380 / 491
8
379.怒れるムササビと雷風呂の危機〜ルドルフside
しおりを挟む
「悪いが切るぞ」
体に触れれば首や肩に巾着の紐が絡まっていたのに気づき、そっと外しつつ断りを入れてから紐を風の魔法で切る。
巾着はゼストに預けて体をさすり続けていれば、不意に治癒魔法に包まれるのを感じた。
「引っかき傷くらいなら治癒できる」
「そうか、助かった」
ゼストは治癒魔法が苦手だが、今はそれを学んでいる。
最近流民達と接する機会が増え、思いの外怪我人が多いと気づいたらしい。
彼らの生活は元々過酷で、中には暴力に見舞われる者も多い。
流民となるには貧困という止むに止まれぬ事情もあって、栄養失調気味だと傷の治りが悪く、骨折なんかの後を引くような怪我もしやすい。
ゼストは王子としてただ立太子されてその地位につきたいわけではないんだ。
彼なりの方法で国を良くしようと模索し、日々努力している。
「ケホッ、だ、誰?
コホッ、コホッ、はぁ、はぁ、ん、コホッ」
「えっ、子狸が喋っ····」
違う、絶対ムササビ・アリーだ。
ムササビが人語を話した途端、ゼストが驚いて後ずさる。
ふっ、まだまだ愛が足りないな、ゼスト。
アリー嬢は少しずつ落ち着いてくると、しがみついているのが人間だと気づいたんだろう。
相変わらずの可愛らしい声だ。
「落ち着いてきたな。
俺だ、ルドルフだ」
「ケホ、ルド、ルフ殿、コホ、下?」
「ルドだ」
相変わらず久々に会うと殿下呼びに戻るのが悲しい。
いつも通りに訂正する。
「ケホ、ケホ、ルド、様?」
「そうだ。
抱えてもいい····」
バサバサッ。
「ア~ホ~!
ア~ホ~!」
一足先に反対側の浴槽に落ちて、いつの間にか器用にも水面に仰向けに浮いて気絶していた黒鳥が、意識を取り戻したのか飛び立った。
ふと、頭に乗っている体がビクッと揺れ、震え始めた。
「アリー嬢、具合が····」
「だからカラスは、ゲホッ、カァッて鳴けー!!!!
うわぁーん!!!!
ゴホッ····馬鹿ー!!!!
ゲホッ、ゲホッ、ゲホッ」
「お、おい、大丈夫か?!」
突然咽ながら叫んで頭頂部に突っ伏して····泣き出した?!
そういえばあの黒鳥ともつれ合うように落ちていたが、何事だ?!
泣いてはいるが、それよりももの凄く怒っているのを頭で感じる。
今までで知っている中で1番怒り狂ってる気がするが、何があった?!
取りあえず言葉そのまま、咽び泣いているので背中をさするのは継続しても良いように思う。
「ケホ、ケホ、グスッ、カラス、嫌い、コホ、グスッ、カラス、禿げろ、コホ、コホ」
多分カラスというのが黒鳥の事だと思う。
ややもすると咳も少し落ち着いてきたし、呪いの言葉を吐くくらいには心も落ち着いたようだ····多分。
それより頭の上を陣取る体が冷えてきている。
「その、抱えてもいいだろうか」
「駄目に決まっているでしょ」
「そうか、駄目····レイ?!」
見ればいつの間にかアリーの義兄、レイヤード=グレインビルが片手にバスタオルを持って浴槽の縁に立って見下ろしていた。
どことなく機嫌が悪そうだが、それはそうだろうな。
妹がカラスと一緒に空から落ちて、溺れて死にかけたんだから。
「ケホ、兄様?」
「うん、久しぶり。
こんな形で再会するとは思わなかったけど、迎えに来たよ」
「どうして、コホ、わ、かった、の?
コホコホ」
「ニーアから連絡が来たんだ」
「····うくっ、コホ、ど、どこまで····ケホ」
頭の振動でわかる。
明らかに狼狽え始めたな。
レイが来てからそれとなく俺の後ろに気持ち隠れてみてるゼストは小さく、アリー嬢?と呟いているから、いい加減気づいたようだ。
「ふふふ、さあ、どこまでかな?
とりあえず打ち上がってるそこの黒毛山から、僕の腕に帰っておいで?」
笑顔だ。
美青年らしい清々しい程の笑顔だが、珍しくレイがアリーへと圧を····。
「ルド、さっさと僕の可愛いムササビ・アリーを解放しないとそのお湯を雷風呂に変えるよ?」
あ、俺への圧だったのか?!
「いや、待て、レイ!
すぐだ、すぐ返すからやめてくれ!」
「げっ、師匠、待ってくれ!」
本当にパチパチし始めたのを見て慌ててレイの元に進んで頭ごと差し出した。
暫し事の成り行きを黙って見守っていたゼストは、いち早く浴槽から出ている。
裏切り者め!
ちなみにゼストの美形な護衛は地味に主の危機だったはずだが、見ているだけだ。
ムササビに向ける目がどことなく呆れている気がしないでもない。
レイは手にしていたバスタオルで妹を包んで大事そうに抱える。
「ルド、つまらないものを僕の可愛いアリーに曝してくれた件は後でね」
そう言われて初めて気づいた。
腰に巻いていたタオルが向こうで漂っていた事に。
呆然としている間に、グレインビル兄妹はいなくなっている。
腰にタオルをしっかり巻いたゼストだけが再び浴槽に浸かり、気の毒そうな目で俺を見ていた。
「ア~ホ~!
ア~ホ~!」
まだいたのか····俺もあの黒鳥に暴言を吐いてやりたくなったのは秘密だ。
体に触れれば首や肩に巾着の紐が絡まっていたのに気づき、そっと外しつつ断りを入れてから紐を風の魔法で切る。
巾着はゼストに預けて体をさすり続けていれば、不意に治癒魔法に包まれるのを感じた。
「引っかき傷くらいなら治癒できる」
「そうか、助かった」
ゼストは治癒魔法が苦手だが、今はそれを学んでいる。
最近流民達と接する機会が増え、思いの外怪我人が多いと気づいたらしい。
彼らの生活は元々過酷で、中には暴力に見舞われる者も多い。
流民となるには貧困という止むに止まれぬ事情もあって、栄養失調気味だと傷の治りが悪く、骨折なんかの後を引くような怪我もしやすい。
ゼストは王子としてただ立太子されてその地位につきたいわけではないんだ。
彼なりの方法で国を良くしようと模索し、日々努力している。
「ケホッ、だ、誰?
コホッ、コホッ、はぁ、はぁ、ん、コホッ」
「えっ、子狸が喋っ····」
違う、絶対ムササビ・アリーだ。
ムササビが人語を話した途端、ゼストが驚いて後ずさる。
ふっ、まだまだ愛が足りないな、ゼスト。
アリー嬢は少しずつ落ち着いてくると、しがみついているのが人間だと気づいたんだろう。
相変わらずの可愛らしい声だ。
「落ち着いてきたな。
俺だ、ルドルフだ」
「ケホ、ルド、ルフ殿、コホ、下?」
「ルドだ」
相変わらず久々に会うと殿下呼びに戻るのが悲しい。
いつも通りに訂正する。
「ケホ、ケホ、ルド、様?」
「そうだ。
抱えてもいい····」
バサバサッ。
「ア~ホ~!
ア~ホ~!」
一足先に反対側の浴槽に落ちて、いつの間にか器用にも水面に仰向けに浮いて気絶していた黒鳥が、意識を取り戻したのか飛び立った。
ふと、頭に乗っている体がビクッと揺れ、震え始めた。
「アリー嬢、具合が····」
「だからカラスは、ゲホッ、カァッて鳴けー!!!!
うわぁーん!!!!
ゴホッ····馬鹿ー!!!!
ゲホッ、ゲホッ、ゲホッ」
「お、おい、大丈夫か?!」
突然咽ながら叫んで頭頂部に突っ伏して····泣き出した?!
そういえばあの黒鳥ともつれ合うように落ちていたが、何事だ?!
泣いてはいるが、それよりももの凄く怒っているのを頭で感じる。
今までで知っている中で1番怒り狂ってる気がするが、何があった?!
取りあえず言葉そのまま、咽び泣いているので背中をさするのは継続しても良いように思う。
「ケホ、ケホ、グスッ、カラス、嫌い、コホ、グスッ、カラス、禿げろ、コホ、コホ」
多分カラスというのが黒鳥の事だと思う。
ややもすると咳も少し落ち着いてきたし、呪いの言葉を吐くくらいには心も落ち着いたようだ····多分。
それより頭の上を陣取る体が冷えてきている。
「その、抱えてもいいだろうか」
「駄目に決まっているでしょ」
「そうか、駄目····レイ?!」
見ればいつの間にかアリーの義兄、レイヤード=グレインビルが片手にバスタオルを持って浴槽の縁に立って見下ろしていた。
どことなく機嫌が悪そうだが、それはそうだろうな。
妹がカラスと一緒に空から落ちて、溺れて死にかけたんだから。
「ケホ、兄様?」
「うん、久しぶり。
こんな形で再会するとは思わなかったけど、迎えに来たよ」
「どうして、コホ、わ、かった、の?
コホコホ」
「ニーアから連絡が来たんだ」
「····うくっ、コホ、ど、どこまで····ケホ」
頭の振動でわかる。
明らかに狼狽え始めたな。
レイが来てからそれとなく俺の後ろに気持ち隠れてみてるゼストは小さく、アリー嬢?と呟いているから、いい加減気づいたようだ。
「ふふふ、さあ、どこまでかな?
とりあえず打ち上がってるそこの黒毛山から、僕の腕に帰っておいで?」
笑顔だ。
美青年らしい清々しい程の笑顔だが、珍しくレイがアリーへと圧を····。
「ルド、さっさと僕の可愛いムササビ・アリーを解放しないとそのお湯を雷風呂に変えるよ?」
あ、俺への圧だったのか?!
「いや、待て、レイ!
すぐだ、すぐ返すからやめてくれ!」
「げっ、師匠、待ってくれ!」
本当にパチパチし始めたのを見て慌ててレイの元に進んで頭ごと差し出した。
暫し事の成り行きを黙って見守っていたゼストは、いち早く浴槽から出ている。
裏切り者め!
ちなみにゼストの美形な護衛は地味に主の危機だったはずだが、見ているだけだ。
ムササビに向ける目がどことなく呆れている気がしないでもない。
レイは手にしていたバスタオルで妹を包んで大事そうに抱える。
「ルド、つまらないものを僕の可愛いアリーに曝してくれた件は後でね」
そう言われて初めて気づいた。
腰に巻いていたタオルが向こうで漂っていた事に。
呆然としている間に、グレインビル兄妹はいなくなっている。
腰にタオルをしっかり巻いたゼストだけが再び浴槽に浸かり、気の毒そうな目で俺を見ていた。
「ア~ホ~!
ア~ホ~!」
まだいたのか····俺もあの黒鳥に暴言を吐いてやりたくなったのは秘密だ。
0
あなたにおすすめの小説
疲れきった退職前女教師がある日突然、異世界のどうしようもない貴族令嬢に転生。こっちの世界でも子供たちの幸せは第一優先です!
ミミリン
恋愛
小学校教師として長年勤めた独身の皐月(さつき)。
退職間近で突然異世界に転生してしまった。転生先では醜いどうしようもない貴族令嬢リリア・アルバになっていた!
私を陥れようとする兄から逃れ、
不器用な大人たちに助けられ、少しずつ現世とのギャップを埋め合わせる。
逃れた先で出会った訳ありの美青年は何かとからかってくるけど、気がついたら成長して私を支えてくれる大切な男性になっていた。こ、これは恋?
異世界で繰り広げられるそれぞれの奮闘ストーリー。
この世界で新たに自分の人生を切り開けるか!?
つまらなかった乙女ゲームに転生しちゃったので、サクッと終わらすことにしました
蒼羽咲
ファンタジー
つまらなかった乙女ゲームに転生⁈
絵に惚れ込み、一目惚れキャラのためにハードまで買ったが内容が超つまらなかった残念な乙女ゲームに転生してしまった。
絵は超好みだ。内容はご都合主義の聖女なお花畑主人公。攻略イケメンも顔は良いがちょろい対象ばかり。てこたぁ逆にめちゃくちゃ住み心地のいい場所になるのでは⁈と気づき、テンションが一気に上がる!!
聖女など面倒な事はする気はない!サクッと攻略終わらせてぐーたら生活をGETするぞ!
ご都合主義ならチョロい!と、野望を胸に動き出す!!
+++++
・重複投稿・土曜配信 (たま~に水曜…不定期更新)
悪役令嬢の騎士
コムラサキ
ファンタジー
帝都の貧しい家庭に育った少年は、ある日を境に前世の記憶を取り戻す。
異世界に転生したが、戦争に巻き込まれて悲惨な最期を迎えてしまうようだ。
少年は前世の知識と、あたえられた特殊能力を使って生き延びようとする。
そのためには、まず〈悪役令嬢〉を救う必要がある。
少年は彼女の騎士になるため、この世界で生きていくことを決意する。
傷物転生令嬢マグダリーナと原初の魔法使いエステラの幻想譚-女神とスライムの光とともに- (旧タイトル:ナイナイづくしで始まった、傷物令嬢の異
天三津空らげ
ファンタジー
日本の田舎で平凡な会社員だった松田理奈は、不慮の事故で亡くなり10歳のマグダリーナに異世界転生した。転生先の子爵家は、どん底の貧乏。父は転生前の自分と同じ歳なのに仕事しない。二十五歳の青年におまるのお世話をされる最悪の日々。転生チートもないマグダリーナが、美しい魔法使いの少女に出会った時、失われた女神と幻の種族にふりまわされつつQOLが爆上がりすることになる――
※他サイトでも掲載しています
※ちょいちょい手直ししていってます
2026.12.14 タイトル変更 旧タイトル:ナイナイづくしで始まった、傷物令嬢の異世界生活
スライムからパンを作ろう!〜そのパンは全てポーションだけど、絶品!!〜
櫛田こころ
ファンタジー
僕は、諏方賢斗(すわ けんと)十九歳。
パンの製造員を目指す専門学生……だったんだけど。
車に轢かれそうになった猫ちゃんを助けようとしたら、あっさり事故死。でも、その猫ちゃんが神様の御使と言うことで……復活は出来ないけど、僕を異世界に転生させることは可能だと提案されたので、もちろん承諾。
ただ、ひとつ神様にお願いされたのは……その世界の、回復アイテムを開発してほしいとのこと。パンやお菓子以外だと家庭レベルの調理技術しかない僕で、なんとか出来るのだろうか心配になったが……転生した世界で出会ったスライムのお陰で、それは実現出来ることに!!
相棒のスライムは、パン製造の出来るレアスライム!
けど、出来たパンはすべて回復などを実現出来るポーションだった!!
パン職人が夢だった青年の異世界のんびりスローライフが始まる!!
元社畜悪役令嬢、辺境のボロ城を全自動ボタニカル美容スパに大改造して引きこもる ~前世コスメで冷徹公爵を完治させたら溺愛されました~
季未
恋愛
「貴様のような悪逆非道な女は、極寒の辺境へ追放だ!」
建国記念の夜会で王太子から婚約破棄を突きつけられた公爵令嬢シャルロッテ。
しかし、彼女の中身は前世でブラック企業に殺された過労で過労死したマーケターだった!
(激務の王妃ルート回避!? しかも辺境は誰にも邪魔されないブルーオーシャン! 最高のフリーランス生活の始まりじゃない!)
理不尽な追放を究極のホワイト・スローライフへのパスポートだと歓喜した彼女は、あてがわれた辺境のボロ城を、前世の「DIY・スマートホーム知識」と「土・水魔法」を駆使して爆速で大改造!
隙間風の吹く部屋は、一瞬で「床暖房完備の全自動温水スパ」へ。
辺境に自生する雑草からは「極上ボタニカルコスメ」を開発し、自らも絶世の美女へと変貌していく。
さらに「お前には干渉しない」と白い結婚を突きつけてきたはずの、呪いで顔に火傷を負った氷の公爵に特製マッサージと美肌治療を施したところ……。
「お前が作ったこの空間と、お前自身が……俺のすべてだ」
冷徹だったはずの公爵様が、極上の癒やし空間と彼女の手技で完全に骨抜きにされ、異常なまでの過保護・溺愛モードに突入!?
現代マーケティングと美容チートで辺境を超高級スマート・リゾートへと再生させ、かつて自分を追放した王太子たちを大後悔させる!
爽快&極甘な、異世界リゾート経営×溺愛ファンタジー、堂々開幕!
3歳で捨てられた件
玲羅
恋愛
前世の記憶を持つ者が1000人に1人は居る時代。
それゆえに変わった子供扱いをされ、疎まれて捨てられた少女、キャプシーヌ。拾ったのは宰相を務めるフェルナー侯爵。
キャプシーヌの運命が再度変わったのは貴族学院入学後だった。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる