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2.ロケットビーチハイキングコースへの誘い
サイボーグGX08725SA ”G”
しおりを挟むここはザンガイシティの外れ。
細々したジャンク屋やサイボーグ向け飲食店などが広い通りの左右にまばらに立ち並ぶ。
多くは廃業しており、もはや廃墟同然だ。
ここにいた人たちは、より安全なシティの中心部に移り住んでいったのだろうか。
ヒトや機械もまばらで、閑散としている。
時はある夏の夕方。
だいぶ傾いたオレンジ色の陽光が周辺のシティの残骸や細々とした商店の長い影を作っている。
そんな場末のさらに町外れで、一人のくたびれたサイボーグの男が立ち尽くして何かを見ている。
くたびれてしみのある長袖の青いネルシャツと七分丈のカーキのカーゴパンツ、大きな合成皮革のブーツ。
そのスジのものが見れば、足から除くわずかなメカ部品や、機械の義眼、顔のパネルの継ぎ目の構造などで、彼が高度に機械化された、しかもかなり改良を加えて高性能化されてはいるものの、ベースはかなり古い型のサイボーグだと見抜くことはできるだろう。
ただ、素人が見れば、ただのくたびれたサイボーグ、だ。
彼はかろうじて営業しているらしいカフェの外壁に貼り付けられているプラスチックペーパー製の古いポスターに見入っていた。
ポスターは色あせ、茶色く変色しており、ところどころ文字もかすれている。
相当長く、そこで風雨にさらされていたようだ。
とは言え、この手の古びた打ち捨てられ放置されているポスターなんかはいくらでも見られる。
しかしその男は、それをじっと見ている。
そこに書かれているのは、「ロケットビーチハイキングコース」というハイキングイベントへの参加者を募集する内容だ。
12.5kmという距離や、健康へのメリット(サイボーグ的な)、ビーチにあるという旧世界の巨大なロケットの残骸と思しきシルエット、にこやかだが、逆ににこやかすぎてちょっと胡散臭い女性サイボーグの姿、連絡先…
これを見ている男は、G(ジー)という名前で自分を名乗っている、古いサイボーグだ。
自分がいつ生まれたか、今後いつまで生きるか、そんなことを考えなくなってからもうかなりの時が経つ。
その間、ただひたすら一人で、この世界で生き残ること自体を目的として生きてきて、そしてその通り、生き残ってきた。
そんな彼には自分の本当の名前はあまり意味はない。
本名よりも自分のボディパーツの補充やアップデートのために申告する自らの古く、そして珍しい機械脳の型番の方を相手に伝えることが多いため、その頭文字であるGと名乗ることにしている。
彼はさすがに大戦前の「旧世界」の生き残りではないが、それでも彼は少なくとも200歳だ。
「旧世界」ー人類と、その宿敵「インテリジェンス」(インテリ)という高度な機械知性体との間に最後に行われた1000年前の大規模な”戦争の前の世界”
その最後の大戦で、人類はインテリを殲滅させることまではできなかったものの、かろうじて彼らを北極に追いやることに成功した。
しかし戦争のダメージは大きく、人類の文明は崩壊し、歴史はほぼ断ち切られた。
いまは人類とインテリの危ういバランスの上に成り立っている「間氷期」とも言える時代。
戦後1000年かけて再構築されたヒト、サイボーグ、機械知性体、半獣半機、残存するインテリの残党などが織りなす新しい「生態系」の中で、彼は200年を生き抜いてきた。
そんな彼はそう孤独だった。
この厳しい世界で一人で生き抜けるからこそ染み付いた、住み慣れた孤独。
むしろ一人だからこそ生き抜けた、と、心のどこかで彼はそう思っている。
それでも、戦後1000年を経て、人類は復興としてその文明を再構築し始め、星の新たな生態系に馴染みつつある。
人類は再び生きることにポジティブな理由を見いだせるようになっている。
そんな空気を彼も感じ始めているため、Gはその孤独の価値に少し疑問を持つようになってきたのかもしれない。
故に、ふらっと食糧と自身のボディパーツの補充のために立ち寄ったこの町外れで、不意に見かけたありふれたポスターの「ハイキング」という、どこか牧歌的なイメージや、ポスターの中で不可思議に笑う女性に魅入られたのかもしれない。
しかし彼自身はそんなことには自覚的ではない。
彼の機械脳も生体脳も解釈できない何かによってポスターに釘付けになり、立ち尽くし、書いてある情報を何度も反芻して読み返してしまっていた。
そこにある何かのために。
彼は(大勢でハイキング?何がそんなに楽しいのか?)などと表層ではもちろん思っている。
そう、住み慣れた、飼いならした「孤独」があくまでも邪魔をする。
「生き抜く」ために役に立たないことへの拒否感を生み出す。
(行って何になるんだ?こんな偏屈な古いサイボーグが混じっても難しい立場になるだけだろ…というか、このイベント、もうやってないだろ?)
かれはそう自分に言い聞かせるように思考しつつも、首を傾げるようにしてポスターの女性を見つめる。
首の中の古いが手入れの行き届いたアクチュエータがシュルンと音を立てる。
そのとき突然、彼の頭の中に直接、元気のいい女性の言葉が響く。
『あ、やっとつながった! こんにちは!ハイキングに興味がおありですか?!』
(続く)
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