【完結】🧚‍♀️カクヨムコン10中間選考突破作品・マーダ『森の護り人・ファウナ』-ローダ第零章-

🗡🐺狼駄(ろうだ)

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第6部 人が創りし者と造られし者

第62話 憤怒の連鎖

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 浮島の扉が開き、レヴァーラ達4人を飲み込んでゆく。これで黒い海の上は一旦落ち着くかに見えた。

「──空ですっ! 人型2機が此方に向けてダイブします!」

 衛兵の1人がけたたましい声を挙げる。一挙に騒然そうぜんと化す基地内部。

「ば、馬鹿な!? 索敵班さくてきはんは何をしていた!」

 地上の綺麗処美女達にかまけて空に対する警戒をおこたるなど、どれだけ言い訳を並べても足りない。

「お、恐らく空挺機くうていき丸ごと光学迷彩こうがくめいさいで姿を消していたものと」

「まるで話にならん! 見えずとも感知するすべがあるではないか!」

 余りにも粗末そまつな報告に普段冷静なレグラズが当たり散らす。相手は飛行機である。視認出来ずとも熱源、音源、探せる方法はいくらでもある。

「──ね、熱源反応……も、申し訳ございません。確かに生物位の痕跡こんせきなら在りました、しかしエンジンの熱が全く……」

「そ、それに音も一切しなかったのです」

 ──此奴等何を言っている? ジェットエンジンの熱反応処か無音だと!? センサー類の故障か?

 何とも情けない声で在りのままを報告してきた兵達。レグラズは自身の聴覚に注意を向けたが、確かに風切り音すら皆無なのだ。

 もっとも何も無い空から突如とつじょ出現した人型2機の対応に負われる喧騒けんそうき消されつつある。

「あ、有り得ん……空挺機のエンジン音、それ処か風切り音さえも?」

 レヴァーラ達に一杯喰わされた。

 そんな屈辱感くつじょくかんすら吹き飛ぶ事実に歯を食い縛るレグラズ。端正たんせいな顔が自分への怒りによって別人の如くゆがむ。

「──う、うまく飛ばせた!」
「──ったく、飛ばせた! ……じゃねぇよ。紙飛行機じゃあるまいし。生きた心地がまるでしねぇ」

 空挺機が一切の音を立てずに飛べていた理由は最早言うまでもないだろう。だが最大の熱源であるジェットエンジンですら浮島の連中が察せなかった訳。これは解説必須であろう。

 まるで子供の様な驚きで『飛ばせた!』とらしくなくはしゃいだのは意外にもNo7フィルニアだ。近頃ただの風使いから本物の大気使いへ格を挙げつつある彼女。

 両翼に在るジェットエンジン。これに一切頼ることなく、翼へ無数に取り付けた反重力装置で浮き上がった機体を起こした風へ載せたのだ。
 よってNo10ジレリノが言う『紙飛行機』とは非常に的を得ている。

 こんな馬鹿げた真似、思いついても普通はやらない。全ての気配を消して敵との距離を詰める飛行機。面白味こそあるが制圧戦に於いて余り意味を為すとは思えない。

 それにだ。
 此処から出撃する2機、隠密おんみつ処か敢えてド派手に往くのだ。

『──アル・ガ・デラロサ、グレイアード出るぞッ!』
『アルケスタ、エル・ガレスタ発進します』

 巨大な……ロボットという子供じみた呼び名を嫌ったデラロサが戦闘BattleClothes。これを略してビクロスと以後呼称することになる。

 そのビクロス2機は光学迷彩なんて外連味けれんみ帯びたものなど使わず、小細工抜きで落下するのだ。空挺機といいビクロスといい、意味不明もはなはだしい。

『急げよマリー、基地の扉が閉じかけている』
『問題在りません』

 エル・ガレスタが右手の甲辺りから太いワイヤーを噴出するとそれを基地内部へ送り込む。ワイヤーの先にアンカーが付いており、あっと言う間に白い機体エル・ガレスタを基地内に滑り込ませた。

 先に出撃したグレイアードが置いてゆかれるかと思いきや、ちゃっかりそのワイヤーを握り、此方も敵地侵入を難なく果たした。

 侵入同時に2機が互いのライフルの銃口を表に居た敵機へ向けて威嚇いかくする。敵の機体の中でビクロスの様な2足歩行は皆無だ。大抵は4足歩行かタイヤである。

 如何せん頭に重心が伸し掛かる巨大人型兵器は、そのバランサー開発に多大な費用と労力が掛かる。加えてそれに見合った能力が得られない。
 兵器は汎用性はんようせいと数がモノを言う。ビクロスは大変稀有けうな存在。元連合軍が潤沢じゅんたくな資金を注いだお遊びというべき代物しろもの

「レヴァーラ殿、これは一体どうした事か? こんな無粋ぶすいな客をまねいた覚えはないのだが」

 早速苦言をていすレグラズ。確かに約束破りが酷過ぎる。

「──これは一種の見世物ショーだ、レグラズ・アルブレン。音無しで出現した飛行機。それに敢えて人型を推し進めた結実をお目に掛けようという次第」

 高身長で冷ややかな見下しを突き付けるレグラズに全くおくせず、恍惚こうこつの笑みで応えるレヴァーラである。

「私達に御支援を頂ければこの2機の技術開発位、惜しみなく提供致しましょう」

 続けて知れ者顔で魔法少女ファウナが告げる親切。さりとてこれは挑発行為だ。『私達はそちらよりもはるかに優れた力の持ち合わせが在る』要はそういう事だ。

 音もなく迫り来る飛行機を披露ひろうしたかと思えば、人型兵器という押し付けプロパガンダ。話し合いと言いながらハナから負ける気なぞ微塵みじんもないのだ。

「──此処はにぎやか過ぎる。私の部屋で応対する」

 腸煮はらわたにえくりかえる思いのレグラズ。精一杯の冷静をよそおう。その青づくめの格好の様に。

 レヴァーラ達が案内されたこの部屋だけ、如何にも応接室といった体で出迎える。4人が座るには持て余し気味のソファーに大理石のテーブル。

 とても優雅だが言い方を変えれば19世紀の様な古めかしさも感じさせた。ヨーロッパの貴族階級にあこがれたチープさも同居している。

 うながされる前にソファーへ腰を下ろしたレヴァーラ。友人の家に遊びに来た様な無遠慮。やがてメイドが珈琲と茶菓子を運びにやって来た。

 ──このメイド、ア・ラバ商会の人質かしら?

 そんな些細ささいなことをファウナはふと思った。

「──で、話というのは?」

 レグラズは独り立ち尽くしたまま話を始めようとする。しかも窓の外を眺めてながらだ。外で手ぐすね引いていそうな人型兵器が気掛かりという訳だが横柄な態度であるには違いない。

「ア・ラバ商会……何故あのような取るに足らない者達に嫌がらせをされるのですか?」

「取るに足らない? ──お嬢さん、アレが分けへだてなく武器等を密売しているのを知った上での発言かな?」

 今回の首謀者しゅぼうしゃであるレヴァーラの代わりにファウナが口火を切り出す。『取るに足らない』を復唱するレグラズの声色が上擦うわずる。

「あのやからは正に死の商人。ま、この辺の小さな客相手にしている分は大目にみた。──が、そうもゆかなくなった。君達にも責任の一端いったんが在る」

 嫌味の深い言い方をする。この男、兎に角とにかくマウントを取りたいのは理解出来る。けれど口調が刺々とげとげしいので聞き手をかえってを不快にさせる。

踊り子レヴァーラの力を継いだ血統達ヴァロウズが世界を混乱におとしめたと?」

 淡々たんたんと判り切った事を返すファウナ。此方の口調は終始おだやか、これはこれでレグラズをあお一因いちいんと為りうる。

「そういう事だ。我々とてこの場限りの守りに従事する分には問題なかった。だがあれ程派手にやられては各々を守るだけでは往かなくなった。寄ってア・ラバ商会も無視出来ない存在と化した」

 レグラズは正直かなりイラついている。判り切った事を何度も言わされている気分なのだ。これでは建設的な話し合いなど出来る訳がないと感じた。
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