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第三章 勇者パーティの没落
4 皇女セイレーン
しおりを挟むフバイ帝国の宮殿は壮麗かつ広大だ。
その歴史は古く、千年前に起きた神々と魔族の大戦において、人間と手を結んだ神々が、人間の皇帝を住まわせるため、この宮殿を魔法によって建造したと言われている。
宮殿の頂上にある翼の生えた女神像は、城下町で健やかに暮らす民を見守っているようだ。さらに、その背後に広がるのは幾何学模様に整備されたフラワーガーデン。なんとも色鮮やかな花が咲き誇っている。そんななかを、わたし、ミルクちゃん、アーニャさんの三人は、我が主人である勇者アフロ様を探していたのだが……。
「おい、あのトイレじゃないか?」
と、言ったアーニャさんが指をさした。
そこには綺麗な花が咲き乱れる緑の絨毯のなかにある小さなトイレがあった。わたしたちは、おそるおそる近づいてみる。すると……!?
あん、あんっ、という女の喘ぎ声が聞こえてくるではないか。
ドキッ、とわたしたちの心臓が飛び跳ねた。
まさか……と思いながら身構えていると、あたりは急に静かになった。鳥の鳴き声だけが、かすかに聞こえてくる。しばらく待っていると、ひとりの男がでてきた。
勇者アフロ様だった。
服装は乱れ、ガチャガチャとベルトをしながら歩く。その表情は明るい。お肌はぷるぷるのツヤツヤ。なにかを成し遂げた後のような、満足げな笑顔を浮かべている。しかし、突然、目の前に現れたわたしたちを見て、びくっと身体を震わせた。
何かマズイことでもあるのか?
ふいにアフロ様は背後を振り返る。
すると、トイレからひとりの女性がでてきた。
内股で、どこか恥じらいを見せつつ下を向いて歩いている。やがてわたしたちの存在に、あっ! と気づき。その乱れたうす紅色のドレスを、いそいそと整える仕草から、この女性が何をしていて、どこの誰なのかが秒でわかった。
皇女セイレーン。
年齢は一八歳。わたしと同い年だ。透き通るような白い肌。紺碧の瞳。さわやかなラピスラズリのゆるふわヘアが風に揺れている。
「あら……」
彼女はそうささやくと、目を細め、顔を赤らめた。
(な、なに、この反応? セイレーンって淫乱?)
すると、アフロ様は何事もなかったように訊いてくる。
「皇帝の話は終わったか? ほんと長いから困る……」
……。
みんなぽかんとした顔で、しばし唖然とする。
(アフロ様のトイレも長いのですが……)
アーニャさんとミルクちゃんは、アフロ様と皇女セイレーン、交互の顔に目線を動かしていた。
あやしい……。
そう思っているようで、アフロ様に質問攻めを始める。
「何をしていたのですか? アフロ様」
ミルクちゃんの先制攻撃。
だが、アフロ様は眉ひとつ動かさず華麗に交わす。
「ん……トイレだが? 朝食をいっぱい食べ過ぎたようだ」
「それだけですか? セイレーンさんと何かしていたのでは?」
「ハア? 知らん。セイレーンがたまたまトイレにいただけだが」
「ほんとですか?」
「ああ、俺を信じろ、ミルク」
「……はい」
(ええーっ!? ミルクちゃん……いつもの論理的思考はどうしちゃったの?)
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