93 / 491
5
92.反省文
しおりを挟む
「ごきげんよう、アビニシア侯爵夫人。
それにご令嬢方。
お名前をうかがっても?」
伯母様は動じる事もなく穏やかに微笑む。
「マリアナですわ」
「次女のカティアナですわ」
なるほど。
ということは長女が従姉様と同い年、次女はもうじき入学だね。
もちろん貴族名鑑情報だよ。
「そう、初めまして。
フォンデアスよ。
狩猟祭には良き日となりましたわね。
本日は私の姪共々よろしくお願いしますね」
「ごきげんよう。
初めまして。
アリアチェリーナ=グレインビルと申しますわ」
伯母様、娘完全無視だけど、いいのかな。
従姉様は夫人に軽く一礼だけしてどこかに行っちゃったよ?
とりあえず僕は座ったまま微笑んでみよう。
「まあ、あなたが····」
「可愛らしいけれど····」
値踏みする視線を投げる彼女達はどうやら僕にロックオンしてくれたみたい。
と、思ったんだけど····。
「初めまして、グレインビル侯爵令嬢。
あなた達、お下がりなさい」
「あっ····」
「え?」
侯爵夫人が硬い声で娘達を止める。
長女は気づいたけど、次女はまだまだだね。
僕は1度も礼はしていないんだよ。
それに僕を紹介したのは隣の公爵夫人なんだ。
なのに僕に挨拶をせず勝手に話すだけでなく、あからさまに値踏みするのだからマナー違反も甚だしい。
というか、伯母様からの令嬢方に向けて無言の圧力を感じるんだけど、気のせいかな。
「申し訳ございませんでした。
グレインビル侯爵令嬢、愚かな娘達をお許し下さいませ」
僕に頭を下げ、目を細めて叱る。
さすが辺境の女主人だけあって····それ、殺気じゃない?
娘2人めちゃくちゃ萎縮してるよ?
「学園で何も学んでいなかったようでお恥ずかしい。
すぐに下がらせ、謹慎させますわ」
「アビニシア侯爵夫人、どうかお気になさらないで。
私の体質がただ珍しかっただけの事でございましょう。
次から気をつけていただければ問題ございませんわ」
僕は夫人にそう言うと後ろの2人に声をかける。
「ふふ、レイヤードお兄様にも黙っておくのでどうかご安心なさって」
学園と聞いて青い顔を今度は白くした長女さんに冗談のつもりで義兄様の話を持ち出すとビクッと飛び上がる。
あれ?
「も、申し訳ございませんわ!
どうか、どうか反省文だけはご容赦下さいませ!」
え、待って、反省文て何?!
義兄様ってば学園で何してるの?!
隣の次女さんも顔が蒼白になっていって····え、何でか震え始めたんだけど、何事?!
「アリアチェリーナ、反省文とは?」
「伯母様、私に聞かれましても····」
伯母様も笑顔を貼り付けつつ、困惑しているらしい。
会場の空気が変わった気がして軽く会場を一瞥すると、どういうわけが長女さんと同い年くらいの少女達に怯えが見えた。
え、何で?!
そこでふと、金髪青目の公爵家中堅どころの円卓に座る巻き髪少女と目が合う。
あ、久しぶりに会った。
何でドン引きした顔でこっち見返して···まてよ、反省文て····まさかあの時の超大作か?!
「まあ、嫌ですわ。
もしや何年も昔にお兄様を介していただいたお手紙の事かしら?
言葉そのまま受け取っていただいてよろしかったのに。
この程度の事で気分を害したりなど致しませんし、謝罪は受け取りましてよ」
「ほ、本当に····いえ、何でも····」
未だに半信半疑でいい淀む長女さん。
「ふふふ、本当でしてよ。
そうですわね、その証に····」
僕は立ち上がってポケットからハンカチを取り出す。
「今はこのような物しか持っていませんけれど、私が刺繍しましたの。
よろしければこちらを証として受け取っていただけまして?」
予備持ってきといて良かった。
こっちの貴族社会では身分が上の者のお手製は証としても、許しとしても使われるんだ。
両手で差し出すと令嬢達が近寄って震える手で受け取ってくれた。
「まあ、素敵な刺繍」
「とても良い香りが····まあ、もしかして糸から?」
うん、緊張感は解けたみたいだね。
「グレインビル領で精油にも使う花で糸を染色して香り付けしておりますの。
刺繍も気に入っていただけたのなら何よりでしてよ」
にこりと歯を見せない淑女スマイルでどうだ!
「その、先ほどは申し訳ございませんでしたわ。
ありがとうございます。
大事に致しますわ」
「申し訳ございませんでしたわ。
ありがとうございます。
私も大事に致しますわ」
はにかむ顔は姉妹だけあってよく似ているけど、とりあえず色々成功したみたい。
「グレインビル侯爵令嬢、お心遣いに感謝申し上げますわ。
これ以降は憂いなくお過ごしいただけますよう主催を取り仕切る1人として尽力致しますので、もし何か心配事がございましたら私かこの2人にお声かけ下さいませ」
「お言葉に甘えてそのようにさせていたたきますわ」
夫人が貴婦人らしい礼をとると姉妹もそれに倣い、この場を去っていく。
焦ったー!
今度あの時の反省文という名の超大作についての入手経緯をレイヤード義兄様に問い正さねば!
僕の義兄様はドッキリの仕掛名人だね!
それにご令嬢方。
お名前をうかがっても?」
伯母様は動じる事もなく穏やかに微笑む。
「マリアナですわ」
「次女のカティアナですわ」
なるほど。
ということは長女が従姉様と同い年、次女はもうじき入学だね。
もちろん貴族名鑑情報だよ。
「そう、初めまして。
フォンデアスよ。
狩猟祭には良き日となりましたわね。
本日は私の姪共々よろしくお願いしますね」
「ごきげんよう。
初めまして。
アリアチェリーナ=グレインビルと申しますわ」
伯母様、娘完全無視だけど、いいのかな。
従姉様は夫人に軽く一礼だけしてどこかに行っちゃったよ?
とりあえず僕は座ったまま微笑んでみよう。
「まあ、あなたが····」
「可愛らしいけれど····」
値踏みする視線を投げる彼女達はどうやら僕にロックオンしてくれたみたい。
と、思ったんだけど····。
「初めまして、グレインビル侯爵令嬢。
あなた達、お下がりなさい」
「あっ····」
「え?」
侯爵夫人が硬い声で娘達を止める。
長女は気づいたけど、次女はまだまだだね。
僕は1度も礼はしていないんだよ。
それに僕を紹介したのは隣の公爵夫人なんだ。
なのに僕に挨拶をせず勝手に話すだけでなく、あからさまに値踏みするのだからマナー違反も甚だしい。
というか、伯母様からの令嬢方に向けて無言の圧力を感じるんだけど、気のせいかな。
「申し訳ございませんでした。
グレインビル侯爵令嬢、愚かな娘達をお許し下さいませ」
僕に頭を下げ、目を細めて叱る。
さすが辺境の女主人だけあって····それ、殺気じゃない?
娘2人めちゃくちゃ萎縮してるよ?
「学園で何も学んでいなかったようでお恥ずかしい。
すぐに下がらせ、謹慎させますわ」
「アビニシア侯爵夫人、どうかお気になさらないで。
私の体質がただ珍しかっただけの事でございましょう。
次から気をつけていただければ問題ございませんわ」
僕は夫人にそう言うと後ろの2人に声をかける。
「ふふ、レイヤードお兄様にも黙っておくのでどうかご安心なさって」
学園と聞いて青い顔を今度は白くした長女さんに冗談のつもりで義兄様の話を持ち出すとビクッと飛び上がる。
あれ?
「も、申し訳ございませんわ!
どうか、どうか反省文だけはご容赦下さいませ!」
え、待って、反省文て何?!
義兄様ってば学園で何してるの?!
隣の次女さんも顔が蒼白になっていって····え、何でか震え始めたんだけど、何事?!
「アリアチェリーナ、反省文とは?」
「伯母様、私に聞かれましても····」
伯母様も笑顔を貼り付けつつ、困惑しているらしい。
会場の空気が変わった気がして軽く会場を一瞥すると、どういうわけが長女さんと同い年くらいの少女達に怯えが見えた。
え、何で?!
そこでふと、金髪青目の公爵家中堅どころの円卓に座る巻き髪少女と目が合う。
あ、久しぶりに会った。
何でドン引きした顔でこっち見返して···まてよ、反省文て····まさかあの時の超大作か?!
「まあ、嫌ですわ。
もしや何年も昔にお兄様を介していただいたお手紙の事かしら?
言葉そのまま受け取っていただいてよろしかったのに。
この程度の事で気分を害したりなど致しませんし、謝罪は受け取りましてよ」
「ほ、本当に····いえ、何でも····」
未だに半信半疑でいい淀む長女さん。
「ふふふ、本当でしてよ。
そうですわね、その証に····」
僕は立ち上がってポケットからハンカチを取り出す。
「今はこのような物しか持っていませんけれど、私が刺繍しましたの。
よろしければこちらを証として受け取っていただけまして?」
予備持ってきといて良かった。
こっちの貴族社会では身分が上の者のお手製は証としても、許しとしても使われるんだ。
両手で差し出すと令嬢達が近寄って震える手で受け取ってくれた。
「まあ、素敵な刺繍」
「とても良い香りが····まあ、もしかして糸から?」
うん、緊張感は解けたみたいだね。
「グレインビル領で精油にも使う花で糸を染色して香り付けしておりますの。
刺繍も気に入っていただけたのなら何よりでしてよ」
にこりと歯を見せない淑女スマイルでどうだ!
「その、先ほどは申し訳ございませんでしたわ。
ありがとうございます。
大事に致しますわ」
「申し訳ございませんでしたわ。
ありがとうございます。
私も大事に致しますわ」
はにかむ顔は姉妹だけあってよく似ているけど、とりあえず色々成功したみたい。
「グレインビル侯爵令嬢、お心遣いに感謝申し上げますわ。
これ以降は憂いなくお過ごしいただけますよう主催を取り仕切る1人として尽力致しますので、もし何か心配事がございましたら私かこの2人にお声かけ下さいませ」
「お言葉に甘えてそのようにさせていたたきますわ」
夫人が貴婦人らしい礼をとると姉妹もそれに倣い、この場を去っていく。
焦ったー!
今度あの時の反省文という名の超大作についての入手経緯をレイヤード義兄様に問い正さねば!
僕の義兄様はドッキリの仕掛名人だね!
17
あなたにおすすめの小説
転生騎士団長の歩き方
Akila
ファンタジー
【第2章 完 約13万字】&【第1章 完 約12万字】
たまたま運よく掴んだ功績で第7騎士団の団長になってしまった女性騎士のラモン。そんなラモンの中身は地球から転生した『鈴木ゆり』だった。女神様に転生するに当たってギフトを授かったのだが、これがとっても役立った。ありがとう女神さま! と言う訳で、小娘団長が汗臭い騎士団をどうにか立て直す為、ドーン副団長や団員達とキレイにしたり、旨〜いしたり、キュンキュンしたりするほのぼの物語です。
【第1章 ようこそ第7騎士団へ】 騎士団の中で窓際? 島流し先? と囁かれる第7騎士団を立て直すべく、前世の知識で働き方改革を強行するモラン。 第7は改善されるのか? 副団長のドーンと共にあれこれと毎日大忙しです。
【第2章 王城と私】 第7騎士団での功績が認められて、次は第3騎士団へ行く事になったラモン。勤務地である王城では毎日誰かと何かやらかしてます。第3騎士団には馴染めるかな? って、またまた異動? 果たしてラモンの行き着く先はどこに?
※誤字脱字マジですみません。懲りずに読んで下さい。
強制力が無茶するせいで乙女ゲームから退場できない。こうなったら好きに生きて国外追放エンドを狙おう!処刑エンドだけは、ホント勘弁して下さい
リコピン
ファンタジー
某乙女ゲームの悪役令嬢に転生したナディア。子どもの頃に思い出した前世知識を生かして悪役令嬢回避を狙うが、強制力が無茶するせいで上手くいかない。ナディアの専属執事であるジェイクは、そんなナディアの奇行に振り回されることになる。
※短編(10万字はいかない)予定です
転生したら鎧だった〜リビングアーマーになったけど弱すぎるので、ダンジョンをさまよってパーツを集め最強を目指します
三門鉄狼
ファンタジー
目覚めると、リビングアーマーだった。
身体は鎧、中身はなし。しかもレベルは1で超弱い。
そんな状態でダンジョンに迷い込んでしまったから、なんとか生き残らないと!
これは、いつか英雄になるかもしれない、さまよう鎧の冒険譚。
※小説家になろう、カクヨム、待ラノ、ノベルアップ+、NOVEL DAYS、ラノベストリート、アルファポリス、ノベリズムで掲載しています。
一緒に異世界転生した飼い猫のもらったチートがやばすぎた。もしかして、メインは猫の方ですか、女神様!?
たまご
ファンタジー
アラサーの相田つかさは事故により命を落とす。
最期の瞬間に頭に浮かんだのが「猫達のごはん、これからどうしよう……」だったせいか、飼っていた8匹の猫と共に異世界転生をしてしまう。
だが、つかさが目を覚ます前に女神様からとんでもチートを授かった猫達は新しい世界へと自由に飛び出して行ってしまう。
女神様に泣きつかれ、つかさは猫達を回収するために旅に出た。
猫達が、世界を滅ぼしてしまう前に!!
「私はスローライフ希望なんですけど……」
この作品は「小説家になろう」さん、「エブリスタ」さんで完結済みです。
表紙の写真は、モデルになったうちの猫様です。
つまらなかった乙女ゲームに転生しちゃったので、サクッと終わらすことにしました
蒼羽咲
ファンタジー
つまらなかった乙女ゲームに転生⁈
絵に惚れ込み、一目惚れキャラのためにハードまで買ったが内容が超つまらなかった残念な乙女ゲームに転生してしまった。
絵は超好みだ。内容はご都合主義の聖女なお花畑主人公。攻略イケメンも顔は良いがちょろい対象ばかり。てこたぁ逆にめちゃくちゃ住み心地のいい場所になるのでは⁈と気づき、テンションが一気に上がる!!
聖女など面倒な事はする気はない!サクッと攻略終わらせてぐーたら生活をGETするぞ!
ご都合主義ならチョロい!と、野望を胸に動き出す!!
+++++
・重複投稿・土曜配信 (たま~に水曜…不定期更新)
美少女に転生して料理して生きてくことになりました。
ゆーぞー
ファンタジー
田中真理子32歳、独身、失業中。
飲めないお酒を飲んでぶったおれた。
気がついたらマリアンヌという12歳の美少女になっていた。
その世界は加護を受けた人間しか料理をすることができない世界だった
国外追放ですか?畏まりました(はい、喜んでっ!)
ゆきりん(安室 雪)
恋愛
私は、セイラ・アズナブル。聖女候補として全寮制の聖女学園に通っています。1番成績が優秀なので、第1王子の婚約者です。けれど、突然婚約を破棄され学園を追い出され国外追放になりました。やった〜っ!!これで好きな事が出来るわ〜っ!!
隣国で夢だったオムライス屋はじめますっ!!そしたら何故か騎士達が常連になって!?精霊も現れ!?
何故かとっても幸せな日々になっちゃいます。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる