【完結】🧚‍♀️カクヨムコン10中間選考突破作品・マーダ『森の護り人・ファウナ』-ローダ第零章-

🗡🐺狼駄(ろうだ)

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第6部 人が創りし者と造られし者

第64話 不発弾の閃光

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 余りの戦力差に絶望する浮島の主、レグラズ・アルブレン。

 けれども味方の兵がひっきりなしに押し寄せて来る。外は敵のビクロス人型兵器とやらに牛耳ぎゅうじられたし、何しろ此処は自分司令官敵の親玉レヴァーラが未だやり合う最前線。

 無駄だから敵前逃亡? 
 そんな思考、21世紀最大の戦火をくぐり抜けた連中には在り得ないのだ。

 それでも独り気を吐くオルティスタのダガー2刀を止めるすべを誰も知らない。多勢に無勢とは無縁の世界線。たぎる刃が黄泉よみへ送って御丁寧ごていねい火葬かそうまで面倒を見るのだ。

 そんな火祭りの主催しゅさいと化したオルティスタだが、服装は以前とまるで異なっていた。

 くノ一の様な姿ではなく、緑のダルっとしたパーカーにそろい色のキャミソールが胸元を大胆に開いている。さらにホットパンツという、普通に都会を流していそうな良い女ので立ち。

 キチンと髪の手入れをしてる妹分ラディと異なり肩までだった金髪も少々伸びて乱れている。

 ──それがどうだ。
 戦いの野性を取り戻した彼女が短いアサルトナイフ2本を振るうその様、無駄のない戦闘の玄人ぶりをかえって引き立たせているではないか。

 伸びた髪が自由に振る舞い、男勝りな女をより際立きわだたせる。相手が銃だろうが長剣だろうがお構い無しに蹴散けちらすさま。シチリアの女マフィアを彷彿ほうふつさせる。

 ──短い2刀……初めのうちは物足りんと思っていたが、これはこれで組みやすいな。

 オルティスタ当人もすっかりその気が始まっていた。偶然の産物さんぶつが今後、板に付きそうな流れが来ている。

「──『閃光エンツォ』……フフッ、我らしくなく血がたぎって来たわ」

 戦うつもりなど微塵みじんもなかったレヴァーラが此処で横槍を入れる。無数とはいえただの雑兵ぞうひょう相手に手出し無用と思っていた。オルティスタの獅子奮迅ししふんじんぶりに火をけられた。

「──え、いやアンタ武器が……」
「武器ぃ? それなら踊り子の体幹たいかんを活かしたコレ全身だよ」

 争いながら驚くオルティスタを他所よそに置き、レヴァーラが兵士相手に踊り始める。回し蹴りからの裏拳。例の緑の輝きがこの舞踊ぶようをより美麗びれいと為す。

「──こ、これは……な、何と美しい」

 味方の兵達が無様ぶざまに殺られる様をながらレグラズ・アルブレンは魅了にちた。特にレヴァーラの死の舞、まるで映画の殺陣たての如きなめらかさだ。

 ──嗚呼……自分もあんな風に動け戦えたら。沸々ふつふつと湧き上がるその欲望。

「……エン…ツォEn…zo

 あこがれから吹き出したレグラズの何気ないつぶやき。この一言以降、舞台戦場がひっくり返る。レグラズの全身から蒼き輝きが一挙に噴出ふんしゅつした。

 細かった筈の目がグワッとき出しと化す。瞳の白すら青へと染まった。雁字搦めがんじがらにしていた森の束縛フォレアビッツを無造作に引き千切ちぎる。

「「──なっ!?」」
「何事だアレは!?」

 ファウナ、オルティスタ。そして真似された体のレヴァーラが一番動揺どうようをきたす。
 無理もない。レグラズとはただの男。何よりリディーナお手製の戦闘服バトルスーツ着装ちゃくそうしていない。

 閃光エンツォの発動条件を何一つして満たしてないのだ。驚くなと言う方が無理な話であろう。

「ウガァァッ!!」

 レグラズがホルスターから2丁同時に自動小銃を抜き、それを敵味方関係なく全て撃ち尽くす。弾倉カートリッジ装填そうてんし直すかと思いきや、何と小銃の角で手近な兵の脳天を殴り陥没かんぼつさせた。

 ──此奴、自我じがを失っている!?

 リディーナやレヴァーラの扱う閃光エンツォとは様相ようそうがまるで異なる。憤怒ふんぬ形相ぎょうそうで暴れ狂う狂戦士バーサーカーと化したレグラズ。冷静クレバーな彼はもう何処にもいない。

「──ファウナッ!」
「……」

 レヴァーラの呼び掛けに首を横に振るだけのファウナである。森の束縛フォレアビッツ流転アルディビラも術者の精神力が相手を凌駕りょうがする場合のみ有効となる術式。
 暴走したレグラズにファウナは直感で結論を出した。──とても届くものではない……と。

 レグラズの暴走ぶりが止まらない。

 殺した味方のマシンガンをうばい、これまた2丁を構えて生きた砲台と化す。そんな荒くれ弾に当たるを犯すことはないが、止めようにも近寄り難い。

 彼の肉体が限界を迎える時間切れを待つしかないのか?

「──『重力解放ヴァレディステラ』」

 此処でファウナが空を飛ぶ為の呪文スペルを唱えた。だがせまい部屋で宙に浮いて何とするのか?

「ガッ!?」

 何と此処で宙に浮いてゆくのは狂戦士化したレグラズであった。これなら精神力の優位性が不要だ。宙で水におぼれたかの様に足掻あがくレグラズ。
 そのまま天井に届くが駄々だだっ子の如く暴れ散らすしか能がない。何しろ判断力自我を失っているのだ。どうすれば脱せられるか、考える行為が出来る訳ない。

 ──うまい! 
 ──これで後は残兵を狩るのみ!

 魔法少女ファウナのファインプレイを心で称賛しょうさんし、再び雑兵狩りに切り替えるオルティスタとレヴァーラ。これにて完膚かんぷなきまで勝敗は決した。

 全身の筋肉繊維きんにくせんいと関節をくまなく限界突破させてしまったレグラズは、息こそあれど動けなくなった。そのまま気を失い魔法も切れて床にへばり付く。

 残兵の首級くびを全て奪取だっしゅする勢いのオルティスタとレヴァーラであったが、ファウナの蜘蛛の糸フィディラガノによってあえなく拘束こうそくされ捕虜ほりょと化した。

 レグラズの暴走以外何もかもが最年少、ファウナ・デル・フォレスタの策略さくりゃく通りに事が運んだ。

 大事な使用人兼娘の様な存在である連中を解放して貰ったア・ラバ商会の女将おかみ。アル・ガ・デラロサの雇い主、レヴァーラ・ガン・イルッゾに揺ぎ無い契約を誓った。
 加えて西欧せいおうである本拠地とアジア・ロシアを結ぶ重要拠点である浮島を手中に収めた。

 ただ一つの不確定要素。
 レグラズ・アルブレンという危険な香りただよう不発弾。これはリディーナの出番、彼の解析かいせきは最重要事項となった。

 彼の力の根源こんげんはファウナ等と同じ自然体ナチュラリストなのか? あるいは未知なる領域なのか? ──そもそも自然体ナチュラリストすら解明出来ていないのだ。

 ◇◇

「──ふぅ……」

 誰もが床に付いているであろう深夜2時。独りファウナが全てをさらして、竜の口が注ぐ湯に身体をあずけている。

 初めての裸の付き合い以来、彼女は誰も居ない時間帯を見計らって湯に疲労をゆだねるのだ。未だあの羞恥しゅうち払拭ふっしょく出来ずにいる。一応タオルを取る礼儀マナーだけはわきまえた。

 今回の浮島奪取だっしゅ
 オルティスタの再覚醒こそに事を為したが、あの男レグラズ・の暴走アルブレンだけは想定外であった。

「何のも無しに発揮出来る力」

 風呂に浸かりながら源泉などと無駄口をのたまうファウナ。 
 頭を浴槽のふちに預け全身の力を抜いて湯に肢体したいを浮かせている。『人類の力には紀元前からの歴史が在る』そんな世界の真理すら知り得た風な口をく彼女にも判らぬ不思議は当然在る。

 好奇心──人を成長させる原動力。されど過ぎたる追及は時として不幸を呼び込む。

 ──ギィ……バタンッ。

「──えっ!? こ、こんな夜更よふけに誰?」

 浴室の扉を開き、勝手に閉じる音が響く。浴室内の空気の流れが変わり、湯気が強制的に動き、ファウナに取ってのまねかれざる客を呼び込んでゆく。

 だらけていた身体をすくちぢこませるファウナであるが、それがかえって湯音を立てて相手に気付かせる要因になるのを忘れている。

「だ、誰だ? そこに居るのは……?」

 ──え……そ、その声。

 相手もあからさまな狼狽うろたえ声だ。こんな時間を狙って来たのだ。向こうも独りの心地良さを望んでいた。

「れ、レヴァーラ……」
「ふぁ、ファウナ──か」

 心赦す相手だと知る安堵あんどと、それが故の緊張が入り混じる声が同時に発せられた。
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