ブレイブ&マジック 〜中学生勇者ともふもふ獅子魔王の騒動記〜

神所いぶき

文字の大きさ
5 / 25
第1章

4.三人寄れば

しおりを挟む
 §

「さて、可哀想だけど目を覚ます前に退治しないとな……」
 地面に倒れている蜂のモンスターの群れは気絶しているだけだ。少ししたらまた動き出すだろう。そうなる前に退治しないと。
「飛べ、炎よ! フォイアチェイス!」
 火の塊の直撃を受けた蜂のようなモンスターは、黒い霧のようなものを出して、消滅した。
「消火を頼む。ヴォルフ」
「おう。降り注げ水よ! ヴァッサーフォール!」
 森の樹々に火が燃え移らないように、ヴォルフが水の魔法で消火してくれた。火の始末はしっかりしないとな。
「これは……」
 モンスターが消滅した後、地面には赤、青、緑、黄……、色とりどりの石が大量に落ちていた。キラキラと輝く宝石みたいで、とても綺麗だ。
「魔素結晶だね。大量大量」
 少し休んですっかり元気を取り戻したナハトが、地面に落ちた魔素結晶を拾いあげていく。
「これを使えば、強力な魔法が使えるんだよな」
「上手く使えばね。でも、使い方を間違えたら爆発したりするらしいよ」
「こわっ!」
 この魔素結晶があればオレにも強力な魔法が使えるかもしれないと思ったが、やめておこう。使い方が分からない状態で使用するのは危険そうだ。適当に使って、爆発したら嫌だし。使い方が分からないものを使って自爆するなんてマヌケすぎる。
「魔王様は、魔素結晶を沢山集めたら褒美をやるって言ってたけど、褒美って何だろうね。オシャレな服とかだったらいいなあ」
「オレ様はいつも魔王様が着ている鎧みたいなのが欲しいな」
 ナハトとヴォルフは、目を輝かせて想像を始めた。
 褒美、か。オレは魔王と一緒に暮らしているからよく知っているが、あいつはズレてるところがあるからなあ。まともな物じゃない気がする。
「……なんとなく、オレたちが普通に喜びそうな物はくれない予感がするな。あまり期待しない方がいいと思うぞ」
「勇者くんは夢がないなあ。そこは欲しい物を素直に言うべき場面でしょ」
「そうだ。空気を読みやがれ」
「えっ。なんか、ごめん」
 空気を読めてないヤツ扱いされてしまった。人間関係って難しい。いや、二人は魔族だから人間関係って言葉は当てはまるのだろうか? まあ、そんなことはどうでもいいか。
「話は変わるけど、魔王は期限が正午までって言ってたよな? 今、何時だ?」
「ごめん。私、時計を持ってなくて」
「何だ? てめえら、腕時計も持ってねえのかよ。仕方ねえからオレ様が見せてやる。ありがたく思え」
 上から目線なのが気になるが、今までのヴォルフだったら時計を持っててもオレたちには見せようとしなかっただろうから大きな進歩だ。
「まだ十時半くらいか。正午まで、あと一時間半もあるな」
「そっか。じゃあちょっと休憩してから、私たちでこのゲートを塞ごうか」
「ゲートを塞ぐ? どうすりゃいいんだ?」
 ナハトの提案に、ヴォルフが首を傾げる。
 確かに、モンスターによる被害を出さないためには、モンスターの住処であるゲートを塞ぐのが手っ取り早いだろう。でも、オレもゲートの塞ぎ方は知らない。知ってそうなナハトの説明を聞くしかないようだ。
「ゲートのヌシを倒せばいいんだよ」
「ゲートのヌシ?」
「うん。簡単に言うとモンスターの親玉だね。ゲートの中には必ずヌシがいて、それを倒せばゲートは閉じるようになってるらしいよ。あと、ヌシを倒せば魔素結晶がたくさん手に入るって本に書いてた気がする」
「それじゃ話は早えな。ゲートのヌシを倒して、ついでに魔素結晶もいただく。それで全部解決だ」
 ゲートのヌシを倒せば、ゲートが閉じて、魔素結晶も手に入る。良いことづくめではある。
「でも、ヌシって言うくらいだから強いんだろ? 倒せるのかな」
「魔王様は言ってたでしょ? 私たちが倒せる程度のモンスターしかいないゲートに飛ばすって。つまり、頑張れば私たちでも倒せるはずだよ」
「何だ。びびってんのかよクオン?」
「びびってはいないけど……」
 魔王の話を鵜呑みにして良いのかなという疑問は残るが、二人とも乗り気のようだし水を差す訳にもいかない。それに、危険なモンスターを放置するのはまずいよなあ。
「……分かった。頑張ってヌシを倒そう。オレたち三人でな」
「おう!」
「そうこなくっちゃ!」
 乗り気な二人に流されてしまった気もする。本当は、ちょっと不安だなあ。
 けど、三人寄ればもんじゃ焼き……じゃなくて、文殊の知恵だ。ゲートのヌシがどんな強敵であっても、オレたちが力を合わせれば何とかなる。そう信じよう。
「それじゃ、戦いやすい場所でヌシを呼ばなきゃね」
「は? ヌシって呼べるもんなのか?」
 ヴォルフの疑問はもっともだ。呼んで来るようなものなのか? ヌシって。
「モンスターは魔素を食べる。つまり、わざと魔法をたくさん使って魔素を充満させればおびき寄せられるってことだよ。まあ、ヌシ以外のモンスターもおびき寄せられるだろうから注意は必要だけどね」
「なるほど。じゃあ、最初の草原に戻らないか? あそこなら見晴らしが良いし、戦いやすいと思う」
「うん。私もそう思ってた」
 ナハトもオレと同じ考えだったようだ。今オレたちがいる森の中は正直戦いにくい。いつ、どこからモンスターが飛び出してくるか分からないからだ。
 草原なら、見晴らしが良いからモンスターが襲いかかってきてもすぐに対処しやすいはずだ。敵と戦う時には地形を活かすべし。昔読んだマンガに、そんなことが書かれていた気がする。今、それを実践する時だ。
「よーし。そうと決まればいくぞてめーら! 絶対にヌシをぶちのめすぞ!」
「さっきみたいに一人で突っ走るのはダメだからなヴォルフ」
「うっ、うるせーな。反省してるから、それはもう言うなよ」
「ふふっ。三人で、頑張ろうね」
 オレ一人では無理なことも、きっと二人の力が合わさればできるようになる。何となく、そんな気がした。……よし、頑張るぞ!
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

独占欲強めの最強な不良さん、溺愛は盲目なほど。

猫菜こん
児童書・童話
 小さな頃から、巻き込まれで絡まれ体質の私。  中学生になって、もう巻き込まれないようにひっそり暮らそう!  そう意気込んでいたのに……。 「可愛すぎる。もっと抱きしめさせてくれ。」  私、最強の不良さんに見初められちゃったみたいです。  巻き込まれ体質の不憫な中学生  ふわふわしているけど、しっかりした芯の持ち主  咲城和凜(さきしろかりん)  ×  圧倒的な力とセンスを持つ、負け知らずの最強不良  和凜以外に容赦がない  天狼絆那(てんろうきずな)  些細な事だったのに、どうしてか私にくっつくイケメンさん。  彼曰く、私に一目惚れしたらしく……? 「おい、俺の和凜に何しやがる。」 「お前が無事なら、もうそれでいい……っ。」 「この世に存在している言葉だけじゃ表せないくらい、愛している。」  王道で溺愛、甘すぎる恋物語。  最強不良さんの溺愛は、独占的で盲目的。

14歳で定年ってマジ!? 世界を変えた少年漫画家、再起のノート

谷川 雅
児童書・童話
この世界、子どもがエリート。 “スーパーチャイルド制度”によって、能力のピークは12歳。 そして14歳で、まさかの《定年》。 6歳の星野幸弘は、将来の夢「世界を笑顔にする漫画家」を目指して全力疾走する。 だけど、定年まで残された時間はわずか8年……! ――そして14歳。夢は叶わぬまま、制度に押し流されるように“退場”を迎える。 だが、そんな幸弘の前に現れたのは、 「まちがえた人間」のノートが集まる、不思議な図書室だった。 これは、間違えたままじゃ終われなかった少年たちの“再スタート”の物語。 描けなかった物語の“つづき”は、きっと君の手の中にある。

勇者と聖女の息子 アレン ランダムスキルを手に入れて愉快に冒険します!

月神世一
児童書・童話
伝説のS級冒険者である父と、聖女と謳われた母。 英雄の血を引く少年アレンは、誰もがその輝かしい未来を期待するサラブレッドだった。 しかし、13歳の彼が神から授かったユニークスキルは――【ランダムボックス】。 期待に胸を膨らませ、初めてスキルを発動した彼の手の中に現れたのは…プラスチック製のアヒルの玩具? くしゃくしゃの新聞紙? そして、切れたボタン電池…!? 「なんだこのスキルは…!?」 周りからは落胆と失笑、自身は絶望の淵に。 一見、ただのガラクタしか出さないハズレスキル。だが、そのガラクタに刻まれた「MADE IN CHINA」の文字に、英雄である父だけが気づき、一人冷や汗を流していた…。 最弱スキルと最強の血筋を持つ少年の、運命が揺らぐ波乱の冒険が、今、始まる!

星降る夜に落ちた子

千東風子
児童書・童話
 あたしは、いらなかった?  ねえ、お父さん、お母さん。  ずっと心で泣いている女の子がいました。  名前は世羅。  いつもいつも弟ばかり。  何か買うのも出かけるのも、弟の言うことを聞いて。  ハイキングなんて、来たくなかった!  世羅が怒りながら歩いていると、急に体が浮きました。足を滑らせたのです。その先は、とても急な坂。  世羅は滑るように落ち、気を失いました。  そして、目が覚めたらそこは。  住んでいた所とはまるで違う、見知らぬ世界だったのです。  気が強いけれど寂しがり屋の女の子と、ワケ有りでいつも諦めることに慣れてしまった綺麗な男の子。  二人がお互いの心に寄り添い、成長するお話です。  全年齢ですが、けがをしたり、命を狙われたりする描写と「死」の表現があります。  苦手な方は回れ右をお願いいたします。  よろしくお願いいたします。  私が子どもの頃から温めてきたお話のひとつで、小説家になろうの冬の童話際2022に参加した作品です。  石河 翠さまが開催されている個人アワード『石河翠プレゼンツ勝手に冬童話大賞2022』で大賞をいただきまして、イラストはその副賞に相内 充希さまよりいただいたファンアートです。ありがとうございます(^-^)!  こちらは他サイトにも掲載しています。

異世界子供会:呪われたお母さんを助ける!

克全
児童書・童話
常に生死と隣り合わせの危険魔境内にある貧しい村に住む少年は、村人を助けるために邪神の呪いを受けた母親を助けるために戦う。村の子供会で共に学び育った同級生と一緒にお母さん助けるための冒険をする。

生贄姫の末路 【完結】

松林ナオ
児童書・童話
水の豊かな国の王様と魔物は、はるか昔にある契約を交わしました。 それは、姫を生贄に捧げる代わりに国へ繁栄をもたらすというものです。 水の豊かな国には双子のお姫様がいます。 ひとりは金色の髪をもつ、活発で愛らしい金のお姫様。 もうひとりは銀色の髪をもつ、表情が乏しく物静かな銀のお姫様。 王様が生贄に選んだのは、銀のお姫様でした。

あだ名が242個ある男(実はこれ実話なんですよ25)

tomoharu
児童書・童話
え?こんな話絶対ありえない!作り話でしょと思うような話からあるある話まで幅広い範囲で物語を考えました!ぜひ読んでみてください!数年後には大ヒット間違いなし!! 作品情報【伝説の物語(都道府県問題)】【伝説の話題(あだ名とコミュニケーションアプリ)】【マーライオン】【愛学両道】【やりすぎヒーロー伝説&ドリームストーリー】【トモレオ突破椿】など ・【やりすぎヒーロー伝説&ドリームストーリー】とは、その話はさすがに言いすぎでしょと言われているほぼ実話ストーリーです。 小さい頃から今まで主人公である【紘】はどのような体験をしたのかがわかります。ぜひよんでくださいね! ・【トモレオ突破椿】は、公務員試験合格なおかつ様々な問題を解決させる話です。 頭の悪かった人でも公務員になれることを証明させる話でもあるので、ぜひ読んでみてください! 特別記念として実話を元に作った【呪われし◯◯シリーズ】も公開します! トランプ男と呼ばれている切札勝が、トランプゲームに例えて次々と問題を解決していく【トランプ男】シリーズも大人気! 人気者になるために、ウソばかりついて周りの人を誘導し、すべて自分のものにしようとするウソヒコをガチヒコが止める【嘘つきは、嘘治の始まり】というホラーサスペンスミステリー小説

「いっすん坊」てなんなんだ

こいちろう
児童書・童話
 ヨシキは中学一年生。毎年お盆は瀬戸内海の小さな島に帰省する。去年は帰れなかったから二年ぶりだ。石段を上った崖の上にお寺があって、書院の裏は狭い瀬戸を見下ろす絶壁だ。その崖にあった小さなセミ穴にいとこのユキちゃんと一緒に吸い込まれた。長い長い穴の底。そこにいたのがいっすん坊だ。ずっとこの島の歴史と、生きてきた全ての人の過去を記録しているという。ユキちゃんは神様だと信じているが、どうもうさんくさいやつだ。するといっすん坊が、「それなら、おまえの振り返りたい過去を三つだけ、再現してみせてやろう」という。  自分の過去の振り返りから、両親への愛を再認識するヨシキ・・・           

処理中です...