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青年時代
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しおりを挟むノワール王子がいる部屋の扉を開けようとルージュは手に力を込めたが、硬く閉ざされていた。彼女は眉をひそめ、
「どうしよう……シオン」
と心配をする。
だが、銀髪の執事はにっこりと笑い、
「俺のレイピアに切れないものは、お嬢様以外にありません」
「え?」
「お嬢様、離れて見ていてください、危ないですから……」
シオンの腕が振りあがると、高速にレイピアの一閃がきらめく。
ザンッ! と刻まれる音が響くと、扉は簡単に切り刻まれた。
すっとレイピアを鞘に納めたシオンは、次に右足で扉を蹴る。
ドガッと無理やりに開かれた扉の向こうで、ぽかんとした顔をする王子ノワールと騎士団長ギルバード。とっさに抱き合うエレンヌとヴァン。
そこからのシオンの行動は迅速だった。風のように疾走すると、まずノワールの首筋に手刀を喰らわせ気絶させた。どさり、と王子は膝から崩れ落ちた。
その瞬間、ギルバードは剣を抜いたが、シオンの移動スピードは王都セピアでトップレベルの強さを誇る騎士団長の速さを、遥かに凌駕していた。まるで獣さながらにシオンは虚空に飛びあがると、ギルバードの背後にまわり込んだ。ザッ! と切り裂くような手刀が赤胄の隙間から見える柔肌の首筋を打つ。
「お、おまえは、片腕の執事……」
と、ギルバードは言葉を漏らしながら、どさりと倒れた。しばらく意識を取り戻すことはないだろう。シオンは、ちらりと抱き合っている恋人たちを見据え、
「逃げるぞ」
といった。さらに、ついてこい、と人差し指を壊れた扉を示す。
だが、ぶち破った扉の衝撃音が王宮じゅうに響いたのか、ざざざ、と騎士たちが集まってきた。シオンはルージュのことが心配になり首を振って探す。
「いた!」
彼女は壁際にある甲冑の影に身を隠していた。
すると騎士たちがシオンを逃すまいと扉の前に立ち塞がる。
賊が出たぞ! とらえろ! などと騎士たちの声があがった。
「やれやれ……」
とシオンは首を振った、その次の瞬間、かっとエメラルドの瞳が開かれた。身体に戦闘を知らせる合図だ。相対する騎士へ向け、腰から抜き放つ銀色に輝くレイピア、その光りが龍の牙のごとく飛ぶように走る。
騎士の数は六名、彼らの装備していた銀色の甲冑が面白いように切り刻まれ、男たちは半裸を晒す。シオンのレイピアの切れ味は抜群で、果物の皮一枚を残して切ることができる技術を持っている。まさに、神業。よって、騎士の甲冑を切ることなど、いとも簡単だ。わぁぁ、と叫ぶ騎士たちを、ふっと見据えるシオンは言い放つ。
「死にたくなければ、どけ」
震えあがる騎士たちはその場で立ち尽くした。圧倒的な強敵に対して、なすすべもない。
最強の剣士シオンはヴァンを鋭く見つめ、立て、と命令すると歩きだす。その背中はダークな蒸気を漂わせていた。こくりとうなずいたヴァンは、ぬぎぬぎと自分のジャケットを脱ぐとエレンヌの肩にかぶせ、介護しながらゆっくりと立たせた。
エレンヌの救出に成功した。
王宮の広場にて、彼女は、ううう、と嗚咽を漏らしつつ涙をこぼした。あとから、こっそりと駆け寄ってきたルージュが、
「ヴァンさんとエレンヌさん、ですね?」
と尋ねた。三日月のような青い瞳が、笑う表情を見せる。
ヴァンはいきなり現れた黒装束の娘に困惑しつつも、はい、と答えると、いきましょう、とルージュは促し、ぐいっと親指を立てて示す。いつまでも、王宮にいては危険だ。
シオンを先頭にルージュ、ヴァンとエレンヌの二人が続く。
帰り道も下水道からだった。薄暗いところが逃げてなのか、エレンヌは怯えながらヴァンの腕を掴む。
二人は止まっていた時計の針を動かすかのように、ゆっくりと歩いていた。
そんな恋人たちの姿を、ルージュは微笑みながら見つめていた。温かい目で、羨ましいと思いつつ。
やがて、王宮から抜けでた四人。
だが、エレンヌの下半身が何も履いていないことにルージュが気づいた。
「シオン、ズボンを脱ぎなさい」
「え? お嬢様?」
「エレンヌさんに履かせてあげるのです」
「ええええ!」
「シオン、これは命令です」
「ううう……」
仕方ないなあ、といわんばかりの顔を浮かべるシオンは、しぶしぶ腰の紐を解く。
「あまり見ないでください……」
「見てないわよ」
頬を赤く染めるシオンは、おもむろにズボンを脱ぐとヴァンに渡した。温もりのある衣類に、若干の違和感を覚えつつもヴァンは、ありがとうございます、と感謝をし、エレンヌにそれを履かせた。サイズは大きいが、腰で紐を縛れば何とかなった。エレンヌは笑顔で、ありがとうございます、とお辞儀をする。
「んもう、おかげで俺は街を歩けませんよ……」
「それでいいのです」
え? シオンは首を傾けた。
「いいですかシオン、しばらく休暇を取りなさい」
「ええええ! そんなぁ、俺はお嬢様と一緒に……」
ダメです、とルージュはぴしゃりといった。
「騎士団長ギルバードは抜け目のない正義の男です。シオンの正体をきっと見破っているはず」
「たしかに……そうすると、俺は王都じゅうで指名手配になっているかもしれない」
「御名答、だから山にでも隠れていなさい、シオン」
「ええええ!」
「たまには師匠の顔でも見てきたら?」
わかりました、といったシオンは、風のように夜空の下を駆けていった。ぐっと涙を堪えて。
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