秘密多め令嬢の自由でデンジャラスな生活〜魔力0、超虚弱体質、たまに白い獣で大冒険して、溺愛されてる話

嵐華子

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114.目的

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 ガチャリと鍵を解錠する音がして、意識が浮上する。

「「アリー(嬢)!」」
「ああ、そう慌てなさんな。
なあ、ルーベンス」

 チャッ、と小さな金属の音がする。

「····ぐぅっ」

 直後に危機感を感じさせる少し高くなったシル様のくぐもった声。

「シル!!
貴様っ!!
····ぐっ!」

 ガシャン、と誰かが鉄格子にぶつかる。
ルド様、蹴られたはずみでぶつかったのかな。
殴られた音じゃなかったよね。

「ふん、裏切り者の一族に相応しい死に様だね。
そのまま苦しみながらゆっくり死への恐怖を味わって死にな」

 シル様に、何?

 僕は毛布を顔に押し当てている事にやっと気づいた。
そうか、あのまま眠ったのか。

 ゆっくりと目を開けると、眩暈はだいぶ治まったみたいでほっとする。
小さな窓から明かりはまだ入っているから、時間はそんなに経ってないよね。
知らずに寝返りでもしたのか、僕は鉄格子に背を向けてるみたいで、シル様がどうなってるのかは直接はわからない。

 僕はもう1度目を閉じる。
気配は3つ?
シル様、ルド様、三角耳の、えっとジルコだっけ?

「そいつが死んだら今度はそこのガキだ」
「ふざけるな!」
「ふざけてんのはお前だよ。
昔、この国でお前達の爺婆がやった事だ」
「何の事だ?!」
「お前達の先代、先々代が私の国だったあの土地を侵略した時、捕虜だった民間人の中でも特に獣人を嬲り殺したのさ」
「何を言ってる?!
そんな事実はない!」
「お前達が事実を曲げたんだ!
人属からすりゃ大昔で、私達獣人はついこの間のような悪夢なんだよ!」

 なるほどね、彼女の場合はそれが理由か。
、なかなか興味深いお話だ。

「お前達の作った偽りの歴史も何もかもを正しく塗り替えてやる。
だけどね、機会を与えてやるつもりだった。
私達はそれぞれこの国の騎士や魔術師だったからね。
あんた達王族にも多少は絆されたのさ」
「それで俺達を人質にでもしようとしたのか」

 ルド様、惜しい。

「は、王太子のスペアの王子とそこの魔力0の価値が無いガキなんぞ誰が人質にすんだ。
お前達が来るなんて、ついてないとしか言えないよ。
本当はお前の母親でこの国の国母を人質にして国王に真実を話すよう交渉するはずだったんだ。
この国の国王夫妻の仲の良さは他国にも周知の事実だ。
見捨てたりできないだろ?」
「だとしても、いや、それならどうしてシルに殺意を向ける?!
シルも同じ獣人····」
「同じ、だと····同じなわけがあるか!!」

 途中で遮った声には更に大きな怒気、ううん、殺意を孕んでる。

「そいつの一族は裏切り者だ!
王妃の曾祖父と共謀して私の家族を殺した!
王妃共々殺しても殺したりない!」

 なんだか欠けたピースが埋まっていく。
いいぞ、もっとやれ!
情報よこせ!
そしてさっさと終わらせろ!
ついでにそのまま剣はシル様に刺しっぱなしにしとけ!

「なかなか来ないと思ったら。
何で刺した?」

 あーあ、熊男が登場だね。
心の中で煽ってみたけど、情報収集はここまでかな。

「転移したのがこいつだったら殺して良いと許可したのはあんただろ!」

 まだ怒りが収まらないのか、ジルコが吼える。
そう、ここに来るのは可能性はやっぱりあったよね。
ふふふ、どうしようかな。

「状況が変わったのが理解出来てなかったみてえだな。
ゲドがそいつの体を調べたいから、殺す前に止めろって言いに来たんだよ。
お前、自分だけでいいって追い払ったんだってな。
まあ、もう手遅れだろうが」
「だったら今すぐこれを外せ!
俺が····ぅぐっ?!」

 ルド様····拐われた事ないのかな。
だとしたら今回の事は良い経験だね。
今の音、お腹あたり殴られたよね?
また鉄格子にぶつかった。

「····ぐっ、ゴホッ、ゴホッ」

 むせて立ち上がる音がしないから、強めにヒットしちゃったんだろうな。

「てめえは捕虜になってんだよ。
人質なんて可愛らしいもんだと思ってんなら、認識変えとけよ。
今のこの国は捕虜の扱いもだいぶ変えたけどな、普通は捕虜が自由に口利くなんざご法度だ。
ちゃんと体で覚えとけ。
次やったら更に酷く殴られると肝に命じとけ」

 熊男が牢に近づいてルド様を投げ入れる。
僕の足下らへんでザザッと勢いよく転んだ音がする。

「ぅぐっ」

 あ、剣抜いちゃったか。
呻くシル様も手荒に放り込んだみたいだね。

「嬢ちゃん、起きろ。
おい」

 うーん、正直今は面倒なのに。

「今度はそこの王子を刺す····」
「糞ガキ、起きな!」

 ガンッ、とどこぞの熊男がしたのと同じように格子を殴る。

「おい、騒ぐな」

 いやいや、君もやったからね。

「ふふっ」

 あ、思わず笑っちゃった。

「何が可笑しいのさ!」
「だって、2人して同じ事してるのに熊さんが自分を棚に上げてそんな事言うから」

 僕は寝転んだまま向きだけ変える。

「ジルコ、黙ってろ。
具合が悪いのか?」
「今すぐ体を起こした方がいい?」
「いや、そのままでいい」
「ベルヌ!」
「ジルコ、黙れ」
「くっ」

 ジルコは熊さん、ベルヌの殺気に思わず口をつぐむ。
うん、まだまだそっちのが有利なんだからもっと落ち着いた方がいいよ。

「ゲドが嬢ちゃんに関しては髪1本でも傷つけるな、とさ。
やったらこの件からお前を排除するっつってたぞ。
俺も冷静になれない奴はいらねえ。
意味はわかるな。
元よりお前が望んでついて来たんだ。
とりあえずお前は頭冷やしに行け」
「····わかった」

 ジルコが出ていった。

「悪かったな。
で、何でそんなに具合が悪くなった?
ああ、口調は今さら戻さなくていい」

 牢の鍵を再び施錠して鉄格子越しに僕の前でしゃがむ。
そういえば、敬語使うの忘れてた。
ま、いっか。

「転移魔具の設定を回数指定で変わるように組んだ回路が雑だったせいで空間が安定してなかったの。
もちろん本来狙ってた人達だったら問題なかったと思う。
でも魔力のない私は魔力耐性がほぼ無いから、切り替わる時の時空の歪みに挟まれてその影響が出てるみたい。
少し前にシル様に使ったあの魔具がなかったら、多分最初に捻り潰されて死んでた」
「そりゃ····悪かったな。
あの魔具は何だったんだ?」

 ベルヌが、多分本当に悪いと思ったんだろうね。
顔をしかめる。

「レイヤード兄様が作ったその名も《絶対ガード君·改》。
体の内外に害を与える魔法や武器から守ってくれる魔具なの」
「····そのネーミングセンスはどうにかならなかったのか」
「えっ、私が2日もかけて悩み抜いたスペシャルネームなのに?!」

 思わず体を起こそうとして、眩暈にくたりと倒れ込む。
やっぱり急に動くのは駄目か。
目をぎゅっと瞑って毛布に顔を埋めて治まるのを待つ。

「こっち来た時からそんなんだったのかよ。
随分根性据えて耐えてたんだな。
俺はもう行くから、しばらく寝てろ」
「眠ってもいいの?」
「ったく。
さっきまで寝てただろ。
しばらくは誰も来ねえよ」
「····そう」

 僕はゆっくりと目を閉じて、気配が消えるのを待った。
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