384 / 491
8
383.絶妙な庇護欲をプラス〜ルドルフside
しおりを挟む
「王女が見つからないとなると、やっぱり責任問題になりますか?」
テーブルの上に置かれたクッションに鎮座するイタチなアリー嬢が、手にしていたイタチカップを下に、というかテーブルに置いて尋ねる。
口調からして留学規定は知っているようだ。
もし留学と通常の外遊を混同していたなら、王女が行方不明の時点で問題だと判断した言葉を選ぶだろう。
「いや、今回はそうなるとは言い切れない。
明らかに自国の護衛や侍女すら伴わず、黙って出ている。
それにわが国の者だけでなく王女の護衛と侍女、隣国の留学生2人の証言もある。
もちろん王女が正式に王都の外へ外出する手続きをしていたり、最初から誘拐されていたなら話は違ったが、自発的に黙って行動して何かあったのならそれは個人の責任だ。
既に成人しているし、そこまで長期留学先の国が面倒を見る事はできない。
留学するに際し、何かしらの問題が起きた場合についての細かな誓約も書面で交わしてある。
もちろんザルハード国とも。
しかしどういう形であれ、見つかるなら問題はないが、このまま行方不明となられるのは避けたい」
死体で見つかったとしても、というのはあえて告げる必要はない。
まあアリー嬢なら察してしまうのだろうが。
「····左様ですの」
少しほっとしたような表情になってないか?
イタチ顔の移ろいには自信がないが。
「それで、アリー嬢は本当に王女を見ていないのか?」
改めて聞いてみる。
隠し立てするメリットも無さそうだが、何か引っかかる気がするのは何故だろうか。
ごくたまにしか会わないながらも付き合いが長くなっている分、この想い人を理解している部分があるなら嬉しいんだが····。
「それ、は····」
しばらく俺の方を見つめたイタチのつぶらな瞳は後ろの兄振り返る。
「アリー嬢?」
「僕の可愛いイタチなアリー?
何か話しそびれた事があるのかな?」
やはりレイは事前に聞いていたんだろう。
だがもしかしたら今日尋ねたのは正解かもしれない。
あの水没から熱も出ていただろうし、今も気怠げな様子からして体調は悪そうだ。
つまり何かしら兄に言いそびれたものの、この場で言うのははばかられるか、もしくは誰にも言わずにおこうとした事を余裕がなくて、うまく隠せなかったか。
「今、他国の王子でもあるゼストとその護衛のリューイ殿、それから次期ファムント領主と他数名が現場を改めて検分している。
あの洞窟で何かあったのなら教えておいてくれないか?」
嘘だ。
捜索は昨日いっぱいで終えている。
ただ捜索であって本格的な調査というわけではないから、何か見落としたかもしれない。
1つあるとすれば、あの王子達が移動したと言っていた洞窟のいくつかの岩壁一面が煤けていた事だ。
特大の火球が飛んで行くのを見た記憶をおぼろげながら持っていたから、恐らく記憶が定かではないあの2人が故意に火を放ったのだろうと結論づけたが····。
本当にそうだろうか?
ふと疑問に感じる。
「····えっと····王女はよく知らないけど、苔は····」
「「コケ?」」
レイと声が重なる。
コケ····ん?
「岩壁に珍しい苔が生えてて····その、もしかして····もう燃え····あ、えっと、見てないかなって····」
少し戸惑いがちだが、今燃えたって言おうとしてなかったか?
「アリー嬢?
どうして岩壁が煤けていたと知っている?」
「え····煤けていたかは····」
「僕の可愛いムササビだったアリー?」
「········ハイ」
ビクッと背後の声に身を固くし、か細い声で鳴いてそろそろと振り向けば、圧のある笑顔で妹を迎え撃つレイ。
「苔って何かな?
燃えるって何が燃えたの?
もしかして、実はかなり危険な目にあったりしてなかった?」
「ふぐっ····あの、別に危なくは····」
そろそろと立ち上がったイタチは2足歩行でふらふらと後ずさる。
あ、こっちに来た····。
トン、と腕に白い尻尾が触れる。
ヒュイルグ国で死にかけた時ほどではないが、少し毛がパサついている。
やはり体調は悪そうだ。
「わ」
あ、躓いた。
さすがに長い胴をふらふらさせながら2足歩行で後退は無理があったようだ。
倒れそうになった体をそっと支えれば、あの国にいた時ほどではないにしても、相変わらずの痩せ具合。
骨を感じた事に少なからず驚く。
温泉に落ちたムササビ姿の時は俺の方も気づく余裕が無かったらしい。
それにやはり体温が高い。
ふらついたのはそのせいもあるんだろう。
一瞬妹が俺を見たのを見計らったかのように、俺を見るレイの目が殺人鬼のそれだった。
悪魔じゃない、殺人鬼だ。
今日は友に殺られるかもしれない。
「可愛いムササビだったアリー?
何か言い忘れてたのかな?
ほら、兄様の所に戻っておいで?」
だが妹が視線をそちらに移した瞬間、殺人鬼から魅惑の優しげな笑みに切り替えたレイ。
変わり身が激しすぎるだろう。
戦鬼といい、殺人鬼といい、グレインビルはこんなんばっかりか。
アリー嬢が関わった時のグレインビル関係各所が怖すぎる。
「····怒ってる?」
だが妹もグレインビルだけあって、可愛いを全面に押し出して駆け引きだ。
瞳を潤ませ、コテリと首を傾げて絶妙な庇護欲をプラスした。
これにはレイも苦笑してしまう。
可愛いに降参か?
テーブルの上に置かれたクッションに鎮座するイタチなアリー嬢が、手にしていたイタチカップを下に、というかテーブルに置いて尋ねる。
口調からして留学規定は知っているようだ。
もし留学と通常の外遊を混同していたなら、王女が行方不明の時点で問題だと判断した言葉を選ぶだろう。
「いや、今回はそうなるとは言い切れない。
明らかに自国の護衛や侍女すら伴わず、黙って出ている。
それにわが国の者だけでなく王女の護衛と侍女、隣国の留学生2人の証言もある。
もちろん王女が正式に王都の外へ外出する手続きをしていたり、最初から誘拐されていたなら話は違ったが、自発的に黙って行動して何かあったのならそれは個人の責任だ。
既に成人しているし、そこまで長期留学先の国が面倒を見る事はできない。
留学するに際し、何かしらの問題が起きた場合についての細かな誓約も書面で交わしてある。
もちろんザルハード国とも。
しかしどういう形であれ、見つかるなら問題はないが、このまま行方不明となられるのは避けたい」
死体で見つかったとしても、というのはあえて告げる必要はない。
まあアリー嬢なら察してしまうのだろうが。
「····左様ですの」
少しほっとしたような表情になってないか?
イタチ顔の移ろいには自信がないが。
「それで、アリー嬢は本当に王女を見ていないのか?」
改めて聞いてみる。
隠し立てするメリットも無さそうだが、何か引っかかる気がするのは何故だろうか。
ごくたまにしか会わないながらも付き合いが長くなっている分、この想い人を理解している部分があるなら嬉しいんだが····。
「それ、は····」
しばらく俺の方を見つめたイタチのつぶらな瞳は後ろの兄振り返る。
「アリー嬢?」
「僕の可愛いイタチなアリー?
何か話しそびれた事があるのかな?」
やはりレイは事前に聞いていたんだろう。
だがもしかしたら今日尋ねたのは正解かもしれない。
あの水没から熱も出ていただろうし、今も気怠げな様子からして体調は悪そうだ。
つまり何かしら兄に言いそびれたものの、この場で言うのははばかられるか、もしくは誰にも言わずにおこうとした事を余裕がなくて、うまく隠せなかったか。
「今、他国の王子でもあるゼストとその護衛のリューイ殿、それから次期ファムント領主と他数名が現場を改めて検分している。
あの洞窟で何かあったのなら教えておいてくれないか?」
嘘だ。
捜索は昨日いっぱいで終えている。
ただ捜索であって本格的な調査というわけではないから、何か見落としたかもしれない。
1つあるとすれば、あの王子達が移動したと言っていた洞窟のいくつかの岩壁一面が煤けていた事だ。
特大の火球が飛んで行くのを見た記憶をおぼろげながら持っていたから、恐らく記憶が定かではないあの2人が故意に火を放ったのだろうと結論づけたが····。
本当にそうだろうか?
ふと疑問に感じる。
「····えっと····王女はよく知らないけど、苔は····」
「「コケ?」」
レイと声が重なる。
コケ····ん?
「岩壁に珍しい苔が生えてて····その、もしかして····もう燃え····あ、えっと、見てないかなって····」
少し戸惑いがちだが、今燃えたって言おうとしてなかったか?
「アリー嬢?
どうして岩壁が煤けていたと知っている?」
「え····煤けていたかは····」
「僕の可愛いムササビだったアリー?」
「········ハイ」
ビクッと背後の声に身を固くし、か細い声で鳴いてそろそろと振り向けば、圧のある笑顔で妹を迎え撃つレイ。
「苔って何かな?
燃えるって何が燃えたの?
もしかして、実はかなり危険な目にあったりしてなかった?」
「ふぐっ····あの、別に危なくは····」
そろそろと立ち上がったイタチは2足歩行でふらふらと後ずさる。
あ、こっちに来た····。
トン、と腕に白い尻尾が触れる。
ヒュイルグ国で死にかけた時ほどではないが、少し毛がパサついている。
やはり体調は悪そうだ。
「わ」
あ、躓いた。
さすがに長い胴をふらふらさせながら2足歩行で後退は無理があったようだ。
倒れそうになった体をそっと支えれば、あの国にいた時ほどではないにしても、相変わらずの痩せ具合。
骨を感じた事に少なからず驚く。
温泉に落ちたムササビ姿の時は俺の方も気づく余裕が無かったらしい。
それにやはり体温が高い。
ふらついたのはそのせいもあるんだろう。
一瞬妹が俺を見たのを見計らったかのように、俺を見るレイの目が殺人鬼のそれだった。
悪魔じゃない、殺人鬼だ。
今日は友に殺られるかもしれない。
「可愛いムササビだったアリー?
何か言い忘れてたのかな?
ほら、兄様の所に戻っておいで?」
だが妹が視線をそちらに移した瞬間、殺人鬼から魅惑の優しげな笑みに切り替えたレイ。
変わり身が激しすぎるだろう。
戦鬼といい、殺人鬼といい、グレインビルはこんなんばっかりか。
アリー嬢が関わった時のグレインビル関係各所が怖すぎる。
「····怒ってる?」
だが妹もグレインビルだけあって、可愛いを全面に押し出して駆け引きだ。
瞳を潤ませ、コテリと首を傾げて絶妙な庇護欲をプラスした。
これにはレイも苦笑してしまう。
可愛いに降参か?
0
あなたにおすすめの小説
バッドエンド予定の悪役令嬢が溺愛ルートを選んでみたら、お兄様に愛されすぎて脇役から主役になりました
美咲アリス
恋愛
目が覚めたら公爵令嬢だった!?貴族に生まれ変わったのはいいけれど、美形兄に殺されるバッドエンドの悪役令嬢なんて絶対困る!!死にたくないなら冷酷非道な兄のヴィクトルと仲良くしなきゃいけないのにヴィクトルは氷のように冷たい男で⋯⋯。「どうしたらいいの?」果たして私の運命は?
疲れきった退職前女教師がある日突然、異世界のどうしようもない貴族令嬢に転生。こっちの世界でも子供たちの幸せは第一優先です!
ミミリン
恋愛
小学校教師として長年勤めた独身の皐月(さつき)。
退職間近で突然異世界に転生してしまった。転生先では醜いどうしようもない貴族令嬢リリア・アルバになっていた!
私を陥れようとする兄から逃れ、
不器用な大人たちに助けられ、少しずつ現世とのギャップを埋め合わせる。
逃れた先で出会った訳ありの美青年は何かとからかってくるけど、気がついたら成長して私を支えてくれる大切な男性になっていた。こ、これは恋?
異世界で繰り広げられるそれぞれの奮闘ストーリー。
この世界で新たに自分の人生を切り開けるか!?
つまらなかった乙女ゲームに転生しちゃったので、サクッと終わらすことにしました
蒼羽咲
ファンタジー
つまらなかった乙女ゲームに転生⁈
絵に惚れ込み、一目惚れキャラのためにハードまで買ったが内容が超つまらなかった残念な乙女ゲームに転生してしまった。
絵は超好みだ。内容はご都合主義の聖女なお花畑主人公。攻略イケメンも顔は良いがちょろい対象ばかり。てこたぁ逆にめちゃくちゃ住み心地のいい場所になるのでは⁈と気づき、テンションが一気に上がる!!
聖女など面倒な事はする気はない!サクッと攻略終わらせてぐーたら生活をGETするぞ!
ご都合主義ならチョロい!と、野望を胸に動き出す!!
+++++
・重複投稿・土曜配信 (たま~に水曜…不定期更新)
オバサンが転生しましたが何も持ってないので何もできません!
みさちぃ
恋愛
50歳近くのおばさんが異世界転生した!
転生したら普通チートじゃない?何もありませんがっ!!
前世で苦しい思いをしたのでもう一人で生きて行こうかと思います。
とにかく目指すは自由気ままなスローライフ。
森で調合師して暮らすこと!
ひとまず読み漁った小説に沿って悪役令嬢から国外追放を目指しますが…
無理そうです……
更に隣で笑う幼なじみが気になります…
完結済みです。
なろう様にも掲載しています。
副題に*がついているものはアルファポリス様のみになります。
エピローグで完結です。
番外編になります。
※完結設定してしまい新しい話が追加できませんので、以後番外編載せる場合は別に設けるかなろう様のみになります。
スライムからパンを作ろう!〜そのパンは全てポーションだけど、絶品!!〜
櫛田こころ
ファンタジー
僕は、諏方賢斗(すわ けんと)十九歳。
パンの製造員を目指す専門学生……だったんだけど。
車に轢かれそうになった猫ちゃんを助けようとしたら、あっさり事故死。でも、その猫ちゃんが神様の御使と言うことで……復活は出来ないけど、僕を異世界に転生させることは可能だと提案されたので、もちろん承諾。
ただ、ひとつ神様にお願いされたのは……その世界の、回復アイテムを開発してほしいとのこと。パンやお菓子以外だと家庭レベルの調理技術しかない僕で、なんとか出来るのだろうか心配になったが……転生した世界で出会ったスライムのお陰で、それは実現出来ることに!!
相棒のスライムは、パン製造の出来るレアスライム!
けど、出来たパンはすべて回復などを実現出来るポーションだった!!
パン職人が夢だった青年の異世界のんびりスローライフが始まる!!
元社畜悪役令嬢、辺境のボロ城を全自動ボタニカル美容スパに大改造して引きこもる ~前世コスメで冷徹公爵を完治させたら溺愛されました~
季未
恋愛
「貴様のような悪逆非道な女は、極寒の辺境へ追放だ!」
建国記念の夜会で王太子から婚約破棄を突きつけられた公爵令嬢シャルロッテ。
しかし、彼女の中身は前世でブラック企業に殺された過労で過労死したマーケターだった!
(激務の王妃ルート回避!? しかも辺境は誰にも邪魔されないブルーオーシャン! 最高のフリーランス生活の始まりじゃない!)
理不尽な追放を究極のホワイト・スローライフへのパスポートだと歓喜した彼女は、あてがわれた辺境のボロ城を、前世の「DIY・スマートホーム知識」と「土・水魔法」を駆使して爆速で大改造!
隙間風の吹く部屋は、一瞬で「床暖房完備の全自動温水スパ」へ。
辺境に自生する雑草からは「極上ボタニカルコスメ」を開発し、自らも絶世の美女へと変貌していく。
さらに「お前には干渉しない」と白い結婚を突きつけてきたはずの、呪いで顔に火傷を負った氷の公爵に特製マッサージと美肌治療を施したところ……。
「お前が作ったこの空間と、お前自身が……俺のすべてだ」
冷徹だったはずの公爵様が、極上の癒やし空間と彼女の手技で完全に骨抜きにされ、異常なまでの過保護・溺愛モードに突入!?
現代マーケティングと美容チートで辺境を超高級スマート・リゾートへと再生させ、かつて自分を追放した王太子たちを大後悔させる!
爽快&極甘な、異世界リゾート経営×溺愛ファンタジー、堂々開幕!
3歳で捨てられた件
玲羅
恋愛
前世の記憶を持つ者が1000人に1人は居る時代。
それゆえに変わった子供扱いをされ、疎まれて捨てられた少女、キャプシーヌ。拾ったのは宰相を務めるフェルナー侯爵。
キャプシーヌの運命が再度変わったのは貴族学院入学後だった。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる