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315.チョコレートとメロメロと卑しいオッサン〜ガウディードside
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『従兄様、とっても素敵な物を見つけましてよ』
この頃はまだ定期的に会う年の離れた従兄妹として互いに接していたから、俺に対しての口調は貴族令嬢たるものだったっけ。
もちろん赤子の頃から定期的に見ているから、アリーが自分の家族の前では僕と言ったり、中性的な言葉遣いなのは知っていたけど。
この時アリーが見出した素敵な物が、あの結実し損なったカバオ瓜の子房だとは思ってもみなかった。
まさか貴族令嬢がそれを噛じってみるとも思わなかったけど。
しかもアリーはただ見出しただけじゃない。
チョコレートの活用方法の伝授から始まり、グレインビル領の特産品を売り出したい目論見はあっても、真新しい菓子の開発やカフェ経営のお膳立てまで、手厚くフォローしてくれた。
そりゃ母上だって姪であるアリアチェリーナに恩義を感じないはずがない。
ちなみにまだカタコトだった頃のアリーにカバオ瓜を教えたのは俺だ。
『キイリョ、シュイカ』
切った断面を初めて見せた時のたどたどしい感想はそれだった。
『シュイカ、オイチイ』
一口食べた時のたどたどしい感想はそれだった。
ちょっと何言ってるかわからなかったけど、当時はあまり変わらなかった表情が和らいだから、喜んだのは察した。
モット、モットと言葉は何言ってるかわからないながらも、欲しているのは何となくわかって何度か小さな口に入れてあげると初めて笑ってくれた。
メロメロになった。
まだ悪魔化する前の従弟のバルトスの天使発言に心から頷いた瞬間だった。
そんな赤子の頃から知っている従妹は成長して他国の商会のいくつかと取り次ぎまでしてくれ、その商会とも新たな事業を興す事ができるだなんて当時は考えもしなかった。
お陰で領民教育にも資金を回せるようになって領の治安も良くなっているし、ここ何年かでうちの領はかつて伯父上に融資してもらった資金を全額返済する事もできた。
正直領主たる父上がその事を1番わかっているだろう····多分?
なのに姪のクッキーを奪うとか、どんだけせこいんだよと馬車の中で兎やライオンやハートに模したクッキーをボリボリやってる卑しいオッサンに何度も言って聞かせていたんだ。
オッサンが卑しくて効果は無かったけど。
そしてあの狩猟祭で直接深く関わって以降、母上にとってのアリアチェリーナは親友の義娘や義理の姪という壁のある存在ではなくなった。
どちらかと言うと実の娘に近い感情を持っているように感じる。
そして父上のクッキー強奪を母上が知って以来、母上は必ず俺にクッキーを渡すようになった。
必ずアリーに手渡せとフォンデアス公爵夫人として毎回厳命する。
ずっと父上を大人気ないと思っていた俺は、もちろん現当主たる父上に次代の当主の座を餌としてチラつかされても、逆に次代を危ぶませるような脅しとしてチラつかされても、このクッキーだけは死守して可愛い従妹のアリーに手渡している。
父上、大人気ない。
それに俺は現当主夫人の方が怖い。
一応今のところ次代の当主扱いはされている。
話が逸れた。
「食欲が落ちてても母上のクッキーは食べられるみたいなんだ。
だから美味しさはそのままに、栄養が取れるクッキーを作ってみてくれない」
「そうなのね。
それならそういうクッキーも作ってみるわ。
冬は赤カバオの果実寒天も作るから、もしうちの領で取れたら1つは領主権限で取り置きしておいてちょうだい。
間違っても以前のクッキーのように盗み食いなんてしたら····」
チラッと父上を見る母上の目は鋭く光っていた。
「し、しない!
もうしないってば!
いい加減許して、ね、エミリア」
「あなたが私を騙し続けた期間と同じだけの期間は許しません」
「そ····そんな····」
ガクリと項垂れた父上には悪いけど、同情心はやっぱり起こらないな。
母上はあの狩猟祭前、アリーに所望されたクッキーと一緒にある薄桃色の飲み物を用意した。
それがアリリアと赤カバオ瓜のミックス果実水だ。
本来のカバオ瓜の中身は黄色い。
しかし時折濃い緑の縞模様が入った、中身の赤い物が出来上がる。
赤い瓜は何というか、甘さが濃い。
瓜の独特の臭さもいくらか増す。
冬前の収穫直後より、ひと月程涼しい環境の常温で寝かせた方が熟成してより甘みが増すが、瓜臭さも増してしまってそれまで使い道は無かったんだ。
カバオ瓜が受粉して結実する確率もなかなか低いけど、赤い実はカバオ瓜の結実時期が終わる頃にできるかできないかくらいの、奇跡的にできる確率だ。
多い時で1年に数個、少ない時は1個もお目にかからない。
そしてアリリアの実は酸っぱい。
とにかく酸っぱい。
けれどある日母上は赤カバオ瓜と冷凍から解凍したアリリアの果汁を混ぜた。
ほんの出来心から。
アリリアの実は夏前から遅くとも夏過ぎにはできるから、冬に生で食べるなら冷凍しておくしかない。
冷凍する魔具はかなり高いからどこの家庭にもあるわけではないけど、カフェを経営する俺は持っていた。
するとどうだろうか。
瓜臭さが抜けてとてつもなく美味くなった。
色も赤から薄桃色になった。
どうしてかはわからない。
この頃はまだ定期的に会う年の離れた従兄妹として互いに接していたから、俺に対しての口調は貴族令嬢たるものだったっけ。
もちろん赤子の頃から定期的に見ているから、アリーが自分の家族の前では僕と言ったり、中性的な言葉遣いなのは知っていたけど。
この時アリーが見出した素敵な物が、あの結実し損なったカバオ瓜の子房だとは思ってもみなかった。
まさか貴族令嬢がそれを噛じってみるとも思わなかったけど。
しかもアリーはただ見出しただけじゃない。
チョコレートの活用方法の伝授から始まり、グレインビル領の特産品を売り出したい目論見はあっても、真新しい菓子の開発やカフェ経営のお膳立てまで、手厚くフォローしてくれた。
そりゃ母上だって姪であるアリアチェリーナに恩義を感じないはずがない。
ちなみにまだカタコトだった頃のアリーにカバオ瓜を教えたのは俺だ。
『キイリョ、シュイカ』
切った断面を初めて見せた時のたどたどしい感想はそれだった。
『シュイカ、オイチイ』
一口食べた時のたどたどしい感想はそれだった。
ちょっと何言ってるかわからなかったけど、当時はあまり変わらなかった表情が和らいだから、喜んだのは察した。
モット、モットと言葉は何言ってるかわからないながらも、欲しているのは何となくわかって何度か小さな口に入れてあげると初めて笑ってくれた。
メロメロになった。
まだ悪魔化する前の従弟のバルトスの天使発言に心から頷いた瞬間だった。
そんな赤子の頃から知っている従妹は成長して他国の商会のいくつかと取り次ぎまでしてくれ、その商会とも新たな事業を興す事ができるだなんて当時は考えもしなかった。
お陰で領民教育にも資金を回せるようになって領の治安も良くなっているし、ここ何年かでうちの領はかつて伯父上に融資してもらった資金を全額返済する事もできた。
正直領主たる父上がその事を1番わかっているだろう····多分?
なのに姪のクッキーを奪うとか、どんだけせこいんだよと馬車の中で兎やライオンやハートに模したクッキーをボリボリやってる卑しいオッサンに何度も言って聞かせていたんだ。
オッサンが卑しくて効果は無かったけど。
そしてあの狩猟祭で直接深く関わって以降、母上にとってのアリアチェリーナは親友の義娘や義理の姪という壁のある存在ではなくなった。
どちらかと言うと実の娘に近い感情を持っているように感じる。
そして父上のクッキー強奪を母上が知って以来、母上は必ず俺にクッキーを渡すようになった。
必ずアリーに手渡せとフォンデアス公爵夫人として毎回厳命する。
ずっと父上を大人気ないと思っていた俺は、もちろん現当主たる父上に次代の当主の座を餌としてチラつかされても、逆に次代を危ぶませるような脅しとしてチラつかされても、このクッキーだけは死守して可愛い従妹のアリーに手渡している。
父上、大人気ない。
それに俺は現当主夫人の方が怖い。
一応今のところ次代の当主扱いはされている。
話が逸れた。
「食欲が落ちてても母上のクッキーは食べられるみたいなんだ。
だから美味しさはそのままに、栄養が取れるクッキーを作ってみてくれない」
「そうなのね。
それならそういうクッキーも作ってみるわ。
冬は赤カバオの果実寒天も作るから、もしうちの領で取れたら1つは領主権限で取り置きしておいてちょうだい。
間違っても以前のクッキーのように盗み食いなんてしたら····」
チラッと父上を見る母上の目は鋭く光っていた。
「し、しない!
もうしないってば!
いい加減許して、ね、エミリア」
「あなたが私を騙し続けた期間と同じだけの期間は許しません」
「そ····そんな····」
ガクリと項垂れた父上には悪いけど、同情心はやっぱり起こらないな。
母上はあの狩猟祭前、アリーに所望されたクッキーと一緒にある薄桃色の飲み物を用意した。
それがアリリアと赤カバオ瓜のミックス果実水だ。
本来のカバオ瓜の中身は黄色い。
しかし時折濃い緑の縞模様が入った、中身の赤い物が出来上がる。
赤い瓜は何というか、甘さが濃い。
瓜の独特の臭さもいくらか増す。
冬前の収穫直後より、ひと月程涼しい環境の常温で寝かせた方が熟成してより甘みが増すが、瓜臭さも増してしまってそれまで使い道は無かったんだ。
カバオ瓜が受粉して結実する確率もなかなか低いけど、赤い実はカバオ瓜の結実時期が終わる頃にできるかできないかくらいの、奇跡的にできる確率だ。
多い時で1年に数個、少ない時は1個もお目にかからない。
そしてアリリアの実は酸っぱい。
とにかく酸っぱい。
けれどある日母上は赤カバオ瓜と冷凍から解凍したアリリアの果汁を混ぜた。
ほんの出来心から。
アリリアの実は夏前から遅くとも夏過ぎにはできるから、冬に生で食べるなら冷凍しておくしかない。
冷凍する魔具はかなり高いからどこの家庭にもあるわけではないけど、カフェを経営する俺は持っていた。
するとどうだろうか。
瓜臭さが抜けてとてつもなく美味くなった。
色も赤から薄桃色になった。
どうしてかはわからない。
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