秘密多め令嬢の自由でデンジャラスな生活〜魔力0、超虚弱体質、たまに白い獣で大冒険して、溺愛されてる話

嵐華子

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251.自由に、心のままに

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『おめでとう!』

 僕の幼馴染達が小さなチャペルから出てきてすぐ、心からの祝福を贈った背の高い僕がいた。
目の前には僕と同じように幸せそうな顔で笑う新郎と新婦。
桜の花びらが優しく舞っていた。

 場面が変わる。

『私、次はあなたのお母さんになるわ!
だから私の所に産まれてくるのよ!』

 朗らかに笑う母親になったばかりの幼馴染。
彼女の腕には産まれてまだ1週間も生きていない正真正銘の新生児がいた。

 また場面が変わる。

『お父さん、大きくなったら私と結婚して!
そうしたらママがお父さんのママになって、パパがお父さんのパパになるでしょ?
いっぱい家族ができるの!
お得よ!』

 病室のベッドの上からの、無邪気で可愛らしいプロポーズ。
あの子が産まれた時から、僕が今もずっと大事に想う女の子。

 また場面が変わる。

『おはよう。
終わったな』

 僕が死んだ日の朝の、もう1人の幼馴染で親友が発したその日の第一声。
全てに区切りがついた翌朝の、清々しい1日の始まりだった。

 また場面が変わる。
今度はアリリアが満開に咲き誇るグレインビルの邸。

『アリー様!
今日はお花見日よりですね!』

 顔を上げれば、小さな僕を抱くココが満面の笑みを僕に向けていた。
あの日は長く伏せってやっと熱が引いた翌日だった。

『アリー様!
大きくなったら体も強くなります!
そうしたらもっとたくさん楽しい事を経験して、たくさん幸せだって思う事が増えますよ!』

 これは夢。
そして過去の記憶の欠片達。
きっと、僕が幸せだと思ったその時々の映像だ。

 ココが亡くなってからはこんな夢、もうほとんど見なくなっていた。

 もちろん過去を夢に見る事はあった。

 そのどれもが幸せとはほど遠い。

 僕を罵り、暴力を振るう色褪せた遠い映像。
あるいは魔獣に蹂躙される人々の血みどろの光景。
そしてココのような凄惨な亡骸の数々。

 なのにどうして急にこんな夢を?
夢の中なのに戸惑う自分を感じる。

「アリー様!」

 唐突に後ろから抱きつかれて驚く。
けれどこの声は、の僕を抱きしめるのは····。

「ココ?」
「はい!
アリー様の専属侍女、ココですよ!」

 信じられない思いでゆっくりと振り向いた僕に、あの時と同じように満面の笑みで答えてくれる。

 これは本当に夢?

「時間がないので手短にお伝えしますね。
アリー様、どうか自分に正直に生きて下さいね!
ココはいつでもアリー様を見守っております!」
「僕は····いつでも正直に····」
「ふふふ、私のアリー様は意地っ張りですね。
そんなアリー様も可愛いですけどね!」

 困惑する僕に、ココは優しく頭を撫でながら続ける。

「許さなくてもいいし、怒ってもいいんです。
ですが私の為にと思っているのなら、いつまでもそうしていなくていいんですよ。
アリー様の感情の赴くままに許してもいいし、悲しんでも、寂しく感じてもいいんです。
泣いても、それから笑ってもいいんですよ。
何よりも、助けるのを躊躇わなくていいんですよ、アリー様」
「ココ····」

 僕の心を見透かすような優しい眼差しのココに、自然に涙がこぼれ落ちる。

 駄目だ。
僕の中身は四捨五入すれば400才なのに、感情も涙腺も体年齢に引きずられてしまっている。
涙が止まらない。

 ココは両手を僕の頬に添えて目元を拭ってくれた。

「ココはアリー様の心が何にも囚われる事なく自由でいてくれれば嬉しいです。
自由に怒って、泣いて、笑って。
心のままに生きて、どうか幸せになって下さいね。
私の可愛いお嬢様」

 少しずつ満面の笑みを浮かべるココの輪郭が薄れていき、アリリアによく似た大きな木になる。
それは白とも見紛う薄桃色の小花をたくさん纏い、満開の花弁ははらはらと舞い散る。

「僕達の····桜」

 ついあの頃の癖が出て上を見上げれば、幹には見覚えのある小さな傷と不自然に折れた古い跡の残る枝を見つけた。

 心が温かい何かで満たされる。
ずっと長い間凪いでいた何かがこみ上げる。

 それは喜びで、怒りで、哀しみで、嬉しさで。
正負の区別も曖昧なあらゆる感情がぐちゃぐちゃになって訳もわからず、ただただ木に抱きついて泣きじゃくった。

 やがて涙が止まる頃、何となく意識が引っ張り上げられる感覚を覚え、それに身を任せる。

「アリー」

 ゆっくりと目を開いた僕に声をかけたのはレイヤード義兄様。

 見覚えのある調度品に、僕と義兄様にあてがわれてるあのお城の客室だとわかる。
明り取りにはめ込んだ硝子ブロックから入る光で明け方だろうかと思いつつ、返事をする。

「····ぁ」

 けれど声が掠れて 上手くいかなかった。

「話さなくて大丈夫。
少し体を起こすよ」

 そう言って力の入らない僕の首に腕を回して起こしてくれる。

「飲めるかな?」

 僕の寝込んだ時のご愛用、吸い飲みで飲ませてくれれば、ほんのりとした蜂蜜と塩味が感じられる。
乾いた体には甘くて美味しく感じるけど、急にごくごくとは飲めない。

「ん、おいしい」

 まだ少し掠れてるけど、喉が潤ったお陰で喋れた。
ほっと息を吐く。

「あれから意識が戻らなくて2週間ずっと眠ってたんだよ。
熱はまだ高いけど、目を覚ましてくれて本当に良かった」

 微笑むレイヤード義兄様は何だかやつれてる?

「兄様、ちゃんと休んでない?
一緒に眠る?」

 そっと頬に触れる。
いつもは無いお髭のショリ、とした感触がした。

 少しだけ触感を楽しむけど、すぐに腕が疲れてしまう。

 咳は落ち着いてるけど体は怠いし、胸は重苦しいし、時折喉がヒュー、と鳴る。
起きたばかりなのに、また眠くなってきた。

「僕は後で休むから、ゆっくり眠るんだよ。
僕の可愛いアリアチェリーナ」

 義兄様は起こした体をゆっくり寝かし、疲れた手を優しくお布団に戻してくれてから、僕のおでこに口づけてくれた。

 目が覚めて家族が側にいてくれるのって幸せだ。

 僕、幸せだよ、ココ。

 そう思いながら、ゆっくりと目を閉じた。
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