ピアニストの転生〜コンクールで優勝した美人女子大生はおじいちゃんの転生体でした〜

第４章 クラブ編

９ 俺は転生を信じない

  事務所の中は、クラブから漏れる重低音がBGMとなっていた。
  
  もっとも、今の俺にとってはソフィアの再生したピアノの音が異世界すぎて、非日常的であるはずのダンスミュージックですら心落ち着く音楽となっていた。
  
「ふう……」
  
  一息ついた俺は、なかなか話しかけに来ないブラッドに一石を投じた。

「うん、ソフィアの演奏はパーフェクトだよ。コンクールで優勝できるわけだ」

  俺はソフィアが演奏したのだと強調した。

  ソフィアはささやかな微笑みを返すのみだった。

  そこへ、ブラッドの野太い声が響く。

「いや、違うな！  これはソフィアちゃんの演奏じゃない」

 ブラッドは椅子には座らずに通り過ぎると窓の方へと近づいた。
 
 夜の窓ガラスは黒く、室内の光を反射して薄っすらとブラッドを映し出す。
 
  その顔の表情は険しく。外の揺れる街灯を眺めながら語りだした。

「これはモルガン先生が弾いたラフマニノフだ。間違いない。俺が学生の頃、好きだった女子の演奏が見たくて練習中のオーケストラの会場に忍び込んでことがあるんだが、その時、指揮者をしていたのがモルガン先生だった。これは生徒たちの間で有名な話なんだが、たしか、モルガン先生はピアニストの生徒の演奏が気に入らなくて代わりにピアノを演奏したんだ。突然の超絶技巧にみんな驚いてさ。弾き終わった時には生徒たちから拍手喝采の嵐だった……」

  俺はモルガンの演奏を克明に記憶しているブラッドの話は嘘ではないと思った。
  
  すなわちこの演奏はモルガンで間違いないらしい。
  
  そういうことになると、モルガンはやはりソフィアに転生していたのか……。
  
  だが、ソフィアはもうおじいちゃんが転生することはなくなったと言った。
  
  したがって、もうソフィアは生で演奏をすることはできない。

  では、どうやってモルガンがソフィアに転生したことを証明すればいいのか？
  
  くそ。
  
  ブラッドに聴かせたことで余計に転生の謎がややこしくなってしまった。

  どうしたらいいんだ……。
  
  その時、俺の頭の中でケリーの顔を浮かんだ。
  
  そうだ！  ケリーならモルガンの演奏を知っているじゃないか！
  
  俺は家に帰ったらケリーにモルガンのことを聞いてみようと考えた。