転生したら妹の婚約者は暴君でした

花野りら

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 青年時代

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 翌日、朝陽を背景にルージュは丘の神殿にいた。
 こつんこつんとヒールを鳴らし礼拝堂に入っていく。礼拝堂の前に立ち尽くすと、目を閉じ、お祈りを捧げる。
 
「…………」

 しばらくすると、のっそりと現れた司教から、おはようございます、と声をかけられた。ルージュは目を開き、お辞儀をする。
 彼は白い髭を生やしたお爺さんだが、ピシッとした姿勢から元気いっぱいに見える。礼拝堂の壁に飾られてある大人の背丈ほどある絵画の数々。それらを目で示すと、素晴らしい絵画だ、といって褒めた。
 微笑むルージュは、いえいえ、と返事をする。
 神殿に寄付したルージュの絵画は神々を描いた美しくも荘厳としたもので、どれも国宝級の素晴らしさがある。しかしルージュはそのことを鼻にもかけない。それよりも、天気のことや土砂崩れの話しを司教にふった。そのなかで、それとなく王子ノワールの評判についても聞いてみた。司教は微笑みを浮かべつつ、
 
「ノワール王子は信仰も厚く、国のことをよく考えていらっしゃる。海の向こうにある他国との貿易にも乗り気で、王都セピアはより豊かになるであろう」

 なるほど、とルージュは答えた。
 
「ノワール王子が参拝に訪れる日はわかりますか?」
「今週の日曜の正午だが……それが何か?」

 いえ、ちょっと気になったもので、とルージュはにっこりと満面の笑みで返し、話をうやむやにさせた。美少女の笑顔は最強の武器となり、いくら敬虔な司教でもその神にも匹敵する美しさの前には、うむ、としか反応するしかできなかった。
 それでは失礼します、といったルージュは踵を返して礼拝堂から去った。
 外の空気は冷たくて、朝日が昇って温まるの待つ木々や草花が、夜露の雫で葉を濡らしている。自然も涙をながす。その美しさを描きたい、そう思うルージュは景色を目に焼きつける。
 ルージュの特殊能力、見たもの正確に図面に描くことができるのだ。
 そのためには、頭に景色をインプットしなければならない。
 しばらく、時間もかかる。
 
「……よき」

 そうルージュはつぶやくと、るんるんと跳ねるように歩きだした。
 綺麗な景色を描く、それはルージュにとって一番楽しいこと。どうしたってテンションがあがってしまうし、歩くスピードも速く。
 そんなノリで、山を登っていた。
 
「んっしょ、んっしょ……」

 丘の神殿よりもさらに標高がある場所に向かっている。しだいに足下がゴツゴツとした岩や、汚泥がまみれた道になった。念のため登山用のブーツを履いてきてよかったと、ルージュは思った。おまけに帽子も被っている、気分は登山家だった。
 今日の目的は他にもあるのだ。
 王子ノワールが神殿に参拝に来る日取りを知ること。
 それと未来を変えるための計画を練ること。
 自然を味方につけて、暴君を倒すのだ。
 
「ここね……」

 ルージュの立つ位置から、一段下がったところに道があった。
 なだらかな山道、そこを馬者が通り過ぎていく。
 すぐ側には、大きな岩があった。ルージュはよく岩を観察した。ゴツゴツとした巨大な岩だ。縦三メール、横幅二メートルほど。
 
「この大きさなら、よき……」

 ルージュは眼下にある山道を眺めながら想像する。
 もしもぬかるんだ土壌によって岩が転がり始め、やがて山道に落下した場合どうなるか。そして、たまたま馬車が通ったらどうなるか。
 
「馬車は落石によって潰され、乗っている人の命の保証は……できない」

 さらに、その馬車が王子ノワールが乗車していたら、どうなるか?
 ルージュは、にやりと笑った。
 
「やってみる価値は、ありそうね」

 ただ、問題はどうやってタイミングよく岩を転がすかだ。ノワールを乗せた馬車が通過する時に、上手く岩の落下と相まって衝突しなければならない。
 そのためには、二人の人間が必要だ。一人は馬車が通過するのを確認し、岩の落下を合図する人。それと、岩を落下させる人、この二人だ。
 岩の落下については、梃子の原理を使う。
 長い棒を岩の下腹に入れて、ぐいっと上から押す。
 一発勝負だが、やってみる価値はある。
 あと実行する人材だが、嬉しいことに目星はついている。彼には王子を殺す動機も十分にある。快く了承し、この犯罪計画に参加してくれるだろう。
 それに彼が犯罪者になることは、絶対にない。
 なぜなら、この犯罪は他殺としての立証が難しいからだ。ノワールの死亡原因は岩の落下による自然災害。よって、岩を落下させたことを証明しなければならない。だが、この王都セピアの聖騎士たちの推理力では、この謎を解くことは難しいだろう。いや、違う、そうではない。謎、そのものにすらならない。
 
「自然災害によって、王子ノワールの死亡が処理されれば、まったくもって事件性はないのだから……」

 ルージュはそう確信し、岩肌を優しく触れた。岩の感触はザラザラとし、朝陽に照らされることなくずっと木々の影にあるので、ひんやりと冷たかった。
 
「ノワールの身体も冷たくしてね……土に埋められるように……」
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