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12.その日の夜
パーティーが終わり、それぞれ解散となった。
エルは神殿の後片付けがあるから遅くなるそうで、ツィリムは魔術師団の方々とどこかへ行った。
「レストランが呼んでくれた辻馬車がもうすぐ来るから、帰ろうか」
カイルとふたりきりになったパーティー会場で、膝の上に乗せてくれる。
「うん。ちょっと疲れちゃったから、帰ってのんびりしたいな」
「イズミルは強いとはいえ女の子だからな。人が多かったから負担になったんだろう」
「いや、そうじゃなくて。人が多いのは大丈夫なんだけど、ドレスに慣れてないからコルセットに締め付けられてるのがしんどかっただけ」
レストランの人が辻馬車が到着したことを教えてくれる。
カイルが抱き上げてくれて、慌てて首に腕をまわす。
このひと月でお姫様だっこにも慣れてきてあまり恥ずかしいと感じなくなってきた。
慣れって恐ろしい。
外へ出るともう空は群青色で、ほんの少しだけ残ったオレンジがカイルの足元に長い影を作っていた。
馬車の窓から見える夕焼けに染まった街並みはとても綺麗でずっと眺めていたいくらいだったけれど、カイルの指が私の首すじを伝って顎を捕まえ、カイルの方を向けさせられる。
紅蓮の瞳が私を捉えて離してくれなくて、吸い込まれそうなくらい。
馬車が止まるまでただただ互いを見つめ合う穏やかな時間を過ごした。
家についたらドレスを着替えて、髪を綺麗にほどいてもらった。
もちろん自分で着替えたけど、カイルはちょっと不服そう。
わかってるんだよ、自分でも。
私とカイルは結婚したわけで、もう結婚式も終わった。
つまり、次は初夜ってやつなのだ!!
私の男性経歴は高校のころに付き合っていたひとりきりだし、その人とは軽くキスをしただけだった。
カイルは私にひどいことはしないと思うけど、わからないから不安で仕方ない。
パジャマにしている薄手のシャツワンピースに着替えた私を抱き上げて、寝室のベッドに運んでくれるカイル。
ベッドの端に腰掛けて、私はいつものように膝の上で横抱きにされる。
「愛しているよ、イズミル。
最初に君に会った時、知らないところにいきなり来てしまってとても不安そうだったのに、泣きだすこともせずにまっすぐに俺の目を見て助けを求める強さに惚れた。ただ、イズミルに強くあってほしいと思っているわけではない。俺には全てを預けて甘えて欲しいし生活の全ての面倒を見させて欲しいとも思う。
俺は初めて自分の意思を通そうとする女性に会ったし、自分の想いを訴える姿はとても美しい。イズミルは俺からみたらとても幼いしかわいらしいんだが、そんな見た目で強く自分らしく生きようとするのがとても魅力的なんだ。
イズミルは特別な女性で、俺は釣り合わないかもしれないけど何があってもイズミルの味方だし、結婚式で誓った通り、一生をイズミルを捧げる。ずっと愛し続けるよ。」
真摯な言葉に思わず涙が零れる。
その涙を指先でそっと拭ってくれた。
「私も、カイルのことがとっても大事だから、大切にしたいし、大切にしてほしい。この世界にとつぜん現れて、何もわからずに困ってる私を助けてくれて、面倒を見てくれてる。カイルはとても優しいひとだから、大好きなの。
カイルがいなかったら私はこの世界で生きて行けなかったかもしれない。本当にありがとう。私を助けてくれて、そのうえ好きになってくれて。この世界の女性とは違うことも多くて迷惑をかけることもあると思うけど、嫌いにならずにいてほしい。カイル、大好き!」
カイルの首にまわした腕に力を込めて抱きつくと、力強く抱きしめ返してくれた。
私からキスをすると少し驚いたように目を見開き、それから深く口づけてくれる。
歯列を割って侵入してくる舌に応えるように自分の舌を絡めると、他に何も考えられないくらいに気持ちよくて、カイルのぬくもりに夢中になってしまう。
「俺はイズミルが異世界からきた人だってことは全く気にしない。 “救国の乙女” だってことも、 “龍の姫君” だってことも。イズミルはイズミルのままでいいし、そのままのイズミルを愛したい。
今日の披露パーティーの時、俺が挨拶をした後にイズミルが隣に立って話てくれたことは本当に嬉しかった。俺は、俺の隣に立って笑ってくれるような女の人と結婚したいと思っていたし、イズミルは俺のためになることをしようと頑張ってくれる。それがとても嬉しいんだ。」
私、今とっても幸せだな。
「元の世界での私はたぶんもう死んでいて、帰れないと思う。元の世界に帰りたいと思わない訳じゃないんだけど、もうこの世界に大切なものがたくさんできた。
両親や友達に申し訳ないとは思うけど、もし帰れたとしても帰らないと思うくらい、この世界の人たちが大好きになったの。
これは、間違いなくカイルのおかげ。
カイルが私のことを大切にしてくれるから、私は頑張ってこの世界で生きていこうって思えるの。
本当にありがとう、カイル」
私の髪をカイルの手が撫でてくれる。
カイルの手は綺麗だけど、大きくて、ゴツゴツしてる男の人の手だ。
その手が心地よくて猫が甘えるみたいに擦り寄ると、ふっ、と笑って軽く口づけてくれた。
カイルの指先が私のシャツワンピースのボタンをプチプチと3つほど外す。
思わず身体を強ばらせた私を宥めるように肩をそっと撫でてから、胸元を強く吸い上げる。
恥ずかしくてぎゅっと目をつぶっていると、カイルが離れた気配がした。
自分の胸元をみると赤いキスマークが浮かんでいた。
「イズミルは、俺のものだ。どこにも行かないでくれ」
懇願するかのように言われて、大きく頷く。
この赤いはなびらは私がカイルのものだって証だから。
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