転生したら妹の婚約者は暴君でした

花野りら

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 青年時代

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 王都セピア、噴水広場のカフェテリア。
 ルージュはティカップを持ちあげると口をつけた。

「ふぅ、おいし……」
 
 紅茶の香りを楽しみつつ、街並みを眺める。
 王宮を出て大通りを歩くと噴水があり、その周りを囲むように様々な店が並んでいた。賑わう観光客、それに店員たちの客引きの声が響く。
 ルージュは見晴らしのいいテーブル席に腰を下ろし、優雅に紅茶を飲んでいたのだが、隣に立つ執事シオンの顔は、どこか浮かない表情であった。

「お嬢様、呑気に紅茶など飲んでいる場合ですか?」
「何よ、シオン?」
「このままではロゼッタ様と変態王子が結婚してしまいますよ?」
「そうね」
「何か手を打たないとっ!」
「シオン、落ち着きなさい。だから、こうして紅茶を飲んで考えているんじゃない……」

 ルージュはカップを傾けてすすると、テーブルに置いた。
 
「さて、ロゼッタの気持ちを聞くとしましょうか」

 は? といってシオンは首を傾けた。
 
「お嬢様は、本当に何を考えているかわかりません」
「ごめんねシオン、私は転生者なので、一般の人に比べて思考回路が少々変わっているのです」
「テンセイシャ? 何ですかそれは……本当に意味不明です」
「まあ、とにかく私にまかせなさい、前世の知識で悪を倒してみせるわ」

 お願いします、といってシオンは頭を下げた。
 ルージュは目を細め、目にかかる金髪をかきわけた。サラサラと流れる柔らかい髪に、ほのかに甘い香りが混ざっている。シオンは顔を赤く染めていたが、ふと真剣な表情になった。
 人が近づく気配を感じとったのだろう。彼はさっと背後を振り返る。そこには、二人の男女が歩みよっていた。
 
“  ロゼッタ・アルティーク 伯爵令嬢 次女 ”

“  ラムス・セピア 王国第二王子 ”

 美男美女の二人が並んで歩いていた。物凄く目立つ。王都の民がざわめき頬を赤く染め、きゃっ、きゃっと小鳥のように鳴いている。気品たっぷりに歩くロゼッタは、ふっと笑いながらルージュの手元を見つめ、あらぁ、と声をかけた。
  
「お姉様、こんな下町で紅茶など飲んで……」

 といったロゼッタはピンクの髪をかきあげると、ティカップを覗きこんだ。
 
「なにこの黒っぽい茶葉の色? 不味そう……」
「あら、意外と美味しいわよ。ロゼも飲む? 」
「結構よ、あたしの口には最上級の茶葉しか入らないから」
「そう……残念」
 
 姉のルージュは、妹ロゼッタのことを、ロゼ、と親しみをこめて呼んでいる。
 妹は可愛い。姉としてではなく、ふつうにそう思う。
 かたや、ルージュは綺麗系の女。妹のロゼッタは女の種類でいうと、姉と正反対といえた。ロゼッタはピンク髪の可愛らしい女性で、スタイル抜群。もちろん、ルージュもおっぱいは大きいが、妹はさらに大きい。よって、巨乳を自慢にしている節もある。
 妹が街を歩けば、周りにいる男たちの視線を集めるほど魅力があり、ちょっとした騒ぎになることもある。ロゼッタは自分の最大の武器がわかっているのだろう。
 それと、妹の服装はエロい。
 胸を大胆に開けた黒いレースのドレス。その丈は短く、すらりと伸びる生足が、なんともセクシーな女の色気を醸している。
 
「……」

 ルージュは紅茶を、ぐいっと飲み干し、眉をひそめるロゼッタを横目にカップを置いた。
 すると隣にいたラムス王子が、白い歯を見せて朗らかに笑う。
 この人はいつもマイペースで、兄ノワールとは正反対にさわやかに笑う男だ、とルージュは思った。彼の容姿は群青の髪に漆黒の双眸、性欲の匂いがまったくしない、清潔な美青年。

「ルージュさん、今日はいい天気ですね」

 そうね、とルージュはラムスの何気ない挨拶に、さらっと返すと続けた。
 
「で、なぜラムス様はロゼッタと一緒に?」
「ああ、それは僕がアルティーク伯爵家に行ったら、ちょうどロゼッタさんが出掛けるところだったんです。話を訊いたらルージュさんと会うというから、それでついてきたというわけです」

「ストーカーかよ」

 とルージュは吐き捨てた。
 
「え? ストーカー? なんですかそれは?」

 ラムスの問いに、なんでもない、と返すルージュは、
 
「とりあえず、座ったら?」

 とロゼッタだけを見つめて促す。
 肩をすくめたロゼッタは椅子を引いて腰をおろした。
 重たそうな胸をテーブルにのせて、ラムスをチラッと見る。
 ルージュは勘づいた。
 これは、巨乳アピール、であると。
 あたしはお姉様よりもおっぱいが大きいのよ、ほら、見てラムス様ぁ……。
 なんて、考えているに違いない。
 前世の日本という国には、そのようにして男を誘惑する女が腐るほどいる、という知識がルージュの頭のなかにはあるのだ。合コン、と呼ばれる晩餐会では特にそのような光景が見られた。女という生き物は、男からモテる技術を、したたかに鮮やかに磨いているものなのである。
 しかし、ラムスはロゼッタのことは眼中になく。
 さも当然のようにルージュの隣に座った。
 
──あんたは座らなくてもいい。

 と、ルージュは内心で毒づいた。
 すると、足早に店員が駆け寄ってきて注文を訊いてきた。ロゼッタは炭酸水、ラムスは彼女と同じものを、といってルージュのことを見つめた。
 
「ルージュさんが美味しそうに飲むから、僕も飲みたくなって」

 ぴくり、とロゼッタの眉が吊りあがった。
 あら、イラついているわねロゼ、とルージュは思った。
 
「で、お姉様、こんなところに呼び出してなんのようですか? うちで話せばいいものを……」
「お父様に訊かれたくないので」
「ふぅん、さすが天才のお姉様ね、何を企んでいるの?」
「ロゼ、あなたを呼んだのは他でもありません」
「何よ」
「あなたの婚約者、ノワール王子のことです」

 ふん、とロゼッタは鼻で笑った。
 
「どんな人なの?」
「それが……先ほど王宮にてノワール様と謁見し、ある事実が浮き彫りになったのです」
「あのさ、お姉様」
「なんですか?」
「その難しいしゃべりかた、うんざりだからやめてよ。いつもみたいに異世界の言葉を入れて話してよ」
「……おけまる」
「それでいいのよ、そのほうが楽しいから」
「マジか、神対応あざっす」
「で、何? ノワール王子がどうしたの? お姉様」
「エチエチに乱交している」

 ふぁ? と声が裏返ったロゼッタは大きな瞳をさらに開いた。
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