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第三章 勇者パーティの没落
5 皇帝からのクエストを告げる
しおりを挟む「皇女のセイレーンがこんな外のトイレを使うわけないだろっ!」
唇を震わせるアーニャさんが、ぴしゃりとアフロ様に質問を投げかけた。
「まあな、セイレーンは手を洗ってただけかもな。知らんけど」
「はあ? ほぼ一緒にでてきて知らんけどってなに?」
「俺がトイレからでたら、セイレーンが手を洗ってたんだよ」
「嘘だっ! セイレーンとエッチしてたんでしょ?」
「おいアーニャ、よく考えろ。女のことを知りつくしたこの俺が、こんなちっぽけなトイレでエッチするわけないだろ? どうせやるならベッドにいく」
「むっ……たしかに」
なんとなく、言いくるめられたアーニャさんは肩を落とした。
アフロ様は、ひょうひょうと口笛でも吹くような余裕の表情を見せると、セイレーンに向かって手を振る。
「それではアフロ様、ご機嫌よう」
そう涼しげに別れの言葉を紡ぐ皇女セイレーンは、何事もなかったように去っていった。まるで風に舞う花びらのごとく、ほのかに香る化粧水の匂いを残して……。
ああ。
あんなに綺麗な人は、そうそういない。フバイ帝国いちの絶世の美女とうたわれている皇女に、アフロ様、あなたはいったい何をやっているんでしょうか。バレたら帝王にぶっ殺されますよ? や~れやれ、なんて言って後頭部をかくアフロ様は、ふいにわたしを見つめ、やおら口を開いた。
「で、皇帝からのクエストはなんだったんだ? またどこかで魔族が暴れてるんだろ、どうせ」
わたしはアフロ様を現実に戻してやろうと思い、緊張感を含んだ重い声で言った。
「アフロ様、いいですか、心して聞いてください。帝王からのクエストは……」
「おう、言ってみろ」
「わたしたちの母国、フルール王国の西の砦が魔王軍によって没落しました」
「ほう、ついに魔王軍が動いたか……それにしてもフルールの西の砦は堅固なはず。あそこがやられては、王国内に魔王軍が侵入するのも時間の問題だな……」
「はい。つまり、今回のクエストは……」
わたしは言葉を切った。
ミルクちゃん、アーニャさん、そしてアフロ様の視線がわたしの口もとに集まる。
アフロ様……。
あなたを信じてもいいのでしょうか?
わたしは、もしも母国が滅亡の危機に瀕してしまうようなら、わたしはあなたでさえ裏切る覚悟です。どうか、そんなことにならないように……と胸に秘めながら、わたしはクエストの内容を告げた。
「フルール王国の要地、西の砦を魔王軍から奪還せよ。報奨金は十億です」
アフロ様は目を細め、「そうか」と静かにつぶやき、
「十億か、一生遊んで暮せる金額だな……」
と、空を仰ぎながら話すのだった。
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