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11.護衛
しおりを挟む「で? これ全部買い取りでいいのか?」
「ええ。お願いするわ」
「今日の晩メシの分は別に確保してあるんだろうな?」
「……? まだ買ってないわよ?」
「お前は料理出来ねえのか?」
心底呆れた、という風なドルクに、不満げなティーファ。
彼女にとって料理は食べる専門で、手に入れる手段は《狂錬金術師|《マッドアルケミスト》》が趣味で作ったものを貰うか、名無しの下っ端が作ったものを奪うか。
「自分で製造したことはありませんわねぇ」
「……そうか。好きにしやがれ。とりあえずこれは買い取りな。計算してくる」
普通の魔獣素材なら計算するまでもないが、食べ物の買い取りは今までしたことがない。
遠方から買い入れる際の値段も考慮して、多少高くなるだろうし、と計算機を叩く。
その間カウンターの前でぽけっと待っているティーファは非常に周囲の注目を集めていたが、本人はどこ吹く風。
数多の視線など気にもならない。
周りの人々は、昼間の騒ぎを噂で聞いて、手を出さずに観察しているだけだが、ティーファに話しかける勇気ある人物がひとり。
「あのさ、さっきの荷台って、君の納品物?」
「ええ」
「この村にも農家が来てくれて良かったよ! 僕はルーザ。弓士だ。よろしくね」
「私はティーファ。とっても普通な農家よ! よろしくね」
また普通の名乗りが出来たわ! と喜ぶ彼女はその気持ちが現れて薄く微笑んだ。
そのほほえみが、目の前の少年の心を撃ち抜くことも知らずに。
「あ、ああ! ぜひ!
ところで君は一人かい? 住んでる所は?」
「一人で、向こうの道をずっと行ったところに住んでるわよ」
「魔ノ森の方じゃないか! 危ないよ!
僕が護衛に行ってあげる!」
ルーザはまだ少年と言えるほど若いが、実力を買われてこの村まで遠征に来ている。
自分より幼い者などいない環境に突然現れた小さな女の子。
守ってあげないと、と思うのは当たり前だった。
しかし。
「私より弱い人に護衛なんてしてもらってどうするのよ?」
事実であるが故にサラッと言われた一言は、少年のプライドを深く傷つけた。
「いやっ、そんなことはないっ!! 僕の方がっ……!?」
歯向かう少年に対して、自然にティーファの手が動いた。
滑らかな動きで、誰も気づかないうちに喉元に手をかける。このまま握ればいつでも生命を奪えることを示すように。
「あら、威勢がいいわね。そのまま動いてみれば?」
そうしたらどうなるか、分かっているだろうな、という脅し。
先ほどはあんなに魅力的に見えたほほえみだが、今は同じ笑みなのに恐怖しか感じない。
「ひ、ひぃっ!?」
「うん、大人しいことは良いことよ。喧嘩はしちゃダメだ、って言われてるからこれで終わりにしてあげる」
パッと手を離された少年は、その場に崩れ落ちた。
「おい、ティーファ。喧嘩は禁止だと、昼間に言ったろうが!」
そこへ飛んできたドルクの怒鳴り声。
「ケンカはしてないわよ? 単にお喋りしてただけじゃない」
「揉めるな、ってことだ! もっと穏便な方法は取れねぇのか?」
「これ以上穏便って、どうするんでしょう?」
人形じみた動きでこてんと首を横に倒す彼女は本気で分かっていない様子。
だって、抜刀もせず、血も流さず、それどころか相手に痛みを与えることすらしなかったのに!
これ以上どうすればいいって言うの?
「手を出す前に、話し合え。護衛は要らない、と言えばそれだけで終わっただろう」
「ふーむ……。ふつうとは、難しいのですね……」
自分は普通になりたいと願い続けてきたが、こんなにも難しいものだとは。
ティーファは真剣に考え込んでいるが、ドルクはため息と共に遠くを見つめる。
たった半日で2回も揉め事を起こしたのだから、そろそろ出禁にするべきか、などと考えて。
……いや、その方が意味不明なトラブルを起こされそうだ。目の届く範囲に置いておいた方が被害は少ないだろう。
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