。閃光エンツォに自分のからだが耐えられるまでもう1分と無い。

『──残り1分? 貴女……間違ってるよ、その思考』

『──そうだな、残量を気にする狂気? それでは意味が通じない』

 この在り得る筈のない突如とつじょなる意識の介入。

 これがレヴァーラのさらなる覚醒を呼び覚ました。彼女の全身から漏れ出す緑の輝きが右腕だけに集約される。さらに惜しげもなく左の得物を自ら落とした。

「1分も要らぬわ俗物ぞくぶつッ! 貴様の小賢こざかしい狂気とやら、このレヴァーラ圧倒するッ!!」

「グヌッ!? ば、馬鹿……な」

 勝敗は一瞬で決した。
 天斬の右腕も左手も関係ない理不尽たるその暴力。まじわった蒼き輝きを一掃いっそうし、胸元を穿うが一閃いっせん。同時にレヴァーラの閃光エンツォとやらも消失した。

 自分が動ける時間残り1分──そんな思考さえも捨て、己が右腕に残りを全振りしたのである。実に単純なるシンプルな結実であった。

 ただの亡骸なきがらと化した天斬がズルリッと地面に落ち往く。ブンッと右腕を一振りし付着した血糊ちのりを払うレヴァーラ。そのまま天へと突き上げた。

「──見たか愚民ぐみん共! この力こそレヴァーラ・ガン・イルッゾの真なる力ッ! そして我が力を与えた恩をあだと為した者の末路まつろであるッ!」

 声高らかに勝ち名乗りを挙げたレヴァーラ。天も味方したが如く、曇天どんてんから陽光が漏れ、この女帝じょていを祝福しているかのような絵柄えがらと化した。

 リディーナ達の戦闘が中継されているのと同じく、この様子も全世界へ発信されている。自分がいた戦乱を自らの手で蹴散けちらすという宣誓せんせいを見事達した。

 これを観てなおもただの踊り子と揶揄やゆする者は、愚者ぐしゃののしられることだろう。ただ一つ口惜くちおしきたるはこの方法を提案したファウナ・デル・当人フォレスタが深い手傷を負ったことだ。

『──ジレリノ、茶番は終わりだ中継を止めよ

「へいへい、了解Copy

 この場に於ける争いは全て終結した。後は溺愛できあいするファウナがひたすら心配である。寄ってTV、配信、すべからず放送を切り、傷を治せぬ魔法少女の元へ駆け寄るただの女と化した。

息災そくさいであるかファウナよっ!」

 ファウナは無事であった。ラディアンヌに『糸を使って止血しろ』と伝令したのは勿論No10ジレリノである。

 オルティスタの師匠、焔聖えんびにトドメの銃撃を加え、腹に深い傷を負ったファウナを救う指示を出した彼女。この舞台戦場を裏で演出プロデュースした立役者だ。

 但しこの舞台装置蜘蛛の糸を仕掛けたのはファウナであるのは言うまでもない。何より総監督と言って差し支えない。

「ファウナ様は気絶こそされておりますが、命に別状べつじょうはございません」

 ラディアンヌは心根で歯痒はがゆく感じつつもレヴァーラへ鄭重ていちょうに返答した。
 よりにもよって自身が敬愛けいあいするファウナがこしらえた安全装置が在ったと言うのに、その当人だけが酷い扱いを受けたと思っているのだ。

「そうか、済まない。──が大義たいぎであったぞラディアンヌ。アノニモにも要らぬ苦労を掛けたな」

 実に意外なるレヴァーラのしおらしさ。
 ラディアンヌとアノニモは、声は出さずに頭だけ下げ返礼と為した。

 ──後は……。

 渇きに乾き切った自分の父を地面に寝かせ、茫然自失ぼうぜんじっしつといった顔で見つめるオルティスタへ視線を向けたが、こればかりは掛ける言葉を持ち得ないと感じた。

 ──しかしあの声は一体何処から飛んでどの様にして我の意識へ届いたのか?

 これは散々ファウナと打ち合わせしていたレヴァーラにしてもアテが判別出来そうにない。恐らくそこで寝ているファウナとて同じであろう。

 ──観ていたかリディーナ、此方は台本シナリオ通りやってのけたぞ。No2ディスラドの方、精々うまく扱ってやれ。

 地元で争っている戦友に想いをせる。ファウナという少女にうまで、自分を導いたのは他ならぬ彼女だ。だから心配などしていない。

 第一このレヴァーラに取って初戦と言えるものが終わった直後だ。人の心配をしている余裕など毛程も残っていない。

 寄ってこの戦いの裏側にて異なる第三者が暗躍あんやくしているのを察知さっち出来なかった。これがやがて戦局を混沌カオスおとしめるのだ。

 ─ 第5部『世界の片隅で起きる戦争に見向きもしない人々』 完 ─
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