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370.映像記憶と過呼吸
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「図鑑に無い何かがあるとか?」
僕があの時見た図鑑は確か義父様が記録した図鑑だった。
という事は一般公開されていないやつだったのかな?
記憶していた魔光苔のページを映像で思い出す。
こういう時は見た物を映像で覚えられる僕の映像記憶能力って便利だよね。
まあ現実は便利な事ばかりでもないんだけど。
頭の中の映像によると、やっぱりあまり多くは記載されてないな。
絶滅危惧種扱いだったから研究サンプルもそんなになくて、生態はあまりわかってないらしい。
一般的にこの世界の魔素は魔獣が生息していたり、魔法を使ったりすると発生するから珍しいものじゃない。
魔素が視覚的にも認識されるくらい濃くなってきて、そこにいると生物全般がみるからに正気を保てなくなってくる。
そんな魔素をこの世界では瘴気って呼んでるんだ。
そういうのが発生した場所に魔獣がいると真っ先に狂ってきて、タイミング次第ではパニックが魔獣達の間で連鎖的に起こる。
それが大規模な魔獣集団暴走を発生させる引き金にもなってしまうんだ。
最悪は····国を····滅ぼせるくらいの規模にも····なる····。
なんてうっかりこんな暗い場所で、そんな事を1人考えてたからかな。
しまった、と思った時には手遅れだった。
ブルッと体に悪寒が走る。
発狂して暴れ狂う数多の魔獣と、それに対峙する戦士達。
そして彼らが血肉をまき散らしながら絶命していく凄惨で壮絶な映像。
あの時のそれが頭を過ってしまった。
「ッ、、っ、、か、はっ、」
ヒュッと息をのみ、呼吸が上手くできなくなった僕はぐらりと目眩を覚える。
そのまま、まともに立っていられなくなって岩壁に体を打ちつけた。
そしてあの時から数百年も僕を苛んできた感覚も、引きずられるようにして思い出す。
体の中に流れ込む瘴気は、砕けたガラスが血管を流れていくような激痛をもたらした。
そしてそれを打ち消すように魔力を強制的に消費させ、枯渇すれば更に生命力までも貪欲に奪っていく。
嫌でも死を意識させられるような様々な種類の苦痛。
「はっ、はっ、んっ、はっ、」
まずい、10年ぶりくらいに過呼吸になりかけてる。
ズルズルと座りこみ、そのまま丸くなって膝を抱えて顔を埋めた。
なるべく息を細く長く吐き出しては吸う。
袋なんて取り出して対処する余裕はない。
大丈夫。
昔は今よりずっと本格的な過呼吸に何度もなってたもの。
記憶している血なまぐさい光景を頭から追い出すように、家族の顔を思い出して発狂しそうになった意識を保つ。
「う、っ、ふっ、ふぅ····は、はぁ····」
やがて少しずつ 、少しずつ息が整ってくれば、すぐ真横に魔光苔の薄ぼんやりした灯りが目に入る。
それがまた、なんとはなしに心を落ち着けていく。
「はぁ、はぁ····良かった、1人で」
ややもして、息が整って顔を上げて独りごちる。
生理的に目元に溜まってしまった涙を服の袖でゴシゴシする。
ニーアがいたらそもそもこんな醜態は曝さなかったかもしれないけど····まあ誰にも見られてないならセーフだよね。
「それにしても····」
息を更に整えながら、気を紛らわせる為に意識して声を出しながら改めて苔を眺める。
次々連鎖しているけど最初に発光した苔はもう消えてしまってるし、こんなに淡い光なら魔獣の線は多分無いんじゃないかな?
図鑑には苔の周りの魔素が強いほど光が強くなるって書いてた。
という事は、魔法?
魔法を使うと魔力の粒子が分解されて魔素になって散っていくんだ。
あっちの世界でいえば、化学分解に近いかな。
魔素にも種類があるけど、さしずめこの世界の分子みたいな存在だと僕はざっくり認識してる。
前世は医者であって化学者じゃないからそんな認識しかできないけど、多分間違ってもないはずだ。
でもこの光り具合と持続性でいけば、大きく魔力を使うような魔法ではない。
多分攻撃系の魔法は使われてないはずだよ。
そういえばさっき焚き火らしき跡があったし、煤の状態的に日は経ってない。
埃も全然被ってなかったし、煤も新鮮だったもの。
「誰かがいた?」
ふむ、と考える。
僕達が落ちた場所の落ち葉や砂には誰かが踏み入った形跡は無かった。
という事は少なくともあの3本の道のどれかは外のどこかに繋がっているはず。
転移でっていうのもあり得るけど、ここにわざわざ転移するメリットは無いように思う。
という事は····。
「誰かがここで一時的に過ごした?」
それなら使っても生活魔法くらいだろうから、光りがこの程度でも不思議じゃない。
なんて思いながらも何とか呼吸を整えて、ふらふら立ち上がる。
動かないって約束してたニーアにゴメンと手を合わせつつ、そろそろと前進してみる。
今は同じ場所に留まりたくない。
すると道がまた2つに分かれた。
奥は暗くて見えないけど、どっちからも風が流れてるからこの道は外に抜けるんじゃないかな?
あれ、待って。
2つの内の1つの道の向こうに、かなり小さな灯りが3つ見えた。
こっちに向かって来てる?
まさかのお化けや火の玉って事はないだろうし····うーん····場所が場所だけに警戒するべきかな?
そうと決まれば僕の行動は早いよ。
僕があの時見た図鑑は確か義父様が記録した図鑑だった。
という事は一般公開されていないやつだったのかな?
記憶していた魔光苔のページを映像で思い出す。
こういう時は見た物を映像で覚えられる僕の映像記憶能力って便利だよね。
まあ現実は便利な事ばかりでもないんだけど。
頭の中の映像によると、やっぱりあまり多くは記載されてないな。
絶滅危惧種扱いだったから研究サンプルもそんなになくて、生態はあまりわかってないらしい。
一般的にこの世界の魔素は魔獣が生息していたり、魔法を使ったりすると発生するから珍しいものじゃない。
魔素が視覚的にも認識されるくらい濃くなってきて、そこにいると生物全般がみるからに正気を保てなくなってくる。
そんな魔素をこの世界では瘴気って呼んでるんだ。
そういうのが発生した場所に魔獣がいると真っ先に狂ってきて、タイミング次第ではパニックが魔獣達の間で連鎖的に起こる。
それが大規模な魔獣集団暴走を発生させる引き金にもなってしまうんだ。
最悪は····国を····滅ぼせるくらいの規模にも····なる····。
なんてうっかりこんな暗い場所で、そんな事を1人考えてたからかな。
しまった、と思った時には手遅れだった。
ブルッと体に悪寒が走る。
発狂して暴れ狂う数多の魔獣と、それに対峙する戦士達。
そして彼らが血肉をまき散らしながら絶命していく凄惨で壮絶な映像。
あの時のそれが頭を過ってしまった。
「ッ、、っ、、か、はっ、」
ヒュッと息をのみ、呼吸が上手くできなくなった僕はぐらりと目眩を覚える。
そのまま、まともに立っていられなくなって岩壁に体を打ちつけた。
そしてあの時から数百年も僕を苛んできた感覚も、引きずられるようにして思い出す。
体の中に流れ込む瘴気は、砕けたガラスが血管を流れていくような激痛をもたらした。
そしてそれを打ち消すように魔力を強制的に消費させ、枯渇すれば更に生命力までも貪欲に奪っていく。
嫌でも死を意識させられるような様々な種類の苦痛。
「はっ、はっ、んっ、はっ、」
まずい、10年ぶりくらいに過呼吸になりかけてる。
ズルズルと座りこみ、そのまま丸くなって膝を抱えて顔を埋めた。
なるべく息を細く長く吐き出しては吸う。
袋なんて取り出して対処する余裕はない。
大丈夫。
昔は今よりずっと本格的な過呼吸に何度もなってたもの。
記憶している血なまぐさい光景を頭から追い出すように、家族の顔を思い出して発狂しそうになった意識を保つ。
「う、っ、ふっ、ふぅ····は、はぁ····」
やがて少しずつ 、少しずつ息が整ってくれば、すぐ真横に魔光苔の薄ぼんやりした灯りが目に入る。
それがまた、なんとはなしに心を落ち着けていく。
「はぁ、はぁ····良かった、1人で」
ややもして、息が整って顔を上げて独りごちる。
生理的に目元に溜まってしまった涙を服の袖でゴシゴシする。
ニーアがいたらそもそもこんな醜態は曝さなかったかもしれないけど····まあ誰にも見られてないならセーフだよね。
「それにしても····」
息を更に整えながら、気を紛らわせる為に意識して声を出しながら改めて苔を眺める。
次々連鎖しているけど最初に発光した苔はもう消えてしまってるし、こんなに淡い光なら魔獣の線は多分無いんじゃないかな?
図鑑には苔の周りの魔素が強いほど光が強くなるって書いてた。
という事は、魔法?
魔法を使うと魔力の粒子が分解されて魔素になって散っていくんだ。
あっちの世界でいえば、化学分解に近いかな。
魔素にも種類があるけど、さしずめこの世界の分子みたいな存在だと僕はざっくり認識してる。
前世は医者であって化学者じゃないからそんな認識しかできないけど、多分間違ってもないはずだ。
でもこの光り具合と持続性でいけば、大きく魔力を使うような魔法ではない。
多分攻撃系の魔法は使われてないはずだよ。
そういえばさっき焚き火らしき跡があったし、煤の状態的に日は経ってない。
埃も全然被ってなかったし、煤も新鮮だったもの。
「誰かがいた?」
ふむ、と考える。
僕達が落ちた場所の落ち葉や砂には誰かが踏み入った形跡は無かった。
という事は少なくともあの3本の道のどれかは外のどこかに繋がっているはず。
転移でっていうのもあり得るけど、ここにわざわざ転移するメリットは無いように思う。
という事は····。
「誰かがここで一時的に過ごした?」
それなら使っても生活魔法くらいだろうから、光りがこの程度でも不思議じゃない。
なんて思いながらも何とか呼吸を整えて、ふらふら立ち上がる。
動かないって約束してたニーアにゴメンと手を合わせつつ、そろそろと前進してみる。
今は同じ場所に留まりたくない。
すると道がまた2つに分かれた。
奥は暗くて見えないけど、どっちからも風が流れてるからこの道は外に抜けるんじゃないかな?
あれ、待って。
2つの内の1つの道の向こうに、かなり小さな灯りが3つ見えた。
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まさかのお化けや火の玉って事はないだろうし····うーん····場所が場所だけに警戒するべきかな?
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