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88.人に優しくない魔石具~レイブside
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『逃げて下さい!!』
あの愚か者の客室でむさ苦しい話し合いの最中に風が届けた声は切羽詰まったものでした。
グランが言うように、もしレンが誰かを憎むような事態が起こるなら絶対に防ごうと思っていますが、まずはここから逃げるべきでしょう。
私は戦友で上司でもあるベルグルに目配せして当初の予定通り動くようにグランと愚か者に指示します。
料理長には全く見えない筋骨隆々の男は安全確保の為にも自分達と行動を共にするよう伝え、すぐに胸の内ポケットを優しくポンと叩きます。
「キョロ~」
眠そうな声と共に魔鳥がモソリと出てきて頭上に羽ばたくと少し大きくなって私の頭に着地しました。
そういえばこの城に来てからずっとポケットにいましたけど、全然動いてませんでしたね。
まさかあなたずっと寝てたんじゃ····。
にしても、頭に乗られるとちょっとイラッとしますね。
腰に下げていた袋から転移した時に使った魔石具に魔力を流して起動し、魔鳥の共振を感じながらあの子の兄弟子だというビビッド商会の副会長と彼のいるはずの部屋を頭に思い描きます。
術が発動してすぐにピシリと震えた感じがしたので恐らくあと1度使用すれば確実に壊れるでしょうが、背に腹は代えられません。
むしろ思っていたりももったほうでしょう。
「無事でしたか!」
昨日レンをもう1人の愚か者の客室に移す時に一緒にいた愚か者の側近だという男とよく似た顔の魔術師が駆け寄ってきました。
一瞬間違った場所に転移したのかと内心焦りましたが、後ろにあの副会長を確認してそうではなかったとほっとします。
確か目の前のこの竜人の名前はラスイードでしたね。
昨日レンを連れて移動している時、あまりに高圧的だった双子の弟とは違ってまだ話の分かる冷静な印象を受けますね。
「レンカちゃんは見つかった?」
「いや、この城をうろついているようだが今どこにいるかまではわからなかった」
「それより彼がなぜここに?」
「少し前にその人の双子の弟がえらいブチギレた感じで連れてきたんよ。
一応俺らはここにおらんと命があらへんらしいわ。
この部屋の扉の前に見張りもついてるで。
ま、そっちの兄さんが風送る時にこの部屋の魔力感知がでけへんように結界張ってくれてるから転移した時の魔力漏れの事は心配いらへん。
それより、これが役に立てばええんやけど····」
ベルグルの言葉に虎属の副会長は手の平サイズの方位磁石のような針のついた魔石具を取りだす。
「これは捜索用の魔石具ですね」
騎士団で行方不明になった者の捜索に使うと言われて何度か試作品を使ったが、いかんせん精度が悪い。
使い勝手はもっと悪い。
「捜索用の魔石具なんてあるのか。
初めて見たぞ」
「私もです」
竜人2人の言葉に私達3人は頷く。
「それはそうでしょうね。
これが開発されたのは50年ほど前でしたが、試作品を試す段階で色々不具合があって結局実用化はまだしていないんです」
「忘れた頃に陛下が俺のところに持って来るんだが····そういえば、誰が作っているのかはぐらかされるからてっきり陛下が改良された試作品を個人的に持ってきているんだと思っていたが、まさか····いや、いくら何でもレンは····」
私も一瞬まさかとは思いましたが、さすがに50年ほど前にできた物があの子の作品なわけ····。
「せやねん。
爺さんが陛下に言われて試作品作っては改良してたんを今はレンちゃんがたまに思い出しては改良してたんよ」
····結局あの子の関わってる作品なんですね。
「それで、最近は見てませんでしたが、どの程度改良されたんです?」
「この針先に探したい人の血を垂らしてた代わりに髪の毛とか体毛と、1つの魔石を半分に割った片方をこの盤の裏にあるソケットに入れるんよ。
魔石は小さいクズ石でかまへん。
魔石のもう片方は騎士証とか商人証、冒険者証とかと一緒にして中のデータと共鳴させる必要がある。
毛はなるべく抜けてそんなに経ってない新鮮な方がえんやけど、精度は対象との距離が遠ければ遠いほど捜索者と探される側の魔力が大きい方がより正確になんねん。
昔より精度は格段に上がってるよ」
そう言って盤を開ければ、既に長めの黒髪と半分に割られた形跡のある黄色の魔石が入っていますね。
確かに捜索しなければならない者の血を垂らすよりはずっと合理的ですが····。
「坊主は商業証を身につけてんのか?」
「一応首にそれっぽいやつをぶら下げてたんは確認してんねん。
昔っから爺さんと俺とで森の外に出る時も、出るかはっきりせぇへん時も念の為に下げるように口酸っぱく約束させてあったからちゃんと守ってたんやろな。
うちの商会の所属で前から作ってて、多分試作してる時にこっちの魔石具に魔石も入れっぱなし、タグにも付けっぱなしやったはずや。
髪はそこの枕から取ったから捜索自体はできんねん。
ただ問題は····」
何でしょう?
珍しく言い淀みますね。
「多分レンちゃん自分基準で作ってもうてるんよ」
「どういう事だ?」
ベルグルがいまひとつ腑に落ちない顔で問います。
「めっちゃ魔力食うんよ、それ。
起動さす時が特に。
魔力操作がまぁまぁできてコツをすぐ掴まんと一瞬で魔力がもってかれて探すどころやなくなんねん。
ちなみにレンちゃんは豊富な魔力に物言わして力業的に使ってたけど、それに騙されて何の心づもりもせえへんと初めて俺が使った時は一瞬で昏倒させられてもうた」
「「「「····」」」」
困り顔の副会長の言葉に私も含めてその場にいる誰もが黙る。
転移用の魔石具といい、レン、あなたはもっと人に優しい魔石具は作れないのでしょうか。
あの愚か者の客室でむさ苦しい話し合いの最中に風が届けた声は切羽詰まったものでした。
グランが言うように、もしレンが誰かを憎むような事態が起こるなら絶対に防ごうと思っていますが、まずはここから逃げるべきでしょう。
私は戦友で上司でもあるベルグルに目配せして当初の予定通り動くようにグランと愚か者に指示します。
料理長には全く見えない筋骨隆々の男は安全確保の為にも自分達と行動を共にするよう伝え、すぐに胸の内ポケットを優しくポンと叩きます。
「キョロ~」
眠そうな声と共に魔鳥がモソリと出てきて頭上に羽ばたくと少し大きくなって私の頭に着地しました。
そういえばこの城に来てからずっとポケットにいましたけど、全然動いてませんでしたね。
まさかあなたずっと寝てたんじゃ····。
にしても、頭に乗られるとちょっとイラッとしますね。
腰に下げていた袋から転移した時に使った魔石具に魔力を流して起動し、魔鳥の共振を感じながらあの子の兄弟子だというビビッド商会の副会長と彼のいるはずの部屋を頭に思い描きます。
術が発動してすぐにピシリと震えた感じがしたので恐らくあと1度使用すれば確実に壊れるでしょうが、背に腹は代えられません。
むしろ思っていたりももったほうでしょう。
「無事でしたか!」
昨日レンをもう1人の愚か者の客室に移す時に一緒にいた愚か者の側近だという男とよく似た顔の魔術師が駆け寄ってきました。
一瞬間違った場所に転移したのかと内心焦りましたが、後ろにあの副会長を確認してそうではなかったとほっとします。
確か目の前のこの竜人の名前はラスイードでしたね。
昨日レンを連れて移動している時、あまりに高圧的だった双子の弟とは違ってまだ話の分かる冷静な印象を受けますね。
「レンカちゃんは見つかった?」
「いや、この城をうろついているようだが今どこにいるかまではわからなかった」
「それより彼がなぜここに?」
「少し前にその人の双子の弟がえらいブチギレた感じで連れてきたんよ。
一応俺らはここにおらんと命があらへんらしいわ。
この部屋の扉の前に見張りもついてるで。
ま、そっちの兄さんが風送る時にこの部屋の魔力感知がでけへんように結界張ってくれてるから転移した時の魔力漏れの事は心配いらへん。
それより、これが役に立てばええんやけど····」
ベルグルの言葉に虎属の副会長は手の平サイズの方位磁石のような針のついた魔石具を取りだす。
「これは捜索用の魔石具ですね」
騎士団で行方不明になった者の捜索に使うと言われて何度か試作品を使ったが、いかんせん精度が悪い。
使い勝手はもっと悪い。
「捜索用の魔石具なんてあるのか。
初めて見たぞ」
「私もです」
竜人2人の言葉に私達3人は頷く。
「それはそうでしょうね。
これが開発されたのは50年ほど前でしたが、試作品を試す段階で色々不具合があって結局実用化はまだしていないんです」
「忘れた頃に陛下が俺のところに持って来るんだが····そういえば、誰が作っているのかはぐらかされるからてっきり陛下が改良された試作品を個人的に持ってきているんだと思っていたが、まさか····いや、いくら何でもレンは····」
私も一瞬まさかとは思いましたが、さすがに50年ほど前にできた物があの子の作品なわけ····。
「せやねん。
爺さんが陛下に言われて試作品作っては改良してたんを今はレンちゃんがたまに思い出しては改良してたんよ」
····結局あの子の関わってる作品なんですね。
「それで、最近は見てませんでしたが、どの程度改良されたんです?」
「この針先に探したい人の血を垂らしてた代わりに髪の毛とか体毛と、1つの魔石を半分に割った片方をこの盤の裏にあるソケットに入れるんよ。
魔石は小さいクズ石でかまへん。
魔石のもう片方は騎士証とか商人証、冒険者証とかと一緒にして中のデータと共鳴させる必要がある。
毛はなるべく抜けてそんなに経ってない新鮮な方がえんやけど、精度は対象との距離が遠ければ遠いほど捜索者と探される側の魔力が大きい方がより正確になんねん。
昔より精度は格段に上がってるよ」
そう言って盤を開ければ、既に長めの黒髪と半分に割られた形跡のある黄色の魔石が入っていますね。
確かに捜索しなければならない者の血を垂らすよりはずっと合理的ですが····。
「坊主は商業証を身につけてんのか?」
「一応首にそれっぽいやつをぶら下げてたんは確認してんねん。
昔っから爺さんと俺とで森の外に出る時も、出るかはっきりせぇへん時も念の為に下げるように口酸っぱく約束させてあったからちゃんと守ってたんやろな。
うちの商会の所属で前から作ってて、多分試作してる時にこっちの魔石具に魔石も入れっぱなし、タグにも付けっぱなしやったはずや。
髪はそこの枕から取ったから捜索自体はできんねん。
ただ問題は····」
何でしょう?
珍しく言い淀みますね。
「多分レンちゃん自分基準で作ってもうてるんよ」
「どういう事だ?」
ベルグルがいまひとつ腑に落ちない顔で問います。
「めっちゃ魔力食うんよ、それ。
起動さす時が特に。
魔力操作がまぁまぁできてコツをすぐ掴まんと一瞬で魔力がもってかれて探すどころやなくなんねん。
ちなみにレンちゃんは豊富な魔力に物言わして力業的に使ってたけど、それに騙されて何の心づもりもせえへんと初めて俺が使った時は一瞬で昏倒させられてもうた」
「「「「····」」」」
困り顔の副会長の言葉に私も含めてその場にいる誰もが黙る。
転移用の魔石具といい、レン、あなたはもっと人に優しい魔石具は作れないのでしょうか。
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