【完結】🧚‍♀️カクヨムコン10中間選考突破作品・マーダ『森の護り人・ファウナ』-ローダ第零章-

🗡🐺狼駄(ろうだ)

文字の大きさ
73 / 234
第6部 人が創りし者と造られし者

第65話 知り得てしまった闇深い本質(サガ)

しおりを挟む
 深夜2時、静まり返った大浴場。

 自分の裸を見られるのをこばむべく、こんな夜更よふけを敢えて狙い、湯船に若い身体を浮かべていたファウナ。ファウナと同様の理由で少し後から浴室に入ったレヴァーラ。

 何れも他の者達と鉢合はちあわせになることを思えば正直ホッとしている。けれども互いの愛が深いゆえ気恥きはずかしさとて当然在るのだ。

 レヴァーラが取り合えずシャワーで身体を洗い始める。間仕切まじきりはないので、ファウナは出来る限りシャワーの流れを見ない様、その蒼い目をそむけている。

「──わ、私入ってると落ち着かないよね? さ、先上がろっかな?」

 ファウナの声がいつもに増して上擦うわずっている。近頃互いの呼び捨てにもだいぶ慣れたとはいえ、これは余りに勝手が異なる。正直ファウナもつい今しがた湯船につかかったばかりだ。

 ……とはいえこの後ゆるりと二人だけの濃密のうみつな時間を裸同士で過ごす? それは17の少女の内に有る羞恥しゅうちわくはるかに越える。

「……ま、待っていてはくれまいか? べ、別にしやしない」

 シャワーの水飛沫みずしぶき音にまぎれながらも、どうにか自身の希望を伝えたレヴァーラ。実にたどたどしい台詞。
 普段の高飛車たかびしゃとはかけ離れた感じが、かえってファウナの緊張ドキドキ誘発ゆうはつする。

「は? ──は、は……い」

 息切れしてるのではないかと思える程、弱々しいファウナの返答。それきり黙り込みうつむき加減で波打つ湯だけに注力し続ける。
 湯船の波が自分の脈拍みゃくはく呼応こおうしてるのではないか? 彼女らしくもない愚考ぐこう去来きょらいする。

 キュッ。

 シャワーを止めた音。

 身体を洗い終えたレヴァーラが此方へ向かって来る。濡れた足裏で床の大理石を踏む度、音が当然大きくなる。いくら大浴場と言えど、近寄るのにそれ程時間は掛からない。

 ──や、ヤバいかも……心臓止まりそ。

 実際には普段よりやかましく動き、大量の血液を循環じゅんかんしている。
 しかしこれ以上の負荷を掛けると本当に止まるのでは? そんな在り得ない心配をしている。敬愛する踊り子の前でファウナはただの少女と化す。

 直ぐにファウナの真後ろまで近づいたレヴァーラ。「入るぞ」と要らんマウントを取りつつ、トプンと静かに白い足先から入れて往く。

 ファウナとレヴァーラ。

 以前リディーナが自分とレヴァーラだけのホットラインを勝手に切られる時間が増したという痴話話ちわばなしをした。

 その空白の時間──最年少の魔法少女と現人神あらひとがみと化した、倍以上歳の離れてると思しき二人の距離は果たしてちぢまったのか? 
 実の処そうでもない。ただ二人きりで他愛たあいない会話を楽しんでただけである。

 寄って互いが一糸まとわずの超接近。これ程刺激的なのは、あの酷く長かったキス以来の出来事なのだ。

「──済まぬファウナよ。独りの処を邪魔しているな」

 謝る割に早速愛すべき少女の方へ視界を向けるレヴァーラである。その目がほくそ笑んでいる。そして無造作むぞうささらす大きな胸が新たな波打ちぎわこしらえた。

「そそそそんなの、き、気にしないでぇ……」

 ファウナは未だそっぽを向いたまま裸体像の如く硬直するだけ。

「フフッ……どもりが酷過ぎやしないか? ──しまった、お前に背中を流して貰えば良かった。自分でやるにはどうにも上手くゆかぬからな」

 緩み切った顔でパチンと両手を叩き、さも良き事を思い付いたといった仕草だ。

「は、はぁっ!? せ、背中を流すぅ……」

 目がわったラディアンヌと『洗ったげるわ』を有言実行したディーネ。この2人に為された一部始終を思い出したファウナ。

 この場合、立場こそ逆だが敬愛なるレヴァーラの背中を──妄想もうそうだけでクラクラしてきた。

「フフッ……やはりファウナはい奴だな。──冗談はさておき、オルティスタの復帰祝いが遅れた。浮島の際、本当に世話になった」

「そ、そんなの……いよいよ気にしないで良い……よ」

 ファウナの肩に自分の首を乗せ耳元で語るレヴァーラ。
 話題にはやらしさがまるで無いのに、この密着度合い。気が変になりそうだ。先程洗ったばかりの肌からな汗をきやしないかと狼狽うろえてしまう。

「いいや気になるのだ。ファウナ・デル・フォレスタの魔導書。オルティスタの炎舞えんぶ。ラディアンヌの呼吸術……」

 レヴァーラはいたって真面目な話を続ける。大人女性の余裕を見せつけて……いるかと思いきや実の処そうでもない。

 この成熟した大人女性の身体。されど経験値ほぼゼロという男子マーダが内にひそんでいる。女の魅了みりょうを当て付ける処か、扱い自体を知り得ない。

「──加えてマリアンダ・アルケスタとレグラズ・アルブレンの覚醒かくせい……。アレもお前達と同じ自然体ナチュラリストが成し得る事か?」

 前半の質問なら一応の解答が有るファウナであるが、後半に関しては首を横に振るしかないのだ。けれども前半側は誠意を以って応じるべきだと思っている。

「私の目、相手の奥底を勝手に見抜いてしまう。──だから私達の事も少しは話さないと不公平よね」

 ファウナは少し長い話になると決めつけ、両脚だけ湯に浸かると腰を湯船のはしに下ろした。そのけがれを知らない膝の上。レヴァーラがその身をあずける。

 ファウナの足元で力を抜いているレヴァーラという女は虚構きょこうの存在。
 彼女を支配しているのはかつてサイガン・ロットレンという初老の男が完成させた人工知能に自由意志を与えた者が掌握しょうあくしている。

 初期のマーダは22世紀の技術ならばさも当たり前の存在であるアンドロイドへ、その人工意識を載せた存在。

 マーダの意識を形創る最高技術の人工知能──。創り手である老人は人工とこれを呼称こしょうし、ナノマシンに組み込んだ上でマーダ自身の知性と定義づけた。

 そして初期のマーダファーストロットは数多くの人間達に非人道的な実験を重ね続けた。『これは人類の進化の過程だ』となかば本気、半ばうそぶきながらだ。

 自分の意志の象徴であるナノマシン。これらそれぞれが自由意志を持っている。それを生きた人間実験体の内へと流し込んだ。

 ──多数の意志が既に自己を秘めた人間の中をいずり回ると何が起きるか?

 本来、1人の器に2つ以上の意志は同居出来ない。それは当然の帰結きけつと言える。
 今こうしてファウナとレヴァーラが独りに溶け合うのではないか? それ程近い間柄あいだがらですら侵略しんりゃく出来ぬ壁がすべからず存在するものだ。

 マーダの実験とはこの壁を壊した狂気の先に君臨くんりんする。

 大概たいがいの実験は失敗と化した。人とナノマシン達による器の取り合い。何れも大いに傷つきすさまじい副作用で廃人はいじんと化すのだ。

 されどまれに共存し合い新たな道を模索もさくする結果成功例が生まれた。

 俺は…私は…ああなりたい進化を遂げたい──その強き想いを秘めた連中の結実こそ成功例の10人ヴァロウズなのだ。

 さらにもう一人、大変稀有けうな存在が誕生した。これが当時のマーダに取って『救いの手』と言ってしかるべき存在。今のレヴァーラ・ガン・イルッゾその人である。

 マーダはサイガンの弟子にふんしたリディーナと団結し、レヴァーラのからだに自分の意志を植え付ける事に成功した。以来リディーナは保護者づらしてるのである。

 ファウナ・デル・フォレスタは、その蒼き瞳の内にこれ程迄の情報を内包ないほうしつつ、愛故あいゆえに受け入れている。『人として御世辞おせじにもめられたやり方じゃない』これがあの言葉の真意だ。

 他人に知られてならぬ秘中の秘というべき話。これを自分の意志と無関係とはいえ、知り得てしまったファウナ・デル・フォレスタ。

 だから彼女の方からも自分の身の上話をする義務が生じていると思い込んでいる。『このままでは不公平』とはそうした意味だ。
しおりを挟む
感想 1

あなたにおすすめの小説

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

チート無しっ!?黒髪の少女の異世界冒険記

ノン・タロー
ファンタジー
 ごく普通の女子高生である「武久 佳奈」は、通学途中に突然異世界へと飛ばされてしまう。  これは何の特殊な能力もチートなスキルも持たない、ただごく普通の女子高生が、自力で会得した魔法やスキルを駆使し、元の世界へと帰る方法を探すべく見ず知らずの異世界で様々な人々や、様々な仲間たちとの出会いと別れを繰り返し、成長していく記録である……。 設定 この世界は人間、エルフ、妖怪、獣人、ドワーフ、魔物等が共存する世界となっています。 その為か男性だけでなく、女性も性に対する抵抗がわりと低くなっております。

帰って来た勇者、現代の世界を引っ掻きまわす

黄昏人
ファンタジー
ハヤトは15歳、中学3年生の時に異世界に召喚され、7年の苦労の後、22歳にて魔族と魔王を滅ぼして日本に帰還した。帰還の際には、莫大な財宝を持たされ、さらに身につけた魔法を始めとする能力も保持できたが、マナの濃度の低い地球における能力は限定的なものであった。しかし、それでも圧倒的な体力と戦闘能力、限定的とは言え魔法能力は現代日本を、いや世界を大きく動かすのであった。 4年前に書いたものをリライトして載せてみます。

オッサン齢50過ぎにしてダンジョンデビューする【なろう100万PV、カクヨム20万PV突破】

山親爺大将
ファンタジー
剣崎鉄也、4年前にダンジョンが現れた現代日本で暮らす53歳のおっさんだ。 失われた20年世代で職を転々とし今は介護職に就いている。 そんな彼が交通事故にあった。 ファンタジーの世界ならここで転生出来るのだろうが、現実はそんなに甘く無い。 「どうしたものかな」 入院先の個室のベッドの上で、俺は途方に暮れていた。 今回の事故で腕に怪我をしてしまい、元の仕事には戻れなかった。 たまたま保険で個室代も出るというので個室にしてもらったけど、たいして蓄えもなく、退院したらすぐにでも働かないとならない。 そんな俺は交通事故で死を覚悟した時にひとつ強烈に後悔をした事があった。 『こんな事ならダンジョンに潜っておけばよかった』 である。 50過ぎのオッサンが何を言ってると思うかもしれないが、その年代はちょうど中学生くらいにファンタジーが流行り、高校生くらいにRPGやライトノベルが流行った世代である。 ファンタジー系ヲタクの先駆者のような年代だ。 俺もそちら側の人間だった。 年齢で完全に諦めていたが、今回のことで自分がどれくらい未練があったか理解した。 「冒険者、いや、探索者っていうんだっけ、やってみるか」 これは体力も衰え、知力も怪しくなってきて、ついでに運にも見放されたオッサンが無い知恵絞ってなんとか探索者としてやっていく物語である。 注意事項 50過ぎのオッサンが子供ほどに歳の離れた女の子に惚れたり、悶々としたりするシーンが出てきます。 あらかじめご了承の上読み進めてください。 注意事項2 作者はメンタル豆腐なので、耐えられないと思った感想の場合はブロック、削除等をして見ないという行動を起こします。お気を悪くする方もおるかと思います。予め謝罪しておきます。 注意事項3 お話と表紙はなんの関係もありません。

悪徳貴族の、イメージ改善、慈善事業

ウィリアム・ブロック
ファンタジー
現代日本から死亡したラスティは貴族に転生する。しかしその世界では貴族はあんまり良く思われていなかった。なのでノブリス・オブリージュを徹底させて、貴族のイメージ改善を目指すのだった。

平凡なサラリーマンが異世界に行ったら魔術師になりました~科学者に投資したら異世界への扉が開発されたので、スローライフを満喫しようと思います~

金色のクレヨン@釣りするWeb作家
ファンタジー
夏井カナタはどこにでもいるような平凡なサラリーマン。 そんな彼が資金援助した研究者が異世界に通じる装置=扉の開発に成功して、援助の見返りとして異世界に行けることになった。 カナタは準備のために会社を辞めて、異世界の言語を学んだりして準備を進める。 やがて、扉を通過して異世界に着いたカナタは魔術学校に興味をもって入学する。 魔術の適性があったカナタはエルフに弟子入りして、魔術師として成長を遂げる。 これは文化も風習も違う異世界で戦ったり、旅をしたりする男の物語。 エルフやドワーフが出てきたり、国同士の争いやモンスターとの戦いがあったりします。 第二章からシリアスな展開、やや残酷な描写が増えていきます。 旅と冒険、バトル、成長などの要素がメインです。 ノベルピア、カクヨム、小説家になろうにも掲載

おじさん、女子高生になる

一宮 沙耶
大衆娯楽
だれからも振り向いてもらえないおじさん。 それが女子高生に向けて若返っていく。 そして政治闘争に巻き込まれていく。 その結末は?

私が王子との結婚式の日に、妹に毒を盛られ、公衆の面前で辱められた。でも今、私は時を戻し、運命を変えに来た。

MayonakaTsuki
恋愛
王子との結婚式の日、私は最も信頼していた人物――自分の妹――に裏切られた。毒を盛られ、公開の場で辱められ、未来の王に拒絶され、私の人生は血と侮辱の中でそこで終わったかのように思えた。しかし、死が私を迎えたとき、不可能なことが起きた――私は同じ回廊で、祭壇の前で目を覚まし、あらゆる涙、嘘、そして一撃の記憶をそのまま覚えていた。今、二度目のチャンスを得た私は、ただ一つの使命を持つ――真実を突き止め、奪われたものを取り戻し、私を破滅させた者たちにその代償を払わせる。もはや、何も以前のままではない。何も許されない。

処理中です...