秘密多め令嬢の自由でデンジャラスな生活〜魔力0、超虚弱体質、たまに白い獣で大冒険して、溺愛されてる話

嵐華子

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238.温室前の一幕後〜エヴィンside

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「転移魔具は陛下の執務室に近い仮眠室でまずは稼働させ、そして注意を向けている間に牢に近い取り調べ室に移動させたようですね」

 凍てつくような冷気を纏う宰相は集めた情報を報告する。

 あれからすぐに衛兵が反逆者達を引っ立てて行き、執務室に戻ってまずは宰相と再び合流した。
気づけば夜が明けていた。

 この時の執務室はまだかなり荒れていたが、宰相も俺やヒルシュ同様に無傷だった。

 反逆者達は二手に別れて俺達を襲ったらしいとすぐに気づく。
正直反逆者として狼煙を上げるなら真っ先に国王たる俺を全力で襲うものではないだろうか?

 しかも捕らえたばかりなのが窺える、満身創痍の見覚えのある此奴は俺ではなくこの2人を襲うチームに入っている。

 ····馬鹿なんだろうか?

 まあ相変わらずの卑怯な性格故かと思えば納得はできるんだが。

 両側から騎士に押さえつけられながら睨む先には冷たく見下ろす宰相がいる。

 内心は目の前の此奴を殺したくて仕方ないんだろうな。

 そう思いながらも手引きしたはずのあの元王女の行方を尋ねれば、押さえつけられながらも高笑いを始めた。

『私の仲間は転移魔法が使えるからな!
お前の大事な価値のない小娘を殺しに行ったぞ!
あははははは!』

 この言葉には正直慌てた。
まさか転移なんて高等魔法を使える者がいるとまでは考えていなかった。

 それにあの元王女の浅はかさを侮り過ぎていた。
どれだけ反逆の成功に自信があったとしても、普通はもしもを考えて娘と真っ先に城を離れるもんじゃないのか?!

 どのみちこいつらには娘も必要になる。

 何で致命的なリスク犯して単独で魔力のねえガキを狙ってんだ?!

 確かに自分は何でも許される元王女だと思わせたのはこちらの狙い通りだが、考え方が予想外にあり得ねえ!
しかも逆恨みも甚だしい!

 念の為、もはや定着しつつある隠居庭師なんてものをさせてる隠密部隊長のゴードンを何かにつけて張りつかせてはいる。
何よりも義兄が必ず側にいるだろうから無事なのは間違いない。

 だが転移魔法を使えるほどの手練れなら万が一もあり得る。
それに例の誘拐犯達の狙いは本当にこの国家転覆なのか····。

 そう思って根本的な勘違いをしたんじゃないかと思い当たり、焦りながら執務室を飛び出す。
ヒルシュも宰相もすぐに後に続いたが、俺は途中から覚えたての転移を使って温室に向かった。

「この女が娘に会うのに牢番に金を渡して持ち場から遠ざけたようです。
あらかじめ此奴が謁見を求めて騒いだら貰うものを貰って引くよう指示しておいて良かったですよ。
選民意識の強い反逆者達ですからね。
平民の兵士なら隙をついて殺すのに何の躊躇もされませんから」

 そして今、改めて元王女も捕えて戻ってくれば、夫である宰相は長年妻であった女を冷たく見下ろしてそう言った。

 特に不機嫌さが滲み出ていた愛しの化け物には直接状況を説明したかったが、そうもいかない。

 ヒルシュよ、力の限りフォローを頼む。

「ああ。
こちらの行動パターンを読んだ上で誘拐犯それぞれが連携して動いたって事だろうが、こうも狙い通りの行動を取られると、こっちの方が気持ち悪さを感じちまう」

 心ここにあらずになりそうな自分を叱咤して宰相に応える。

 そうだ。
慌てすぎてて忘れていたが、この稚拙な反逆者達と誘拐犯の狙いに誤差があるような気がしてならない。

「そうですね。
グレインビル嬢がこちらに来られた時から長らく陛下や私の行動パターンをある程度固定していた甲斐がありました。
しかし本当に····相変わらずどうしようもなく卑怯な性格の面々だ」

 正面から立って見下ろす俺達の視線の先には、しっかりと拘束し直した元王太子と元王女がそれぞれに両脇を騎士に固められて床に直接尻をついて座っている。

 どちらも怨嗟にまみれた目をしているが、金髪に茶色目の男は国王であり異母弟である俺を、赤茶髪に青緑の目の女は夫である宰相へとそれを向けている。

 新たに得た情報を整理すれば、仮眠室に転移した反逆者達はやはり二手に別れてヒルシュと宰相のいる執務室と、執務室から居室に戻る数名の護衛を引き連れた俺を狙ったのは間違いなかった。

 そしてこの時誘導したのが転移魔法が使える魔人属の誘拐犯ゲドグル=ダンラナだ。

 にしても聞けば聞くほど元王太子は姑息な性分だと思わずにはいられない。

 王座の簒奪を狙って城内に侵入したのなら、普通は自分が国王である俺を真っ先に狙うべきだ。
なのにそうせずに宰相とヒルシュの奇襲に混ざってたのは辺境の元将軍だった俺の戦闘力を恐れたかららしい。

 しかも初めはいなかった事が新たに発覚した。

 俺を狙った反逆者達が部屋を半壊させるほどの威力をもった魔具のせいで半死半生となったのが些か気の毒にすら感じてしまう。

 どうでも良いが、《バッチ来い電撃君(改)》なんていうふざけた名称をいたって真面目につけた化け物のネーミングセンスを現在進行形で心から心配している。

「黙れ。
手下に転移できる者がいたから娘に先に会いに行ったまでだ」
「どの口が言う?
大方失敗した時の事を考えていつでも逃げられる経路を確保しようとした結果だろう。
俺に実力で勝てねえから宰相の方を襲って返り討ちにされたんだろうが。
しかも仲間が圧してるって報告を受けてからの参戦とか、相変わらず姑息なんだよ。
お前をあぶり出すのにわざと宰相達が圧されてるふりをしてたのにも気づかねえで引っかかったくせに偉そうにしてんじゃねえ」
「だ、黙れ!
まともに戦った経験もない宰相が卑怯なかけひきをしただけのことだ!
元とはいえ俺は王太子だった身の上だぞ!
無礼者達め!」
「左様です!
私はただ本当の父親と娘を引き合わせただけのこと!
大体、私はクェベル国元王女!
この私に無礼でしてよ!」

 ····おい。

 罪人に便乗する元王女もどうかと思うが、仮にもまだ夫である宰相に不義の子の話を堂々とするなよ。
まあ宰相は全く動じていないが。

「とうとう開き直ったか。
ビアンカが私の子で無いことは明白。
そもそも私はお前を抱いた事すら1度もないのだからな」
「ふん!
クェベルの国宝たる私を抱く事もしないお前などと婚姻したのがそもそも間違いだったわ!
その顔でありがたくも私が夫に選んでやったというのに、恩を仇で返すなんて!
お前の死んだ婚約者を生前にもっと痛めつけてやれば良かった!」
「黙れ、下衆が」

 宰相は静かな口調で一歩踏み出し、屈むと元王女の太ももに小型のナイフを突き刺した。
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