私の話を聞いて頂けませんか?

鈴音いりす

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 俺の部屋の目覚ましが鳴り、体を起こす。
 早く寝たおかげか、体が軽い。かなり余裕がある時間に起きたけど、朝ごはんを作るならちょうど良い時間だと思う。
 制服に着替えて学校の用意をして、リビングに向かう。日和の部屋を通りすぎる時、何の音も聞こえなかったし、まだ起きてないんだろう。そう思ってリビングに入った──
「──おはよー優也。もうすぐできるし、座って」
「おはよう……ん?」
 リビングに入って、ふわっと朝ごはんに匂いがして首をかしげる。
 座ってキッチンの方を見ると、寝癖とかもちゃんと直して、日和はキッチンに立っていた。
「だーかーら、起きるって言ったでしょ。んで、早く起きた方がご飯を作る」
「まぁ、そうなんだけど。ほんとに起きてると思わなかった」
「うっさいわね……あー、そだ、昨日の夜に夏姉と話した?」
「あぁ、話したよ。そしたら今日の夜、みんなでご飯食べに来ないかって」
「じゃ、晩ご飯は夏姉のところで……秋の案内終わったら連絡してよ。校門で合流ってことで」
「おっけー」
 普通に登校して、普通に授業を受けて、二人に「また後で」と残して、千秋と校門を出た。
「千秋、今日は本当にありがとう。助かるよ」
「いえいえ、これくらい。優也さんは、特に何がみたいとか、ありますか?」
「そうだな……穂泉のスーパーって、美風より大きい?」
「そうですね……大きいのは大きいですけど、ほとんど行かないです。美風にあるスーパーで揃いますし」
「そっか。一応、案内お願いしていいか?」
「はいっ」
 歩いてスーパーに着いて、店内をぐるっと回ってから、次の場所を相談して男物の服が置いてあるお店へ向かうことにした。
「美風のと、あんまり変わらないね」
「どちらかというと、美風のスーパーの品揃えが最近になって良くなったので、穂泉まで出てこなくてよくなりましたね」
「そうなんだ?」
「観光客の増加……が主な理由だと思いますよ」
「まぁ、観光地としてかなり有名だもんな」
「有名、ですか?」
「たまにテレビで特集されてるけど、祭りの季節は特に取り上げられてるな」
「そうなんですね。どんな風に取り上げられてるんですか?」
「美風の丘が割合としては一番多くて、花の種類とか景色とか。あとは露店とか、学校の話もあるよ。実行委員挨拶みたいなので、生徒も話してたな」
「深鈴さん達もインタビューとか、受けたんでしょうか」
「どうだろう、後で聞いてみるか」
「そうですね。あ、この先ですっ」
 服屋に着いたところで、かなり時間が経っていたことに気付く。
「中、入りますか?」
「いや、今日はいいかな。日和達を待たせるわけにはいかないし」
「ふふっ、そうですか。では戻りながら、簡単に何があるのか話しますね」
「うん、よろしくお願いします」


 二人と合流し、とりあえず話は歩きながらということで、全員『MIKAZE』へと足を進める。
「秋、ありがとね。穂泉に行くの、いつか分かんなかったし、助かったわ」
「いえいえ。準備の方は大丈夫でしたか?」
「まだまだやること少ないから大丈夫だよ~。来週か再来週から忙しくなりそうかな」
「忙しいと言えば……深鈴達、インタビューって受けたか?」
「テレビの?」
「そうそう」
「テレビなら来週だよ。秋ちゃんやゆーゆーにも出てもらおうと思ったんだけど、私一人にしてくれって言われちゃった」
「え、じゃああたし出なくていい?」
「でも、私一人は絶対嫌だからひよりんだけは何とか! ってオッケーしてもらったよ」
 一瞬、嬉しそうにした日和だったけど、深鈴の言葉を聞いて──
「──すーずー? なんであたしを」
 深鈴の頬を伸ばして遊んでいた。
「ふぃよりん、いふぁい」
「まったく……」
 ひとしきり遊んで満足したのか、深鈴の頬を離し、日和は先を促した。
「だって、一人でテレビは緊張する……何なら、その時だけひよりんに委員長を託そうと思ってたくらいだもん」
「やめて、あたしは付き添いとして隣で大人しくしてるわ」
「……秋ちゃん、私の代わりに委員長として、テレビに──」
「──む、無理ですっ。そ、そういうのは苦手ですし……」
「忘れてたけど、秋って人見知りなのよね」
「……です」
「でも、ゆーゆーには人見知りが出ないよね。ゆーゆー、何かした?」
「いや、俺は特に」
「じゃあ秋ちゃん?」
「そうですね……優也さんの話をお二人から聞いていましたし、お二人が優也さんのことを楽しそうに話すので安心しているというか……そんな感じでしょうか」
「……何で、優也と秋の話なのに、あたしと鈴が恥ずかしくなってるわけ?」
「秋ちゃん、素直すぎる……」
「まぁ、それで優也と秋が馴染めたならいいけどさ」
「秋ちゃんってたまにこういうところあるよね~。ひよりんにはない可愛さなんだけど、不意打ちだから慣れない……」
「あたしに可愛げがないのは分かってるから言わなくていいわよ」
「あっ、あの……私の話はもう……」
「秋も照れた、あたし達も少し照れた……優也だけ照れてない。鈴、秋、何かないの?」
「何か……んー、ゆーゆー一人が照れる話はないかなぁ」
「この際、秋含めてでもいいわよ」
「ゆーゆーと秋ちゃんが初めて会った日、名前呼びを──」
「──み、深鈴さん!」
「って話をしたいけど、ゆーゆーは思い出して照れてるからいいかな」
 さっきから顔が熱いし、恥ずかしい。
「そうね、後で聞くわ」
「深鈴さん絶対話さないでください、お願いしますお願いします!」
 逃げる深鈴の口を手で塞ごうと、千秋が深鈴を追いかけて行く。
「珍しい」
「何が?」
 目の前の二人のやり取りを見ながら、日和がそう呟く。
「あーやって秋があたしや鈴とじゃれ合うのはたまにあるけど、いつもより楽しそうだなーって」
「そういや、三人ってどうやって知り合ったんだ?」
 俺の時みたいに、夏姉のところで会ったか、学校なら深鈴からだろうなぁ、って何となく想像してたけど、実際のところ気になってた。
「すっごーく簡単に言うなら、席が近くて声掛けた」
「ざっくりしすぎ」
「あたしらのクラス、中学の時から変わってないけど、あのクラスに美風住みはあんたを除いて三人。中学の最初はどうしても美風と穂泉で分かれるもんなのよ」
「そんなことがあったのか……」
「学校が始まって二日目かな、帰る時に美風の方に秋が帰って行くのが見えて。んで次の日の昼休みに声かけたってわけ」
「あー、じゃあ俺みたいに、学校よりも先に夏姉の所で会ってたとかじゃないんだ」
「そうそう。夏姉の所に居るのを知ったのは結構後だったけど、夏姉のとこに住んでるなら、遅かれ早かれこうなってたと思うけどね」
「だろうな。夏姉のとこは定期的に行くし」
「でも、あたしらのことはあんたのこと含め話したけど、秋のことってあんまり知らないのよね。昔のこととか、色々ね」
「夏姉の所にいる理由も?」
「聞いてないわ。だから昔の秋がどんな子か知らないけど、あの子が自分から話さないことを聞く気もないし。話す必要があるならあの子から話すでしょ」
「日和は日和だな……ほんと」
「昔は昔、今は今だし。あの子が話してくれるなら親友の別の一面を知れて良かったってだけよ」
 どこまで行っても真っ直ぐでサッパリしてる。言葉遣いも合わさって最初は怖いって印象が強いけど、この性格には助けてもらったことが何度もある。
「ゆーゆー、ひよりーん、遅―い!」
 俺たちよりもかなり先の場所で二人して手を振って呼びかけてくる。
「いつの間にあんなとこまで……ほら、行くよ」
「んだな」
 二人小走りで千秋たちに追いつき、『MIKAZE』までの道を歩いた。
 店内に他のお客はおらず、俺たちが席に着くと夏姉も席に着いた。
「優君、今週の土曜日から入れたりする?」
「うん、入れるけど……何すればいいの?」
「料理以外を最終的にはお願いするけど……とりあえずは配膳とレジかな。千秋ちゃん、お手本お願いできる?」
「はーい」
 席を立ち、人数分お水を入れ、戻って来た。
「優也さん、お店の外に出て入ってきてくれませんか?」
「了解」
 一度外に出て、店内へ戻る。
「いらっしゃいませっ。こちらのお席へどうぞ」
 笑顔の千秋に迎えられた。
 席に着くと、すぐにお水とおしぼりを持って来てくれ、メニューを渡してくれる。
「ご注文が決まりましたら、お呼びください……こんな感じですね」
 その後、コップは下半分を持って、テーブルに小指を付ける感じで置くと音が小さいとか、注意点を教えてもらったり、ハンディの使い方を教えてもらったり、今日教えてもらう内容は終わったようだ。
「優君、ミスは誰でもするものだから、ミスしたら怪我してないか聞いて、ちゃんと謝ってね。それさえできればオッケー」
「うん、了解」
「ちなみに優君、明日って空いてたりするかな?」
「んー……深鈴、日和、どう?」
「来週までこっちは大丈夫よ」
「それじゃあ、明日試しに働いてみない? 土日はお客さんも多いし千秋ちゃんもいないし……平日の夜、お客さんが少ない時に、千秋ちゃんと一緒に働いて慣れておいた方がいいと思うの」
「あ、そっか……確かに」
 元々、千秋がいない時間に働くことを前提にしてるから、お手本と一緒に働くことは基本的にない。
「それでは、明日もよろしくお願いしますね」
「よしっ、明日のことも決まったし……みんな、ちょっと待っててね~、ご飯作って来るよ」
 別の話をしていた日和と深鈴もこっちに加わり、みんなで晩ご飯が始まる。
「あ、なっちゃん。なっちゃんも昔、テレビの取材受けた?」
「受けたけど、沙耶ちゃんに聞いた方が確かだと思うよ?」
「あ、じゃあさ。副委員長って何してたの?」
「んー、沙耶ちゃんから指示を貰って、それをやって。沙耶ちゃんが大変そうなら手伝って……って感じかな」
「鈴、あたしのことは頼んだ」
「はーい、頼まれたよ~」
「夏姉、今日は泊まってもいい?」
「いいよ~。優君のパジャマも一応、準備してあるし」
「いつの間に……」
「それじゃあ、こうしてゆっくり話すのは後にして、順番にお風呂入っちゃってね~」
「「「はーい」」」
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