【完結】🧚‍♀️カクヨムコン10中間選考突破作品・マーダ『森の護り人・ファウナ』-ローダ第零章-

🗡🐺狼駄(ろうだ)

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第9部 エルドラ包囲網

第94話 招かれざる外野の敵(アウトロー)

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『──何でレヴァーラなんだ?』

 昼間のオルティスタからの指摘がファウナの胸に去来きょらいする。そして激しく揺さぶり掛ける。珍しく独りでシチリアの海に浮かぶ満月白んだ月を眺めながらワイン片手に自部屋で酔っていた。

「わ、私が一番それを知りたい……私にはそれを知る権利が在る」

 日中自分が告げた通り、何故マーダが誰でもないただの踊り子を選んだのかファウナの瞳にすら見抜けていない。ただ見えてこそいないがかすむ何かに気付いていた。

 ファウナ・デル・フォレスタ──。

 人の上に立って当然と思える風格ふうかくただい過ぎるレヴァーラの声。そう呼ばれる度に胸がギュッと締め付けられ、熱さを帯びずにいられない。

 こうして脳内再生するだけでトクンッと何かが感ずるのだ。けれどさかった分だけ奪われてしまう。

 憧れの存在に近付けば近付く程、同時に何かを失ってる気がする。まるで燃え上がった肌細胞がクズと成り果てしわちるが如く──ファウナは昔ほど盲目もうもくなる愛し方が出来ない自分に気付いていた。

 一挙に燃え上がり過ぎた炎が永きを保てないと等しく、若過ぎる恋の情熱は冷めゆくのも速きものやも知れない。

 エトナ火山を噴き飛ばした爆発より救われた幼き時分じぶんの命。「──もぅ決してあの頃に戻れやしない」酔いに染まった唇が勝手に言葉をつむぎ出す。

「ディスラド──!?」

 幼き想い出にせる最中、あの芸術爆発はなを咲かせる男も思い出す。
 それらと同時にかつて自分が預言者よげんしゃの如くレヴァーラにぶつけた台詞『No2ディスラドは後回しにしたいのよね』さえも。

「わ、私は何故あんな世迷言よまいごとを?」

 アレはファウナ・デル・フォレスタらしくなく何の根拠こんきょもない台詞であった。ほんの爪先つめさき一つの引っ掛かりさえあるなら判る。如何にも知識人をひけらかし、敬愛けいあいなる相手の興味を独占したい。

 いて、かなり無理矢理繋げるとしたら、やはり幼き想い出に浮かんで消える二人の間柄帰結きけつする。

 もしあの出来事が馬鹿な行動を止めに入った、それだけ二人の間にでないの絡みが在るだとしたら──?? 自分の吐露とろした理由わけに今さら気付いた。やはりのだ。

「──『ヴァン……シオネ』」

 次の瞬間、ファウナは記憶と現実の狭間はざまからなる声を確かに聴いた。

「ファウナ・デル・フォレスタ、あの踊り子さえも心おどらし狂わす魔性魔導の女──フフッ、これは確かに可憐かれん乙女おとめだ」

 ファウナを見つめる蒼い細目。異常にを好む彼に取って、ファウナの美貌びぼうはその眼鏡めがねに適ったらしい。

「──えっ!? わ、私何時いつの間に外へ?」

 完全に外野アウトロー扱いされてたNo2、美麗美女爆発爆弾に変える力と、刃に映り込む全ての事象を反転暗転させるディスラドが不吉ふきつを持ち寄り、守り踊り子の女神の元へ参上した。

「フフッ、随分火照ほてっているなァ。就寝前に深酒とは……およそ少女のやる事ではないぞ」

「こ、このド変態野郎ッ! アンタが勝手に引きり出したんじゃないのッ!」

 こればかりは、どっちもどっちな応酬発言であるが、まあ見るからしてファウナが辛い。

 勿論剣はおろか武器に転用出来そうな持ち合わせがまるでないファウナ。グラスを即座に捨て、この際棒っ切れでも構わないと思い暗闇の中、足元を見渡し拾い上げた。

「──『輝きの刃マディラス』! ──『戦乙女ヴァルキュリア』!」

 どうにか振りしぼる声もあいまって何とも痛々しげな少女剣士の完成。無論、この格好で白いネグリジェ姿で防御力は皆無ゼロむしろ男性に初めて見せる姿に引き算マイナス補正すら掛かっているかも知れない。

 なお就寝時はおろか入浴時でさえも魔導書代わりの腕時計型携帯端末は、肌身離さず自己の肉体一部と化している。

「ほぅ? 俺様と剣でやり合うつもりかァ? しかしその蒼い光の刃、あの剣馬鹿のに天斬の剣に瓜二つではないか」

 ニタァ……。

 らしくディスラドが笑い、彼の象徴しょうちょうとも言える黒光りする両刃をスラリと抜き放つ。アルケマリアンダ・スタ時代アルケスタに撃ち抜かれた片腕は、語るまでもなくギミック高性能義手おぎなっていた。

 ファウナはその戦列に不在であったが、あの黒い剣と理不尽ヴァンシオネに寄ってリディーナ達が苦しめられたのを知っている。

「剣技で勝ち目ない位判らない程間抜まぬけじゃなくてよ。だけど貴方の異能──暗転ヴァンシオネとやらに太刀打ち出来るの私だけじゃなくて? これは本気よ?」

 すべらかず事象反転させる御業みわざNo2ディスラド専売特許せんばいとっきょではない。このファウナには流転アルディビラが在る。

 ディスラドVsファウナ、一体何方どちら精神力メンタルが上であるのか? これはそうした目に見えぬ闘争なのだ。

 ◇◇

「──ファウナ・デル・フォレスタ。今宵こよいは私の部屋に来ないで寝ないつもりか? ククッ……流石に嫌われてしまったかも知れんな」

 丁度その頃、己が部屋で女神との今夜の情事じょうじを待ちびていた。遂に心の距離を置かれたと感じ、自らのこれまで行動総てにに苦笑した。

 愛娘まなむすめが如き少女を繋ぎ留め置く──。

 実母でさえも叶わぬ幻想妄想
 相手は虚ろ気思春期真っ只中まっただなかな18歳の少女。もし実の母なら猶更なおさら無理な。──何て事ない。ただの孤独こどく道化師ピエロに還るだけだ。

 ──ムッ!

「何だこの鳥肌プレッシャー!? 我はこの感覚を知り過ぎている!」

 シャーッ!

 無造作むぞうさにカーテンを開く。見知った蒼き輝きが夜空の真逆で揺れ動くのが見て取れた。

「ファウナッ! そしてアレは──ディスラドッ!」

 独り占めしたい白きネグリジェ姿の少女が相対あいたいするはまぎれもなくヴァロウズのNo2に相違ない。

「奴め、一体いつの間にッ!」

 此方とて準備装備を整えているいとまなどある訳がない。例の知性体を埋めたブレスレットとこの間使ったばかりの小刀2刀をのみをたずさえ窓から躊躇ちゅうちょなしにゼロで飛び降りる。

 ──此処は何階? そんな小事些細、ファウナを失うのに比べればどうでも良いのだァ!

 まるで算段さんだん丸投げなレヴァーラより先に、1羽の赤いつばめが光の帯を創造する。そのままこのの目前にてカッとはじけて圧倒的な輝きを放つ。

「グハッ!? ば、馬鹿な?」

 これは初見とはいえディスラドが迂闊うかつなのだ。呼吸一つで他人を探索たんさくしたり、同調シンクロ出来る自在な女武術家だ。気配を消し背中を奪い掌底しょうていを叩き込むなど造作ぞうさもない。

 次いでとばかりに考え無しで落ちて来たすらそっと両腕で優しく受け止めるのだ。

「ファウナ・デル・フォレスタの一が側近そっきん炎舞えんぶ使いのオルティスタッ!」

 いつもの滾る二刀紅く染まる短刀かまえ、その大いなる胸筋胸元さら仁王立におうちなオルティスタ。

「同じくファウナ様を誰より愛する側近、武術家ラディアンヌ・マゼダリッサッ!」

 此方は敢えて両腕を組んでいる。これは単なる苔脅しこけおどしではない。両腕の出所を相手に悟らせない為の立派な構えなのだ。割とひかえめなラディアンヌも長女に乗せられ名乗りを挙げる。

「「我等が二人揃いし時、この姫に蚊ほど二度との傷すら悪い虫は付けられん寄せ付けやしないそう思えッ!」」

 相手ディスラドには悪いがこれは八つ当たり嘗てのリベンジの域。もう二度とまねかれざる客を大切な妹分に決して近寄ちかよらせない。そうした覚悟の体現たいげんなのだ。
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