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239.聴取役を望む理由〜エヴィンside
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「ひぃ!
痛い!
痛いぃぃぃ!」
「宰相」
キンと耳鳴りをさせそうな悲鳴に思わず顔を顰める。
気持ちはわかるし、まだまだ聞き出す事もあるから殺されるのは困る。
元王女は拘束されている為に太ももにナイフを刺されたまま、為す術もないままに涙と涎を撒き散らして泣き叫ぶ。
「殺しはしていませんよ、陛下。
私自身の手でこの者達を殺さぬ程度に聴取する事は既に許可を得たはずですが?」
「わかっているが、聞くに耐えん。
然るべき場所でやれ」
これまでのこの女の目にあまる所業や、俺の愛しの化け物にお門違いの逆恨みをした挙げ句に殺そうとした馬鹿に情けをかけるつもりは毛頭ない。
「ぬ、抜いて!
痛い!
早くナイフを抜きなさいよぉぉぉ!」
だが、今も叫び続けるこの女のいかれた金切り声は不愉快だ。
宰相もその様子にため息を吐く。
「わかりました。
そこの罪人も連れて行きますが、よろしいですね」
「ふ、ふざけるな!
私も被害者だ!
連れて来られただけだ!
それに昔お前の婚約者を傷つけるよう私を唆したのはその女だ!
私は悪くない!」
元王女への仕打ちに恐れ慄いた元王太子は簡単に手の平を返した。
「ひぃっ!
ち、違う!
アンタだって楽しんでたじゃない!」
宰相の言葉に醜く罵り合う此奴らは、婚約者を未だに深く愛するこの男の琴線を愚かにも刺激しまくっていると察する事もできないようだ。
そもそもがこの男が宰相という立場でありながら、何故聴取などという役を買って出たかわかっていないようだ。
亡くなった婚約者が受けた仕打ちを合法で裁く事は時が経ちすぎて今更できない。
だが仮にできたとしても、この男はそうしなかっただろう。
婚約者が死してなお、その尊厳が傷つく事は決して望んではいないはずだ。
ただ非合法の場で自ら鉄槌を下す事のみをこの男は渇望している。
なのに逆鱗に触れ続けるのは苦痛を多大に与えてくれと言うようなものだ。
「そうか。
しっかりと聴取するとしよう」
「「ヒッ」」
この男は怒れば怒るほどに表情が抜け落ちて目には冷たい殺意がこもる。
この男のこんな顔を見る機会は滅多にない。
間近では俺の愛しい化け物がこの国に来てしばらくした頃だ。
そもそも俺達が行動をパターン化したのにはきっかけがあった。
そしてその時最低限の睡眠と休息を取る事を約束させられた。
俺や宰相は元々あまり寝ない。
俺に付き合うヒルシュも自然とそうなっていた。
だから暇があれば俺達は政務をするのがこの10年で当たり前となり、宰相とは一線を引かれつつも政務の上では互いに協力していたと思う。
元々俺が王太子として立太子する前に王都でのさばっていた真っ黒な私腹をたっぷり肥やしまくっていた父親や重鎮達を粛清したり、即位した際も害悪でしかない連中を何かにつけ処罰してきたせいで、なかなかの人手不足だった事から端を発してはいる。
それにここにきて反王派が何かと強く反発し始めた。
それもあってか元々の政策が機能しない事態もしばしば起こっていた。
その上何故か城勤めの離職率が高いのも悩みどころだった。
当然だが給金はいいはずだ。
特に兄であるラスティンが倒れてからは定期的な息抜き訪問も無くなっていたから余計に政務漬けだった。
俺が愛しい化け物と呼ぶあいつが来た頃もそんな感じで政務を回していた。
だがあいつがこの城を訪れてそれを知った時、だから仕事の効率が落ちて小さな人災が多発しているのだと指摘してきた。
それは俺達だけじゃない。
まあ俺達だけなら間違いなく放っておかれただろう。
俺達はそれくらいには嫌われている。
あいつの目にはこの城で働く騎士や兵士はもちろん、侍従や侍女も含めてそれに突き合わされているように映ったらしい。
生産性を逆に落として人の心の余裕を奪って人間関係を悪化させる悪循環に陥っていると叱られてしまった。
ブラックキギョウはロウキで滅びると言われたが、そもそもブラックキギョウやロウキが何かわからなかった。
説明もしてもらえなかったが、とりあえず働く環境が俺達のせいで悪いと言いたかったのはわかった。
そしてあれから時が過ぎて離職率は明確に下った。
今では城勤めの者達が和やかな顔で互いの仕事をフォローし合っている。
一部の反王派達の風当たりもいくらか和らいだ。
本当に俺達の働き方が悪かったらしい。
また、たまたま居合わせ、滅多に自邸に帰らない宰相にも注意したのには正直驚いた。
『どのような死に方を目指されるにしても、過労死ほど馬鹿らしくも無駄な死に方はございませんことよ?』
確かに宰相は愛した婚約者が自死して以来、何かと生き急いでいるかのように働いてその地位を築き上げてきたのだ。
そして人払いを願い、俺とヒルシュ、宰相の3人だけにする。
『お三方共、1度だけしか申し上げませんわ』
よそゆきの令嬢言葉で前置きすると、こう告げた。
『相手を油断させたいならまずは行動パターンを固定化なさいませ。
いつ起こるかわからぬ有事ならばいっそこちらが思う時に起こさせてしまえばよろしいのです』
正直まだ宰相は己の立ち位置を王家への憎しみ故にはっきりさせていない頃だ。
『そもそもがエヴィン国王が即位して10年も経過しているのに、未だに同じ目的の互いが腹の探り合いをする程度の仲とは』
と俺達3人を見て失笑する。
随分と板についた悪役の顔だ。
まあそんな顔も可愛らしいんだが。
『だから後手に回って大事な者達をその手からこぼれ落とすのでしてよ、宰相』
と涼しい顔で毒を吐く。
その時の宰相の顔が今の顔だった。
表情がごっそりと抜け落ちて水色の目だけは殺意を雄弁に語っていた。
それにしても大事な者達とはどういう意味だ?
大事な者ではなく?
化け物は意に介しもせずにほくそ笑んでいたが、俺は内心、もし宰相が化け物に手をかけようとしたらと考えて体に緊張を張り巡らせていた。
痛い!
痛いぃぃぃ!」
「宰相」
キンと耳鳴りをさせそうな悲鳴に思わず顔を顰める。
気持ちはわかるし、まだまだ聞き出す事もあるから殺されるのは困る。
元王女は拘束されている為に太ももにナイフを刺されたまま、為す術もないままに涙と涎を撒き散らして泣き叫ぶ。
「殺しはしていませんよ、陛下。
私自身の手でこの者達を殺さぬ程度に聴取する事は既に許可を得たはずですが?」
「わかっているが、聞くに耐えん。
然るべき場所でやれ」
これまでのこの女の目にあまる所業や、俺の愛しの化け物にお門違いの逆恨みをした挙げ句に殺そうとした馬鹿に情けをかけるつもりは毛頭ない。
「ぬ、抜いて!
痛い!
早くナイフを抜きなさいよぉぉぉ!」
だが、今も叫び続けるこの女のいかれた金切り声は不愉快だ。
宰相もその様子にため息を吐く。
「わかりました。
そこの罪人も連れて行きますが、よろしいですね」
「ふ、ふざけるな!
私も被害者だ!
連れて来られただけだ!
それに昔お前の婚約者を傷つけるよう私を唆したのはその女だ!
私は悪くない!」
元王女への仕打ちに恐れ慄いた元王太子は簡単に手の平を返した。
「ひぃっ!
ち、違う!
アンタだって楽しんでたじゃない!」
宰相の言葉に醜く罵り合う此奴らは、婚約者を未だに深く愛するこの男の琴線を愚かにも刺激しまくっていると察する事もできないようだ。
そもそもがこの男が宰相という立場でありながら、何故聴取などという役を買って出たかわかっていないようだ。
亡くなった婚約者が受けた仕打ちを合法で裁く事は時が経ちすぎて今更できない。
だが仮にできたとしても、この男はそうしなかっただろう。
婚約者が死してなお、その尊厳が傷つく事は決して望んではいないはずだ。
ただ非合法の場で自ら鉄槌を下す事のみをこの男は渇望している。
なのに逆鱗に触れ続けるのは苦痛を多大に与えてくれと言うようなものだ。
「そうか。
しっかりと聴取するとしよう」
「「ヒッ」」
この男は怒れば怒るほどに表情が抜け落ちて目には冷たい殺意がこもる。
この男のこんな顔を見る機会は滅多にない。
間近では俺の愛しい化け物がこの国に来てしばらくした頃だ。
そもそも俺達が行動をパターン化したのにはきっかけがあった。
そしてその時最低限の睡眠と休息を取る事を約束させられた。
俺や宰相は元々あまり寝ない。
俺に付き合うヒルシュも自然とそうなっていた。
だから暇があれば俺達は政務をするのがこの10年で当たり前となり、宰相とは一線を引かれつつも政務の上では互いに協力していたと思う。
元々俺が王太子として立太子する前に王都でのさばっていた真っ黒な私腹をたっぷり肥やしまくっていた父親や重鎮達を粛清したり、即位した際も害悪でしかない連中を何かにつけ処罰してきたせいで、なかなかの人手不足だった事から端を発してはいる。
それにここにきて反王派が何かと強く反発し始めた。
それもあってか元々の政策が機能しない事態もしばしば起こっていた。
その上何故か城勤めの離職率が高いのも悩みどころだった。
当然だが給金はいいはずだ。
特に兄であるラスティンが倒れてからは定期的な息抜き訪問も無くなっていたから余計に政務漬けだった。
俺が愛しい化け物と呼ぶあいつが来た頃もそんな感じで政務を回していた。
だがあいつがこの城を訪れてそれを知った時、だから仕事の効率が落ちて小さな人災が多発しているのだと指摘してきた。
それは俺達だけじゃない。
まあ俺達だけなら間違いなく放っておかれただろう。
俺達はそれくらいには嫌われている。
あいつの目にはこの城で働く騎士や兵士はもちろん、侍従や侍女も含めてそれに突き合わされているように映ったらしい。
生産性を逆に落として人の心の余裕を奪って人間関係を悪化させる悪循環に陥っていると叱られてしまった。
ブラックキギョウはロウキで滅びると言われたが、そもそもブラックキギョウやロウキが何かわからなかった。
説明もしてもらえなかったが、とりあえず働く環境が俺達のせいで悪いと言いたかったのはわかった。
そしてあれから時が過ぎて離職率は明確に下った。
今では城勤めの者達が和やかな顔で互いの仕事をフォローし合っている。
一部の反王派達の風当たりもいくらか和らいだ。
本当に俺達の働き方が悪かったらしい。
また、たまたま居合わせ、滅多に自邸に帰らない宰相にも注意したのには正直驚いた。
『どのような死に方を目指されるにしても、過労死ほど馬鹿らしくも無駄な死に方はございませんことよ?』
確かに宰相は愛した婚約者が自死して以来、何かと生き急いでいるかのように働いてその地位を築き上げてきたのだ。
そして人払いを願い、俺とヒルシュ、宰相の3人だけにする。
『お三方共、1度だけしか申し上げませんわ』
よそゆきの令嬢言葉で前置きすると、こう告げた。
『相手を油断させたいならまずは行動パターンを固定化なさいませ。
いつ起こるかわからぬ有事ならばいっそこちらが思う時に起こさせてしまえばよろしいのです』
正直まだ宰相は己の立ち位置を王家への憎しみ故にはっきりさせていない頃だ。
『そもそもがエヴィン国王が即位して10年も経過しているのに、未だに同じ目的の互いが腹の探り合いをする程度の仲とは』
と俺達3人を見て失笑する。
随分と板についた悪役の顔だ。
まあそんな顔も可愛らしいんだが。
『だから後手に回って大事な者達をその手からこぼれ落とすのでしてよ、宰相』
と涼しい顔で毒を吐く。
その時の宰相の顔が今の顔だった。
表情がごっそりと抜け落ちて水色の目だけは殺意を雄弁に語っていた。
それにしても大事な者達とはどういう意味だ?
大事な者ではなく?
化け物は意に介しもせずにほくそ笑んでいたが、俺は内心、もし宰相が化け物に手をかけようとしたらと考えて体に緊張を張り巡らせていた。
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