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最終部 ファウナ・デル・フォレスタ
第199話 壮絶たるそれぞれの覚悟
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ファウナ・デル・フォレスタ、これは最逆転と呼ぶに相応しいのか?
何せ己の全部を惜し気なくマーダへ捧げた。
これで事態が好転しても、手放しで歓喜出来ようものか。
「──ハァハァハァ……!」
「アァァァァッ!!」
かくしてファウナを取り込んだマーダは、逆に取り込まれたか如くファウナの姿へ転じた。息荒く未だMeteonella操縦室の床に伏せてる妹。ゼファンナが涙ながらに抱き締める。
「あ、貴女ファウナなのよねッ!?」
骨が折れてもおかしくない程、全身で締め付けるゼファンナが中身の確認をする。
「い、痛いよゼファンナ姉さん……」
「Sorry!」
大層慌てて妹を解放する姉。これは状況的に止むを得ないと言える。
背丈、全てを見透かす蒼い瞳。
加えて抱いた際、無意識に測った胸のサイズすら紛う事無き、可愛過ぎる妹と瓜二つ。
然しながら存外な返答が妹の口から洩れる。
「え、ええと……今こうして姉さんと会話してるのは間違いなく私自身の意識よ」
「え……?」
ファウナ、この非常時に随分顔が赤い。
マーダとの意識争いに打ち勝つべく努力した故、粗ぶった呼吸を落ち着かせるのに体力を使った。蒼い眼が血走る程に。
けれど顔の紅潮は、姉ゼファンナからの思い掛けぬ歓喜の抱擁を受けたからだ。早い話、思わぬ恥じらいを姉から受けた。
「ええと伝わるかなこれ……。私とレヴァは団結してマーダに奪われた閃光を抑える為、マーダに劣らぬ力を彼に刻んだ」
「う、うん……?」
ゼファンナの質問は『貴女は本物のファウナ?』である。応答が酷く的外れな内容だと言わざるを得ない。
ファウナは何も映っていないMeteonellaのモニター上に、壊れた部品を幾つか置きつつ『モニター上がマーダ、これが私…』如何にか伝達しようと躍起になる。
「だけど流石に此処はマーダの世界なの。閃光だけは何としても封じないと軍がようやく吹き飛ばした星屑達がやがて再び世界を覆う」
妹、サラッと連合国軍の罪を引き合いに出す。
ガディンが世界を混乱の渦に陥れた理由は、エドル神殿から帰る途中、既に会話を交わした。ファウナの見解は『覚醒者をこれ以上増やしたくない』であった筈。
──折角吹き飛ばした星屑達がやがて世界を再び覆う?
全く以って繋がってない話に聴こえる。されども妹は、何故星屑達が地球の表面に蓄積したのか知り尽くしてる言い草なのだ。
ゼファンナ、此処は敢えて口を挟まずファウナの言葉に傾聴すると決めた。
「これからもレグラズの様な覚醒者は着実に増えるわ。だから私とレヴァは此処に二人で造った命を燃やして閃光を抑え続ける足枷になると決めた」
妹──恥じらいと悦び混じる顔色で、命宿す場所を白い手で擦り『此処に造った命』と告げた。
「──ッ!」
ゼファンナは頭の回転も軽やかだし、勘も実に鋭敏。
──ガディンは温暖化を止める為に人減らしを進めた。世界中の人間の内に人工知性体は生息している……。
人間も所詮動物、温暖化の原因の一つは排出する二酸化炭素。
──排出ッ、排泄物? なんだ、簡単な理屈じゃないの!
妹はマーダに奪われた能力、閃光を止める為の術を説明するのに集中しており、大前提を伝えそびれてるのにゼファンナは気付いた。
サイガン・ロットレンが病気のワクチンと偽り世界中に広めた人工知性体プログラム。ナノマシン達を命と呼ぶには語弊があるが、機械で在る以上寿命は必ず在る。
壊れたナノマシン達は恐らく何らかの形で人間の内から地上へ排出される。恐らくその大半が呼吸に於ける二酸化炭素の排出。
それらが地球全土を覆い尽くし、エルドラやパルメラは星の屑と称して自在に使った。
ゼファンナ自身、そして何よりマーダが閃光による星屑達の次なる可能性を示した。
覚醒者は以後、増殖の一途に違いない……。
閃光の様な扱い方を思いつく輩が現れる可能性は極めて大なり。
──だから妹はその身を犠牲にするやり方でマーダを抑える覚悟を決めた。
自分はこれ迄、軍の人間としてあらゆる角度から覚醒者達の事を知り尽くしたつもりでいた。まるで本質を見抜けなかったと今更思い知らされた。
「今でこそ驚いて如何したら良いか判らないマーダの代わりに成れてるけど、何れ彼の意識が上位に立つのは間違いないわ……残念だけど」
さも寂しげ語るファウナを見て、心底謝罪したい姉。だけども今頃頭を下げた処で何も好転しないのが目に見えてる。
「でもね姉さん、私は暫く森の女神としての意識を保てる筈よ。姉さんだけ私がこれからやる事。包み隠さず全部話すわ」
妹が自分と笑顔で話せる時間は有限。なのに何て立派な妹だろう……。
せめて、せめて……姉として最後に出来得る事をやり遂げたい。
力強く頷き返すゼファンナ。
これまでろくでもない姉だったけど、残りの人生。妹の為に捧げようと覚悟を決めた。
◇◇
「──な、何故……どうして私を選んだのですかチェーン・マニシング」
何ともか細い萎んだ声が重ねた機体を伝りチェーンへ届く。
明るさと森より深い優しさ秘めたラディアンヌ・マゼダリッサとは思えぬ陰鬱な声音。
「お前が一番電力有り余ってるし、誰より強い。他に理由なんかねぇよ」
ピクリッ。
チェーンの『誰より強い』がラディアンヌのしょげた眉を僅かに反応させる。
「こ、こんな堕ちた私が……ですか?」
「何だ何だやっぱり話せる元気が残ってんじゃねぇか。そうだラディアンヌ、ファウナの護衛。お前がこの中で一番強いぞ。初対面で急所を殴られた僕には判る」
心底鬱状態へ落ちた者には決して掛けてはならない台詞。
然し自ら心閉ざそうと演技に浸る内なら話は別だ。
第三者の目に映る自分は元気に見えると知らされ、『そうなの?』目覚める切欠に成り得る事もある。純粋なる煽りは時として絶対的支えに姿を変える。
「わ、私はそんな……」
「アレを見な」
意固地に成ろうとするラディアンヌへ白狼が首振り、アレを指す。ラディアンヌが決して見たくない地獄が彼女の翠眼に映り込む。
「め、Meteonellaが押されてるッ!?」
マーダ二度目の閃光に押され右前脚を切断したMeteonellaの劣勢がマゼダリッサ家の血を沸騰させる。
実の処、マーダがファウナに絆され逆に取り憑かれる刹那の様子だ。さりとて事情を知らぬ周囲の目には負け戦に映るであろう。
『サッサとこんな化物ぶっ倒して僕達のファウナを助けに行こうぜ。アンタとならやれる』
No6の自由人、チェーン・マニシングが信じ選んだ相手は、ファウナ様の為なら火中へ迷わず飛び込む揺るがぬ炎秘めた女武術家。火を炎で蹂躙する熱き血潮。
カッ!!
「征きましょうッ! ファウナ様を守る私に壁など決して在りえはしませんッ!」
失せてた翠眼の瞳孔が瞬時に光を帯びる。機体色も血が通ったが如く緑色を帯びた。
迷いを断ち切ったラディアンヌ。
駆ける勇往邁進が無礼な造り物の神を殴打すべくいざッ、戦いの場へッ!
何せ己の全部を惜し気なくマーダへ捧げた。
これで事態が好転しても、手放しで歓喜出来ようものか。
「──ハァハァハァ……!」
「アァァァァッ!!」
かくしてファウナを取り込んだマーダは、逆に取り込まれたか如くファウナの姿へ転じた。息荒く未だMeteonella操縦室の床に伏せてる妹。ゼファンナが涙ながらに抱き締める。
「あ、貴女ファウナなのよねッ!?」
骨が折れてもおかしくない程、全身で締め付けるゼファンナが中身の確認をする。
「い、痛いよゼファンナ姉さん……」
「Sorry!」
大層慌てて妹を解放する姉。これは状況的に止むを得ないと言える。
背丈、全てを見透かす蒼い瞳。
加えて抱いた際、無意識に測った胸のサイズすら紛う事無き、可愛過ぎる妹と瓜二つ。
然しながら存外な返答が妹の口から洩れる。
「え、ええと……今こうして姉さんと会話してるのは間違いなく私自身の意識よ」
「え……?」
ファウナ、この非常時に随分顔が赤い。
マーダとの意識争いに打ち勝つべく努力した故、粗ぶった呼吸を落ち着かせるのに体力を使った。蒼い眼が血走る程に。
けれど顔の紅潮は、姉ゼファンナからの思い掛けぬ歓喜の抱擁を受けたからだ。早い話、思わぬ恥じらいを姉から受けた。
「ええと伝わるかなこれ……。私とレヴァは団結してマーダに奪われた閃光を抑える為、マーダに劣らぬ力を彼に刻んだ」
「う、うん……?」
ゼファンナの質問は『貴女は本物のファウナ?』である。応答が酷く的外れな内容だと言わざるを得ない。
ファウナは何も映っていないMeteonellaのモニター上に、壊れた部品を幾つか置きつつ『モニター上がマーダ、これが私…』如何にか伝達しようと躍起になる。
「だけど流石に此処はマーダの世界なの。閃光だけは何としても封じないと軍がようやく吹き飛ばした星屑達がやがて再び世界を覆う」
妹、サラッと連合国軍の罪を引き合いに出す。
ガディンが世界を混乱の渦に陥れた理由は、エドル神殿から帰る途中、既に会話を交わした。ファウナの見解は『覚醒者をこれ以上増やしたくない』であった筈。
──折角吹き飛ばした星屑達がやがて世界を再び覆う?
全く以って繋がってない話に聴こえる。されども妹は、何故星屑達が地球の表面に蓄積したのか知り尽くしてる言い草なのだ。
ゼファンナ、此処は敢えて口を挟まずファウナの言葉に傾聴すると決めた。
「これからもレグラズの様な覚醒者は着実に増えるわ。だから私とレヴァは此処に二人で造った命を燃やして閃光を抑え続ける足枷になると決めた」
妹──恥じらいと悦び混じる顔色で、命宿す場所を白い手で擦り『此処に造った命』と告げた。
「──ッ!」
ゼファンナは頭の回転も軽やかだし、勘も実に鋭敏。
──ガディンは温暖化を止める為に人減らしを進めた。世界中の人間の内に人工知性体は生息している……。
人間も所詮動物、温暖化の原因の一つは排出する二酸化炭素。
──排出ッ、排泄物? なんだ、簡単な理屈じゃないの!
妹はマーダに奪われた能力、閃光を止める為の術を説明するのに集中しており、大前提を伝えそびれてるのにゼファンナは気付いた。
サイガン・ロットレンが病気のワクチンと偽り世界中に広めた人工知性体プログラム。ナノマシン達を命と呼ぶには語弊があるが、機械で在る以上寿命は必ず在る。
壊れたナノマシン達は恐らく何らかの形で人間の内から地上へ排出される。恐らくその大半が呼吸に於ける二酸化炭素の排出。
それらが地球全土を覆い尽くし、エルドラやパルメラは星の屑と称して自在に使った。
ゼファンナ自身、そして何よりマーダが閃光による星屑達の次なる可能性を示した。
覚醒者は以後、増殖の一途に違いない……。
閃光の様な扱い方を思いつく輩が現れる可能性は極めて大なり。
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自分はこれ迄、軍の人間としてあらゆる角度から覚醒者達の事を知り尽くしたつもりでいた。まるで本質を見抜けなかったと今更思い知らされた。
「今でこそ驚いて如何したら良いか判らないマーダの代わりに成れてるけど、何れ彼の意識が上位に立つのは間違いないわ……残念だけど」
さも寂しげ語るファウナを見て、心底謝罪したい姉。だけども今頃頭を下げた処で何も好転しないのが目に見えてる。
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妹が自分と笑顔で話せる時間は有限。なのに何て立派な妹だろう……。
せめて、せめて……姉として最後に出来得る事をやり遂げたい。
力強く頷き返すゼファンナ。
これまでろくでもない姉だったけど、残りの人生。妹の為に捧げようと覚悟を決めた。
◇◇
「──な、何故……どうして私を選んだのですかチェーン・マニシング」
何ともか細い萎んだ声が重ねた機体を伝りチェーンへ届く。
明るさと森より深い優しさ秘めたラディアンヌ・マゼダリッサとは思えぬ陰鬱な声音。
「お前が一番電力有り余ってるし、誰より強い。他に理由なんかねぇよ」
ピクリッ。
チェーンの『誰より強い』がラディアンヌのしょげた眉を僅かに反応させる。
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「何だ何だやっぱり話せる元気が残ってんじゃねぇか。そうだラディアンヌ、ファウナの護衛。お前がこの中で一番強いぞ。初対面で急所を殴られた僕には判る」
心底鬱状態へ落ちた者には決して掛けてはならない台詞。
然し自ら心閉ざそうと演技に浸る内なら話は別だ。
第三者の目に映る自分は元気に見えると知らされ、『そうなの?』目覚める切欠に成り得る事もある。純粋なる煽りは時として絶対的支えに姿を変える。
「わ、私はそんな……」
「アレを見な」
意固地に成ろうとするラディアンヌへ白狼が首振り、アレを指す。ラディアンヌが決して見たくない地獄が彼女の翠眼に映り込む。
「め、Meteonellaが押されてるッ!?」
マーダ二度目の閃光に押され右前脚を切断したMeteonellaの劣勢がマゼダリッサ家の血を沸騰させる。
実の処、マーダがファウナに絆され逆に取り憑かれる刹那の様子だ。さりとて事情を知らぬ周囲の目には負け戦に映るであろう。
『サッサとこんな化物ぶっ倒して僕達のファウナを助けに行こうぜ。アンタとならやれる』
No6の自由人、チェーン・マニシングが信じ選んだ相手は、ファウナ様の為なら火中へ迷わず飛び込む揺るがぬ炎秘めた女武術家。火を炎で蹂躙する熱き血潮。
カッ!!
「征きましょうッ! ファウナ様を守る私に壁など決して在りえはしませんッ!」
失せてた翠眼の瞳孔が瞬時に光を帯びる。機体色も血が通ったが如く緑色を帯びた。
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