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164.蓮香1
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「レンカは神継の家に入ったと言いましたが、レンの家名は何故キサカなんです?」
副団長の言葉にしがみついていたトビから少し体を離す。
「あ····キサカ、は····」
言い淀んで、額をぽふりとトビの胸にぶつける。
ふと黒髪に青い目の、レンによく似た子供の顔を思い出した。
まさか····夫の家名なの、か····。
「キサカ、は····」
うっ、聞きたくない!
でも知りたい!
何度か深呼吸してから、話し出す。
「キサカはレンカの母方の····家名」
ん?!
母方····じゃあ、子供の父親とはどうなってるんだ?
「レンカは····私生児で····4才で母親と死別、して····それ、から父方の····神継に····15で、キサカに戻して····」
ぽつり、ぽつりと小さな声で洩らす言葉に、レンカの人生も過酷なものだったのだろうと推察する。
重い口を開いたものの、しばらく無言になってしまう。
今のところあの傷痕を押さえる素振りは見られないが····心配で仕方ない。
「のう、レンちゃんや。
ゆっくりでかまわん。
レンカが産まれてからの事を順を追って話してくれんかのう。
じゃが体がつらくなったら、いつでも止めてくれればよいぞ?
朔月の頃の話だけでもつらかったじゃろう。
何ならもう止めても良いのじゃ」
トビにコアラしていて誰にも表情はわからない分、皆も心配しているのだろう。
そこでふと思い当たる。
まさかその為にレンはコアラしてるのか?
単に甘えてるだけじゃないのかもしれない。
そんなところで気を遣う俺の番は本当にいじらしいな。
それなら俺にコアラしてくれれば、誰にも顔が見えないようにしっかり抱きしめるのに····もしかして、照れているのか?!
さっきは確実に俺を意識して赤面してたしな。
絶対そうだ!
いや、それよりも今はレンの体調だな。
親父には他者の魂や体の何かを見る事ができる異能で何かが見えてるのか?
だが昨日のように無理に止めに入ったりしないところを見ると、今はまだ大丈夫なようだが····。
「ううん····ちゃんと言いたい。
言わないと僕····後悔する。
ただ····僕の体はレンカの物でもあって····記憶が生々しいから····うまく····」
よく見ると少し震えているのか?
いつの間にか片方の手が胸の傷痕のあたりを握りしめている。
「痛むか?」
話が始まってから始めてファルが言葉を発した。
恐らく無自覚に握っていたんだろう。
あ、と声をだし、握っている拳を弛めてトビに再びコアラした。
「痛くない。
でも最期の記憶がこの傷だから、お腹と、特に胸に冷たい刃が刺さってる感じが、する時が、あって····こ、怖く····」
ぐりぐりとトビの胸に顔を力任せに擦りつけ始める。
「ちょっ、レンちゃん、そんなにやったら顔擦りむくって!
今さら泣いてるん隠そうとしてもバレバレやから!
ほら、止まり!」
「んぶっ」
両手で小さな顔を包みこんだトビがそのまま上を向かせる。
頬を真ん中に寄せたせいで口がすぼまって妙な声が出たが、それはそれで可愛らしいな。
「····ひどい」
「ほら、ちょっと赤なったやん」
すぼめた口でぼそりと文句を言う抗議の声を無視して片手を懐に手を入れると、ごそごそと何か平たい容器を取り出した。
パカッと開けて白いクリームを指で掬うとレンの顔にちょんちょんとつけてペタペタ馴染ませる。
「商会の顔なんやから、傷つけたらあかんよ」
「····ん」
気がそれたのか、涙は止まったようだ。
トビもわざとやったんだろう。
頭を撫でてから、そっと自分の胸に優しい手つきで押しつける。
レンも抵抗せずに再びコアラ体制に入った。
「レンカは向こうの世界の花で、蓮が香るって書いて蓮香って読むんだ。
名前をつけたのは祖父だった」
少しの沈黙の後、自分達の名前の由来を教えてくれた。
「蓮香は神継の父親とキサカ····鬼に逆って書くんだけど、朔月が死んだ後に神継から飛び出した鷹親の子供が興した家の血筋の母親との間に産まれた婚外子だった。
一応神継家と鬼逆家はいつの頃からか交流を持つようになってて、蓮香はその····既に婚姻して子供もいた父親が母親を拉致監禁して無理矢理孕ませた不義の子供だった」
「は?!」
····何だよ、それ。
思わず声が洩れる。
ファルと親父以外は全員眉をひそめた。
「父親は呪力のある子供が欲しかったみたい。
彼の代になってから事業が失敗続きで、よくも悪くも能力は凡人以下。
できの良かった弟····レンカの叔父にあたる人といつも自分を比べては卑屈になって、全てを他人のせいにして、当主が代々引き継ぐ形になってたらしい呪力や呪いの知識に傾倒してた、どこか狂ってた心の弱い人だった。
それを知って激怒した鬼逆の祖父が母親を見つけ出した時には····母親は心を病んでたし、もう堕胎できない時期になってた。
神継も鬼逆の家もそれなりに名家と言われる家で、祖父は心を病んでしまった娘を好奇の目に晒したくなくて神継とは内々に話をつけたんだ。
産まれた子供を父親は引き取りたがったけど、それは祖父が許さなかった。
里子に出す事も検討したらしいけど、父親が探し出して連れ去る可能性もあったし、母親の方がむしろ蓮香に執着したから母子共に鬼逆の家の奥深くで隠されるように育てられたの」
待ってくれ。
レンカは産まれる前から····理不尽に晒されてるじゃないか····。
副団長の言葉にしがみついていたトビから少し体を離す。
「あ····キサカ、は····」
言い淀んで、額をぽふりとトビの胸にぶつける。
ふと黒髪に青い目の、レンによく似た子供の顔を思い出した。
まさか····夫の家名なの、か····。
「キサカ、は····」
うっ、聞きたくない!
でも知りたい!
何度か深呼吸してから、話し出す。
「キサカはレンカの母方の····家名」
ん?!
母方····じゃあ、子供の父親とはどうなってるんだ?
「レンカは····私生児で····4才で母親と死別、して····それ、から父方の····神継に····15で、キサカに戻して····」
ぽつり、ぽつりと小さな声で洩らす言葉に、レンカの人生も過酷なものだったのだろうと推察する。
重い口を開いたものの、しばらく無言になってしまう。
今のところあの傷痕を押さえる素振りは見られないが····心配で仕方ない。
「のう、レンちゃんや。
ゆっくりでかまわん。
レンカが産まれてからの事を順を追って話してくれんかのう。
じゃが体がつらくなったら、いつでも止めてくれればよいぞ?
朔月の頃の話だけでもつらかったじゃろう。
何ならもう止めても良いのじゃ」
トビにコアラしていて誰にも表情はわからない分、皆も心配しているのだろう。
そこでふと思い当たる。
まさかその為にレンはコアラしてるのか?
単に甘えてるだけじゃないのかもしれない。
そんなところで気を遣う俺の番は本当にいじらしいな。
それなら俺にコアラしてくれれば、誰にも顔が見えないようにしっかり抱きしめるのに····もしかして、照れているのか?!
さっきは確実に俺を意識して赤面してたしな。
絶対そうだ!
いや、それよりも今はレンの体調だな。
親父には他者の魂や体の何かを見る事ができる異能で何かが見えてるのか?
だが昨日のように無理に止めに入ったりしないところを見ると、今はまだ大丈夫なようだが····。
「ううん····ちゃんと言いたい。
言わないと僕····後悔する。
ただ····僕の体はレンカの物でもあって····記憶が生々しいから····うまく····」
よく見ると少し震えているのか?
いつの間にか片方の手が胸の傷痕のあたりを握りしめている。
「痛むか?」
話が始まってから始めてファルが言葉を発した。
恐らく無自覚に握っていたんだろう。
あ、と声をだし、握っている拳を弛めてトビに再びコアラした。
「痛くない。
でも最期の記憶がこの傷だから、お腹と、特に胸に冷たい刃が刺さってる感じが、する時が、あって····こ、怖く····」
ぐりぐりとトビの胸に顔を力任せに擦りつけ始める。
「ちょっ、レンちゃん、そんなにやったら顔擦りむくって!
今さら泣いてるん隠そうとしてもバレバレやから!
ほら、止まり!」
「んぶっ」
両手で小さな顔を包みこんだトビがそのまま上を向かせる。
頬を真ん中に寄せたせいで口がすぼまって妙な声が出たが、それはそれで可愛らしいな。
「····ひどい」
「ほら、ちょっと赤なったやん」
すぼめた口でぼそりと文句を言う抗議の声を無視して片手を懐に手を入れると、ごそごそと何か平たい容器を取り出した。
パカッと開けて白いクリームを指で掬うとレンの顔にちょんちょんとつけてペタペタ馴染ませる。
「商会の顔なんやから、傷つけたらあかんよ」
「····ん」
気がそれたのか、涙は止まったようだ。
トビもわざとやったんだろう。
頭を撫でてから、そっと自分の胸に優しい手つきで押しつける。
レンも抵抗せずに再びコアラ体制に入った。
「レンカは向こうの世界の花で、蓮が香るって書いて蓮香って読むんだ。
名前をつけたのは祖父だった」
少しの沈黙の後、自分達の名前の由来を教えてくれた。
「蓮香は神継の父親とキサカ····鬼に逆って書くんだけど、朔月が死んだ後に神継から飛び出した鷹親の子供が興した家の血筋の母親との間に産まれた婚外子だった。
一応神継家と鬼逆家はいつの頃からか交流を持つようになってて、蓮香はその····既に婚姻して子供もいた父親が母親を拉致監禁して無理矢理孕ませた不義の子供だった」
「は?!」
····何だよ、それ。
思わず声が洩れる。
ファルと親父以外は全員眉をひそめた。
「父親は呪力のある子供が欲しかったみたい。
彼の代になってから事業が失敗続きで、よくも悪くも能力は凡人以下。
できの良かった弟····レンカの叔父にあたる人といつも自分を比べては卑屈になって、全てを他人のせいにして、当主が代々引き継ぐ形になってたらしい呪力や呪いの知識に傾倒してた、どこか狂ってた心の弱い人だった。
それを知って激怒した鬼逆の祖父が母親を見つけ出した時には····母親は心を病んでたし、もう堕胎できない時期になってた。
神継も鬼逆の家もそれなりに名家と言われる家で、祖父は心を病んでしまった娘を好奇の目に晒したくなくて神継とは内々に話をつけたんだ。
産まれた子供を父親は引き取りたがったけど、それは祖父が許さなかった。
里子に出す事も検討したらしいけど、父親が探し出して連れ去る可能性もあったし、母親の方がむしろ蓮香に執着したから母子共に鬼逆の家の奥深くで隠されるように育てられたの」
待ってくれ。
レンカは産まれる前から····理不尽に晒されてるじゃないか····。
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