秘密多め令嬢の自由でデンジャラスな生活〜魔力0、超虚弱体質、たまに白い獣で大冒険して、溺愛されてる話

嵐華子

文字の大きさ
94 / 491

93.扇とレース

しおりを挟む
「やはりあなたのような娘が欲しいわね」
「ふふ、ありがとうございます、伯母様」

 座り直すと伯母様が感心したように声をかけてきたから社交辞令で受け流す。
従姉様がいなくて良かったよ。

 そうしていると1人の貴婦人と2人の令嬢が空いていた席に案内されてきた。
令嬢の1人はまだ幼い。
あっちの世界だと小学校入学前後くらい?

 お互いにごきげんようと挨拶をしてから自己紹介をする。
金髪青目のドン引き令嬢の卓で世間話をしてた人達で、確かアビニシア家より少し後に公爵に陞爵した家だったはず。

「それよりもそろそろ王妃様がいらっしゃるのでは?」

 夫人が空席に視線を向けて伯母様に問う。
知り合いだったのかな。

「そうね」

 伯母様が気にした様子もなく他人事のように穏やかに相槌を打つと、一瞬何かを思案したように僕をチラリと見てからは何も触れずに姉妹の相手を始めた。

 大丈夫だよ、そろそろ連れて来てくれるから。

 僕も伯母様と世間話を始めて待ち時間を潰しているとドン引き金髪令嬢が近づいて来るのを視界の端に捕らえる。
令嬢は花柄レースを首元にあしらったスカート部分はふわりとした形の薄青色のホルターネックドレスに二の腕までの同じ色の花柄レースの手袋をはめてお茶会に相応しい、露出の少ない品のある装いだ。
この世界のレースはカッティングレースが主流だよ。

 僕以外は気づいてすっと立ち上がる。

「ごきげんよう。
ほら、いつまで後ろにいらっしゃいますの」

 そう言うと後ろに小さくなって隠れていた赤色ドレスの令嬢、従姉様の手を掴んで席に座らせた。
その表情はやっぱり暗い。

「娘がご迷惑をお掛けしましたわ。
ブルグル公爵令嬢」

 従姉様に視線を移す事なく伯母様が一礼する。
家格はブルグルが上だからね。

「かまわなくってよ。
皆様お掛けになって。
それよりお久しぶりね、アリアチェリーナ様」
「はい。
お久しぶりですわ、レイチェル様」

 僕は立ち上がるけど、お互いに一礼はしないし、かといって僕達の様子に不穏な気配もない。
それに何よりお互いに名前で呼び合っている。
その様子に僕達以外が困惑しつつも見守る。

「例の物はできまして?」
「もちろんでしてよ。
今お渡しした方がよろしいかしら?」
「そうしてくださる?」

 僕はこの円卓の専属バトラーに目配せした上でポケットに手を入れて例の物を取り出した。

「便利なデザインね。
ああ、それよりもこちらですわね。
広げてみてもよろしいかしら?」

 僕のドレスに目を丸くしつつも手にした物に気を取り直したドン引き令嬢に、僕はにこりと微笑んで頷く。

 パサリ。

 乾いた音と共に広げたのは、青色の扇。
その生地はで作ってある。
軽く扇ぐと先端の絞りを加えたレースが揺れる。
ただ、彼女が使うには少し小ぶりだけどね。

「良い香り。
それにこのレースはいつ見ても素敵だけれど、この色は私の瞳の色によく似ていて感慨深くてよ」
「初めて作りましたから強度が心配でしたが、そのまま持ち運びしても綻び等はございませんでしたわね」
「そのようですわね」

 そう言って僕に扇を返すと僕の隣にいた令嬢は少し驚いた顔をする。
プレゼントを突き返したと思ったんだろうな。

 さっき目配せしたバトラーが近寄ってきて、そっと細長い小箱を差し出した。
小箱には扇のレースと色違いの同じ柄で、一部に金糸を使った小花が散ったリボンで封をしてある。

「綺麗な青紫ね。
この金の小花も良いアクセントでしてよ。
あなたのドレスの色とも少し風合いが違う、私達の瞳の色を掛け合わせたような色で素敵だわ。
喜んで使わせていただいてよ。
ただ、そちらの扇はあなたが使っても問題ないけれど····」

 同じ円卓にいる小さなレディに目を向ける。
うん、僕も気づいてた。

「私も本日はこちらの扇を····と言いたいところですが、長さもちょうど良い上に喜んでいただけそうな方にお譲りする方が作り手の私も嬉しく感じますわ」

 めちゃくちゃキラッキラの目で扇を見ていた僕より目線がやや下の少女に近づいてそっと差し出す。

「うわー!
ありがとうございますわ!
本当です!
いいかおり!」
「ピノ!
言葉使い!」

 その場で好奇心を抑えられずに鼻の下でパタパタ扇ぐ幼い妹を慌てて姉が諌めるその間で、けれど夫人は慌てる様子を見せない。

「グレインビル侯爵令嬢、本当によろしいのかしら?」
「先程レイチェル様ともお話しされていらっしゃいましたし、その青の扇をお持ちになっても特に問題はございませんでしょう?」

 僕の隣に移動した本人もそれに軽く頷いてるから、大丈夫だよ。

「素敵な贈り物に感謝致しますわ」

 僕達2人に礼を取ると、両側の息女達もそれに倣った。
何か少し前の侯爵親子との光景と既視感が····。

 なんて思っていると、会場入り口付近の警備騎士達の雰囲気が明らかに緊張したものに変わる。
そろそろかな。

「では私は戻りますわ。
また後ほど」
「はい」

 今度はお互い軽く一礼してそれぞれ席へと戻る。
雰囲気を察した他の貴婦人達も同じようにそそくさと席に着いた。

「王妃様、ご来場!」

 会場内が静まった頃合いを見計らうようにして案内係の声が響いた。
しおりを挟む
感想 12

あなたにおすすめの小説

バッドエンド予定の悪役令嬢が溺愛ルートを選んでみたら、お兄様に愛されすぎて脇役から主役になりました

美咲アリス
恋愛
目が覚めたら公爵令嬢だった!?貴族に生まれ変わったのはいいけれど、美形兄に殺されるバッドエンドの悪役令嬢なんて絶対困る!!死にたくないなら冷酷非道な兄のヴィクトルと仲良くしなきゃいけないのにヴィクトルは氷のように冷たい男で⋯⋯。「どうしたらいいの?」果たして私の運命は?

疲れきった退職前女教師がある日突然、異世界のどうしようもない貴族令嬢に転生。こっちの世界でも子供たちの幸せは第一優先です!

ミミリン
恋愛
小学校教師として長年勤めた独身の皐月(さつき)。 退職間近で突然異世界に転生してしまった。転生先では醜いどうしようもない貴族令嬢リリア・アルバになっていた! 私を陥れようとする兄から逃れ、 不器用な大人たちに助けられ、少しずつ現世とのギャップを埋め合わせる。 逃れた先で出会った訳ありの美青年は何かとからかってくるけど、気がついたら成長して私を支えてくれる大切な男性になっていた。こ、これは恋? 異世界で繰り広げられるそれぞれの奮闘ストーリー。 この世界で新たに自分の人生を切り開けるか!?

つまらなかった乙女ゲームに転生しちゃったので、サクッと終わらすことにしました

蒼羽咲
ファンタジー
つまらなかった乙女ゲームに転生⁈ 絵に惚れ込み、一目惚れキャラのためにハードまで買ったが内容が超つまらなかった残念な乙女ゲームに転生してしまった。 絵は超好みだ。内容はご都合主義の聖女なお花畑主人公。攻略イケメンも顔は良いがちょろい対象ばかり。てこたぁ逆にめちゃくちゃ住み心地のいい場所になるのでは⁈と気づき、テンションが一気に上がる!! 聖女など面倒な事はする気はない!サクッと攻略終わらせてぐーたら生活をGETするぞ! ご都合主義ならチョロい!と、野望を胸に動き出す!! +++++ ・重複投稿・土曜配信 (たま~に水曜…不定期更新)

傷物転生令嬢マグダリーナと原初の魔法使いエステラの幻想譚-女神とスライムの光とともに- (旧タイトル:ナイナイづくしで始まった、傷物令嬢の異

天三津空らげ
ファンタジー
日本の田舎で平凡な会社員だった松田理奈は、不慮の事故で亡くなり10歳のマグダリーナに異世界転生した。転生先の子爵家は、どん底の貧乏。父は転生前の自分と同じ歳なのに仕事しない。二十五歳の青年におまるのお世話をされる最悪の日々。転生チートもないマグダリーナが、美しい魔法使いの少女に出会った時、失われた女神と幻の種族にふりまわされつつQOLが爆上がりすることになる―― ※他サイトでも掲載しています ※ちょいちょい手直ししていってます 2026.12.14 タイトル変更 旧タイトル:ナイナイづくしで始まった、傷物令嬢の異世界生活

スライムからパンを作ろう!〜そのパンは全てポーションだけど、絶品!!〜

櫛田こころ
ファンタジー
僕は、諏方賢斗(すわ けんと)十九歳。 パンの製造員を目指す専門学生……だったんだけど。 車に轢かれそうになった猫ちゃんを助けようとしたら、あっさり事故死。でも、その猫ちゃんが神様の御使と言うことで……復活は出来ないけど、僕を異世界に転生させることは可能だと提案されたので、もちろん承諾。 ただ、ひとつ神様にお願いされたのは……その世界の、回復アイテムを開発してほしいとのこと。パンやお菓子以外だと家庭レベルの調理技術しかない僕で、なんとか出来るのだろうか心配になったが……転生した世界で出会ったスライムのお陰で、それは実現出来ることに!! 相棒のスライムは、パン製造の出来るレアスライム! けど、出来たパンはすべて回復などを実現出来るポーションだった!! パン職人が夢だった青年の異世界のんびりスローライフが始まる!!

元社畜悪役令嬢、辺境のボロ城を全自動ボタニカル美容スパに大改造して引きこもる ~前世コスメで冷徹公爵を完治させたら溺愛されました~

季未
恋愛
「貴様のような悪逆非道な女は、極寒の辺境へ追放だ!」 建国記念の夜会で王太子から婚約破棄を突きつけられた公爵令嬢シャルロッテ。 しかし、彼女の中身は前世でブラック企業に殺された過労で過労死したマーケターだった! (激務の王妃ルート回避!? しかも辺境は誰にも邪魔されないブルーオーシャン! 最高のフリーランス生活の始まりじゃない!) 理不尽な追放を究極のホワイト・スローライフへのパスポートだと歓喜した彼女は、あてがわれた辺境のボロ城を、前世の「DIY・スマートホーム知識」と「土・水魔法」を駆使して爆速で大改造! 隙間風の吹く部屋は、一瞬で「床暖房完備の全自動温水スパ」へ。 辺境に自生する雑草からは「極上ボタニカルコスメ」を開発し、自らも絶世の美女へと変貌していく。 さらに「お前には干渉しない」と白い結婚を突きつけてきたはずの、呪いで顔に火傷を負った氷の公爵に特製マッサージと美肌治療を施したところ……。 「お前が作ったこの空間と、お前自身が……俺のすべてだ」 冷徹だったはずの公爵様が、極上の癒やし空間と彼女の手技で完全に骨抜きにされ、異常なまでの過保護・溺愛モードに突入!? 現代マーケティングと美容チートで辺境を超高級スマート・リゾートへと再生させ、かつて自分を追放した王太子たちを大後悔させる! 爽快&極甘な、異世界リゾート経営×溺愛ファンタジー、堂々開幕!

3歳で捨てられた件

玲羅
恋愛
前世の記憶を持つ者が1000人に1人は居る時代。 それゆえに変わった子供扱いをされ、疎まれて捨てられた少女、キャプシーヌ。拾ったのは宰相を務めるフェルナー侯爵。 キャプシーヌの運命が再度変わったのは貴族学院入学後だった。

処理中です...