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23.茶番~ベルグルside
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ふと花の香りがして目が覚めた。
ベッドにもたれて眠っていたようだ。
肩には毛布が掛けられている。
少年が使うよりかなり大きく、グランの匂いがするから彼が使っているのだろう。
青年と魔狼はいつの間にかいなくなり、いつ洗ったのか服は暖炉の前で干されていた。
下着まで干されているのは少し気恥ずかしい。
黒を纏う少年は月花をザルに並べている。
集中しているのか、俺の視線には気づいていない。
その面立ちは子供特有の乳の匂いが抜ければ将来フィルメとして人気になりそうなくらい整っていて、穏やかな印象を受ける。
筋肉も無く細身で、子供らしくもある可愛らしい面立ちは確実に俺達獣人の庇護欲を掻き立てる。
長く艶のある黒髪を後ろでまとめてちまちまと作業する姿が何やら小動物めいて愛らしい。
不意に立ち上がる。
俺は何となく目を閉じて様子をうかがう。
レイブの手を取り脈を診て顔色を確認したら、ギリギリはみ出していない足先を布団の中から触れる。
「良かった、足先まで温まったね」
優しい声色が心地よく耳に馴染む。
レンは薪をたしてからテーブルに戻って作業を再開した。
夜も大分更けてきたが、まだ眠らないようだ。
俺はその光景をぼうっと眺めていたが、月花の優しく甘い香りに誘われるように徐々に瞼が落ちていくのを他人事のように感じた。
ここが魔の森である事を忘れてしまうくらいに穏やかだ。
次に目を覚ました時には日も随分高くなっていた。
そしてすぐに異変を感じる。
····レンよ、昨日会ったばかりの熊の股の上で俺の片膝を枕に眠りこけるとは何事だ。
俺の胡座をかいた足の上で腹毛に顔を埋めるようにスピスピと寝息をたてている。
何だこの可愛いのは!
どれだけ無防備なのか。
これではグランも黒竜も心配になるだろう。
しかしこのままでは風邪でも引かせるかもしれないし、しかしベッドはレイブが占領しているし、どうしたものかと頭を悩ませてしまう。
そこでふと、小屋の外に気配を感じた。
「レン、入るぞ!」
バン!とドアが勢いよく開き、慌てたように入ってきたグランと目が合った。
魔狼も入ってくる。
俺の頭から足先まで視線が往き来し、腹の辺りで視線が止まる。
一瞬で獅子が般若のそれへと変貌を遂げた。
「ベルグル、お前、レンに何してやがる····」
殺気がものすごい。
修理から戻ったばかりの愛刀に手をかけるな!
「おい、誤解だ!
レンが俺の寝ている間に股ぐらに····」
「レン、だとぉ、股ぐら、だとぉ」
地獄の底から這いずるような声を出すな!
と、そこで救いの天使が目を覚ましてくれた!
ゆっくり体を起こし、うーんと伸びをする。
「····グランさん?
おはよー」
グランに気づいて場違いな程のほほんと朝の挨拶をするレンにツカツカと歩み寄り、さっと抱き上げる。
「おはよう、レン。
寝坊助なレンも可愛いが、もう昼だぞ。
熊に襲われてなかったか」
爽やかな笑顔でレンを見つめる。
誰だ、こいつ。
誰が、襲うんだ。
「昨日の夜に咲いた月花を摘んで干してたら遅くなったの。
寝る時寒かったから、ついベルグルさんの所で寝ちゃった」
「そうか、ベッドは兎が占領してたんだな。
他所の男をベッドに寝かすなんて、悪い子だ」
「誰が兎ですか、グラン」
そういえば、あまりの状況にレイブを忘れていた。
不機嫌な声と共に、ごそごそと体を起こすレイブを振り返る。
レンをぎゅうぎゅうと抱き締めるグランは無視だ。
「レン、どうして兎が裸になってお前の布団にくるまってる····」
後ろでブリザードな気配がするが、無視だ。
「お爺ちゃん、おはよう」
「誰がお爺ちゃんですか!」
「ふふふ、顔色戻って良かった。
血がべったべただったから、脱がせて洗っておいたの。
いくらこの家の中でも夜の獣に血の臭いは駄目よ」
レイブの抗議の声は完全に無視されている。
「····レンが脱がせたのか?」
「そりゃそうだよ」
「俺の時は····」
「グランさんも最初はそうだよ?」
「いや、でも俺は服を····」
「乾いた後にまた着せたの。
あの時はまだ布団も薄いのしかなかったし、裸のまま3日も寝かすわけにもいかなかったから」
「····見たのか?」
「え、ま、まぁ、あまり見ないようにしてても着せる時はさすがに····」
「照れてるレンも可愛いが、まさか兎のも····」
「脱がせる時は見なくても大丈夫だし、ベッドに運んだのはベルグルさんだからね。」
「まぁそれなら仕方ないが、次からはウォンかキョロかファルにしてもらえよ。」
頬を赤らめるレンの額にグランがコツンと自分のそれを当てる。
「何です、起き抜けのこの茶番····」
レイブよ、気持ちは痛いほどわかるぞ。
ベッドにもたれて眠っていたようだ。
肩には毛布が掛けられている。
少年が使うよりかなり大きく、グランの匂いがするから彼が使っているのだろう。
青年と魔狼はいつの間にかいなくなり、いつ洗ったのか服は暖炉の前で干されていた。
下着まで干されているのは少し気恥ずかしい。
黒を纏う少年は月花をザルに並べている。
集中しているのか、俺の視線には気づいていない。
その面立ちは子供特有の乳の匂いが抜ければ将来フィルメとして人気になりそうなくらい整っていて、穏やかな印象を受ける。
筋肉も無く細身で、子供らしくもある可愛らしい面立ちは確実に俺達獣人の庇護欲を掻き立てる。
長く艶のある黒髪を後ろでまとめてちまちまと作業する姿が何やら小動物めいて愛らしい。
不意に立ち上がる。
俺は何となく目を閉じて様子をうかがう。
レイブの手を取り脈を診て顔色を確認したら、ギリギリはみ出していない足先を布団の中から触れる。
「良かった、足先まで温まったね」
優しい声色が心地よく耳に馴染む。
レンは薪をたしてからテーブルに戻って作業を再開した。
夜も大分更けてきたが、まだ眠らないようだ。
俺はその光景をぼうっと眺めていたが、月花の優しく甘い香りに誘われるように徐々に瞼が落ちていくのを他人事のように感じた。
ここが魔の森である事を忘れてしまうくらいに穏やかだ。
次に目を覚ました時には日も随分高くなっていた。
そしてすぐに異変を感じる。
····レンよ、昨日会ったばかりの熊の股の上で俺の片膝を枕に眠りこけるとは何事だ。
俺の胡座をかいた足の上で腹毛に顔を埋めるようにスピスピと寝息をたてている。
何だこの可愛いのは!
どれだけ無防備なのか。
これではグランも黒竜も心配になるだろう。
しかしこのままでは風邪でも引かせるかもしれないし、しかしベッドはレイブが占領しているし、どうしたものかと頭を悩ませてしまう。
そこでふと、小屋の外に気配を感じた。
「レン、入るぞ!」
バン!とドアが勢いよく開き、慌てたように入ってきたグランと目が合った。
魔狼も入ってくる。
俺の頭から足先まで視線が往き来し、腹の辺りで視線が止まる。
一瞬で獅子が般若のそれへと変貌を遂げた。
「ベルグル、お前、レンに何してやがる····」
殺気がものすごい。
修理から戻ったばかりの愛刀に手をかけるな!
「おい、誤解だ!
レンが俺の寝ている間に股ぐらに····」
「レン、だとぉ、股ぐら、だとぉ」
地獄の底から這いずるような声を出すな!
と、そこで救いの天使が目を覚ましてくれた!
ゆっくり体を起こし、うーんと伸びをする。
「····グランさん?
おはよー」
グランに気づいて場違いな程のほほんと朝の挨拶をするレンにツカツカと歩み寄り、さっと抱き上げる。
「おはよう、レン。
寝坊助なレンも可愛いが、もう昼だぞ。
熊に襲われてなかったか」
爽やかな笑顔でレンを見つめる。
誰だ、こいつ。
誰が、襲うんだ。
「昨日の夜に咲いた月花を摘んで干してたら遅くなったの。
寝る時寒かったから、ついベルグルさんの所で寝ちゃった」
「そうか、ベッドは兎が占領してたんだな。
他所の男をベッドに寝かすなんて、悪い子だ」
「誰が兎ですか、グラン」
そういえば、あまりの状況にレイブを忘れていた。
不機嫌な声と共に、ごそごそと体を起こすレイブを振り返る。
レンをぎゅうぎゅうと抱き締めるグランは無視だ。
「レン、どうして兎が裸になってお前の布団にくるまってる····」
後ろでブリザードな気配がするが、無視だ。
「お爺ちゃん、おはよう」
「誰がお爺ちゃんですか!」
「ふふふ、顔色戻って良かった。
血がべったべただったから、脱がせて洗っておいたの。
いくらこの家の中でも夜の獣に血の臭いは駄目よ」
レイブの抗議の声は完全に無視されている。
「····レンが脱がせたのか?」
「そりゃそうだよ」
「俺の時は····」
「グランさんも最初はそうだよ?」
「いや、でも俺は服を····」
「乾いた後にまた着せたの。
あの時はまだ布団も薄いのしかなかったし、裸のまま3日も寝かすわけにもいかなかったから」
「····見たのか?」
「え、ま、まぁ、あまり見ないようにしてても着せる時はさすがに····」
「照れてるレンも可愛いが、まさか兎のも····」
「脱がせる時は見なくても大丈夫だし、ベッドに運んだのはベルグルさんだからね。」
「まぁそれなら仕方ないが、次からはウォンかキョロかファルにしてもらえよ。」
頬を赤らめるレンの額にグランがコツンと自分のそれを当てる。
「何です、起き抜けのこの茶番····」
レイブよ、気持ちは痛いほどわかるぞ。
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