秘密多め令嬢の自由でデンジャラスな生活〜魔力0、超虚弱体質、たまに白い獣で大冒険して、溺愛されてる話

嵐華子

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230.レプリカの望みと寂しんぼ

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(····リー、アリー····)

 僕に呼びかける可愛らしい声が微かに聞こえて半分だけ意識が浮上する。

(どうしたの?)

 体は眠ったままで、意識だけが起きる。
ある意味金縛りみたいな状態だ。

 胸にある隠しポケットあたりが何となく温かい。

(アリー、使?)
(····何故?
そんな事をしたら君は····)
(いいの。
わたし、生まれた時から人を殺してきた。
最期くらい、だれかを助ける力になりたいの)
(········承服しかねる)

 自然と憮然とした声になってしまう。

(ふふふ、素が出てるわ、アリー。
外見と中身が全然違うんだから。
面白い)
(茶化さないで。
僕は君にただ静かに、穏やかに過ごして欲しいんだ。
それに僕は彼らを····)
(そうね。
それはアリーの本当の気持ち。
だからそう思ってしまう事を悪い事だと思わないわ。
だけどアリーがアリーとして生きる前、私のオリジナルと過ごした時よりももっと前のあなたはお医者さんだったんでしょう?)
(医者だから全人類を助けるなんて綺麗事や奉仕の心を僕は考えた事はない。
適性があると思ったから、成り行きでなってみただけだ)
(それでもそんなあなただから、あの子を救えたんでしょう?
お医者さんとしてのあなたにかけた、あの子の両親の言葉を忘れた事はないんでしょう?)

 もちろん、忘れるはずがない。
僕の大切な人達の言葉を忘れるなんてできない。

(それは····もちろんあの子は僕にとっても大切な子だったから····だけどその言葉があったって君を失うなら話は別だ。
僕にとっては君だって大切だ。
どのみち人はいつか死ぬ。
病で死ぬ人間なんてこの世の中にはごまんといる。
今の僕の義母様だってそうだ。
この世界では魔法が発達したからこそ、僕のいた世界より医学の発展が乏しい。
僕の中には彼を助けられるだけの知識や経験があっても、今の僕の子供の手ではむしろ死なせてしまうくらいにはここでの処置は難しい。
それだけだし、それが彼の本来の運命だ。
だから君が最期の力をそんな事に使う必要なんてない)
(そんな事ないよ、アリー。
アリーとオリジナルの感情の糸は今も切れずに繋がっているから、レプリカの私にもわかるわ。
アリーはお母さんの事もあったから、本当はどこかで助けたいって思ってる。
でも本当に助けたかったのはお母さん。
ずっと苦しんでるじゃない)
(そうだね。
だからって彼を代わりに助けても、あの人は····ミレーネは戻らないよ)

 心が軋む。
僕が本当に助けたかったのは義母様だ。
あのレモン色の目をした彼じゃない。
それにもっと早くにこの子を取り戻せていたらと、悔やまないわけじゃない。

(だから今度も助けられないとアリーはもっと傷つくでしょう?
ねえ、アリー。
私はレプリカだけど、アリーに使ってもらえると嬉しいわ。
だから私を使って、アリー。
オリジナルではできない事が、レプリカの私だからできる。
とても嬉しいの。
本当よ。
どのみちすでに度を超えた使われ方をして長くは保てないんだもの。
わたしに最期を選ばせて)

 姿は見えないけれど、声は幼女のように可愛らしい。
だけどそんなおねだりされたって、僕は納得なんてできない。

(····それでも····ごめん、僕は····そもそも彼らを····許せない)
(····アリー)

 意識が浮上していくのを感じる。

 眠ってる僕の周りが騒がしかったのは気づいてる。
今は起きたくないな····。

(またね、アリー。
私の愛し子)

 うん、また後でお話ししよう。

 そうして意識が完全に浮上する。

「兄様····」
「起きたんだね。
もう少しここで眠る?」

 目を開けると赤い目に覗き込まれる。
僕の大事なあの人が愛する息子。
僕の大切な家族。

 何となく今の顔は見られたくなくて、フードを深く被る。

「ううん。
ぎゅってして」

 レイヤード義兄様は僕のお願いを何も聞かずに実行してくれる。
それがとても心地良い。

 僕も義兄様のお膝の上で冒険者として逞しく成長した首に抱きつく。

「怖い夢でも見たの?」

 僕の背中をトントンしてくれる手はとても優しい。
眠ってる時もそうしてくれてたのは感じてた。

「違うよ。
ただ、寂しんぼになったみたい」
「そっか」
「····兄様はいなくならないで」

 僕達の正面にいるレモン色の目をした彼への当てつけだ。
心がトゲトゲしてる。
早くお家に帰りたいな。
義父様とバルトス義兄様にもぎゅってして欲しい。

「もちろん。
もっと強くならないとね」
「うん」

 しばらくそうしていると、少しずつ心が凪いでいく。

 感じていた視線に何となく顔を上げると気遣わしげなシル様と視線が合う。

 相変わらず素敵なお耳と尻尾にキュンとするけど、自主規制に努めて微笑むだけに留めておく。

 コード令息や王子も同じような目をしてるんだろうけど、あえてそっちは見ない。

 そして不意にキン、キン、キンと3回短い笛の音が聞こえた。
特定の人にだけ聞こえるように設定した魔笛だ。

「まだ注意は必要だろうけど、終わったみたいだね。
部屋に戻るかい?」

 大公の言葉に義兄様を見るとどちらでも良さそうな雰囲気だ。

「左様ですね。
そう致します」
「久々に君の紅茶を飲みたいが、構わないかな?」 

 え、嫌だ。
でもまあ彼の顔色もあまり良くなさそうだし、僕にあてがわれた部屋の一角は北風の影響を受けにくい場所だから仕方ないか。

「····ご一緒しましょう」
「ぶふっ。
そんなに嫌そうな目をしなくても····」 
「望んではおりませんもの」

 僕は現在進行形で機嫌が悪いんだぞ。
嫌なら寄りつかないでよね。

「俺もっ!
俺も一緒したい!
この温室の事も聞かせて欲しい!」

 王子は自己主張が激しいね。

 個人的には嫌だけど、今は一緒にいた方がいいのかな。
それよりシル様以外の護衛はどうしたの?
晩餐会の時には5人くらいはいたよね? 
交代とか部屋に待機組を入れればもう少しいるはず。

「それでは、王子も····」
「ルドだ。
この場は公式な場ではないから、そう呼んで欲しい」

 何か度々このやり取りするけど、王子で良くない?

「ルド様もご一緒にお茶をして過ごしましょうか。
職人さん達の所に視察に訪れる前に温室について知っていればいくらか役に立つかもしれません」
「ああ!
そうだな。
アリー嬢から見た職人についてもぜひ知りたい」

 そうして大公と外で待機してたらしい彼と王子の護衛数名を先頭に全員が連れ立って外へ出る。

 王子の護衛もちゃんと待機してたんだね。

 僕は義兄様に抱っこされてるよ。
今は歩きたくないもん。
侍従姿の凛々しい義兄様が素敵過ぎる。

 外に出るとゴードンお爺さんがニコニコと微笑んで控えている。
もしかして温室の出入り口で他の人達と見張りをしてたのかな?
元軍人さんだから、顔が広いんだよね。


 外に一歩踏み出してふるりと震える。
今日は北風も強いみたいだし、温室との気温差がまあまああるね。

 何とはなしに大公の後頚部を見る。
ほんのり汗ばんでない?

「たぃ····」
「····うっ、ぐっ」

 呼びかけようとした時、彼は胸を押さえて膝から崩れ落ちた。
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