LIFE-5万年の残光 それでも生きるということ

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2.ロケットビーチハイキングコースへの誘い

看板娘ツムギと浜辺のロケット

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『はじめまして!私はこの看板のエージェントAI、ツムギといいます!よろしくお願いします!』

Gは面食らった。
事態の把握のために体中のメカとバイオのデバイスが一気にモードを切り替えて高速演算を開始。
それらのデバイスにエネルギーを供給する心臓のモーターの回転数が跳ね上がった。
これは生体なら、「ビクッとした」そのものの挙動だ。

それにそもそも彼の交わす会話と言えば、場末のジャンク屋や食料品店の、同じく孤独を巧みに飼い慣らすタイプのぶっきらぼうな連中とのボソボソとしたやり取りのみ。
そんな彼の機械脳内に突然降って湧いた快活な女性の声を理解するには、彼の言語野プロセッサがここ200年しまいこんでいた「元気のいい女性」音声理解モジュールを呼び戻すための時間が数ナノ秒必要だった。

「きみはいったい…!?」
Gは目を見開いたまま、慌てて機械脳内の声ではなく実際に声に出してきく。
ポスターの女性に向かって。

『あ、びっくりさせてしまい申し訳ありません!普段はもう少し穏やかに信号を送るのですが、何分私もお客様との会話が久しぶりでして…』

『あとお客様の機械脳の通信モジュールがかなりお古いようで、そのプロトコル解読に時間がかかったのと、電子的な”ノック”の作法が不明でして、こんな唐突な呼びかけになってしまいました。大変失礼しました!』

『改めまして、ツムギと申します!ポスターを”凝視”いただきありがとうございます!ここで呼び込みやってもう数十年!昔は結構立ち止まるヒトもいたんですが、最近はなかなかここまで来るお客様がお見えにならなくて。でも数年ぶりに、お客様にじっくり見ていただけたおかげでトリガーが入り、無事に起動することができました!』

「ツムギ」がまくしたてる。
どうもポスターを誰かが見ると、脳内のオープンな会話用の通信回路に割り込み、広告目的の会話を行う、というエージェントのようだ。
この薄いプラスチックペーパーの中にそこまでのデバイスが仕込まれている、というわけか。
それをGが起動してしまったようだ。

しかし、Gが”凝視”し出してからツムギが呼びかけるまでにはかなり時間がかかった。ツムギいわく、それは、Gのサイバーアーキテクチャーが非常に古く、そのプロトコルがツムギの標準機能では解読できず多くの時間がかかったからだという。

ツムギは外連味のない口調で、まだ気圧されているGに構わず、ハイキングへの勧誘ルーチンを開始した。

『まず、このロケットビーチの魅力をわかっていただきたいですね!その絶景と歴史!』

ツムギいわく、それはここから数キロのところにある、かつては湖だった場所。先の大戦中の気候変動で、すっかり干上がって砂の海になっているが、昔は水辺だった痕跡ははっきりと地形に残っており、きれいな砂浜がそのまま砂漠になっている。旧世界の素材であるセラ・メタルの粉末も混じったその砂漠は、朝夕の時間帯に日の光を受けて大変きれいにきらめくのだとか。

『そして歴史!あのロケットはいったいどこからきたのか?!』



ツムギが高らかに演説口調で言う。
砂漠の真ん中にそのロケットは頭を下にしてつきささっているんだと。『ポスターの絵と違うのは広告表現上の都合!ご容赦ご愛嬌!実物はもっとすごい!』

今となってはあれがいつ、どこから来たのかは誰も確信を持って言えない。
テクノロジー考古学者によると、少なくとも2万年前の旧世界、人類とインテリの戦争が断続的に続く中で、その戦争によって人類の技術が発展しそのピークを迎えた頃の技術で作られた軌道移民船を護衛していた戦闘艦ではないかと。
その一艦が事故か、インテリの攻撃を受けて不時着したものではないかと。
そんな太古の技術だけに、今では作り出せない材料ナノ・セラ・メタルでできているのはもちろん、機械制御プロトコルも、通信仕様も、使われている言語も全て異なり、現世のテクノロジーではもはや手も足も出ないのだ。
いつか、旧世界のテクノロジーが、すくなくともナノマテリアルでできた記憶素子の解読さえできるようになれば、このロケットはまさに宝の山、いや、宝塔となるはずだと…一気に滔々とツムギが喋る。

Gの対サイバー防御プログラムがそうした音声通信にマルウェアやウィルスが含まれていないかリアルタイムチェックで大忙し。
何も含まれてはいないのだが。

『そんな歴史あるロケットのあるところまでは、集合場所の第3灯台後から12.5km。遠くもなく、近すぎもせず、ちょうどいい塩梅!』

『ハイキングのスケジュールは、まずこの第3灯台のふもとでみんなでお弁当を食べながら、参加者同志で歓談していただきます。ここで一つ会話のきっかけとして、みなさんに「思い出の品物」もしくは「記憶」を持ち寄っていただき、会話を弾ませていただきます!その後、打ち解けたところでみんなでロケットまで歩く!そして、ロケットにはその中腹に東屋がありますので、そこでお茶会を行いさらに親交を深め、そこで解散!といった流れです!その後は…』

「ちょ、ちょちょ、ちょっと待て!」

怒涛の営業トークにGの生体脳が情報処理の限界を迎えて悲鳴を上げる。
機械脳は従前の性能を取り戻しすでに12.5kmの砂漠ハイキングにおけるエネルギー消耗度、メカ部品の損耗、砂塵による潤滑部の問題発生リスクを計算し対応策が完成していた。
このあたりの機能はGの機械脳がもつ通称クスムラ=CSMRA-Combat/Survival Missoin Risk Assesment機能が自動的に実行されたのだった。

『はい!質問はいつでもどうぞ!』

「これはあれか、行軍訓練とか、砂漠でのサバイバル演習とか、そういう類ではないのだな?」

『めっそうもございません!私たちは純粹に、このアポカリプスにおける人類同志と、そしてたまに機械同志、人類と機械、その他諸々、みんなが仲良く未来を「紡ぐ」そんな機会を提供したい一心でこうした催しを行っています!』

「…ええっと、じゃあ、何人ぐらい参加するんだ?」

『様々ですねえ。基本は毎週土曜日の11時に集合している定期開催イベントで、二人の時もあれば、15人ぐらいの時もあります』

「一見さんもいるのか?」

『もちろんです!毎回そういった方はいらっしゃいますよ。そのほうが多いです』

「……持ち寄る思い出、とか、記憶ってなんだ?」

『そこはもう、100% Up to youです!思い出のホロ写真、懐かしのおもちゃ、機械置換した後の自分の生体脳のパラフィン漬け、生涯で釣った機械魚の一番大きなホロ魚拓!そんなものを持ってこられた方もいました!』

「なくてもいいのか?」

『もちろん、それもお客様次第です!』

『ところでお客様、私は広告プログラムなので、お客様の思考を直接電子的に読むことは禁じられていますし、どうもお客様の耐サイバー防御は相当高度でとても私にはかないません。しかしです!』

「しかし何だ…?」

『わたくしにはわかるのです…わたくしは営業マシンとして、超Aクラスの感情推察エンジンが組み込まれています。』

「だからなんだ?」

『それを駆使し、かつ、先程のような数分間もの視線をいただけましたので、もう私にはお客様のお考えが手に取るようにわかります…参加、したいですよね?』

「何言ってやがる。そんなことお前にはわかるはずがない」

ちょっと気色ばんでGが反発する。目をそらす。

『良いのです…それでよいのです…ふふっ』

「ち、オレはもう帰る。こう見えて忙しいんだ。AI営業なんかに関わるんじゃなかったよ」

『あ、お客様、申し訳ありません、私は今日喋りすぎたようでそろそろエネルギーが切れてスリープに入ります。でもその前に、これだけはお伝えしますね』

そういってツムギはGのオープン回路のメッセージボックスにパッケージを送ってきた。
Gのサイバーセキュリティが素早くスキャンし安全を確認。
隔離メモリでオープン。

「なんだこれは?」

『ハイキングは明後日の土曜日。11時から。集合場所の座標データと、ロケットの中腹にある東屋に入るためのパスコードです。入口のコンソールでこれを入力すれば、中に入ることができます』

「いいよ、オレは行かん」

『まあ、覚えておいてください…ソレでは…お待ちしております…私は明日の朝、また日が昇ればチャージして…話せる…ようになりますので、何かご質問がございま。。。。』

よほどエネルギー消費が激しかったのか、ツムギの声は途中でフェードアウトしてしまった。

「何なんだよまったく!押し売りもいいところだな」

Gに残されたのは目の前の相変わらず古ぼけたプラスチックペーパーのポスターと押し込まれたデータパッケージ。
ポスターのツムギ?かもしれない女性サイボーグが笑っている絵はそのままだが、心なしかその目がやさしくなっている?

データの中身は地点の座標、11時という時間のテキスト、そしてパスコード。

パスコードは平文でこう書かれていた。

”0001”

「全く…何だってんだ…こんなふざけたパスコード、入ってくれって言ってるようなもんだろ…」

夕日はさらに傾き、もうほとんど真横からGの顔を照らす。

道端に転がる残骸たちが、カラカラといつもより少し大きく風にゆられて音を立てていた。
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