【完結】🧚‍♀️カクヨムコン10中間選考突破作品・マーダ『森の護り人・ファウナ』-ローダ第零章-

🗡🐺狼駄(ろうだ)

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第6部 人が創りし者と造られし者

第63話 復活の炎舞

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 ラディアンヌ。本名『ラディアンヌ・マゼダリッサ』

 ファウナ・デル・フォレスタの護衛兼一番近くで幼い頃から御世話をしていた付き人。護衛としての彼女は武闘家として右に出る者がいない優秀なる人材だ。

一子相伝いっしそうでん御業みわざ』と自ら称する呼吸術が不随ふずいしている。光線銃ビームライフルで撃たれた腕の出血を止め、自分の体重を綿毛の如く軽くして敵の攻撃をなしたりも出来る。

 その不可思議ぶりならファウナの魔法や、同じ護衛のオルティスタの炎舞えんぶにも匹敵ひってきする。レヴァーラから人工的な力を受けた連中No有りとは異なる自然体ナチュラリスト

 ラディアンヌが何かに気付いた。此方を向かず話を続けるレグラズを良い事に、ひっそりファウナに筆談で意志を伝える。

『──ア・ラバ商会の方々らしきうかがった人数とほぼ一致します』

 とは何とも奇怪きっかいな表現だ。ファウナはその吉報きっぽうを心待ちにしていた。相手に悟られぬ様、ラディアンヌの右手を優しくフワリと握る。了解の合図だ。

「──ではア・ラバ商会の人質達を解放しては頂けないという事でしょうか?」

 目的はこれでなかば達せられた。それにも関わらず切実せつじつな声でファウナがレグラズに語り掛ける。

「当然だ。貴様ら金と技術はあるが人と設備が不足している。大方そんな理由で此方に出向いたのだろうが残念……アテが外れたな」

 苛立いらだちが頂点に達する寸前でこそあったが、この小賢こざかしい少女にようやく一太刀一言浴びせられた言い返せた。これでわずかばかり気の晴れたかに思えたレグラズである。

「──レグラズ・アルブレン。では交渉決裂だな。此処から好きにやらせて貰うッ!」

 不意に語り手がレヴァーラに転じる。スクッと立ち上がり、冷たく言い放つ宣戦布告。ファウナ最後の一言は懇願こんがんではなく確認であった。

「──『 森の束縛フォレアビッツ』」

「なっ、何だこのツタは!?」

 ヴァロウズのNo4を縛り上げたツタが木製の窓枠部分から伸び、あっという間にレグラズを雁字搦がんじがらめに吊し上げた。

 あの神聖術士パルメラすら切れなかったツタである。一介いっかいの軍師にどうにか出来るものではない。

「わ、私に手を出せば人質の命は……!」

 最早こんな無能をさらす一言に頼るしかないレグラズ。しかし既に手遅れ、この場に居た道着姿の女ラディアンヌが行方をくらましているのに気付く。

 ──まさか!? 地下3階の牢屋ろうや迄走るなどと?

 ドガッ! ドガドガッ!!

 しかし駆けるまでもなかった──。

 激しい打撃音と共に床が打ち抜かれてゆくのがレグラズにも容易よういに想像出来た。既に道着の女ラディアンヌが牢屋の門番まで辿り着き、それらを打ち倒したに相違そういあるまい。

「デラロサさん、右斜め上の──」

『──あの不細工なアンテナだなァッ! 御嬢ファウナッ!』

 次はAI兵達をコントロールしている要石と言うべきアンテナの排除だ。ファウナが中途まで言い掛けた台詞を勝手に読み解いたアル・ガ・デラロサ。頭部20mmバルカンでそれをまたたく間にはちとした。

『──おっと、迂闊うかつに動かない事だ。生身で銃身コレの弾を受けたら肉片1つ残りはしない』

 外に配備してある4足歩行の兵器に乗り込もうとした兵士へ40mm口径の機銃を向けてマリアンダがおどしに掛かる。拡声器スピーカーで拡大された声だけで敵を威嚇いかくするに充分過ぎる。

 さらに駄目押しが続く。
 人質を風の如く解放したラディアンヌが表に現れ、残兵をジャブ一つで叩き伏せて往く。そして敵から強奪ごうだつしたアーミーナイフを2本、レグラズの私室に投げ込んだ。

 それらがオルティスタの足元の床へ突き刺さる。無論、ワザとだ。

 ──ラディ? ……これは俺への当てつけか?

 やはり戦士としての目が死んでる彼女。そんな相手に『武器を取れ』という素手の戦士からのあおり。

「貴女の炎舞えんぶ得物えもの何か選ばないのでしょうっ! ファウナ様にやとわれた護衛っ! ならばその矜持正義位、つらぬきなさいッ!」

 拡声器を使っているビクロスファイター2人に負けぬおとらぬ勢いのある声。部屋の硝子がらすを震わせる程だ。

 ファウナ達の居る部屋に次の増援が向かっているのだ。雇い主に迫る危機。今武器を取らねばただ飯喰らいと成り果てるのだ。しかもファウナとレヴァーラは得物が無い。

 せま入口だけに終らず、廊下ろうかに面した窓を蹴破けやぶり敵兵共がいて出て来る。恐らくこういう事態も想定した上での部屋の作りなのだろう。

 一斉に襲い掛かる敵兵力。例え雑兵ぞうひょうと言えど本気を出さねば雇い主達を守れやしない。「チィッ!」と舌打ちした後、床に刺さった2本を抜いた。選択肢せんたくしなど在りはしない。

「やるしかねぇってんだろッ! 炎舞『火焔ひえん』!!」

 真っ赤にたぎる両手のナイフで次から次へと火のを描き飛ばしてゆくオルティスタ。四方八方からせまる敵を相手にするには実にかなったやり方。

 父であり剣の師匠である焔聖えんびが得意とした神へ奉納ほうのうする舞。これを本気で飛ばして相手を火達磨ひだるまにする。

「──『陽炎かげろう』!」

 餌食えじきと化した死体すら乗り越え、迫り来る新手に一転。火焔ひえんを花火の如く、カッと輝かせ完璧に視界をうばい去る。
 敵兵達に取っての陽炎と化したオルティスタ。彼女自身の情け容赦ようしゃなき剣舞けんぶが血の雨を降らせるのだ。

 外から見ているだけでもその悲惨ひさんぶりは容易よういに伝わる。透明だった窓が一瞬にして赤一色と化したからだ。
 成り行きとはいえ本気を出した炎舞のにない手。そこいらの兵士なぞ雑草の様に無抵抗で狩られていった。

「流石私の。身体さえ動かせば何とでもなるものです」

 敵を笑顔で撲殺ぼくさつしながら、金髪翠眼すいがんの女戦士が喜びをあらわにした。

『──え、えげつねぇ……。お前等を味方にして心底良かったと思うぜ』

 ──それにこれは完全にだな……。裸の王将だけでは最早どうにもならん。

 デラロサは完全敗北した連合軍大尉時代の屈辱くつじょくに想いをせる。そして敵の司令官が当時の自分以上の敗北感に打ちのめされていると思うと少しあわれみすら覚えた。

「──クッ!? き、貴様等最初ハナから交渉する気などなかったのだな!」

 冷静なレグラズ・アルブレンがつばを吐く。実にていの良い面汚つらよごしにされたと知る。武器を捨てさせたのに、人型兵器の侵入を易々やすやすと受入れてしまった。

 彼女等は最初から軍の爪弾つまはじき者など蹴散けちらせる事を世間に判らせる演出を整えていた。
 そして欲しいものはア・ラバ商会に売る厚い恩。さらにこの浮島基地施設そのもの。邪魔な兵士はすべからずこれを掃討そうとうする。

 ただ天井に浮島側最後の望みがぶら下がっているのをレグラズは知っている。敵兵は扉や窓からだけではなかった。天井にある隠し扉。此処に狙撃班そげきはん強襲班きょうしゅうはん残留ざんりゅうしている。

 ──逆転劇と思い上がってなどいやしない。さりとて一縷いちる爪痕つめあと位残させて頂く!

「──『流転アルディビラ』」

「ウグッ!?」
「ば、馬鹿なッ!?」

 ファウナが静かに告げる。天井から狙撃した連中が自らの弾で撃ち抜かれて血を垂れ流す。

 ──馬鹿な人達、2度も同じ手に引っ掛かるなんて……ファウナの冷たき憐みである。

「──な、ならば直接ッ!」

「──『森の刃ラデスタ』」

 最早我慢がまんならんとばかりに隠し扉から出現した兵士達。全く視線を介せずファウナがつぶやく。とても魔術のたぐいとは思えぬ程、まるで力がこもっていない。

 レグラズは目前に絶望を見た。
 自分の兵達が刃物と化した無数の木の葉で斬りきざまれるその様を。森の刃ラデスタ森の女ファウナ・神候補生デル・フォレスタに取っての低級魔法。

 レグラズも何となくそれはさっした。だからこそその理不尽極まりない圧倒力に絶望したのだ。
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