306 / 491
7―2
305.白いムササビのデビュー譚2
しおりを挟む
「だって商業祭はまだ無理だし、今を逃せば来年の春まで山には行けないもの」
誰にともなく言い訳する。
山登りはムササビになって愛馬のポニーちゃんにお願いすれば可能だけど、商業祭は人が多くてそうはいかない。
ムササビになれば、木登りは問題なくできるはずだ。
ゆっくり休み休みになるだろうけど。
だからこの1ヶ月、早めの昼食を取ってお昼寝の時間を早めて規則正しい生活を心がけた。
もちろんできる専属侍女、ニーアの目を誤魔化す為に!
義父様はこの時期とこの時間は冬支度の為に1度領地内を何箇所かに区切って順に回るんだ。
前もって早めに準備しないと、厳しい冬に間に合わなくなるような時間のかかる支度もあるからね。
それにグレインビルの秋は短く、冬の訪れは早いもの。
そして狙い通り、義父様も義兄様達も少なくとも昨日からこの時間の邸にはいなくなった。
さあ、計画実行だ!
「ニーア、僕はそろそろお昼寝するね」
「かしこまりました。
いつも通り旦那様がお戻りになりましたら起こしにまいります」
「うん、ありがとう」
計画初日、僕はベッドに横になってニーアの気配が遠のくのを待っているうちに、本当に眠ってしまった。
失敗だ。
夕方目覚めて驚愕した。
どうやら前夜にわくわくし過ぎて、少しだけ眠りが足りなかったみたい。
あの国で死にかけてしまって上向いていた体調が、下降しやすくなったせいかな。
睡眠が少しでも不足すると疲労しやすくなって、気づいたら寝てしまう。
これでも体調は少しずつ戻ってきているんだ。
数週間に1度出す熱は、そこそこ程度から微熱程度になったからね。
きっと昨日は油断していたんだ。
だから昨夜は早めに寝てみた。
「ニーア、僕はそろそろお昼寝するね」
「かしこまりました。
今夜はレイヤード様がこちらに帰られるそうです」
「本当!
じゃあいつも通り父様が帰ってきたら起こして!
今日の夜ご飯はオムライスだね!
もちろん僕が作るよ!」
「かしこまりました」
「よろしくね」
ふふふ、計画成功だ!
そうして部屋でムササビになった僕は開けておいた窓から外に出る。
もちろん上下左右に人がいないか確認した。
窓を伝い、再びキョロキョロ。
2階の高さからダイブ!
ふふふ、お試し飛行は上手くいった。
ムササビの飛膜凄いね!
そしてこの時間帯には放牧状態になっているポニーちゃんを見つけて背に乗って山に入り、今に至る。
おっ、風が追い風になった。
「今だ!」
誰にともなく声をかけ、まずは邸の2階くらいの高さをダイブ!
うまく風に乗れた!
飛膜によって体は緩やかかに滑空する。
「やったあ!
成功だー!」
数メートル先の枝に着地した僕は思わず叫んだ。
令嬢だけど、叫んだのは許して欲しい。
今はムササビだしね。
「よし!
次いこう!」
そう言ってさっきより少し低くなった枝から、高い枝を目指して登り、また別の木に飛び移る。
「ふふふ、楽しいー!」
風は友達だー!
そうしてどんどん高度を上げていった。
上空に近づくほど、少しずつ追い風が強くなる。
小一時間かけてそのスピードに慣らしていく。
「ふう。
さすがにちょっと疲れたかな。
次で最後にしよっと」
調子に乗った僕は今までで1番の高さを目指す。
「はあ、はあ····」
登りきった1番高い枝の中ほどに移動するも、息が切れてしまった。
張り切り過ぎたかな。
仕方なく腰かけて休憩する。
上に行くほど風がザワザワと枝を大きく揺らす。
ビュウッと突風が吹き、腰かけた枝も上下に揺れ始め····バキッ。
そう、バキッ····て、枝が折れた?!
「うわあああ!」
思わず叫びつつも、空中で大の字になって飛膜をバランスを取りながら何とか滑空する。
けれど風が向かい風に変わってしまう。
しまった、頭が上に持ち上がっててもろに風を体全体で拾っちゃった!
体が横に流れて近くの枝にベストの腰紐が引っかかる。
「うそ、何でぇぇぇ!!」
そのまま指に引っかけた輪ゴムが回るように枝の周りを何周がする。
背負ってるリュック型巾着がどこかに飛んで行く。
どんな力のベクトルなの?!
と思ってたら、リボンが解けて勢いよく木の幹に向かって投げ出され、ぶつか····。
ズボッ。
「········え?」
確かに木の幹にぶつかった。
ぶつかったけれど·····え、何で?
僕の丸っとしたお尻が、幹にできた穴に····シンデレラフィット、だと····。
これ、キツツキの巣跡じゃない?
こっちでもキツツキはいるからね。
幸いな事にお尻の感覚的に中には何も無いみたいだけど。
「よいしょ!」
ひとまずこのままじゃまずい。
かけ声をかけて手足をバタバタさせながらお尻を引き抜こうとする。
「え、あれ、うそ····抜けない」
体をよじってみるけど、駄目だ。
まずいぞ、とりあえずタマシロ君を外して····駄目だ。
この木は硬いし、僕が人に戻ってる時にはまったままだとお尻の周りが圧縮されて骨盤骨折しちゃうかも?!
さすがにキツツキの穴のサイズに複雑骨折するのは断固拒否だ!
大体容量的にどうなるか予想もつかないから、イタチになるのも怖い。
こうしてジタバタもがく事、小一時間。
「ふう····風が、気持ちいいな····」
秋晴れの爽やかな風にさわさわと揺れる木々に囲まれ、午後の木漏れ日に優しく照らされる僕の影を下に見ながら、ちょうど義兄様達の目線の高さにお尻を埋めた白いムササビが出来上がった。
「こんな事って・・・・ある?」
ポツリと心の声が口を突いた。
※※※※※※※※※
お知らせ
※※※※※※※※※
お気に入り登録やいつも読んでいただきありがとうございますm(_ _)m
次の章に移るまでの閑話という事で、デビュー譚シリーズ全3話を本日から1日1話毎日投稿します。
同時進行中の下の作品もよろしければご覧下さい。
1話1600文字程度のお話なので、サラッと読める仕様です。
【稀代の悪女と呼ばれた天才魔法師は天才と魔法を淑女の微笑みでひた隠す~だって無才無能の方が何かとお得でしょ?】
誰にともなく言い訳する。
山登りはムササビになって愛馬のポニーちゃんにお願いすれば可能だけど、商業祭は人が多くてそうはいかない。
ムササビになれば、木登りは問題なくできるはずだ。
ゆっくり休み休みになるだろうけど。
だからこの1ヶ月、早めの昼食を取ってお昼寝の時間を早めて規則正しい生活を心がけた。
もちろんできる専属侍女、ニーアの目を誤魔化す為に!
義父様はこの時期とこの時間は冬支度の為に1度領地内を何箇所かに区切って順に回るんだ。
前もって早めに準備しないと、厳しい冬に間に合わなくなるような時間のかかる支度もあるからね。
それにグレインビルの秋は短く、冬の訪れは早いもの。
そして狙い通り、義父様も義兄様達も少なくとも昨日からこの時間の邸にはいなくなった。
さあ、計画実行だ!
「ニーア、僕はそろそろお昼寝するね」
「かしこまりました。
いつも通り旦那様がお戻りになりましたら起こしにまいります」
「うん、ありがとう」
計画初日、僕はベッドに横になってニーアの気配が遠のくのを待っているうちに、本当に眠ってしまった。
失敗だ。
夕方目覚めて驚愕した。
どうやら前夜にわくわくし過ぎて、少しだけ眠りが足りなかったみたい。
あの国で死にかけてしまって上向いていた体調が、下降しやすくなったせいかな。
睡眠が少しでも不足すると疲労しやすくなって、気づいたら寝てしまう。
これでも体調は少しずつ戻ってきているんだ。
数週間に1度出す熱は、そこそこ程度から微熱程度になったからね。
きっと昨日は油断していたんだ。
だから昨夜は早めに寝てみた。
「ニーア、僕はそろそろお昼寝するね」
「かしこまりました。
今夜はレイヤード様がこちらに帰られるそうです」
「本当!
じゃあいつも通り父様が帰ってきたら起こして!
今日の夜ご飯はオムライスだね!
もちろん僕が作るよ!」
「かしこまりました」
「よろしくね」
ふふふ、計画成功だ!
そうして部屋でムササビになった僕は開けておいた窓から外に出る。
もちろん上下左右に人がいないか確認した。
窓を伝い、再びキョロキョロ。
2階の高さからダイブ!
ふふふ、お試し飛行は上手くいった。
ムササビの飛膜凄いね!
そしてこの時間帯には放牧状態になっているポニーちゃんを見つけて背に乗って山に入り、今に至る。
おっ、風が追い風になった。
「今だ!」
誰にともなく声をかけ、まずは邸の2階くらいの高さをダイブ!
うまく風に乗れた!
飛膜によって体は緩やかかに滑空する。
「やったあ!
成功だー!」
数メートル先の枝に着地した僕は思わず叫んだ。
令嬢だけど、叫んだのは許して欲しい。
今はムササビだしね。
「よし!
次いこう!」
そう言ってさっきより少し低くなった枝から、高い枝を目指して登り、また別の木に飛び移る。
「ふふふ、楽しいー!」
風は友達だー!
そうしてどんどん高度を上げていった。
上空に近づくほど、少しずつ追い風が強くなる。
小一時間かけてそのスピードに慣らしていく。
「ふう。
さすがにちょっと疲れたかな。
次で最後にしよっと」
調子に乗った僕は今までで1番の高さを目指す。
「はあ、はあ····」
登りきった1番高い枝の中ほどに移動するも、息が切れてしまった。
張り切り過ぎたかな。
仕方なく腰かけて休憩する。
上に行くほど風がザワザワと枝を大きく揺らす。
ビュウッと突風が吹き、腰かけた枝も上下に揺れ始め····バキッ。
そう、バキッ····て、枝が折れた?!
「うわあああ!」
思わず叫びつつも、空中で大の字になって飛膜をバランスを取りながら何とか滑空する。
けれど風が向かい風に変わってしまう。
しまった、頭が上に持ち上がっててもろに風を体全体で拾っちゃった!
体が横に流れて近くの枝にベストの腰紐が引っかかる。
「うそ、何でぇぇぇ!!」
そのまま指に引っかけた輪ゴムが回るように枝の周りを何周がする。
背負ってるリュック型巾着がどこかに飛んで行く。
どんな力のベクトルなの?!
と思ってたら、リボンが解けて勢いよく木の幹に向かって投げ出され、ぶつか····。
ズボッ。
「········え?」
確かに木の幹にぶつかった。
ぶつかったけれど·····え、何で?
僕の丸っとしたお尻が、幹にできた穴に····シンデレラフィット、だと····。
これ、キツツキの巣跡じゃない?
こっちでもキツツキはいるからね。
幸いな事にお尻の感覚的に中には何も無いみたいだけど。
「よいしょ!」
ひとまずこのままじゃまずい。
かけ声をかけて手足をバタバタさせながらお尻を引き抜こうとする。
「え、あれ、うそ····抜けない」
体をよじってみるけど、駄目だ。
まずいぞ、とりあえずタマシロ君を外して····駄目だ。
この木は硬いし、僕が人に戻ってる時にはまったままだとお尻の周りが圧縮されて骨盤骨折しちゃうかも?!
さすがにキツツキの穴のサイズに複雑骨折するのは断固拒否だ!
大体容量的にどうなるか予想もつかないから、イタチになるのも怖い。
こうしてジタバタもがく事、小一時間。
「ふう····風が、気持ちいいな····」
秋晴れの爽やかな風にさわさわと揺れる木々に囲まれ、午後の木漏れ日に優しく照らされる僕の影を下に見ながら、ちょうど義兄様達の目線の高さにお尻を埋めた白いムササビが出来上がった。
「こんな事って・・・・ある?」
ポツリと心の声が口を突いた。
※※※※※※※※※
お知らせ
※※※※※※※※※
お気に入り登録やいつも読んでいただきありがとうございますm(_ _)m
次の章に移るまでの閑話という事で、デビュー譚シリーズ全3話を本日から1日1話毎日投稿します。
同時進行中の下の作品もよろしければご覧下さい。
1話1600文字程度のお話なので、サラッと読める仕様です。
【稀代の悪女と呼ばれた天才魔法師は天才と魔法を淑女の微笑みでひた隠す~だって無才無能の方が何かとお得でしょ?】
0
あなたにおすすめの小説
バッドエンド予定の悪役令嬢が溺愛ルートを選んでみたら、お兄様に愛されすぎて脇役から主役になりました
美咲アリス
恋愛
目が覚めたら公爵令嬢だった!?貴族に生まれ変わったのはいいけれど、美形兄に殺されるバッドエンドの悪役令嬢なんて絶対困る!!死にたくないなら冷酷非道な兄のヴィクトルと仲良くしなきゃいけないのにヴィクトルは氷のように冷たい男で⋯⋯。「どうしたらいいの?」果たして私の運命は?
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
疲れきった退職前女教師がある日突然、異世界のどうしようもない貴族令嬢に転生。こっちの世界でも子供たちの幸せは第一優先です!
ミミリン
恋愛
小学校教師として長年勤めた独身の皐月(さつき)。
退職間近で突然異世界に転生してしまった。転生先では醜いどうしようもない貴族令嬢リリア・アルバになっていた!
私を陥れようとする兄から逃れ、
不器用な大人たちに助けられ、少しずつ現世とのギャップを埋め合わせる。
逃れた先で出会った訳ありの美青年は何かとからかってくるけど、気がついたら成長して私を支えてくれる大切な男性になっていた。こ、これは恋?
異世界で繰り広げられるそれぞれの奮闘ストーリー。
この世界で新たに自分の人生を切り開けるか!?
つまらなかった乙女ゲームに転生しちゃったので、サクッと終わらすことにしました
蒼羽咲
ファンタジー
つまらなかった乙女ゲームに転生⁈
絵に惚れ込み、一目惚れキャラのためにハードまで買ったが内容が超つまらなかった残念な乙女ゲームに転生してしまった。
絵は超好みだ。内容はご都合主義の聖女なお花畑主人公。攻略イケメンも顔は良いがちょろい対象ばかり。てこたぁ逆にめちゃくちゃ住み心地のいい場所になるのでは⁈と気づき、テンションが一気に上がる!!
聖女など面倒な事はする気はない!サクッと攻略終わらせてぐーたら生活をGETするぞ!
ご都合主義ならチョロい!と、野望を胸に動き出す!!
+++++
・重複投稿・土曜配信 (たま~に水曜…不定期更新)
なんか、異世界行ったら愛重めの溺愛してくる奴らに囲われた
いに。
恋愛
"佐久良 麗"
これが私の名前。
名前の"麗"(れい)は綺麗に真っ直ぐ育ちますようになんて思いでつけられた、、、らしい。
両親は他界
好きなものも特にない
将来の夢なんてない
好きな人なんてもっといない
本当になにも持っていない。
0(れい)な人間。
これを見越してつけたの?なんてそんなことは言わないがそれ程になにもない人生。
そんな人生だったはずだ。
「ここ、、どこ?」
瞬きをしただけ、ただそれだけで世界が変わってしまった。
_______________....
「レイ、何をしている早くいくぞ」
「れーいちゃん!僕が抱っこしてあげよっか?」
「いや、れいちゃんは俺と手を繋ぐんだもんねー?」
「、、茶番か。あ、おいそこの段差気をつけろ」
えっと……?
なんか気づいたら周り囲まれてるんですけどなにが起こったんだろう?
※ただ主人公が愛でられる物語です
※シリアスたまにあり
※周りめちゃ愛重い溺愛ルート確です
※ど素人作品です、温かい目で見てください
どうぞよろしくお願いします。
悪役令嬢の騎士
コムラサキ
ファンタジー
帝都の貧しい家庭に育った少年は、ある日を境に前世の記憶を取り戻す。
異世界に転生したが、戦争に巻き込まれて悲惨な最期を迎えてしまうようだ。
少年は前世の知識と、あたえられた特殊能力を使って生き延びようとする。
そのためには、まず〈悪役令嬢〉を救う必要がある。
少年は彼女の騎士になるため、この世界で生きていくことを決意する。
オバサンが転生しましたが何も持ってないので何もできません!
みさちぃ
恋愛
50歳近くのおばさんが異世界転生した!
転生したら普通チートじゃない?何もありませんがっ!!
前世で苦しい思いをしたのでもう一人で生きて行こうかと思います。
とにかく目指すは自由気ままなスローライフ。
森で調合師して暮らすこと!
ひとまず読み漁った小説に沿って悪役令嬢から国外追放を目指しますが…
無理そうです……
更に隣で笑う幼なじみが気になります…
完結済みです。
なろう様にも掲載しています。
副題に*がついているものはアルファポリス様のみになります。
エピローグで完結です。
番外編になります。
※完結設定してしまい新しい話が追加できませんので、以後番外編載せる場合は別に設けるかなろう様のみになります。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる