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第6部 人が創りし者と造られし者
第64話 不発弾の閃光
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余りの戦力差に絶望する浮島の主、レグラズ・アルブレン。
けれども味方の兵がひっきりなしに押し寄せて来る。外は敵のビクロスとやらに牛耳られたし、何しろ此処は自分と敵の親玉が未だやり合う最前線。
無駄だから敵前逃亡?
そんな思考、21世紀最大の戦火を潜り抜けた連中には在り得ないのだ。
それでも独り気を吐くオルティスタのダガー2刀を止める術を誰も知らない。多勢に無勢とは無縁の世界線。滾る刃が黄泉へ送って御丁寧に火葬まで面倒を見るのだ。
そんな火祭りの主催と化したオルティスタだが、服装は以前とまるで異なっていた。
くノ一の様な姿ではなく、緑のダルっとしたパーカーに揃い色のキャミソールが胸元を大胆に開いている。さらにホットパンツという、普通に都会を流していそうな良い女の出で立ち。
キチンと髪の手入れをしてる妹分と異なり肩までだった金髪も少々伸びて乱れている。
──それがどうだ。
戦いの野性を取り戻した彼女が短いアサルトナイフ2本を振るうその様、無駄のない戦闘の玄人ぶりをかえって引き立たせているではないか。
伸びた髪が自由に振る舞い、男勝りな女をより際立たせる。相手が銃だろうが長剣だろうがお構い無しに蹴散らす様。シチリアの女マフィアを彷彿させる。
──短い2刀……初めのうちは物足りんと思っていたが、これはこれで組み易いな。
オルティスタ当人もすっかりその気が始まっていた。偶然の産物が今後、板に付きそうな流れが来ている。
「──『閃光』……フフッ、我らしくなく血が滾って来たわ」
戦うつもりなど微塵もなかったレヴァーラが此処で横槍を入れる。無数とはいえただの雑兵相手に手出し無用と思っていた。オルティスタの獅子奮迅ぶりに火を点けられた。
「──え、いやアンタ武器が……」
「武器ぃ? それなら踊り子の体幹を活かしたコレだよ」
争いながら驚くオルティスタを他所に置き、レヴァーラが兵士相手に踊り始める。回し蹴りからの裏拳。例の緑の輝きがこの舞踊をより美麗と為す。
「──こ、これは……な、何と美しい」
味方の兵達が無様に殺られる様を観ながらレグラズ・アルブレンは魅了に堕ちた。特にレヴァーラの死の舞、まるで映画の殺陣の如き滑らかさだ。
──嗚呼……自分もあんな風に動けたら。沸々と湧き上がるその欲望。
「……エン…ツォ」
憧れから吹き出したレグラズの何気ない呟き。この一言以降、舞台がひっくり返る。レグラズの全身から蒼き輝きが一挙に噴出した。
細かった筈の目がグワッと剥き出しと化す。瞳の白すら青へと染まった。雁字搦めにしていた森の束縛を無造作に引き千切る。
「「──なっ!?」」
「何事だアレは!?」
ファウナ、オルティスタ。そして真似された体のレヴァーラが一番動揺をきたす。
無理もない。レグラズとはただの男。何よりリディーナお手製の戦闘服を着装していない。
閃光の発動条件を何一つして満たしてないのだ。驚くなと言う方が無理な話であろう。
「ウガァァッ!!」
レグラズがホルスターから2丁同時に自動小銃を抜き、それを敵味方関係なく全て撃ち尽くす。弾倉を装填し直すかと思いきや、何と小銃の角で手近な兵の脳天を殴り陥没させた。
──此奴、自我を失っている!?
リディーナやレヴァーラの扱う閃光とは様相がまるで異なる。憤怒の形相で暴れ狂う狂戦士と化したレグラズ。冷静な彼はもう何処にもいない。
「──ファウナッ!」
「……」
レヴァーラの呼び掛けに首を横に振るだけのファウナである。森の束縛も流転も術者の精神力が相手を凌駕する場合のみ有効となる術式。
暴走したレグラズにファウナは直感で結論を出した。──とても届くものではない……と。
レグラズの暴走ぶりが止まらない。
殺した味方のマシンガンを奪い、これまた2丁を構えて生きた砲台と化す。そんな荒くれ弾に当たる愚を犯すことはないが、止めようにも近寄り難い。
彼の肉体が限界を迎える時間切れを待つしかないのか?
「──『重力解放』」
此処でファウナが空を飛ぶ為の呪文を唱えた。だが狭い部屋で宙に浮いて何とするのか?
「ガッ!?」
何と此処で宙に浮いてゆくのは狂戦士化したレグラズであった。これなら精神力の優位性が不要だ。宙で水に溺れたかの様に足掻くレグラズ。
そのまま天井に届くが駄々っ子の如く暴れ散らすしか能がない。何しろ判断力を失っているのだ。どうすれば脱せられるか、考える行為が出来る訳ない。
──巧い!
──これで後は残兵を狩るのみ!
魔法少女のファインプレイを心で称賛し、再び雑兵狩りに切り替えるオルティスタとレヴァーラ。これにて完膚なきまで勝敗は決した。
全身の筋肉繊維と関節を隈なく限界突破させてしまったレグラズは、息こそあれど動けなくなった。そのまま気を失い魔法も切れて床にへばり付く。
残兵の首級を全て奪取する勢いのオルティスタとレヴァーラであったが、ファウナの蜘蛛の糸によってあえなく拘束され捕虜と化した。
レグラズの暴走以外何もかもが最年少、ファウナ・デル・フォレスタの策略通りに事が運んだ。
大事な使用人兼娘の様な存在である連中を解放して貰ったア・ラバ商会の女将。アル・ガ・デラロサの雇い主、レヴァーラ・ガン・イルッゾに揺ぎ無い契約を誓った。
加えて西欧である本拠地とアジア・ロシアを結ぶ重要拠点である浮島を手中に収めた。
ただ一つの不確定要素。
レグラズ・アルブレンという危険な香り漂う不発弾。これはリディーナの出番、彼の解析は最重要事項となった。
彼の力の根源はファウナ等と同じ自然体なのか? 或いは未知なる領域なのか? ──そもそも自然体すら解明出来ていないのだ。
◇◇
「──ふぅ……」
誰もが床に付いているであろう深夜2時。独りファウナが全てを晒して、竜の口が注ぐ湯に身体を預けている。
初めての裸の付き合い以来、彼女は誰も居ない時間帯を見計らって湯に疲労を委ねるのだ。未だあの羞恥を払拭出来ずにいる。一応タオルを取る礼儀だけは弁えた。
今回の浮島奪取。
オルティスタの再覚醒こそ予定通りに事を為したが、あの男の暴走だけは想定外であった。
「何の源泉も無しに発揮出来る力」
風呂に浸かりながら源泉などと無駄口を宣うファウナ。
頭を浴槽の淵に預け全身の力を抜いて湯に肢体を浮かせている。『人類の力には紀元前からの歴史が在る』そんな世界の真理すら知り得た風な口を利く彼女にも判らぬ不思議は当然在る。
好奇心──人を成長させる原動力。されど過ぎたる追及は時として不幸を呼び込む。
──ギィ……バタンッ。
「──えっ!? こ、こんな夜更けに誰?」
浴室の扉を開き、勝手に閉じる音が響く。浴室内の空気の流れが変わり、湯気が強制的に動き、ファウナに取っての招かれざる客を呼び込んでゆく。
だらけていた身体を竦め縮こませるファウナであるが、それがかえって湯音を立てて相手に気付かせる要因になるのを忘れている。
「だ、誰だ? そこに居るのは……?」
──え……そ、その声。
相手もあからさまな狼狽え声だ。こんな時間を狙って来たのだ。向こうも独りの心地良さを望んでいた。
「れ、レヴァーラ……」
「ふぁ、ファウナ──か」
心赦す相手だと知る安堵と、それが故の緊張が入り混じる声が同時に発せられた。
けれども味方の兵がひっきりなしに押し寄せて来る。外は敵のビクロスとやらに牛耳られたし、何しろ此処は自分と敵の親玉が未だやり合う最前線。
無駄だから敵前逃亡?
そんな思考、21世紀最大の戦火を潜り抜けた連中には在り得ないのだ。
それでも独り気を吐くオルティスタのダガー2刀を止める術を誰も知らない。多勢に無勢とは無縁の世界線。滾る刃が黄泉へ送って御丁寧に火葬まで面倒を見るのだ。
そんな火祭りの主催と化したオルティスタだが、服装は以前とまるで異なっていた。
くノ一の様な姿ではなく、緑のダルっとしたパーカーに揃い色のキャミソールが胸元を大胆に開いている。さらにホットパンツという、普通に都会を流していそうな良い女の出で立ち。
キチンと髪の手入れをしてる妹分と異なり肩までだった金髪も少々伸びて乱れている。
──それがどうだ。
戦いの野性を取り戻した彼女が短いアサルトナイフ2本を振るうその様、無駄のない戦闘の玄人ぶりをかえって引き立たせているではないか。
伸びた髪が自由に振る舞い、男勝りな女をより際立たせる。相手が銃だろうが長剣だろうがお構い無しに蹴散らす様。シチリアの女マフィアを彷彿させる。
──短い2刀……初めのうちは物足りんと思っていたが、これはこれで組み易いな。
オルティスタ当人もすっかりその気が始まっていた。偶然の産物が今後、板に付きそうな流れが来ている。
「──『閃光』……フフッ、我らしくなく血が滾って来たわ」
戦うつもりなど微塵もなかったレヴァーラが此処で横槍を入れる。無数とはいえただの雑兵相手に手出し無用と思っていた。オルティスタの獅子奮迅ぶりに火を点けられた。
「──え、いやアンタ武器が……」
「武器ぃ? それなら踊り子の体幹を活かしたコレだよ」
争いながら驚くオルティスタを他所に置き、レヴァーラが兵士相手に踊り始める。回し蹴りからの裏拳。例の緑の輝きがこの舞踊をより美麗と為す。
「──こ、これは……な、何と美しい」
味方の兵達が無様に殺られる様を観ながらレグラズ・アルブレンは魅了に堕ちた。特にレヴァーラの死の舞、まるで映画の殺陣の如き滑らかさだ。
──嗚呼……自分もあんな風に動けたら。沸々と湧き上がるその欲望。
「……エン…ツォ」
憧れから吹き出したレグラズの何気ない呟き。この一言以降、舞台がひっくり返る。レグラズの全身から蒼き輝きが一挙に噴出した。
細かった筈の目がグワッと剥き出しと化す。瞳の白すら青へと染まった。雁字搦めにしていた森の束縛を無造作に引き千切る。
「「──なっ!?」」
「何事だアレは!?」
ファウナ、オルティスタ。そして真似された体のレヴァーラが一番動揺をきたす。
無理もない。レグラズとはただの男。何よりリディーナお手製の戦闘服を着装していない。
閃光の発動条件を何一つして満たしてないのだ。驚くなと言う方が無理な話であろう。
「ウガァァッ!!」
レグラズがホルスターから2丁同時に自動小銃を抜き、それを敵味方関係なく全て撃ち尽くす。弾倉を装填し直すかと思いきや、何と小銃の角で手近な兵の脳天を殴り陥没させた。
──此奴、自我を失っている!?
リディーナやレヴァーラの扱う閃光とは様相がまるで異なる。憤怒の形相で暴れ狂う狂戦士と化したレグラズ。冷静な彼はもう何処にもいない。
「──ファウナッ!」
「……」
レヴァーラの呼び掛けに首を横に振るだけのファウナである。森の束縛も流転も術者の精神力が相手を凌駕する場合のみ有効となる術式。
暴走したレグラズにファウナは直感で結論を出した。──とても届くものではない……と。
レグラズの暴走ぶりが止まらない。
殺した味方のマシンガンを奪い、これまた2丁を構えて生きた砲台と化す。そんな荒くれ弾に当たる愚を犯すことはないが、止めようにも近寄り難い。
彼の肉体が限界を迎える時間切れを待つしかないのか?
「──『重力解放』」
此処でファウナが空を飛ぶ為の呪文を唱えた。だが狭い部屋で宙に浮いて何とするのか?
「ガッ!?」
何と此処で宙に浮いてゆくのは狂戦士化したレグラズであった。これなら精神力の優位性が不要だ。宙で水に溺れたかの様に足掻くレグラズ。
そのまま天井に届くが駄々っ子の如く暴れ散らすしか能がない。何しろ判断力を失っているのだ。どうすれば脱せられるか、考える行為が出来る訳ない。
──巧い!
──これで後は残兵を狩るのみ!
魔法少女のファインプレイを心で称賛し、再び雑兵狩りに切り替えるオルティスタとレヴァーラ。これにて完膚なきまで勝敗は決した。
全身の筋肉繊維と関節を隈なく限界突破させてしまったレグラズは、息こそあれど動けなくなった。そのまま気を失い魔法も切れて床にへばり付く。
残兵の首級を全て奪取する勢いのオルティスタとレヴァーラであったが、ファウナの蜘蛛の糸によってあえなく拘束され捕虜と化した。
レグラズの暴走以外何もかもが最年少、ファウナ・デル・フォレスタの策略通りに事が運んだ。
大事な使用人兼娘の様な存在である連中を解放して貰ったア・ラバ商会の女将。アル・ガ・デラロサの雇い主、レヴァーラ・ガン・イルッゾに揺ぎ無い契約を誓った。
加えて西欧である本拠地とアジア・ロシアを結ぶ重要拠点である浮島を手中に収めた。
ただ一つの不確定要素。
レグラズ・アルブレンという危険な香り漂う不発弾。これはリディーナの出番、彼の解析は最重要事項となった。
彼の力の根源はファウナ等と同じ自然体なのか? 或いは未知なる領域なのか? ──そもそも自然体すら解明出来ていないのだ。
◇◇
「──ふぅ……」
誰もが床に付いているであろう深夜2時。独りファウナが全てを晒して、竜の口が注ぐ湯に身体を預けている。
初めての裸の付き合い以来、彼女は誰も居ない時間帯を見計らって湯に疲労を委ねるのだ。未だあの羞恥を払拭出来ずにいる。一応タオルを取る礼儀だけは弁えた。
今回の浮島奪取。
オルティスタの再覚醒こそ予定通りに事を為したが、あの男の暴走だけは想定外であった。
「何の源泉も無しに発揮出来る力」
風呂に浸かりながら源泉などと無駄口を宣うファウナ。
頭を浴槽の淵に預け全身の力を抜いて湯に肢体を浮かせている。『人類の力には紀元前からの歴史が在る』そんな世界の真理すら知り得た風な口を利く彼女にも判らぬ不思議は当然在る。
好奇心──人を成長させる原動力。されど過ぎたる追及は時として不幸を呼び込む。
──ギィ……バタンッ。
「──えっ!? こ、こんな夜更けに誰?」
浴室の扉を開き、勝手に閉じる音が響く。浴室内の空気の流れが変わり、湯気が強制的に動き、ファウナに取っての招かれざる客を呼び込んでゆく。
だらけていた身体を竦め縮こませるファウナであるが、それがかえって湯音を立てて相手に気付かせる要因になるのを忘れている。
「だ、誰だ? そこに居るのは……?」
──え……そ、その声。
相手もあからさまな狼狽え声だ。こんな時間を狙って来たのだ。向こうも独りの心地良さを望んでいた。
「れ、レヴァーラ……」
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