【完結】🧚‍♀️カクヨムコン10中間選考突破作品・マーダ『森の護り人・ファウナ』-ローダ第零章-

🗡🐺狼駄(ろうだ)

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第7部 思考を捨てた女

第79話 幸運を巻き込んで回り始めたWheel of Fortune(運命の輪)

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 魔法少女のファウナ・デル・フォレスタ。そして武術家のファウナ・デル・フォレスタ。

 視力の存在する者であるなら、こんな事で迷ったりなどする訳がない。例え声色、脈拍みゃくはく、感じる気配が同調シンクロしていようともだ。

 ヴァロウズのNo5、考えることを望んで捨てた女性。占い師アビニシャン。その望みはかない、代償だいしょうに目を失った。

 彼女の得たもの──それは無心で相手に勝利する事を望めば必ず叶う。そして考えるのを捨てるのと同時に、目よりも相手の本質を見抜ける超感覚を手に入れた。

 深慮しんりょは不要、加えて自分の感覚さえ信じ抜ければそれで良い。──タロットはそれらをおおかくす飾りに過ぎなかった。

 オルティスタ、4度目のカードシャッフル。未だ手に馴染なじんでいる様子がない。むしろ手汗をき続け、おぼつかなくなっている。

 ゴクリッ。

 オルティスタ、そしてアビニシャンの二人が息を飲み、そしておろかにも。確かに勝負事に於いて天運を味方に付けることは重要である。

 しかしそれは充分な準備を終えた者だけが呼び込める強運なのだ。

「──『Magician魔術師』だ。ファウナ・デル・フォレスタ2勝、これで同点イーブンだな」

 取り敢えずの役目を終えたオルティスタ。ようやく彼女の心拍しんぱく息遣いきづかいが落着きを取り戻しつつある。

 ガタッ!

「な、何故!? どうしてぇ!? 私間違いなく目の前のファウナに勝つことを強く望んだ筈なのにィ!!」

 椅子を蹴り飛ばす勢いで立ち上がり頭を抱えたのはアビニシャンだ。在り得ない結果に身悶みもだえしながら叫んでいる。

 SNSで大々的な自分売り込みをしたアビニシャンが世界中にさらされて一挙いっきょRT拡散の嵐が巻き起こっている。

『"JACK" IN LONDON BEING PUSHED BY A WIZARD?』日本語訳で『ロンドンの”JACK”が魔法使いに押されている?』だ。SNSをのぞいている大多数がこの静かで地味な争いを楽天的に観戦していた。

「「やったね! 流石私だわ!」」

 パチンッ!

 此処で2人のファウナがハイタッチを交わした。次の勝負──アビニシャンの動揺どうようが収まらない以上、Magician魔術師を引き当てられる。

 オルティスタの言う通り現状『2勝2敗イーブン
 なれど次もファウナが大アルカナを先に指定出来る権利を有している。寄って勝ったも同然なのだ。

「……な、何でよ。ど、どうしてなのよ。私の能力『Judgement』が負ける筈ないのに」

 あわ両拳りょうこぶしを爪が食い込まんばかりに握り、全身を震わせているアビニシャン。小さなくちびるさえもみしめている。

「目の前に居る貴女が本物のファウナ・デル・フォレスタ! だいぶまどわされたといえ、確信してるなのにぃ!!」

 ファウナより歳下の子供の如くあわれな少女が負けにひんして悔しがっている。そんな絵面えづらに見えるのであろう。

 ──そんなみじめな光景の後、余りにとうとい場面が拡散され大いに反響を呼ぶのだ。

 ギュッ。

「──え、え。な、何? 一体どういうつもり!?」

 何とファウナがその憐れなアビニシャンを胸の内に抱き締めたのだ。しかも背後からもそっと包み込んだのである。駄々だだをこねた妹をあやす血の繋がった姉の様に。

「ごめんなさいアビニシャン。私──いえ私達が貴女を超える為には、こんな小細工で心を乱すより他なかったの」

 まごうことなき真実のファウナが演技ゼロの本気をアビニシャンに伝えたのである。まるでフォレスタ三姉妹に4人目の妹が出来た様なとうと絵面えづら

 ──あ、温かい……どうしてこんなにも心地良いの?

 勝負など最早どうでも良くなりつつあるのか。アビニシャンがそのほおり寄せてゆく。理不尽りふじん所為せいで震えた身体は完全になりをひそめた。

「貴女の過去に何が在ったのか私には判らない。──だけどね」

 何かを言い掛けたファウナがアビニシャンを抱くその腕を一旦解く。少しかがんで視線の高さを合わせ込む。

「だけどね、考えるの辞めるだなんて、生きることを放棄ほうきするみたいな哀しいことしないで欲しいの。それじゃまるで死んでいると同じじゃない。考え抜いた末におとずれるのが本当の幸せなのよ」

 18歳なり立ての女子の暖かな言葉が年齢不詳ねんれいふしょうの占い師の空虚くうきょな心を埋めてゆく。アビニシャンは運命Wheel of の輪Fortune正位置幸運の転機を蒼き目の内に見つけた。

「ほ、欲しいよ私……本当の幸せが…欲しい」

 ファウナの言葉に心打たれ、顔をしわくちゃにするアビニシャン。我慢涙腺堤防ていぼう決壊けっかいする。

 その刹那せつなアビニシャン偽りの塊の白眼に瞳孔どうこうの色が戻り始めた。泣きじゃくる涙と共に。そして意識を失い身体をファウナへとあずけた。

「あ、アビニシャン!?」

 慌てたファウナの代わりにかえった武術家が脈拍みゃくはくと胸の上下を確認した。

「大丈夫ですファウナ様、意識をたもてなくなっただけの様です」

 ラディアンヌが気を失ったその小さな身体を優しく抱えながらさとした。

「──しょ、勝負はどうした!? これで終わりで良いんだよなァッ!?」

 オルティスタが22枚のタロットを無造作むぞうさに捨て本物のファウナにせまる。ようやく自分はこの地獄ディーラーから解放されるのか。彼女に取って一番の気掛かりはそこだ。

「さっき言ったでしょ。これで『ターンエンド』だってね。ふぅ……本当ホント紙一重の勝負だったわ。ラディアンヌ、心から礼を言わせて貰うわ」

 張り詰めてた緊張を全て解放し満面の笑みをたたえるファウナが、ラディアンヌの手の甲に不意打ちのキスをした。

 ボッ。

「ふぁ!? ファウナ様ァッ……」

 浮島での一戦に続く今回最高の功労者こうろうしゃ
 そんな頼もしさの塊なラディアンヌの顔が真っ赤に染まる。手に触れた唇の感触に全集中。意識を持ってゆかれ、抱えたアビニシャン共々ユラリとその場にくずれ落ちそうになる。

「お、おぃコラッ! 人支えたまま落ちる馬鹿がいるか!」

 長女オルティスタがどうにか間に合い次女のつっかえ棒的役割を果たした。恍惚こうこつの顔で完璧に落ち、大きなで寝ている。その様子を見てたリイナが思わず吹き出す。

「す、凄いですね。何がって、もぅラディアンヌ様のファウナ様への献身けんしんと愛です。例え呼吸術による他人との同調ユニゾンが出来るとは言え、これは絶対愛の成せるわざに決まってます」

 リイナのはじける様な笑顔を見て、ファウナとオルティスタも釣られて笑う。

 ラディアンヌ、今回の御業みわざの正体。
 彼女は武術の戦いに於いて、味方と意識を合わせ戦うすべ体得たいとくしている。これを最大限まで活かしきりファウナとの同化をはかった。

 それにしても気味が悪い程、最後まで演じ切れた理由こそ、リイナの告げた『ファウナへ献身と愛』これに尽きる。余程普段からファウナを恋焦こいこがれつつ見つめてきたに違いないのだ。

 ただ懸念けねんも色々存在した。

 そのうちの1つがファウナの長く整った金髪である。リイナはアビニシャンの相手に勝利するという信念を揺らがせられるとしたら勝ち目があると以前いた。

 但しその長髪を触られたら終い。船上にて『多大なる代償…』と言ったのはそのことなのだ。銀髪しか知らないリイナに取って、ファウナの長く美しい金髪を切らせたくはなかった。

 後はファウナ自身の仕掛け。
 蜘蛛の糸フィディラガノを此方の用意したタロットに仕込むことだ。これは完全にアビニシャンの読み通り。Magician魔導師1枚だけをあやつるので精一杯せいいっぱい

 それですら第2戦まで通じなかった。アビニシャンが迷いなど微塵みじんなく目の前のファウナを本物だと確定出来た為、蜘蛛の糸フィディラガノによる操りでさえ敗北したのだ。

「──処でどうするつもりだソイツ?」

 未だ意識を失っているアビニシャンのことである。それはあくまでヴィラン。そういう目でオルティスタは未だ見ている。

「このまま放って置けないでしょ? 私達は現人神あらひとがみの使いなのよ。──それにね、この人の本当の思いが超感覚とやらを操れる未来幸福を私信じたい」

 この穏やかな女神候補生の言葉を聞いたリイナとオルティスタの顔が緩む。きっとこの魔法少女は初めから相手を殺す気なんてなかったのだと知り、その優しさに救われた気がした。

─ 第7部『思考を捨てた女』 完 ─
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