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第三章 勇者パーティの没落
10 ラクトの家
しおりを挟む「は~い! どちらさまですか~」
開けられた玄関の扉から元気な声が響く。
顔をだしたのは、可愛らしい女性。ラクトくんのお母さんだ。わたしたちはフバイの帝都居住区にあるラクトくんの家に訪ねていたのだが、ラクトくんのお母さんは、アフロ様の顔を見るなり、びっくり仰天した。
「きゃあ、勇者様っ!」
「御無沙汰してます……」
「あ、その説はどうもありがとうございました」
「いえいえ……あのあと、絵画は売れましたか?」
「はい、おかげさまで」
「それはよかった」
アフロ様は胸をなでおろした。
すると、ラクトくんのお母さんは、思いだしたように頭をさげる。
「勇者様、ラクトがお世話になりました。あの子、パーティを抜けてしまったみたいで……」
「……はい。まあ、ラクトくんもがんばってはいたんですが、私どもの育成にはどうも合わなかったみたいで、逆に申し訳ありません」
「いえいえ、あの子は優しすぎることが欠点ですから、ビシバシと鍛えて克服しないことには……とても偉大なる賢者にはなれません」
「うむ、お母さんの言う通りです。修羅の道を抜けた者こそが、偉大なる賢者に辿りつくと私も信じております」
「ああ……甘やかしてばかりにあの子を育てた私の罪です……」
そう言うとラクトくんのお母さんは深々と頭をさげた。
(え? アフロ様とラクトくんのお母さんって知り合いなの?)
省みると、ラクトくんは母子家庭だと言っていたのを思いだす。
ということは、二人はいったい、どういう関係なのか……。
わたしたち女子三人は興味津々で、そのやりとりを見守っていた。
「頭をあげてください。お母さん」
「あ、すいません……で、勇者様、今日は何か?」
「実は、ラクトくんに、もう一度パーティへ入ってもらえないかと頼みに伺いました」
「あら、それはまた、ラクトも喜ぶと思います」
「ラクトくんはいますか?」
それが、と言ったラクトくんのお母さんは、しおらしく肩を落とす。どうやら、ラクトくんは留守らしい。
「ごめんなさいね~ラクトは家にいないのよ~」
「そうですか。どこへ行ったのかわかりますか?」
アフロ様の質問に、ラクトくんのお母さんは、「あ! たしか手紙があったわ」と言ってから、ちょっと待ってね、と付け加え、すたすたと家のなかに戻っていく。そのすばしっこい仕草が、なんだかラクトくんに似てるような気がして微笑ましく思った。
ふと、アフロ様の顔色をうかがうと明るい。心なしか、安堵しているようだ。おそらく、ラクトくんがいなくて拍子抜けしたのだろう。“パーティに戻ってこい”と言う心の準備が、まだできていないようにも考えられる。
すると、隣にいるアーニャさんが腕を組んで感心していた。
「ラクトのお母さん、相変わらず綺麗だな~」
「知り合いなんですか?」
と、わたしは訊いた。
アーニャさんは顎に手を当てて、思いで話を語る。
「うん、何回か見たことあるよ。ラクトはうちの出身校、帝都魔法学校の後輩なんだ。ラクトはあの頃から平凡でさ。なにをやらせても、パッとしない。私らはよく、ラクトの剣術や魔法演習なんかを笑ってみていたよ。だってさ、ラクト以外の生徒はみんな貴族で英才教育を受けているからな。今思うと、あんなエリート学園はラクトに合ってない気がするよ。お母さんには悪いけどね。ラクトは、もっとのびのびとした学園のほうがいいのにな」
「たしかに……それでも、ラクトくんがそんなエリート学園にいたなんて、意外」
「いや、ぶっちゃけお金さえ払えば誰でも入れるよ。理事も先生も貴族たちからの賄賂にまみれたクソ学園だもん。まあ、ラクトくんのお母さんくらい美貌があれば、お金の力はいらないかもね。他にもいろいろと入学方法はあるからさ……」
そっか、と言ったわたしは、ラクトくんの家を眺めた。
お世辞にも、お金持ちの家ではなかった。ありきたりなレンガ造りの住宅。外観から台所と居間、あと二つ部屋がある間取りだと思われる。おそらく、ギリギリの経済環境。それでも、ラクトくんが少しでもいい学園を卒業し、将来出世できるよう、お母さんなりにがんばっていたのだろうな、と察した。
しばらくすると、玄関の扉が開き、可愛らしい顔がまたでてきた。
「ラクトの手紙があったのよ、ほら」
アフロ様が受け取った手紙を横からのぞく。
その内容はこうであった。
『リクシスさんの家に泊まります。あと、もし新しいパーティに就職できたらそのまま冒険の旅にでるかもしれません。それでは、いってきます。 ラクト』
綺麗な書体だった。
だが、その内容に驚愕した。
(リクシスさんの家に泊まるですって!?)
リクシスさんとは火の女神様のことだ。しかも、家に泊まるということは、二人は、もうそういう関係になっているということなのだろうか? わたしは急に胸が苦しくなっていることに気づいた。わたし、ラクトくんのことをなんとも思っていなかったのに、今では好きに変わっている。
いったい、いつからこうなったの?
わたし……。
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