秘密多め令嬢の自由でデンジャラスな生活〜魔力0、超虚弱体質、たまに白い獣で大冒険して、溺愛されてる話

嵐華子

文字の大きさ
433 / 491

432.【爺より愛をこめて】

しおりを挟む
「食べるか?」
「キュイキュイ」
「……ねえ、グレインビル嬢はまだかしら?」

 王妃がお膝に乗せた僕の口元に、ケーキを小さくすくったフォークを差し出す。
もちろん僕はパクッとしちゃう。

 何だか僕の頭の更に上を見ながら、対面で座る2人の内の1人が雑音を漏らしたけど、無視でいっか。
お茶会と聞いていたけど、夜会に出るような場違いな格好だし、どこかの勘違いした貴族っぽい誰かが混ざったみたい。

 もう1人対面に座るエセ教皇や、そんな2人の後ろに侍る見慣れたエセ神官達、他にも侍女、聖騎士がザワザワしていて、ちょっと煩わしい。

「え?
次はマカロン?」
「キュイキュイ」
「……聞いてらして?」

 次はアレだと指差せば、ちゃんと取ってくれる。
今の僕には大きなサイズのマカロンだけど、器用なイタチハンドで上下に半分。

 あ、もちろん食べる前に手は綺麗にしてあるよ。

「ふふ、私にも?
美味しいね」
「キュイキュイ」
「……先程から、何故無視しているの」

 んふふ、1人分を半分こして食べるのも、何だか久しぶりで楽しいな。
王妃の口調が昨日と違うのは、この場にそういう立場で招待を受けたからだよ。

 にしても、相変わらず雑音が酷いね。

 僕達の後ろには美人騎士が1人と、今朝方目を覚ました僕の前に侍女として登場したニーア。

 昨日聞こえてきた2人の、怪しい女性っぽいお声の主達は、どこにいるんだろう?

 夢……ではないと思うんだ。

「ねえ、エリザベートさん?」

 何となく最初の頃と違って、苛々感が混じった雑音から、王妃のお名前が聞こえた気がするな。
けどこんなお城の外部の人間がたくさんいる場で、王妃をさん付けで呼ぶなんて、絶対あり得ないよね。

 きっと親が自国の王妃にあやかって付けられた、侍女あたりの名前を呼んだんだろうな。

「王妃殿下、マーガレット妃殿下がずっと話しかけておられます。
返事をなさってはいかがかな?」

 やれやれと言いたげに横槍を入れたのはエセ教皇だ。
相変わらず社会科の教科書の宣教師的登場人物風だね。

 ちなみにこの国で妃殿下と呼んでいいのは、王妃に対してだけ。
側妃を呼ぶ時には妃殿下ではなく、必ず側妃殿下と呼んで、違いをハッキリさせておかなければならない。

 やっぱり彼は真の教皇ではない。
エセな教皇だ。

 あと、僕をチラチラ横目で見ているけど、僕が白いイタチになったのまでは知らなかったのかな?

 一応僕、王妃、側妃で今日の昼過ぎにお茶会をするって、例によって第3王子とキティが窓から叫んでたから、ちゃんとこうして新しい着ぐるみに着替えて、出席してるんだよ?

 起きたらウサ耳付きのフードがついた着ぐるみをニーアが差し出した。
着替えようとしたら、【爺より愛をこめて】っていう小さなメッセージカードが服の間に挟まってて、心がほんわかしちゃったよ。

 でも、できる執事のセバスチャンの字だったけど、僕が一瞬確認した途端、ニーアがカードを燃やしてしまったんだ。
僕はこういうのは取り置きしておく方だけど、暫くイタチで過ごすつもりだったから、グレインビル侯爵令嬢として、あしがつかないようにしたんだと思う。

 僕がニーアを見てサンドウィッチを指差せば、ニーアはそれを小皿に取って王妃に差し出した。

「ん?
サンドウィッチ?
私に?」
「キュイキュイ」
「いつまで無視するつもり!」
 __バン。

 今度はテーブルを叩く雑音がしたね。

「……美味しいわ」
「キュイキュイ」

 ふっふっふ。
僕が厨房でお願いして作ってもらっていた、ドライカレーをサンドしてあるからね。
中には神の実って呼ばれているらしい、あっちの世界でいうディーツを刻んで入れてあるから、甘みも感じてお茶には合うはずだよ。

「エリザベート!」

 もう、煩いな。
王妃がいる場で王妃と同じ侍女の名前を呼び捨てで叫ぶのは、さすがにどうかと思うよ?

「マーガレット妃殿下、落ち着いて下さい。
あの侍女はグレインビル嬢の侍女であったはず。
そこのお前、ご令嬢はどちらにいる?
ご令嬢の提案を受け入れ、王妃殿下をお招きした聖フェルメシア教会を愚弄するかのような態度は許されんぞ」

 良く言うよ。
今度は人分しかデザートを用意していなかったくせに。

 僕か王妃、どっちの準備を怠ったんだろうね?

「猊下」

 その時、慌てた様子の神官が現れてエセ神官に耳打ちし、男性エセ神官がエセ教皇に背後から耳打ちした。
しおりを挟む
感想 12

あなたにおすすめの小説

転生騎士団長の歩き方

Akila
ファンタジー
【第2章 完 約13万字】&【第1章 完 約12万字】  たまたま運よく掴んだ功績で第7騎士団の団長になってしまった女性騎士のラモン。そんなラモンの中身は地球から転生した『鈴木ゆり』だった。女神様に転生するに当たってギフトを授かったのだが、これがとっても役立った。ありがとう女神さま! と言う訳で、小娘団長が汗臭い騎士団をどうにか立て直す為、ドーン副団長や団員達とキレイにしたり、旨〜いしたり、キュンキュンしたりするほのぼの物語です。 【第1章 ようこそ第7騎士団へ】 騎士団の中で窓際? 島流し先? と囁かれる第7騎士団を立て直すべく、前世の知識で働き方改革を強行するモラン。 第7は改善されるのか? 副団長のドーンと共にあれこれと毎日大忙しです。   【第2章 王城と私】 第7騎士団での功績が認められて、次は第3騎士団へ行く事になったラモン。勤務地である王城では毎日誰かと何かやらかしてます。第3騎士団には馴染めるかな? って、またまた異動? 果たしてラモンの行き着く先はどこに?  ※誤字脱字マジですみません。懲りずに読んで下さい。

悪役令嬢戦記:死ぬしかない悪役令嬢に転生したので、無双を目指す事にしました。

克全
ファンタジー
「アルファポリス」オンリーです。

強制力が無茶するせいで乙女ゲームから退場できない。こうなったら好きに生きて国外追放エンドを狙おう!処刑エンドだけは、ホント勘弁して下さい

リコピン
ファンタジー
某乙女ゲームの悪役令嬢に転生したナディア。子どもの頃に思い出した前世知識を生かして悪役令嬢回避を狙うが、強制力が無茶するせいで上手くいかない。ナディアの専属執事であるジェイクは、そんなナディアの奇行に振り回されることになる。 ※短編(10万字はいかない)予定です

転生したら鎧だった〜リビングアーマーになったけど弱すぎるので、ダンジョンをさまよってパーツを集め最強を目指します

三門鉄狼
ファンタジー
目覚めると、リビングアーマーだった。 身体は鎧、中身はなし。しかもレベルは1で超弱い。 そんな状態でダンジョンに迷い込んでしまったから、なんとか生き残らないと! これは、いつか英雄になるかもしれない、さまよう鎧の冒険譚。 ※小説家になろう、カクヨム、待ラノ、ノベルアップ+、NOVEL DAYS、ラノベストリート、アルファポリス、ノベリズムで掲載しています。

一緒に異世界転生した飼い猫のもらったチートがやばすぎた。もしかして、メインは猫の方ですか、女神様!?

たまご
ファンタジー
 アラサーの相田つかさは事故により命を落とす。  最期の瞬間に頭に浮かんだのが「猫達のごはん、これからどうしよう……」だったせいか、飼っていた8匹の猫と共に異世界転生をしてしまう。  だが、つかさが目を覚ます前に女神様からとんでもチートを授かった猫達は新しい世界へと自由に飛び出して行ってしまう。  女神様に泣きつかれ、つかさは猫達を回収するために旅に出た。  猫達が、世界を滅ぼしてしまう前に!! 「私はスローライフ希望なんですけど……」  この作品は「小説家になろう」さん、「エブリスタ」さんで完結済みです。  表紙の写真は、モデルになったうちの猫様です。

つまらなかった乙女ゲームに転生しちゃったので、サクッと終わらすことにしました

蒼羽咲
ファンタジー
つまらなかった乙女ゲームに転生⁈ 絵に惚れ込み、一目惚れキャラのためにハードまで買ったが内容が超つまらなかった残念な乙女ゲームに転生してしまった。 絵は超好みだ。内容はご都合主義の聖女なお花畑主人公。攻略イケメンも顔は良いがちょろい対象ばかり。てこたぁ逆にめちゃくちゃ住み心地のいい場所になるのでは⁈と気づき、テンションが一気に上がる!! 聖女など面倒な事はする気はない!サクッと攻略終わらせてぐーたら生活をGETするぞ! ご都合主義ならチョロい!と、野望を胸に動き出す!! +++++ ・重複投稿・土曜配信 (たま~に水曜…不定期更新)

美少女に転生して料理して生きてくことになりました。

ゆーぞー
ファンタジー
田中真理子32歳、独身、失業中。 飲めないお酒を飲んでぶったおれた。 気がついたらマリアンヌという12歳の美少女になっていた。 その世界は加護を受けた人間しか料理をすることができない世界だった

国外追放ですか?畏まりました(はい、喜んでっ!)

ゆきりん(安室 雪)
恋愛
私は、セイラ・アズナブル。聖女候補として全寮制の聖女学園に通っています。1番成績が優秀なので、第1王子の婚約者です。けれど、突然婚約を破棄され学園を追い出され国外追放になりました。やった〜っ!!これで好きな事が出来るわ〜っ!! 隣国で夢だったオムライス屋はじめますっ!!そしたら何故か騎士達が常連になって!?精霊も現れ!? 何故かとっても幸せな日々になっちゃいます。

処理中です...