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232.誘拐犯とタコパ
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「ふふふーん、ふふふーん」
「おい」
僕は溶いたライ麦と小麦を合わせたお粉を機嫌良く鉄板に流す。
ジュワーと音がして香ばしい香りが漂う。
「ふんふんふーん、ふんふんふーん」
「おい、嬢ちゃん」
切ったタコをポイポイッと放りこみ、あっちの世界でいうところのキャベツやネギをきざんだ具材もパパパッと入れてしばし待つ。
「ひょろ長さん、お皿ちょうだい」
「はいはい、どうぞ」
「おい、ゲドグル。
何でお前が前のめりに手伝ってんだ。
つうかひょろ長で返事してんなよ」
ひょろ長さんに眉間に皺を寄せて文句を言うのはベルヌだ。
いつぞやのルド様誘拐事件の主犯の1人で、熊属の元近衛騎士団団長だよ。
焦げ茶のお耳と丸い尻尾が厳ついお顔とギャップ萌を起こしている。
もふもふしたいなあ····。
はっ、ダメダメ、義父様と誘拐犯のは触らないってお約束してたんだった!
「タコパは細かいこと気にしたら負けだよ、ベルヌ」
「いや、だから何でこんなとこで嬢ちゃんがタコ焼きってのを焼いてんだよ。
大体それ、デビパスだろ。
何でデビパス焼きじゃねえんだ」
「こんなとこって、拐ったのはそっちでしょ。
それにお腹すいたんだもの。
ひょろ長さんもお腹空いてたらしいし?
ねえー」
「ねえー」
「お前らいつの間に仲良くしてんだ····」
ひょろ長さんも僕に同意して、ねえーを追従してくれた。
ベルヌはそんな僕達にちょっと引いてる?
ヒドイ。
ちなみにこんなとこと言う割にはちゃんとした場所だ。
転移してきたから何処だがさっぱりわからないけど、王都からはそんなに離れていない地下なのは間違いないと思う。
多分どこぞの貴族の別邸を勝手に使ってるんじゃないかな。
ここは広めの地下部屋だから立地や間取りを考えても富裕層なのは間違いない。
扉を閉めれば外の音は当然わからないけど、数年前彼らに初めて誘拐されたあの時みたいに岩を削って牢にしたようなゴツゴツした地面じゃないし、暖炉があって部屋も温めてくれてるから快適だ。
外は恐らく吹雪いてるんじゃないかな?
温室から出た時の底冷え感からして。
あの大公はあのまま死んでしまったか、それとも息を吹き替えしたか、どっちだろう?
「暗躍中も私にどういう実験するかで頭がいっぱいで、ご飯食べるのもお腹空いてたのも忘れてたって言うんだからびっくりしちゃった。
魔人属さんてある意味色々便利だよね。
ある程度は食べなくても普通に動けるんだもの。
マジックバックならぬ、マジックポケットにタコパグッズ入れておいて良かった。
デビパスだけどタコなの。
タコ焼きで合ってるの」
「ツッコミどころが多すぎんだろ。
マジックポケットって何だ。
しかも何でタコパグッズっつうのが入ってんだ。
そもそも嬢ちゃん実験台になるって知ってんのに飯作ってやんのか」
髪やお耳と同じ色の目を細める。
ん?
何かを疑って····あ、そうか。
「毒とか入ってないよ。
料理にそんなの入れるなんて私の主義に反するし。
疑うならひょろ長さんに鑑定なり解毒なりの魔法かけてもらえばいいけど、ベルヌ細かい。
だいたい、次会ったらタコパするって約束してたでしょ。
約束は守る女だもの」
えっへんと胸を張る。
「約束してたわけじゃねえだろ。
まあ毒の疑いも俺の杞憂だろうな。
それより嬢ちゃん、誘拐されたって····はあ、もういい。
拐われ慣れてんだったな」
「そうだよ」
諦めたような、残念な何かを見るような視線を僕に向けるのはいかがなものかと思うよ。
なんて会話をしつつも僕の手はタコ焼きの丸いフォルムを形成していく。
「はい、できた。
ひょろ長さん、逞しさんにもどうぞしてきて。
ちゃんと火傷に気をつけるように言ってね」
「はいはい。
でも残念ながら貴女からの差し入れは····」
ひょろ長さんは申し訳無さそうだけど、そういう事はどうでもいいんだ。
「いいの。
タコパは気分が大事だもの。
1人だけ除け者とか、こっちの気分が萎えちゃうよ。
どのみち吹雪で足止め食らってるんだから、何してもいいでしょ」
「何してもいいわけじゃねえだろ。
大体逞しさんて何だ」
「節度は守って焼いてるから良いでしょ。
細かいこと気にしてたら負けだよ」
「何と戦ってんだよ」
手早くお皿に盛ってソースをかけていきつつ、熊さんツッコミに応えていく。
ひょろ長さんはお皿を持って部屋から出て行った。
逞しさんに渡しに行ったんだと思う。
「逞しさんは、ジルコミアの事。
お名前呼んだらまた怒っちゃったし、もうそれでいいかなって。
そもそも私、あの時シル様刺したのまだ怒ってるんだもの」
「まあアイツにはアイツの理由があんだよ」
「知ってる。
でもそれを私が気遣う理由もないでしょ。
何も知らないくせにって言われても、そもそもそこを省略して襲ったのはそっちだし、未だに説明しようとすらしないのもそっちじゃない?」
「まあ、なあ。
だが····」
「憎しみをぶつけるなら、ぶつけた相手を大事に思う人から自分が憎まれる事くらい覚悟してやるべきだよ。
まあ憎しみの連鎖なんて誰も得しないけど、最初に止める方は不条理で損した気持ちになるだろうから憎むなとか、理不尽だから止めろなんて言うつもりもないから安心して」
「そんなにルーベンスが好きなのかよ。
憎しみの連鎖に、最初に止める方、ねえ」
何か思う事でもあったのか、厳ついお顔が曇る。
「シル様は私にお菓子くれたり、お耳と尻尾をもふらせてくれたりしたもの。
優しい人は好きだし、優しくされたらちゃんとお返ししとく方が次に繋がってお得でしょ。
はい、ベルヌの分」
「それを言っちまったら現金主義にしか見えねえぞ。
ま、美味そうだから細かい事は目をつぶってやるよ」
受け取ったタコ焼きをふうふうしてそのまま口に入れる。
「あちっ!
はふっ!」
あ、やっぱりそうなるよね。
口の中の上顎の皮がベロンてならないといいけど。
「んふふー。
食べたのは初めて?
最初に半分に割ると熱が逃げて食べやすいから。
いっぱい焼くからいっぱい食べてね」
「早く言ってくれ」
涙目熊さんもなかなか萌える。
アドバイス通りにしつつも警戒しながら食べる熊さんも良いね!
「おい」
僕は溶いたライ麦と小麦を合わせたお粉を機嫌良く鉄板に流す。
ジュワーと音がして香ばしい香りが漂う。
「ふんふんふーん、ふんふんふーん」
「おい、嬢ちゃん」
切ったタコをポイポイッと放りこみ、あっちの世界でいうところのキャベツやネギをきざんだ具材もパパパッと入れてしばし待つ。
「ひょろ長さん、お皿ちょうだい」
「はいはい、どうぞ」
「おい、ゲドグル。
何でお前が前のめりに手伝ってんだ。
つうかひょろ長で返事してんなよ」
ひょろ長さんに眉間に皺を寄せて文句を言うのはベルヌだ。
いつぞやのルド様誘拐事件の主犯の1人で、熊属の元近衛騎士団団長だよ。
焦げ茶のお耳と丸い尻尾が厳ついお顔とギャップ萌を起こしている。
もふもふしたいなあ····。
はっ、ダメダメ、義父様と誘拐犯のは触らないってお約束してたんだった!
「タコパは細かいこと気にしたら負けだよ、ベルヌ」
「いや、だから何でこんなとこで嬢ちゃんがタコ焼きってのを焼いてんだよ。
大体それ、デビパスだろ。
何でデビパス焼きじゃねえんだ」
「こんなとこって、拐ったのはそっちでしょ。
それにお腹すいたんだもの。
ひょろ長さんもお腹空いてたらしいし?
ねえー」
「ねえー」
「お前らいつの間に仲良くしてんだ····」
ひょろ長さんも僕に同意して、ねえーを追従してくれた。
ベルヌはそんな僕達にちょっと引いてる?
ヒドイ。
ちなみにこんなとこと言う割にはちゃんとした場所だ。
転移してきたから何処だがさっぱりわからないけど、王都からはそんなに離れていない地下なのは間違いないと思う。
多分どこぞの貴族の別邸を勝手に使ってるんじゃないかな。
ここは広めの地下部屋だから立地や間取りを考えても富裕層なのは間違いない。
扉を閉めれば外の音は当然わからないけど、数年前彼らに初めて誘拐されたあの時みたいに岩を削って牢にしたようなゴツゴツした地面じゃないし、暖炉があって部屋も温めてくれてるから快適だ。
外は恐らく吹雪いてるんじゃないかな?
温室から出た時の底冷え感からして。
あの大公はあのまま死んでしまったか、それとも息を吹き替えしたか、どっちだろう?
「暗躍中も私にどういう実験するかで頭がいっぱいで、ご飯食べるのもお腹空いてたのも忘れてたって言うんだからびっくりしちゃった。
魔人属さんてある意味色々便利だよね。
ある程度は食べなくても普通に動けるんだもの。
マジックバックならぬ、マジックポケットにタコパグッズ入れておいて良かった。
デビパスだけどタコなの。
タコ焼きで合ってるの」
「ツッコミどころが多すぎんだろ。
マジックポケットって何だ。
しかも何でタコパグッズっつうのが入ってんだ。
そもそも嬢ちゃん実験台になるって知ってんのに飯作ってやんのか」
髪やお耳と同じ色の目を細める。
ん?
何かを疑って····あ、そうか。
「毒とか入ってないよ。
料理にそんなの入れるなんて私の主義に反するし。
疑うならひょろ長さんに鑑定なり解毒なりの魔法かけてもらえばいいけど、ベルヌ細かい。
だいたい、次会ったらタコパするって約束してたでしょ。
約束は守る女だもの」
えっへんと胸を張る。
「約束してたわけじゃねえだろ。
まあ毒の疑いも俺の杞憂だろうな。
それより嬢ちゃん、誘拐されたって····はあ、もういい。
拐われ慣れてんだったな」
「そうだよ」
諦めたような、残念な何かを見るような視線を僕に向けるのはいかがなものかと思うよ。
なんて会話をしつつも僕の手はタコ焼きの丸いフォルムを形成していく。
「はい、できた。
ひょろ長さん、逞しさんにもどうぞしてきて。
ちゃんと火傷に気をつけるように言ってね」
「はいはい。
でも残念ながら貴女からの差し入れは····」
ひょろ長さんは申し訳無さそうだけど、そういう事はどうでもいいんだ。
「いいの。
タコパは気分が大事だもの。
1人だけ除け者とか、こっちの気分が萎えちゃうよ。
どのみち吹雪で足止め食らってるんだから、何してもいいでしょ」
「何してもいいわけじゃねえだろ。
大体逞しさんて何だ」
「節度は守って焼いてるから良いでしょ。
細かいこと気にしてたら負けだよ」
「何と戦ってんだよ」
手早くお皿に盛ってソースをかけていきつつ、熊さんツッコミに応えていく。
ひょろ長さんはお皿を持って部屋から出て行った。
逞しさんに渡しに行ったんだと思う。
「逞しさんは、ジルコミアの事。
お名前呼んだらまた怒っちゃったし、もうそれでいいかなって。
そもそも私、あの時シル様刺したのまだ怒ってるんだもの」
「まあアイツにはアイツの理由があんだよ」
「知ってる。
でもそれを私が気遣う理由もないでしょ。
何も知らないくせにって言われても、そもそもそこを省略して襲ったのはそっちだし、未だに説明しようとすらしないのもそっちじゃない?」
「まあ、なあ。
だが····」
「憎しみをぶつけるなら、ぶつけた相手を大事に思う人から自分が憎まれる事くらい覚悟してやるべきだよ。
まあ憎しみの連鎖なんて誰も得しないけど、最初に止める方は不条理で損した気持ちになるだろうから憎むなとか、理不尽だから止めろなんて言うつもりもないから安心して」
「そんなにルーベンスが好きなのかよ。
憎しみの連鎖に、最初に止める方、ねえ」
何か思う事でもあったのか、厳ついお顔が曇る。
「シル様は私にお菓子くれたり、お耳と尻尾をもふらせてくれたりしたもの。
優しい人は好きだし、優しくされたらちゃんとお返ししとく方が次に繋がってお得でしょ。
はい、ベルヌの分」
「それを言っちまったら現金主義にしか見えねえぞ。
ま、美味そうだから細かい事は目をつぶってやるよ」
受け取ったタコ焼きをふうふうしてそのまま口に入れる。
「あちっ!
はふっ!」
あ、やっぱりそうなるよね。
口の中の上顎の皮がベロンてならないといいけど。
「んふふー。
食べたのは初めて?
最初に半分に割ると熱が逃げて食べやすいから。
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