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第二章 火の女神リクシスの加護
29 火の神殿での修行 ②
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火の神殿に祀られたクリスタルは、赤い光りを宿している。このアステールの大地で火の魔法が使えるのは、この燃えるようなクリスタルの加護があるからに他ならない。
祭壇に立つリクシスさんが竜槍ゲイブルガを一振りすると、クリスタルスライムに対峙する僕に声をかけた。
「ラクトくん! 一匹あたりの獲得経験値は10万です。一気にレベルアップするために、さあ、クリちゃんを倒してくださいっ!」
ドキッとした。
目を丸くした僕は、頬がピンク色に染まる。
リクシスさんの口から物凄い言葉がまたもや飛びだしたので、なんだか興奮してしまった。
「クリちゃんを倒せば経験値10万……」
僕がそうつぶやくと、クリスタルスライム、通称クリちゃんが、
「キュルル」
と、鳴いた。
その神秘的かつ透明感のある姿とは対照的に、なんとも可愛い声だった。思わず、僕は頬をゆるめる。と、そのときだった。
「油断しちゃダメ! ラクトくんっ」
リクシスさんの声と同時に、クリちゃんは消えた。
どこにいった? と首を振ったがどこにもいない。
「上よ、ラクトくん」
リクシスさんの言葉通りに僕は顔をあげると、クリちゃんが飛んでいた。そのスピードは物凄い勢いで、とても目で追えるものではない。僕は焦った。
「こ、こんな魔物をどうやって倒せっていうの?」
リクシスさんは指先で自分の頭を、コツコツと叩いた。
「ここを使って戦闘してください。勝機とは論理的に生みだされるものです。さあ、クリちゃんの動きを読んで、どうやったら攻撃できるかやってみてください。もっとも、クリちゃんだって逃げてるばかりではありません。隙あれば攻撃をしてきますから、ご安全に」
リクシスさんは、にやりと笑いながら、ふわりと浮いた。そのまま、赤く光るクリスタルに手を触れると、ゴシゴシと拭き始めた。
「火のクリスタルちゃ~ん。よちよ~ち♡ ふきふきしましょうねぇ♡」
リクシスさんの手で磨れた火のクリスタルは、さらに赤く光る。それにしても、なぜリクシスさんは、赤ちゃん言葉なのだろう? 僕が首を傾けていると、高速移動するクリちゃんが攻撃を仕掛けてきた。
「うぉ!」
僕はとっさにクリスタルのこてを顔の前に構え、防御した。
キンッ、と弾かれたクリちゃんは、くるくると回転しながら、「キュルルル」と鳴く。すると、青白く光る魔法陣が出現した。次の瞬間。
ピカッドン!
雷が落ちた。
大理石の床を粉砕している。
クリちゃんは豆粒くらいの瞳で、僕のことをキリッとにらんだ。
まずい! まさか、雷を僕に落とすつもりか!?
「ラクトきゅ~ん、雷はどういうところに落ちまちゅかぁ?」
「え? 雷? ってかなんで僕にまで赤ちゃん言葉なんですか?」
「あ! すいませんつい……あの、ラクトくんは魔法学園で自然現象を習いませんでしたか?」
ハッとした。
僕はフルで頭を回転して、学生時代である魔法学園の授業を思いだした。たしか、ヒゲもじゃの魔道士がこんなことを言っていた。
『風、水の魔法をほどよく混ぜて、一定の条件を満たすと雷を発生させることができる。ちなみに、雷の性質は……』
僕はその先に言葉を思いだした。
そして、勢いよくクリスタルソードを掲げ、
「雷は高いところに落ちるっ!」
と、叫んだ。その瞬間だった。
ピカッチュドーン! と空気が震えるほどの落雷がクリスタルソードに直撃した。ガガガガガ、と振動するクリスタルソードは雷の力が加わり、真っ白に光り輝いている。
「うぉぉぉぉぉ! リクシスさ~ん、これどうしたらいいですかぁぁぁ」
「……ラクトくん、落ち着いて考えてください」
「ででで、でも、雷が剣にっ! ぐわぁぁぁ」
「解放してあげては?」
「あ、そっか……」
ふと、クリちゃんを見ると、まさか僕が雷を受けとめるとは思っていなかったようで、ピョンピョンと跳ねて逃げていった。そしてまた、シュッとその動きが秒で高速となる。とても、目では追えない。
「あわわわわっ、速すぎて狙えない」
「ラクトくん、目に頼りすぎてます。それに、なぜクリちゃんを狙うのでしょうか?」
「え? そのほうがいいかなって……」
「論理的に考えて戦闘してください。バカですか?」
「バ……バカぁ?」
「敵の魔力を感じて行動パターンを分析し、弱点を突いてください」
「そんな高度な戦闘技術ないですよ。さっきからむちゃくちゃすぎますって、僕は昨日までゴブリンを倒すにもやっとだった人間ですよ」
「……もう弱音ですか、ラクトくん? そんなんじゃ、私と友達になれませんよ」
「ううう……」
「ラクトくんの人生は、いつも楽な方、楽な方に行こうとしていたみたいですが、もうそれもおしまいにしませんか?」
「……」
「がんばっているラクトくんのかっこいい姿が見たいなぁ……」
ドキッとした。
僕の頭のなかで、リクシスさんのかわいい声がエコーする。
『ラクトくんのかっこいい姿が見たいなぁ……見たいなぁ……』
やったろうじゃん!
「うぉぉぉぉぉ!」
僕はクリスタルソードを正眼に構え、目を閉じた。
心のなかで、魔力の動きを探る。
クリちゃんがどこにいるのか……クリちゃん、クリ……。
ササササ、と高速で移動する白い光りを感じた。
僕はカッと目を開けると、その白い光りに狙いを定め、軽快に剣を振った。
ズザンッと轟く音を爆ぜながら、雷を帯びた斬撃が飛び、見事にクリちゃんに命中した。
「よっしゃ! ヒットだ」
と、僕は喜びに舞った。が……。
クリちゃんは雷を受けても平気な顔で、またピョンピョンと飛び跳ねた。むしろ、元気になってるような気さえする。
「え? ダメか……」
やれやれ、と言ってリクシスさんは首を振った。
「ラクトくん。魔物が唱えた魔法というのは、ほぼほぼ耐性があるんですよ? そんな初歩的なことも知らないんですか?」
「そうなのですか……知らなかった」
「……というか、ラクトくんって戦闘の極意すら知らないようですね」
ふぅー、とリクシスさんはため息をついた。
「今から私の言うことを絶対に覚えてください」
「はい」
「敵を知り己を知れば百戦危からず」
ええええ? 僕は慌てた。リクシスさんの言葉が難しくて、何を言っているのかわからない。僕は勉強のできも平凡だったのだ。アステールの古代文学などわかるわけがない。
「あの、それってどういう意味ですか?」
「簡単に言うとですね。敵の弱点などの情報を知った上で、自分の力量と合えば戦うというスタイルです。わかりますか?」
「……つまり、僕にはまだクリちゃんには勝てないと?」
やれやれ、とぼやいたリクシスさんはつづけた。
「まずは敵の情報をゲットすることですっ!」
「なるほど、どうやって?」
「少しは自分で考えてください。ラクトくん」
「……わかりました」
情報、情報……知りたいことは敵の力がどのくらいあるか?
そして、自分の情報はどうやって知るのだろうか?
ん?
ハッとした僕はやっと気がついて、思わず「ああっ!」と叫んだ。
「ステータスだっ!」
にこっと笑ったリクシスさんは、「御名答」と言って指を弾いた。
パチン、と鳴る音ともに、ブゥンとステータスがオープンされた。リクシスさんは白く光るアステールの古代文字を、すっと指先でなぞるとささやいた。
「これがクリちゃんのステータスです」
「うぉっ!」
僕はびっくり仰天しながらも、じっとステータスを見つめた。
「よ、読めねぇぇぇ……」
祭壇に立つリクシスさんが竜槍ゲイブルガを一振りすると、クリスタルスライムに対峙する僕に声をかけた。
「ラクトくん! 一匹あたりの獲得経験値は10万です。一気にレベルアップするために、さあ、クリちゃんを倒してくださいっ!」
ドキッとした。
目を丸くした僕は、頬がピンク色に染まる。
リクシスさんの口から物凄い言葉がまたもや飛びだしたので、なんだか興奮してしまった。
「クリちゃんを倒せば経験値10万……」
僕がそうつぶやくと、クリスタルスライム、通称クリちゃんが、
「キュルル」
と、鳴いた。
その神秘的かつ透明感のある姿とは対照的に、なんとも可愛い声だった。思わず、僕は頬をゆるめる。と、そのときだった。
「油断しちゃダメ! ラクトくんっ」
リクシスさんの声と同時に、クリちゃんは消えた。
どこにいった? と首を振ったがどこにもいない。
「上よ、ラクトくん」
リクシスさんの言葉通りに僕は顔をあげると、クリちゃんが飛んでいた。そのスピードは物凄い勢いで、とても目で追えるものではない。僕は焦った。
「こ、こんな魔物をどうやって倒せっていうの?」
リクシスさんは指先で自分の頭を、コツコツと叩いた。
「ここを使って戦闘してください。勝機とは論理的に生みだされるものです。さあ、クリちゃんの動きを読んで、どうやったら攻撃できるかやってみてください。もっとも、クリちゃんだって逃げてるばかりではありません。隙あれば攻撃をしてきますから、ご安全に」
リクシスさんは、にやりと笑いながら、ふわりと浮いた。そのまま、赤く光るクリスタルに手を触れると、ゴシゴシと拭き始めた。
「火のクリスタルちゃ~ん。よちよ~ち♡ ふきふきしましょうねぇ♡」
リクシスさんの手で磨れた火のクリスタルは、さらに赤く光る。それにしても、なぜリクシスさんは、赤ちゃん言葉なのだろう? 僕が首を傾けていると、高速移動するクリちゃんが攻撃を仕掛けてきた。
「うぉ!」
僕はとっさにクリスタルのこてを顔の前に構え、防御した。
キンッ、と弾かれたクリちゃんは、くるくると回転しながら、「キュルルル」と鳴く。すると、青白く光る魔法陣が出現した。次の瞬間。
ピカッドン!
雷が落ちた。
大理石の床を粉砕している。
クリちゃんは豆粒くらいの瞳で、僕のことをキリッとにらんだ。
まずい! まさか、雷を僕に落とすつもりか!?
「ラクトきゅ~ん、雷はどういうところに落ちまちゅかぁ?」
「え? 雷? ってかなんで僕にまで赤ちゃん言葉なんですか?」
「あ! すいませんつい……あの、ラクトくんは魔法学園で自然現象を習いませんでしたか?」
ハッとした。
僕はフルで頭を回転して、学生時代である魔法学園の授業を思いだした。たしか、ヒゲもじゃの魔道士がこんなことを言っていた。
『風、水の魔法をほどよく混ぜて、一定の条件を満たすと雷を発生させることができる。ちなみに、雷の性質は……』
僕はその先に言葉を思いだした。
そして、勢いよくクリスタルソードを掲げ、
「雷は高いところに落ちるっ!」
と、叫んだ。その瞬間だった。
ピカッチュドーン! と空気が震えるほどの落雷がクリスタルソードに直撃した。ガガガガガ、と振動するクリスタルソードは雷の力が加わり、真っ白に光り輝いている。
「うぉぉぉぉぉ! リクシスさ~ん、これどうしたらいいですかぁぁぁ」
「……ラクトくん、落ち着いて考えてください」
「ででで、でも、雷が剣にっ! ぐわぁぁぁ」
「解放してあげては?」
「あ、そっか……」
ふと、クリちゃんを見ると、まさか僕が雷を受けとめるとは思っていなかったようで、ピョンピョンと跳ねて逃げていった。そしてまた、シュッとその動きが秒で高速となる。とても、目では追えない。
「あわわわわっ、速すぎて狙えない」
「ラクトくん、目に頼りすぎてます。それに、なぜクリちゃんを狙うのでしょうか?」
「え? そのほうがいいかなって……」
「論理的に考えて戦闘してください。バカですか?」
「バ……バカぁ?」
「敵の魔力を感じて行動パターンを分析し、弱点を突いてください」
「そんな高度な戦闘技術ないですよ。さっきからむちゃくちゃすぎますって、僕は昨日までゴブリンを倒すにもやっとだった人間ですよ」
「……もう弱音ですか、ラクトくん? そんなんじゃ、私と友達になれませんよ」
「ううう……」
「ラクトくんの人生は、いつも楽な方、楽な方に行こうとしていたみたいですが、もうそれもおしまいにしませんか?」
「……」
「がんばっているラクトくんのかっこいい姿が見たいなぁ……」
ドキッとした。
僕の頭のなかで、リクシスさんのかわいい声がエコーする。
『ラクトくんのかっこいい姿が見たいなぁ……見たいなぁ……』
やったろうじゃん!
「うぉぉぉぉぉ!」
僕はクリスタルソードを正眼に構え、目を閉じた。
心のなかで、魔力の動きを探る。
クリちゃんがどこにいるのか……クリちゃん、クリ……。
ササササ、と高速で移動する白い光りを感じた。
僕はカッと目を開けると、その白い光りに狙いを定め、軽快に剣を振った。
ズザンッと轟く音を爆ぜながら、雷を帯びた斬撃が飛び、見事にクリちゃんに命中した。
「よっしゃ! ヒットだ」
と、僕は喜びに舞った。が……。
クリちゃんは雷を受けても平気な顔で、またピョンピョンと飛び跳ねた。むしろ、元気になってるような気さえする。
「え? ダメか……」
やれやれ、と言ってリクシスさんは首を振った。
「ラクトくん。魔物が唱えた魔法というのは、ほぼほぼ耐性があるんですよ? そんな初歩的なことも知らないんですか?」
「そうなのですか……知らなかった」
「……というか、ラクトくんって戦闘の極意すら知らないようですね」
ふぅー、とリクシスさんはため息をついた。
「今から私の言うことを絶対に覚えてください」
「はい」
「敵を知り己を知れば百戦危からず」
ええええ? 僕は慌てた。リクシスさんの言葉が難しくて、何を言っているのかわからない。僕は勉強のできも平凡だったのだ。アステールの古代文学などわかるわけがない。
「あの、それってどういう意味ですか?」
「簡単に言うとですね。敵の弱点などの情報を知った上で、自分の力量と合えば戦うというスタイルです。わかりますか?」
「……つまり、僕にはまだクリちゃんには勝てないと?」
やれやれ、とぼやいたリクシスさんはつづけた。
「まずは敵の情報をゲットすることですっ!」
「なるほど、どうやって?」
「少しは自分で考えてください。ラクトくん」
「……わかりました」
情報、情報……知りたいことは敵の力がどのくらいあるか?
そして、自分の情報はどうやって知るのだろうか?
ん?
ハッとした僕はやっと気がついて、思わず「ああっ!」と叫んだ。
「ステータスだっ!」
にこっと笑ったリクシスさんは、「御名答」と言って指を弾いた。
パチン、と鳴る音ともに、ブゥンとステータスがオープンされた。リクシスさんは白く光るアステールの古代文字を、すっと指先でなぞるとささやいた。
「これがクリちゃんのステータスです」
「うぉっ!」
僕はびっくり仰天しながらも、じっとステータスを見つめた。
「よ、読めねぇぇぇ……」
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