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エピローグ

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  あれから3日後の夜。
  
  フクさんとマッキーは俺の家に遊びに来ていた。
  
  約束していた映画鑑賞会を開いていたのだ。
  
「うぅ、うぐ……」

  泣いているフクさんに、俺は黙って数枚のテッシュをわたす。
  
  マッキーはぽかーんと55インチの馬鹿でかいテレビに目が釘付けになっている。映画はあまり観ないのだろうか。しきりに俺にあらすじやら歴史的背景やらを色々と聞いてくる。
  
「なぁ、この映画って怖くないか?」

「うん……一応ラブストーリーなんだけどね」

  マッキーはDVDのパッケージを手に取ってながめている。
  
「ライフ・イズ・ビューティフルか……どういう意味?」

「ああ、人生は美しいって感じかな」

  すると、フクさんが丸めたテッシュをマッキーに投げつけた。
  
「おい、黙って観てろ!  いまいいとこだぞ!」

  たしかに、映画はクライマックスを迎えていた。
  
  戦争で焼け焦げた瓦礫(がれき)の中に1人の幼い少年が立っている。
  
  そこにガタガタとキャタピラが駆動する音が近づく。
  
  戦車だ。少年は兵隊に助けられる。
  
  お父さんの言った通りになったと喜ぶ少年であった。
  
  だが、お父さんはすでに死んでいる。
  
  そのことに少年がいつ気がつくのかと思うと……もう、ヤバイ……うわぁ、ダメだ、涙がとまらない。
  
「ぅう……ぅえーん」とすすり泣く俺。

「うわぁ、ヤベーなこの映画は……」とフクさんは感嘆の声。

  マッキーは1人だけぽかーんとしている。
  
「ぅぅう……電気をつけて……」
  
  パッと部屋が明るくなる。俺がスマートホームに声をかけたのだ。
  
「うおお!  びびったー」

  びっくりするフクさん。なぜいきなり電気がついた?  って顔をしている。
  
  マッキーはコーラを一口飲むとフクさんに質問を投げかけた。
  
「フクさーん、そういえば、あのプールのギャルとライン交換しましたっけ?」

  ポケットをまさぐるフクさんは「んん?  たしか交換したぞ」とぼやく。
  
「さすがフクさん!  ちょっと遊べないか聞いてくださいよ」とマッキーは期待を込めてフクさんにすりよる。

  面倒くさそうな顔をしてスマホをいじくるフクさん。
  
「しょうがねえなあ……」

「お願いしますよぉ、フクさんだってもう3日もたつと溜まるでしょ?」

「うーん、まあな……」

「あのギャルのどMっぷり、ヤバかったっすからね」

「だなぁ……」

  すると、トルンっと着信音が鳴りフクさんのスマホが震えた。
  
「あ……今日は無理だってさ」となげくフクさん。
  
  え?  と言いながらスマホの画面をのぞきこむマッキー。
  
  俺も気になってのぞいてみる。

『ごめ~ん、今日は彼氏とごはんいく~また誘って~♡』

  俺とマッキーは顔を合わせて「カ~レ~シ~!?」とハモった。
  
  すると、フクさんがクールに言った。
  
「なに驚いてるんだ~おまえら、あんないい女に彼氏がいないわけないだろうが?」

  たしかに、ごもっともですよ、フクさん。
  
  で、ですが、彼氏がいたのにあの乱れっぷりは驚嘆に値する……と俺は思った。
  
  フクさんは呑気なものでどこ吹く風。この人、たぶん1人だけでアンナさんと会ってるんじゃないか?  と疑念が生まれる。
  
  まあ、そんなことはどうでもいい。俺はフクさんに疑問をぶつける。
  
「で、でも、なんで彼氏がいるのにあんなことするんでしょうか?」

  フクさんはタバコに火をつけようとして、ああ、ここは人ん家だと思い起こしやめると俺の方を向いて語った。
  
「んん……まあ、俺たちはスィーツみたいなもんよ」

「え?  スィーツってお菓子ですか?」

「ああ、別腹ってことさ」

「……え?  どういう意味ですか?」

「まあ、サカにはまだわからないだろうが、女は寂しかったりストレスが溜まってくると狂うんだよ……そんな時はいつも食べてるご飯よりも、ちょっとスィーツが食べたくなっちまうんだなあこれが、不思議だろ?」

  俺は首をひねった。本当に女っていうのは、よくわからない生き物だ。
  
「あーあ、彼女、欲しいっすね~」

  とマッキーは言いながらソファにズボッと座った。
  
「そうだな……」とフクさんも同意する。

  彼女か……考えたこともなかった。俺はもう一度フクさんに質問する。
  
「あの、フクさん、彼女ってどうやったらできるんですか?」

「んん?  なんだ、サカ!  おまえも彼女が欲しいのか?」

「……あ、はい……」

「そうか、そうだよな、童貞も卒業したしな、次は彼女だな」

「……は、はい、ですが……彼女ってどうやって作るんでしょうか?」

  首を振ってやれやれと冷笑するフクさん。
  
「あのな、サカ、そもそも彼女は作るものじゃない」

「え?」

「彼女っていうのはなあ、結ばれるものだ」

「は、はあ……」

「男と女は結ばれて相性がいいと離れられなくなるんだ、理屈じゃない……告白とかの言葉だけじゃダメなんだよ」

「……?  すいません、よく言ってる意味がわかりません」

「まあ、サカは一発女を口説いてみろ!  話はそれからだ」

「え?  それって恋をするってことですか?  俺、好きな人なんかいませんよ」

「サカ、まあそう焦(あせ)るな、恋はするんじゃなくて落ちるものだぜ」

「落ちる?  え?  恋は落ちちゃうんですか?」

  やれやれと腕を組んでいぶかしむフクさん。

  すると、マッキーがどかっと俺の隣に座った。
  
「まあまあ、とりあえずなあ、サカ、いいなって思った女の子がいたら話かけてみろよ、恋に落ちるって意味がわかるかもしれないぜ」

「ほんとですか?」

  と俺は冗談っぽく言った。
  
  フクさんはすっと立ち上がって窓を開けて縁側に出ると、気持ちよくタバコをふかしはじめた。
  
  にゃーなんてうち猫がフクさんの足にすり寄っている。
  
  生温い夜風が吹いていた。
  
  すると、甘いバニラの芳しいフレーバーな香りが部屋の中にも漂ってきた。
  
  なるほどなあ……恋に落ちるか……。
  
  そうだな、焦らないでいこう。
  
  心強い仲間もできたし。もうすぐ夏休みも終わる。
  
  新学期が始まり、学校に行ったら、積極的に女の子に話しかけてみようと思う16歳の夏であった。
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