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94.ケーキと防壁
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案内係のかけ声と共に扉が開く。
王妃様の為に設けられた席の近くで、僕達の入ってきた扉とはもちろん違うよ。
深みのある赤髪碧目の艶やかな女性が黒髪金目のワイルド系王子へと変貌を遂げたルドルフ第ニ王子殿下のエスコートで入場する。
碧地に黒と金の刺繍が施された品のあるドレスだね。
耳と、首から胸元で光るアクセサリーは昼間のお茶会に合わせて決して豪奢ではないんだけど、光を反射するよう計算してカッティングされたダイヤみたいだからドレスの碧に負けないように顔色をよく見せているね。
ザ·ロイヤルファミリーって感じの威厳を放ちながらしずしずと入り、儲けられた席の隣に立つと僕達も全員起立する。
ていうか王子、狩猟は?
そう思ったのは一瞬。
僕はある光景に瞬時に頭を切り替えた!
(バルトス義兄様の正装だー!!!!
カッコイイ!
素敵!
アンビリーバボー!!!!)
護衛の為だろうけど、2人のすぐ後ろをついて入ったバルトス義兄様がロイヤルバックに気配を消して控えた。
いつもの僕なら義兄様と同じく護衛の為に控えた銀灰色の狼耳とふさふさ尻尾の大柄な狼獣人のシル様に目が行くんだろうけど、今日の僕は違う!
もちろん初めて見る軍服姿の義兄様にロックオンだ!
義兄様は白の刺繍が施された黒の軍服に勲章をつけてローブを羽織ってる!
もうカッコイイが過ぎる!
ちなみに同じく気配を消して隣に立ってる近衛騎士のシル様は金の刺繍が施された黒の軍服でローブは無いよ。
うん、シル様も険しい顔が標準装備されてるけど、いつもよりいいね。
どちらも帯刀してるけど、義兄様は魔術師だから短刀。
確かどこの団も刺繍の金が団長、白が副団長、隊長が赤、それ以外の識別だった気がする。
白の軍服もあって、その時だけは黒が副団長の色になるんだ。
本当にうちの義兄様は優しげな面立ちだけど凛々しさも潜ませてるし、背は高いし、戦ったら強いし、軍服はめちゃくちゃ似合うし、欠点なんてないんじゃないかな!
主催側の1人である王妃様の当たり障りのない開始の挨拶なんか何も入ってこなかったよ。
ルドルフ王子もそういえば何か言ってたような?
そういえば何でいるんだっけ。
何かチラッと目が合った?
気のせいかな。
ま、いいや。
僕は再びパーフェクトブラザー·バルトス軍服バージョンをうっとり眺める。
最近あんまり会えてなかったんだよね。
でもその晴れの姿見れたから良しとしよう。
でも帰ってきたら熊耳生やしてもらおう。
お疲れ様っていっぱい撫でるんだ。
あ、義兄様と一瞬だけど目が合ったね。
目を細めた?
ちゃんと気づいてくれたのかな。
嬉しいな。
ん、視線?
何だ、ルドルフ王子か。
苦笑したのかな?
まあいいや。
僕の眼福は君の後ろにあるんだもん。
何て思ってたら、挨拶が終わったみたい。それぞれの専属バトラー達が一斉にお茶を入れてくれるから、紅茶の良い香りが漂い始める。
お茶を一杯飲み終わる頃、僕が待ち望んだ例のブツが登場だ!
この時の為に僕のドレスは準備万端だよ!
途端に僕はそわそわして視線をそちらに何度も向けるのを見た隣の伯母様がポソリと呟いた。
「本当に好きなのね」
イエス!
ここに来た真の目的はアレ!
そう、ケーキ!
色とりどりに並ぶケーキ!
「従姉様、参りますわよ!」
僕はある目的があって辞退させようとした従姉様を連れて来させたのだ!
立ち上がって従姉様の手を引く。
「な、ちょっとあなた、本当にこの為に?!
まだ王妃様とお話もしてませんわよ?!」
焦りつつも周囲に配慮したのか、はたまた恥ずかしかったのか、小声で反抗する。
「私は子供ですのよ!
子供は甘い物が大好きなのですわ!
王妃様へのご挨拶はまだまだ時間がかかりますの!
ケーキは新鮮だからこそケーキなのでしてよ!」
「何ですの、その暴論?!
お、お母様?!」
ここにきて母親に助けを求めるなんて、往生際が悪いなあ。
「本日のあなたの事はアリアチェリーナに一任していると言いましたわね」
にっこり微笑んで手を淑女らしく小さく品良く振って見送る。
「さあ!
しっかり私のケーキを運んで下さいませ!
従姉様の役割をこなすのですわ!」
「そ、そんな····」
え、従姉様がどうしてお茶会に参加したのか気になってた?
そんなの決まってるじゃない。
貴婦人集まるお茶会で僕の食べるケーキを自然な流れで1つとして取り洩らさないようしっかり確保しつつ、マウント取ろうとする淑女への防壁にしつつ、1人分しか食べてないと見せかけて2人分とあわよくば伯母様の分も食べる為に決まってるじゃないか!
もちろん義父様もレイヤード義兄様もちゃんと納得してたよ。
ケーキにかける情熱を僕の家族は理解してくれてる優しい人達なんだ。
僕はチラリと王妃様の動きを確認する。
公爵の中では最後になるから時間は十分。
そうそう、この国は来賓が多くて卓を構えるお茶会では主催者が挨拶に回るよ。
アビニシア侯爵夫人達は侯爵家の卓を回り始めてるけど、そのルールに王族や序列への例外はないんだ。
来賓がぞろぞろ列を成して挨拶待ちするのは卓がないお茶会や夜会くらい。
でも挨拶しに来る時にはちゃんと来賓も席に座っておかないといけないよ。
「ケーキの為にって····まさか本気だったなんて····あなたも貴族令嬢のはずなのに····」
従姉様ってばケーキ運んでちょっと壁になるくらいで何で信じられないって顔するんだろうね?
王妃様の為に設けられた席の近くで、僕達の入ってきた扉とはもちろん違うよ。
深みのある赤髪碧目の艶やかな女性が黒髪金目のワイルド系王子へと変貌を遂げたルドルフ第ニ王子殿下のエスコートで入場する。
碧地に黒と金の刺繍が施された品のあるドレスだね。
耳と、首から胸元で光るアクセサリーは昼間のお茶会に合わせて決して豪奢ではないんだけど、光を反射するよう計算してカッティングされたダイヤみたいだからドレスの碧に負けないように顔色をよく見せているね。
ザ·ロイヤルファミリーって感じの威厳を放ちながらしずしずと入り、儲けられた席の隣に立つと僕達も全員起立する。
ていうか王子、狩猟は?
そう思ったのは一瞬。
僕はある光景に瞬時に頭を切り替えた!
(バルトス義兄様の正装だー!!!!
カッコイイ!
素敵!
アンビリーバボー!!!!)
護衛の為だろうけど、2人のすぐ後ろをついて入ったバルトス義兄様がロイヤルバックに気配を消して控えた。
いつもの僕なら義兄様と同じく護衛の為に控えた銀灰色の狼耳とふさふさ尻尾の大柄な狼獣人のシル様に目が行くんだろうけど、今日の僕は違う!
もちろん初めて見る軍服姿の義兄様にロックオンだ!
義兄様は白の刺繍が施された黒の軍服に勲章をつけてローブを羽織ってる!
もうカッコイイが過ぎる!
ちなみに同じく気配を消して隣に立ってる近衛騎士のシル様は金の刺繍が施された黒の軍服でローブは無いよ。
うん、シル様も険しい顔が標準装備されてるけど、いつもよりいいね。
どちらも帯刀してるけど、義兄様は魔術師だから短刀。
確かどこの団も刺繍の金が団長、白が副団長、隊長が赤、それ以外の識別だった気がする。
白の軍服もあって、その時だけは黒が副団長の色になるんだ。
本当にうちの義兄様は優しげな面立ちだけど凛々しさも潜ませてるし、背は高いし、戦ったら強いし、軍服はめちゃくちゃ似合うし、欠点なんてないんじゃないかな!
主催側の1人である王妃様の当たり障りのない開始の挨拶なんか何も入ってこなかったよ。
ルドルフ王子もそういえば何か言ってたような?
そういえば何でいるんだっけ。
何かチラッと目が合った?
気のせいかな。
ま、いいや。
僕は再びパーフェクトブラザー·バルトス軍服バージョンをうっとり眺める。
最近あんまり会えてなかったんだよね。
でもその晴れの姿見れたから良しとしよう。
でも帰ってきたら熊耳生やしてもらおう。
お疲れ様っていっぱい撫でるんだ。
あ、義兄様と一瞬だけど目が合ったね。
目を細めた?
ちゃんと気づいてくれたのかな。
嬉しいな。
ん、視線?
何だ、ルドルフ王子か。
苦笑したのかな?
まあいいや。
僕の眼福は君の後ろにあるんだもん。
何て思ってたら、挨拶が終わったみたい。それぞれの専属バトラー達が一斉にお茶を入れてくれるから、紅茶の良い香りが漂い始める。
お茶を一杯飲み終わる頃、僕が待ち望んだ例のブツが登場だ!
この時の為に僕のドレスは準備万端だよ!
途端に僕はそわそわして視線をそちらに何度も向けるのを見た隣の伯母様がポソリと呟いた。
「本当に好きなのね」
イエス!
ここに来た真の目的はアレ!
そう、ケーキ!
色とりどりに並ぶケーキ!
「従姉様、参りますわよ!」
僕はある目的があって辞退させようとした従姉様を連れて来させたのだ!
立ち上がって従姉様の手を引く。
「な、ちょっとあなた、本当にこの為に?!
まだ王妃様とお話もしてませんわよ?!」
焦りつつも周囲に配慮したのか、はたまた恥ずかしかったのか、小声で反抗する。
「私は子供ですのよ!
子供は甘い物が大好きなのですわ!
王妃様へのご挨拶はまだまだ時間がかかりますの!
ケーキは新鮮だからこそケーキなのでしてよ!」
「何ですの、その暴論?!
お、お母様?!」
ここにきて母親に助けを求めるなんて、往生際が悪いなあ。
「本日のあなたの事はアリアチェリーナに一任していると言いましたわね」
にっこり微笑んで手を淑女らしく小さく品良く振って見送る。
「さあ!
しっかり私のケーキを運んで下さいませ!
従姉様の役割をこなすのですわ!」
「そ、そんな····」
え、従姉様がどうしてお茶会に参加したのか気になってた?
そんなの決まってるじゃない。
貴婦人集まるお茶会で僕の食べるケーキを自然な流れで1つとして取り洩らさないようしっかり確保しつつ、マウント取ろうとする淑女への防壁にしつつ、1人分しか食べてないと見せかけて2人分とあわよくば伯母様の分も食べる為に決まってるじゃないか!
もちろん義父様もレイヤード義兄様もちゃんと納得してたよ。
ケーキにかける情熱を僕の家族は理解してくれてる優しい人達なんだ。
僕はチラリと王妃様の動きを確認する。
公爵の中では最後になるから時間は十分。
そうそう、この国は来賓が多くて卓を構えるお茶会では主催者が挨拶に回るよ。
アビニシア侯爵夫人達は侯爵家の卓を回り始めてるけど、そのルールに王族や序列への例外はないんだ。
来賓がぞろぞろ列を成して挨拶待ちするのは卓がないお茶会や夜会くらい。
でも挨拶しに来る時にはちゃんと来賓も席に座っておかないといけないよ。
「ケーキの為にって····まさか本気だったなんて····あなたも貴族令嬢のはずなのに····」
従姉様ってばケーキ運んでちょっと壁になるくらいで何で信じられないって顔するんだろうね?
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