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第二章 火の女神リクシスの加護
4 不思議な雨
しおりを挟む燃え盛る家のなかを、僕は駆けまわっていた。
空気が熱い、酸素が薄くて……うう、苦しい……。
防御魔法“シールド”がなければ、秒で死んでるだろう。
「ぐっ……」
それでも、女の子を見つけなくてはと、震える膝をなんとか動かした。
二階にあがる。
黒い煙が舞うなか、まだ火の手がまわってない窓を開けてバルコニーにでた。すると、そこに女の子がいた。わんわんと、この世の終わりのように泣き叫んでいる。
「ママー! ママー!」
よし、助けるぞ。
僕は一気に駆けて幼女を抱っこした。
「ぴぇ……おにいたんは……草むしりの?」
「そうだよ。草むしりのお兄さんだ」
「あ、ありがとう。あたし怖くて足が動けなくて……」
「もう大丈夫だよ。あとはお兄さんにまかせて」
うん、とうなずく幼女。
僕はぎゅっとお姫様抱っこしてやった。そのとき……。
「あっ!」
なんと、“シールド”の効果がなくなった。
しまった。
必死にもう一度、詠唱するが……ダメだった。
どうやら、僕の魔力は枯渇したらしい。
もっと、レベルをあげておけばよかった。これも努力を怠った罰か……。
「くそぉぉぉ! 強行突破だ! 顔をふせてて」
「うん」
幼女はグッと下を向いた。
覚悟を決めた僕は、また一気に駆けて部屋に戻った。身体が急激に熱くなる。汗をかくなんてレベルじゃない。肌が溶けて落ちてきそうだ。
「おにいたぁぁぁん! こわいよぉぉぉ!」
「大丈夫だ! まかせろっ!」
勇気をふりしぼり、なんとか前向きに言ったものの。
もう部屋のなかは火の車だった。
灼熱の業火。
肌、髪、服、身体のすべて焼け焦げそうだ。
それでも……やるしかない。
「いいかい、手で口を抑えてて」
「ひっひぃいぃぃ」
「がんばるんだ。いいかいお兄さんにまかせてっ!」
「おにいたん……」
潤んだ瞳で、こくりとうなずく幼女。
「息を止めておくんだよ、いくよ、せーの!」
すぅ……んっ、と幼女は息を吸ってほっぺを膨らませた。
僕は、ぎゅっと幼女を抱きながら荒れ狂う黒煙のなかに潜りこんだ。廊下は炎のトンネルだった。速攻で走り抜け、階段に差しかかる。飛ぶように降りた。玄関までの廊下は火渡りのように燃えていて、走り抜けているまに靴と服が焼け焦げた。肌がめくれ激痛も走る。
「……ぐぅっ」
腕のなかの幼女の息がもたない。苦しそうにもがいている。
それでもなんとか、玄関に着くと……。
扉は朽ち果てた火柱で塞がれていた。
これでは外にでられない。
「そんな……」
と、嘆きの声が漏れ、力が抜ける。
「おにいたん……」
幼女が息をしていた。
僕は話しかける。なるべく微笑みながら。
怖がらせたくないから。死ぬことに。
「ごめん、僕が情けないばかりに……こんな僕は勇者様からクビになるのも当然だよね……」
「クビ? おにいたん、クビなの?」
「ああ、クビさ。僕はいらないんだって」
「そんなことないよ。あたし嬉しかったもん」
「……」
助けにきてくれてありがとう、そう感謝した幼女はガクッと首の力が抜けた。
「うぉぉぉぉ!」
焼けついた咆哮。
僕はありったけの力をふりしぼった。
情けない自分を殺したい。
くそっ。
なんで、こんなに魔力がないんだ、僕は。
修行を怠ったからだ。
努力するなんて大嫌いだった。
勉強も運動もろくにしてこなかった。
その最後の結末が……これかよ……くそ、くそっ……。
泣けてきた。
涙がこぼれ、幼女の髪を濡らした。
「うぉぉぉぉ!」
そのときだった。
ぽたぽた、と幼女を抱く僕の手に雫が落ちてきた。
僕はそんなに泣いてるのか?
と、疑った。
が、僕の涙ではない! とわかるほど、大量の水が降り注いできた。それはまるで、魔法のようなドシャ降りの……。
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