上 下
42 / 68
   第三章  勇者パーティの没落

  5  皇帝からのクエストを告げる

しおりを挟む

「皇女のセイレーンがこんな外のトイレを使うわけないだろっ!」

 唇を震わせるアーニャさんが、ぴしゃりとアフロ様に質問を投げかけた。

「まあな、セイレーンは手を洗ってただけかもな。知らんけど」
「はあ? ほぼ一緒にでてきて知らんけどってなに?」
「俺がトイレからでたら、セイレーンが手を洗ってたんだよ」
「嘘だっ! セイレーンとエッチしてたんでしょ?」
「おいアーニャ、よく考えろ。女のことを知りつくしたこの俺が、こんなちっぽけなトイレでエッチするわけないだろ? どうせやるならベッドにいく」
「むっ……たしかに」

 なんとなく、言いくるめられたアーニャさんは肩を落とした。
 アフロ様は、ひょうひょうと口笛でも吹くような余裕の表情を見せると、セイレーンに向かって手を振る。 

「それではアフロ様、ご機嫌よう」

 そう涼しげに別れの言葉を紡ぐ皇女セイレーンは、何事もなかったように去っていった。まるで風に舞う花びらのごとく、ほのかに香る化粧水の匂いを残して……。
 ああ。
 あんなに綺麗な人は、そうそういない。フバイ帝国いちの絶世の美女とうたわれている皇女に、アフロ様、あなたはいったい何をやっているんでしょうか。バレたら帝王にぶっ殺されますよ? や~れやれ、なんて言って後頭部をかくアフロ様は、ふいにわたしを見つめ、やおら口を開いた。
 
「で、皇帝からのクエストはなんだったんだ? またどこかで魔族が暴れてるんだろ、どうせ」

 わたしはアフロ様を現実に戻してやろうと思い、緊張感を含んだ重い声で言った。
 
「アフロ様、いいですか、心して聞いてください。帝王からのクエストは……」
「おう、言ってみろ」
「わたしたちの母国、フルール王国の西の砦が魔王軍によって没落しました」
「ほう、ついに魔王軍が動いたか……それにしてもフルールの西の砦は堅固なはず。あそこがやられては、王国内に魔王軍が侵入するのも時間の問題だな……」
「はい。つまり、今回のクエストは……」

 わたしは言葉を切った。
 ミルクちゃん、アーニャさん、そしてアフロ様の視線がわたしの口もとに集まる。
 アフロ様……。
 あなたを信じてもいいのでしょうか?
 わたしは、もしも母国が滅亡の危機に瀕してしまうようなら、わたしはあなたでさえ裏切る覚悟です。どうか、そんなことにならないように……と胸に秘めながら、わたしはクエストの内容を告げた。
 
「フルール王国の要地、西の砦を魔王軍から奪還せよ。報奨金は十億です」

 アフロ様は目を細め、「そうか」と静かにつぶやき、

「十億か、一生遊んで暮せる金額だな……」

 と、空を仰ぎながら話すのだった。
しおりを挟む
1 / 5

この作品を読んでいる人はこんな作品も読んでいます!

異世界転移!?~俺だけかと思ったら廃村寸前の俺の田舎の村ごとだったやつ

ファンタジー / 連載中 24h.ポイント:22,962pt お気に入り:2,331

【完結】後悔していると言われても・・・ねえ?今さらですよ?

恋愛 / 完結 24h.ポイント:2,146pt お気に入り:8,433

処理中です...