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第9部 エルドラ包囲網
第92話 攻め落とすならどちらだ?
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此処は地球の衛星軌道上。22世紀と言えどこの様な僻地を人生の拠点とする者はごく少数派である。
やはり人は自然の地面と海を欲するのを未だ辞められずにいるのだ。
「──レヴァーラの次は連合国軍。あんな何も持たない烏合の衆が、こともあろうにこの僕とパルメラだけに赦された星の屑を使うだなんで…」
No1、エルドラ・フィス・スケイルは、ファウナ・デル・フォレスタの思い描いたままの様子で激怒していた。まるでエルドラの居所でさえも見透かしているかの様に。
この男、相も変わらずな姿。しかも宇宙の闇を投影したかの様な部屋で、またもやベッドに座り親指をかじり続けている。これが彼の日常であるらしい。
ファウナが笑い飛ばしながら言った『子供みたいな判りやすい可愛げ』すら、的を射抜いているのである。
チリンッ。
白猫がそんな準飼い主の周囲を彷徨き煽りをかける。そして本来の飼い主の元へしっぽを小刻みに震わせながら向かう。
「そんなイライラしてもええことないでぇ。第一此処に居れば向こうは下界や。どうせ手も足すらも出せへんて」
白い陶器にカモミールの香り漂うハーブティーを注いだ物を差し入れるパルメラの気遣い。
「パルメラ……いつも済まない」
余り良い眠りを得られてないのか? 少々焦燥気味な翠眼と感謝を混ぜ込んだ顔でそれを受け取り香りを楽しむ。
「確かに軍の犬共はあの屑の力にばかりご執心で此方まで頭を回せやしないだろうね。だけど流石にあのレヴァーラ達は力の真実に気付いた筈さ」
エルドラはただの鬱憤晴らしで満足などしてやいない。何しろヴァロウズNo1の実力者、己の欠点とて知り抜いている。
「悔しいけど向こうは吸血鬼でいう処の真祖なんだよ。黙って指咥えている訳がないじゃないか」
指を咥える──。それを子供の様に繰り返してるのは寧ろ自分の方だと言える。
「せやけど焦りは禁物や。──そないな些細、ウチの愛する男は、まとめて吹き飛ばすやろ? それに此方かて心通じ合える星が二つもあるんや」
「──せやニャ」
エルドラの隣に座り、その逞しい胸に自分の身体を預けたパルメラ。左胸の辺りに艶めかしく褐色の指を這わせる。
パルメラの膝枕に座った白猫が人語で茶目っ気を見せた。
滅多に顔を緩ませないエルドラが「フフッ……やはり君には敵わないな」と僅かばかりの笑顔を返した。
◇◇
一方此方はフォルテザに居を構えるレヴァーラ達のアジト。夕飯時位、皆が肩寄せ食事と語らいに時間を費やすのが日課に成りつつある。
その仲良き間柄にあって一際目立つは、近過ぎる距離でレヴァーラの隣に座るファウナ。そしてこの間の壮絶なる挙式以来、デラロサ夫妻も負けじと愛を見せつけている。
「デラロサの御二人様。もう部屋は同じなんでしょ? 食事位お部屋まで配給させましょうか?」
近隣に座ったリディーナが『もう御二人だけで夕食を楽しんではいかが?』と提案している。少しだけ皮肉も込めてる。確かにまあ初々しい夫婦ぶりを見せ付けられては言いたくもなろう。
グイッ。
「何を言うんだリディーナ殿。命を張る仲間達と少しでも交流を図るのは軍人の務め。しかも俺達二人は後釜だからな」
大ジョッキに注いだビールを一気で飲み干した後、赤ら顔のアルが真面目くさった顔で返した。酔った勢いで言われてしまうと説得力に欠けるというもの。
アル・ガ・デラロサ32歳。酒は好んで滅法強いが、顔の色だけは全く隠せない。隣で少しだけ同じモノをご相伴にあずかるマリアンダ夫人は白い顔だ。
冷ややかな視線で見つめる周囲の者共の理由なき女の直感。
──恐らくデラロサが近い内、尻に敷かれるでしょうね。
アルは非常に出来る男だが豪胆が過ぎるきらいがある。真面目を絵に描いた様なマリアンダが操り人形と化すのが具合が良いと決めつけていた。
「──で? 取り合えず攻め落とすならどちらだと思っている?」
少し主語の足りないオルティスタが様子見な文句の駒を刺す。この状況で『どちらだ?』と問われたらエルドラ組か連合国軍かの二択であること位、想像に容易い。
腕を失ったNo2は一旦蚊帳の外。アレも充分脅威なのには違いないが、世界をすべからず潰す勢いな連中の方が先手を打つべきだと皆が思っていた。
「エルドラ……であろうな」
短くレヴァーラがポツリと呟く。
「それは何故ですか?」
此方も言葉少なめなマリアンダの追及。マリアンダやアルの立場的には、軍の怪しい動きも気になる処だ。
「居場所は知れずとも実は勘づきつつある。私の発言の意図する処、貴様にすら判る筈だ」
同じ元軍属のレグラズ・アルブレンによる冷たい横槍。しかしこれはレヴァーラが口で説明するより寧ろ伝達しやすいというもの。
レグラズの切り込んだ台詞にハッと息飲むマリアンダ──。
やはり何のことだか直ぐに察したのである。人工知性体の塊で成る偽物の天斬共による襲来。これを真っ先に感知したのがこの覚醒したレグラズであるという事実だ。
閃光付け焼刃なこの元軍人ですら気付いたのだ。
もっと大量の同じ物を操れるリディーナやレヴァーラ。何ならNo1より格下のヴァロウズでさえ同じ高見に登れてもおかしくない。
特に現時点で最も閃光を機敏に扱えるレヴァーラか、或いは戦闘服を設計製造したNo0の解析力。これらを巧みに稼働出来ればエルドラ包囲も夢ではなくなる筈だ。
「──成程、流石現人神と言わせて頂こう。それなら星の屑を解析してる軍の御偉い方も同じく探せるって訳だな」
「アル──!?」
既に3杯目を一気飲みしていたアル。もはや強かに酔いどれと化し、真面目な話に付いて来れない。そんなタカを括っていたマリー。
キッチリ話を聞いてた上で、綺麗な纏め話までされては驚かずにはいられなかった。そして追加の4杯目をまたもグィッと飲み干し、ダンッとテーブルを景気良く叩きつけた。
さらにクイッと嫁の腕を取り「良い話を聞かせて貰った! これにて失礼する!」と勢いを残して、後はサッサと自分達の部屋へ、夜のお楽しみ宜しく退散していった。
やはり人は自然の地面と海を欲するのを未だ辞められずにいるのだ。
「──レヴァーラの次は連合国軍。あんな何も持たない烏合の衆が、こともあろうにこの僕とパルメラだけに赦された星の屑を使うだなんで…」
No1、エルドラ・フィス・スケイルは、ファウナ・デル・フォレスタの思い描いたままの様子で激怒していた。まるでエルドラの居所でさえも見透かしているかの様に。
この男、相も変わらずな姿。しかも宇宙の闇を投影したかの様な部屋で、またもやベッドに座り親指をかじり続けている。これが彼の日常であるらしい。
ファウナが笑い飛ばしながら言った『子供みたいな判りやすい可愛げ』すら、的を射抜いているのである。
チリンッ。
白猫がそんな準飼い主の周囲を彷徨き煽りをかける。そして本来の飼い主の元へしっぽを小刻みに震わせながら向かう。
「そんなイライラしてもええことないでぇ。第一此処に居れば向こうは下界や。どうせ手も足すらも出せへんて」
白い陶器にカモミールの香り漂うハーブティーを注いだ物を差し入れるパルメラの気遣い。
「パルメラ……いつも済まない」
余り良い眠りを得られてないのか? 少々焦燥気味な翠眼と感謝を混ぜ込んだ顔でそれを受け取り香りを楽しむ。
「確かに軍の犬共はあの屑の力にばかりご執心で此方まで頭を回せやしないだろうね。だけど流石にあのレヴァーラ達は力の真実に気付いた筈さ」
エルドラはただの鬱憤晴らしで満足などしてやいない。何しろヴァロウズNo1の実力者、己の欠点とて知り抜いている。
「悔しいけど向こうは吸血鬼でいう処の真祖なんだよ。黙って指咥えている訳がないじゃないか」
指を咥える──。それを子供の様に繰り返してるのは寧ろ自分の方だと言える。
「せやけど焦りは禁物や。──そないな些細、ウチの愛する男は、まとめて吹き飛ばすやろ? それに此方かて心通じ合える星が二つもあるんや」
「──せやニャ」
エルドラの隣に座り、その逞しい胸に自分の身体を預けたパルメラ。左胸の辺りに艶めかしく褐色の指を這わせる。
パルメラの膝枕に座った白猫が人語で茶目っ気を見せた。
滅多に顔を緩ませないエルドラが「フフッ……やはり君には敵わないな」と僅かばかりの笑顔を返した。
◇◇
一方此方はフォルテザに居を構えるレヴァーラ達のアジト。夕飯時位、皆が肩寄せ食事と語らいに時間を費やすのが日課に成りつつある。
その仲良き間柄にあって一際目立つは、近過ぎる距離でレヴァーラの隣に座るファウナ。そしてこの間の壮絶なる挙式以来、デラロサ夫妻も負けじと愛を見せつけている。
「デラロサの御二人様。もう部屋は同じなんでしょ? 食事位お部屋まで配給させましょうか?」
近隣に座ったリディーナが『もう御二人だけで夕食を楽しんではいかが?』と提案している。少しだけ皮肉も込めてる。確かにまあ初々しい夫婦ぶりを見せ付けられては言いたくもなろう。
グイッ。
「何を言うんだリディーナ殿。命を張る仲間達と少しでも交流を図るのは軍人の務め。しかも俺達二人は後釜だからな」
大ジョッキに注いだビールを一気で飲み干した後、赤ら顔のアルが真面目くさった顔で返した。酔った勢いで言われてしまうと説得力に欠けるというもの。
アル・ガ・デラロサ32歳。酒は好んで滅法強いが、顔の色だけは全く隠せない。隣で少しだけ同じモノをご相伴にあずかるマリアンダ夫人は白い顔だ。
冷ややかな視線で見つめる周囲の者共の理由なき女の直感。
──恐らくデラロサが近い内、尻に敷かれるでしょうね。
アルは非常に出来る男だが豪胆が過ぎるきらいがある。真面目を絵に描いた様なマリアンダが操り人形と化すのが具合が良いと決めつけていた。
「──で? 取り合えず攻め落とすならどちらだと思っている?」
少し主語の足りないオルティスタが様子見な文句の駒を刺す。この状況で『どちらだ?』と問われたらエルドラ組か連合国軍かの二択であること位、想像に容易い。
腕を失ったNo2は一旦蚊帳の外。アレも充分脅威なのには違いないが、世界をすべからず潰す勢いな連中の方が先手を打つべきだと皆が思っていた。
「エルドラ……であろうな」
短くレヴァーラがポツリと呟く。
「それは何故ですか?」
此方も言葉少なめなマリアンダの追及。マリアンダやアルの立場的には、軍の怪しい動きも気になる処だ。
「居場所は知れずとも実は勘づきつつある。私の発言の意図する処、貴様にすら判る筈だ」
同じ元軍属のレグラズ・アルブレンによる冷たい横槍。しかしこれはレヴァーラが口で説明するより寧ろ伝達しやすいというもの。
レグラズの切り込んだ台詞にハッと息飲むマリアンダ──。
やはり何のことだか直ぐに察したのである。人工知性体の塊で成る偽物の天斬共による襲来。これを真っ先に感知したのがこの覚醒したレグラズであるという事実だ。
閃光付け焼刃なこの元軍人ですら気付いたのだ。
もっと大量の同じ物を操れるリディーナやレヴァーラ。何ならNo1より格下のヴァロウズでさえ同じ高見に登れてもおかしくない。
特に現時点で最も閃光を機敏に扱えるレヴァーラか、或いは戦闘服を設計製造したNo0の解析力。これらを巧みに稼働出来ればエルドラ包囲も夢ではなくなる筈だ。
「──成程、流石現人神と言わせて頂こう。それなら星の屑を解析してる軍の御偉い方も同じく探せるって訳だな」
「アル──!?」
既に3杯目を一気飲みしていたアル。もはや強かに酔いどれと化し、真面目な話に付いて来れない。そんなタカを括っていたマリー。
キッチリ話を聞いてた上で、綺麗な纏め話までされては驚かずにはいられなかった。そして追加の4杯目をまたもグィッと飲み干し、ダンッとテーブルを景気良く叩きつけた。
さらにクイッと嫁の腕を取り「良い話を聞かせて貰った! これにて失礼する!」と勢いを残して、後はサッサと自分達の部屋へ、夜のお楽しみ宜しく退散していった。
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